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しおりを挟むカミルはため息を漏らしながら帰ってきていた。
『ルルー? 帰ってきていないわよ? …カミル、どういうことかしら?』
シスター・ミルダにそう低い声で叱責を受け、当然と言えば当然だが、余計に道が遠のいた気がして疲れてしまっていた。
とりあえずフェリシアの寝顔でも見て癒されてから気合を入れ直そうと考え、寝室のドアを開ける。
しかし、そこには誰もいない。
「…フェリ?」
布団をめくってもフェリシアまでいなくなっていた。
「…勘弁してくれよ? まさか、フェリまでいなくなったら…」
カミルはフェリシアを探して家の中を隅々まで見回ったが、やはりいなかった。
(ルルーディアを連れ戻しに行ったのか…?)
カミルは外に飛び出すと、朝焼けの光がちょうど差し込んできたところだった。
その眩しさに目を細めた時、龍の咆哮と共に羽ばたく音が聞こえ、朝日を背に抱いて純白の龍が大空を駆け抜けるのが見えた。
嘴を持つ羽毛で覆われたワイバーン。その瞳は鮮やかな緑色。
「あれは…」
カミルが茫然とした時、その龍がこちらに向かっているのが見えた。
「え?」
こちらに向かってきた龍が風を巻き上げてカミルに向かって突っ込んでくる。
「カミルさんッ!」
明るく楽しそうなフェリシアの弾んだ声がして、龍の姿が光に包まれて消え、その光を突き破ってフェリシアが飛び出してきた。
その背中にはボロボロと涙を零している少女の姿。
「フェリ、ルルーディア!」
カミルは大きく手を広げてフェリシアを迎え、カミルに向かって飛び込んでくる彼女をギュッと抱きしめた。
「おかえり」
「はい、ただいま帰りました!」
抱き合いながら顔を寄せ合って幸せそうに微笑みあう。
「迎えに行ってくれたのか?」
「ええ、そうです。薬草図鑑が開きっぱなしになっていまして、薬草を採りに行ってくれたんだと、目星を付けまして。門は閉まっていますし、この城塞都市の中にある森と言うと一つだけでしたから。あとは精霊の気配を頼りに探してようやく。怪我は無いようでしたけど、森の奥深くにいましたから飛んできた方が早くて」
カミルはフェリシアを離すと、ルルーディアを見据えた。
「急にいなくなったら吃驚するだろうが」
「…ごめんなさい」
「でも、薬草なんてどうして必要だったんだ?」
カミルがそう尋ねると、フェリシアがルルーディアをゆっくりとおろしてやりながら言った。
「私のせいなんです、カミルさん。ちょっとタルク草が手に入らなくて、特別手配をしてもらおうとしていたのを聞いて、少しでもお世話になるからその駄賃にって…そう思ったんですって」
俯いているルルーディアの頭を撫でてやったカミルは小さくため息を漏らし、そして微笑んだ。
「そうか、フェリのためにしてくれたのか。…ありがとう、ルルーディア。――だが、今度は出かけるなら必ずどちらかに報告すること。いいな?」
「はい」
泣きそうな顔をしている少女の頭をもう一度撫でたカミルは、フェリシアが微笑んでいたものの、目の焦点が合っていないことに気が付いて不安そうに顔を覗き込んだ。
「フェリ…?」
「あ、…大丈夫です。疲れてしまって…」
フェリシアはカミルに凭れると目を閉じて眠りへと堕ちて行った。フェリシアを抱き上げた彼はルルーディアに肩をすくめてみせ、そして、家に戻ろうと促す。
そう促され、ルルーディアも家に戻る。
だが、フェリシアは数日しても目を覚まさなかった。
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