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第一部 第八章 ひだまりの場所
ep1
しおりを挟む「う、…ぅ」
シリウスが目を開けると、スーヴィエラの寝顔が見えた。
スヤスヤと気持ち良さそうに眠っているスーヴィエラが逆さまに見えるのは、彼女がシリウスの顔を反対側から覗き込む姿勢で眠っているせいだと気が付き、頭のモヤがゆっくりと晴れていく。
そして、一番重要なことに気が付いた。
今、彼はスーヴィエラの膝枕で眠っていた。
ということは、シリウスはスーヴィエラと確実に触れ合っているということなのだが、彼女は穏やかに寝息を立てており、気持ち良さそうだ。
ふと、困ったことに気が付いた。
どうしようもなく生理現象がこみ上げる。彼女を起こしたくなかったが、ガバッと起き上がり、腹に載せられた手を避けてトイレに駆け込んだ。
生理現象が落ち着いたところで戻ると、スーヴィエラはまだ眠っていた。
その手のひらがボンヤリと光っており、まだ治癒魔法を放っていることに気が付いた時、シリウスはハッとしてスーヴィエラの顔を覗き込んだ。
「スー?!」
肩を揺さぶるが、眠ったまま魔法を発動し続けている。
というより、魔法を使いすぎて意識が朦朧としているという方が正しいようだった。
「やめるんだ!」
シリウスはスーヴィエラの指に指を絡めると、額と額をくっ付けて呪文を唱える。
「解除」
シリウスが用いたのは短縮魔法と呼ばれる魔法で、心の中ではキチンと詠唱するが、言葉では詠唱しない、もしくは一部だけを即座に唱え、全く同じ威力ではないにせよ、かなりの効果を発揮する魔法の一種を唱えた。
スーヴィエラは魔法の発動をやめ、シリウスにもたれる形で倒れこんできたが、彼女は凄まじい熱があった。
「…スーヴィエラ、しっかりしろ」
肩を抱いて揺さぶったが、彼女は意識を失い、目を開けもしない。
シリウスは舌打ちすると、スーヴィエラをその場に横たえ、部屋を出ようとしてからドアのところで足を止めた。
「え、ここは俺の部屋?」
屋敷にある自室であることに気が付いてシリウスは息を飲み、彼女が起きないうちに数秒で着替えてから部屋を飛び出した。
その直後、リアラが駆けてきた。
「旦那様、おはようございます。お加減は如何ですか?」
「体が嘘みたいに軽いよ。…じゃなくて! スーヴィエラが魔力の使い過ぎで倒れたんだ。至急、医者の手配を」
「え、スー様はお医者様が大嫌いですから無理か、と」
「魔法系統がダメージを負っている可能性もある。それに、医者は知り合いを工面してもらうから安心しろ」
「かしこまりました!」
リアラがパタパタと走り去った後、シリウスは額に手を乗せてため息を漏らした時、ヴィクトルがやってきた。
「父上、ご苦労様です。…スーヴィエラさんは元気ですか?」
「俺の傷を癒すために魔法を使い過ぎて倒れた」
「ええっ!?」
ギョッとしたヴィクトルは倒れそうになったが、辛うじて踏み止まった。
「そんな、本当ですか!?」
「本当だ。魔力回復薬のストックは?」
「そんなもの、父上の治療に全部使い果たしました」
「は?」
「一晩つきっきりでスーヴィエラさんがずっと父上を癒し続けてくださったんですよ。だから、それに全部使い果たしてないです」
「くっ…」
シリウスは視線を揺らすと、踵を返した。
「スーヴィエラのこと、頼んだ」
「え、父上、どこに行かれるのですか?」
「天上草」
「はい?」
「天上草を採りに行ってくる。帰らなかったら無理に探すなよ」
シリウスはさっさと出て行ってしまった。
ヴィクトルは口の中でシリウスの言葉を反芻した。
「天上草…って、何だ?」
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