龍騎士の花嫁

夜風 りん

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番外編 小噺集

変化…?

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 スーヴィエラがハッと目を覚ますと、シリウスが眠たそうな顔で腕の中にいる彼女を見つめた。
 「…? どうかした…?」
 シリウスの問いかけに、スーヴィエラは瞼を伏せた。
 体が震えてしまっていて、昨夜の契りと相まって余計に下腹部が痛む。
 体の相性もいいのに、悪夢が過去の苦痛と絡めて思い出させる。
 シリウスのせいではなく、悪夢が快楽だった記憶さえ塗り潰そうとするから。

 「…っ、シリウス様ぁ」

 情けない声が出た。
 涙がほおを伝う。

 優しく抱き締められて心が解れていく。
 それだけで心が軽くなるが、それよりもシリウスを求めてしまう。

 「抱いてください…今すぐ」

 「…そうしてあげたいけど、ね。ちょっと頑張りすぎたから休ませて? その代わりに子守唄を歌ってあげよう」
 からかっているようにしか聞こえないが、眠たげなシリウスは本当に疲れているのだろう。
 しっかりとスーヴィエラを抱き直して鼻歌を口ずさむ。

 スーヴィエラはシリウスにしがみつくと、シリウスは鼻歌で青の歌と呼ばれる、今やエメル王国の国歌を囀っていたが、しばらくして彼は寝息を再び立てた。
 スーヴィエラはシリウスの腕の中できつく目を閉じたが、前に一度だけ感じたことがある吐き気がゆっくりとこみ上げてきた。

 (そういえば、月ものがしばらく来ていない…?)

 ゆっくりとスーヴィエラが青ざめる。
 だが、結婚前の半年は誰にも抱かれていなかったし、結婚して数カ月経つが、シリウス以外に抱かれてはいない。
 そう考えると胸の奥を暖かな何かがせり上がり、彼女ははやる予感を感じながら顔色が元に戻り、ゆっくりと赤みがさす。

 (もしかして…)

 シリウスの腕を退けてトイレで吐いた。

 (そっか、あの時はどん底での妊娠だったから、…産みたくなかったし、その後の暴力で堕胎前に死なせちゃったけど…あれ以来なんだ…)

 初めて襲われた時に出来てしまったことがあったが、度重なる暴行で激しく叩きつけられた時、腹の子を死なせた。

 今回は出来ていたなら大好きなシリウスとの子供で、躊躇う必要は一切ない。
 だが、過去の似通った感覚で悪夢を見たのだろうとスーヴィエラは推測した。

 (どうしよう?)

 月ものはここしばらく来た覚えがない。
 でも、ストレスという可能性もあり、勘違いだったら恥ずかしくて火が出そうだ。
 (しばらく、黙っていよう)
 そう決めたスーヴィエラだったが、数日すると変化が表立ってきた。

 まず、食欲の増加。
 キチンと一人前を食べられるようになり、少し味付けも濃くなった。
 そして、睡眠時間が増加し、汗もいっぱいかくようになった。

 スーヴィエラは侍女長に理由を説明して病院に連れて行ってもらえることになったのだが、馬車を調達すると変なので、少し体調不良のために病院へ行きたいとシリウスに伝えた。
 すると、シリウスは自分の専属医に診せると言って翌日、専属医であるミシェルを連れてきたのだった。


 「さて、よろしく。体調不良と聞いていたけど、元気そうね?」

 「え、はい…」
 スーヴィエラはそう答えると、ミシェルは目を細めてスーヴィエラの腹に手をやった。
 「月もの、どれくらい来ていない?」
 「…え?」
 「早く」
 「ここ2、3ヶ月、です」
 「そ。シリウスが激しくしすぎてストレスでも溜まっているのかと思ったけど、違うのね」
 「…シリウス様ってどういう評価ですか…」
 「ん? 家族を溺愛する男。それに元聖龍の人間。そして、あたしの親友。…それくらいかな」
 ミシェルはそう言うと、カバンから何かのレジュメを取り出した。
 「はい、これ」
 「?」
 スーヴィエラが怪訝そうな顔をすると、ミシェルは言い放った。

 「妊娠の注意事項が書かれているからね。妊娠中は龍化しないこと。一度でも龍化すると腹の中で赤ちゃんまで龍化しちゃって元に戻れなくて、子宮や膣を角で突き破る危険性があるから」

 「じゃ、じゃあ!」
 「うん、おめでとう。シリウスのことだから、張ってきた乳腺の感覚とか、母乳の匂いとか、そう言うのでわかると思うけど、大切にしてもらいなさい。それと、もっと甘えたら?」
 「え?」
 「妊娠したら、出来ないことも増えてくるわ。なら、思い切り手を焼かせてやればいいのよ。シリウスはちょっとやそっとで伴侶にした人を嫌いになるほど執着が弱いわけじゃないから」
 「っ!」
 「さ、あたしは帰るから、龍人の注意すべき注意事項をよく守って出産まで頑張ること。…そうね、時々、体が楽な時にシリウスにあたしのところ、連れてきて貰いなさい。面倒くらいは見るわよ」
 「ありがとうございます」
 スーヴィエラは満面の笑みを浮かべると、ミシェルはヒラヒラと手を振った。

 「ほら、立ち聞き男。もういいわよ」

 ドアを乱雑に蹴り開けたミシェルはドアの外で壁にもたれていたシリウスへ声をかけると、彼は不貞腐れた顔をした。
 「人聞きの悪いこと、言うなよ。防音魔法を掛けていたくせに」
 「バレた?」
 「スーヴィエラに何かしていないだろうな?」
 「してないって。それと、おめでとうさん」
 ミシェルがそう言うと、シリウスが目を見開いて動きを止めた。

 「それって…」

 「ほら、早く行きなさいな」
 ミシェルに背を押され、シリウスはフラフラと室内に入ると、立ち上がったスーヴィエラをしっかりと抱きしめた。
 「シリウス様?」
 シリウスは嬉しそうに笑っていることに気が付いて、スーヴィエラもほおが緩んだ時、彼は弾んだ声でハッキリと告げた。

 「ありがとう、スー。これからもよろしくな?」

 スーヴィエラはシリウスを抱き返した。

 「もちろんです、!」

 シリウスは目を見開いたが、彼は幸せそうに笑った後、一筋の涙を零した。

 「ありがとう、スーヴィエラ。本当に、ありがとう」

 シリウスは涙を拭って笑ったが、その涙の意味をスーヴィエラが知るのは少し後の話である。

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