龍騎士の花嫁

夜風 りん

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第二部 第三章 揺れ動くは乙女心

ep1

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 リアラはイシュカ邸の前にやって来た時、ちょうど休みらしいヴィンセントを発見して荷物をヴィクトルに押し付けると駆け出した。

 「ヴィンセント!」

 急に大声で呼ばれて振り返ったヴィンセントが殴りかかってきたリアラを反射的に魔法で弾き飛ばし、目を見開いた。
 「リアラ!?」
 慌てて上空に弾き飛ばしたリアラを受け止めようと駆け出したが、その前に落下点を割り出し、荷物を置いて下で待ち構えていたヴィクトルがストンと鮮やかにリアラを受け止めた。

 「大丈夫ですか、リアラさん?」

 ヴィクトルは心配そうにそう問いかけると、リアラが目を白黒させながら頷いた。
 「ありがとうございます…」
 ヴィクトルはリアラを下ろしてやると、彼女は慌てて身なりを整え、ヴィンセントに再び殴りかかっていく。

 「覚悟!」

 が、二度目はリアラの動きをしっかりと把握したヴィンセントは軽々と妹の手を捻り上げた。
 「痛い! 痛いってば!」
 リアラが降参すると、ヴィンセントはため息を漏らして離した。
 「何だ? 結婚の報告なら父さんにしてくれ」
 「あん? 誰の?」
 「お前の」
 「ヴィンセント。冗談はやめてよね」
 リアラはムッとすると、ヴィクトルを示す。
 「彼は護衛。危ないところを助けてくれたの!」
 「お初にお目にかかります、ヴィンセント・イシュカ様。ヴィクトル・クルラト・ルルカディアと申します」
 「あなたはクア=ドルガ部隊の…」
 「え、あ、はい」
 「あの。何のご用でしょうか?」
 「リアラさんの付き添いで来ただけですから。明日からホテルに宿泊しますのでご心配なく」
 「~ッ!!」
 ヴィクトルの様子を見てヴィンセントが青ざめた。
 それはそうだろう。ヴィクトルは先代公爵であろうと、曲がりなりにもルルカディアの縁者。
 庶民であるイシュカ家が宿泊させもせずにヴィクトルをホテルに宿泊させたとあれば、貴族をもてなすことも出来ないと後々、実家の商売にも影響が出る。
 …世の中、そんなものである。

 ヴィクトルは本当に行こうとするので、慌ててヴィンセントは引き止めた。

 「宜しければ、我が家をお使いください」

 完全に営業スマイルだが、ヴィクトルはルールに無頓着なのか小首を傾げる。
 「お気遣い、ありがとうございます。でも、ごきょうだいで積もる話もあるのでしょうし、お邪魔するわけには参りませんから」
 すると、ドアが大きく開いてリアラとヴィンセントの父親であるガルフがズンズンと現れた。

 「そうは参りませんよ。こちとて、外聞がありますからな」

 「パパ!?」
 リアラが目を見開くと、ガルフはニヤリと笑った。
 「リアラ、新しい見合い写真を仕入れて来たぞ!」
 リアラはムッとした。
 「見合いなんかしないわ!」
 「何でだ? 好きな人がいるわけでもないのに、会うくらいならタダだろうに」
 「だーかーらー! 何でよりによっての写真を混ぜたのよ!」

 ヴィクトルは内心で、(あいつ?)と呟いたが、声には出さなかった。

 「いい奴じゃないか、オースティンの奴は」

 リアラはガルフに食ってかかる。
 「嫌。意地悪しかしてこない奴だし、パパにはおべっかを使うし、金目当てで近づいて来ているのが明白じゃない!」
 「そうか? オースティンの家は結構な金持ちだぞ?」
 「あいつは悪ガキのゴロツキよ」
 リアラはそう言うと、プイッとそっぽを向いた。

 「よし、今からシメてくるわ」

 「やめておけ。リアラ、あいつも騎士をしているんだぞ」
 「敵わないから諦めろって言うの?」
 「そうじゃなくて、一度会って気に入らないなら断ればいい。暴力沙汰に出てしまえば、相手に何をされても文句は言えないんだから、大人しくしているんだ」
 「ヴィンセント、珍しくあいつに否定的な意見ね」
 「…俺もあいつが苦手なんだ」
 ボソッと呟いたヴィンセントは肩を竦める。
 リアラはため息を吐いた時、若い騎士の声が聞こえた。

 「副団長! 招集ですよ」

 振り返ると、茶髪に明るいグリーンの瞳をした青年がいた。

 「うげっ、オースティン…」

 リアラが顔をしかめ、ヴィンセントも顔を引きつらせると、オースティンが瞬いた。

 「リアラ…?」

 そして、その隣にいるヴィクトルを見て、オースティンは露骨に顔をしかめだのだった。

 「そいつ、誰?」

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