龍騎士の花嫁

夜風 りん

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第一部 終章 あなたの隣で。

ep5

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 披露宴は本当に盛大で、シリウスのそばで永遠と思えるほど挨拶の列が続いていた。
 スーヴィエラには覚える余裕がさほどなかったが、シリウスは頭を沸騰寸前にさせながら必死に覚えようとしているスーヴィエラに小さく微笑んで頷いた。

 「無理に覚えなくていい。きちんとフォローするから」

 シリウスの言葉で力が抜け、思わずシリウスに満面の笑みを向けていた。
 「ありがとうございます、シリウス様」

 周囲の男たちの視線を釘付けにしていることに気が付かないスーヴィエラは、ふと、集まった視線に悪寒を感じたのだろう。
 我が身を抱えてブルリと震えた。
 そんなスーヴィエラをシリウスは抱き締めて額にキスを落とす。

 並の貴族がそんなことをしていたらはしたない、と言われてもおかしくなかったが、シリウスは他ならぬ女王メロウの弟であり、且つ、ルルカディア元公爵。
 しかも、娘にも額に人前で堂々とキスを落とすような存在なので誰も咎めるような顔をしなかった。
 …慣れている、と言っても過言ではないのかもしれないが。

 スーヴィエラは控えめにシリウスを抱き返すと、彼は得意げに笑いながらギュッと抱き直し、幸せそうに笑った。
 「君とずっと結婚したかった」
 「私も、です」
 スーヴィエラが頷くと、シリウスと二人だけの世界に浸りつつあった。
 コホンと咳払いしたのは列の中盤に並んでいたヴィクトル。隣にはクロニカがいるが、クロニカは見事なプロポーションがわかるほどの艶やかなドレス姿だった。
 「父上」
 「やあ、ヴィクトル。クロニカも」
 「並び損ねちゃって。夫に赤ちゃんを預けてきたら、慣れているから平気だって顔をされちゃった」
 「はいはい。お前の不満そうなノロケ話は聞き飽きたよ」
 シリウスはそう言いつつ優しく笑う。
 「まだ列は続くけど、二人だけの世界に浸らないでね? お客様が困っていらしたわ」
 「うん、わかったよ、クー」
 優しく甘やかすようにそう言ったシリウスはスーヴィエラに微笑んだ。
 「帰ったらたっぷりと愛し合うから大丈夫」
 スーヴィエラはボンッと耳まで赤くなり、シリウスに驚いて目を向けると、彼はサラリと言い放つ。
 「無理強いはしないけど、男としては、そう言う欲望があるんだよ」
 クロニカが呆れ顔をした。
 「パパ、あんまりスーヴィエラさんをからかわないでね? そういう話ばかりするとやり過ぎると失神するわよ?」
 「うん、わかっているよ。さて、折り返し地点まで来たんだから頑張ろうか」
 スーヴィエラがなんとか我に返って頷くと、シリウスの子供たち二人が微笑んだ。

 「「お幸せに、スーヴィエラさん」」

 その言葉にスーヴィエラは大きく頷くと、二人は頷き返し、次の人へと順番を譲った。

 それからすごい列が並んだが、スーヴィエラは覚えようと頑張ったものの、さほど覚えることは出来なかったとか。




          ☆



 披露宴の全行程を終えてスーヴィエラはシリウスと邸宅の中庭に並んで寛いでいた。
 普段着に着替えており、二人とも楽にしている。
 スーヴィエラの細い腰に腕を回したシリウスが甘い表情でスーヴィエラを見つめて甘く囁いた。

 「ようやく二人きりになれたね」

 「はい」

 スーヴィエラはコクリと頷くと、ふと、思い出したように彼の瞳を見上げた。
 「そういえば、一個だけ行きたい場所があるんです。そこに行ってもいいですか?」
 「うん? 連れて行くけど、どこに?」

 スーヴィエラはほおを朱に染めた。

 「パルの広場です」

 シリウスは瞬いた。
 「それは、君が初めて迷子になった場所じゃないか。本当にそこに行きたいのかい?」
 「はい。あなたと初めて出会った場所ですから」
 スーヴィエラはシリウスを見つめて微笑むと、シリウスは肩を竦め、最愛の妻のために魔法を発動させた。


 パルの広場に降り立ったシリウスとスーヴィエラは初めて出会った広場のベンチに並んで座り、手を握りながら肩を寄せ合った。
 「ここで、初めてあなたに助けられました。初めて会った時、シリウス様、凄く強くて…格好良かったです」
 「ありがとう。でも、最初は助けるつもりなんてなかったんだ。ヴィンセントが助けるだろうって勝手に思っていたから」
 「そうなっていたら、私も彼に惚れていたかもしれませんけど」
 スーヴィエラの言葉にシリウスはクスッと笑うと指を絡めて手を繋ぎなおした。

 「こうして結婚することになったと思うと、やっぱり助けておいてよかった。あの時は気まぐれに、だったんだけど、今はこうして君に夢中なんだ」
 年甲斐もなく、ね。と付け足したシリウスに、スーヴィエラが微笑んだ。
 「歳なんて関係ないです。私が初めて好きになったのがあなただった。それで、十分では?」
 「そうだね。…君も言えるようになったものだし」
 「はい。シリウス様のおかげです」
 スーヴィエラは微笑むと、シリウスのほおに素早くキスをした。

 「生まれてきて良かった」

 スーヴィエラの言葉に、シリウスは瞬くと、柔らかく微笑んで頷いた。
 「あぁ、本当に生まれてきてくれてありがとう」
 「えへへ」
 スーヴィエラは照れ笑いすると、シリウスにもたれ直す。

 「辛いこともたくさんありましたけれど、あなたと巡り会えた。これほど幸せなことはありません」

 シリウスは手を握り直して大空を見上げた。

 「これからも、二人で生きよう」

 スーヴィエラは頷くと、二人は見つめ合い、どちらからともなく唇を重ねた。

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