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第一部 第七章 天使の翼
ep6
しおりを挟むリアラはスーヴィエラの身支度を終わらせた時、ドアがノックされて返事をした。
「はい」
シリウスがタキシード姿で佇んでいた。
「やあ、おはよう。私もヴィクトルも今日は仕事だからスーヴィエラはリアラと大人しくパレードでも見ていなさい」
「はい」
「それと、どんなことがあっても出て来てはいけないよ。それだけは約束、な?」
「はい、パパ」
素直にそう言うと、シリウスは目を細めて愛おしそうに微笑んだ。
「それじゃあ、また後で」
シリウスはスーヴィエラの頭を撫でて部屋を出て行くと、彼女はリアラを振り返って僅かに光の灯った瞳でニコリと笑った。
「出かけよ、リアラ!」
リアラは眩しそうに目を細めながらスーヴィエラを見てニッコリと満面の笑みを浮かべた。
「はい、スー様!」
☆
龍騎士団のパレードは各地から総勢力の半数をかき集めて行われるものだった。
ゆえに、相当な数の龍と龍騎士がパレードに参加し、一糸乱れぬ行進をしている。
ウィノンは水の都と呼ばれるだけのことはあり、全て水路が通っているが、水路の水が普段より薄くなっており、龍が行進しやすいようにコースも設定されていた。
エメル王国の旗を掲げ、色とりどりの様々な龍種の龍たちが、そして正装姿の騎士たちがパートナーに跨って行進していく。
その中にヴィクトルを見つけてリアラが声をあげた。
「ほら、ヴィクトル様がいらっしゃいますよ!」
彼は団長なので率いる部隊の先頭を歩く龍に跨っていた。
その相棒の龍は美しい水晶のような鱗を持つ龍だった。
前に牛の如くせり出した二本の角、そして、長い弓なりの首、胴体は割とほっそりしているが、四足歩行をするその龍は堂々としていていかにも強そうだった。
鞭のような尻尾の先には棘があり、リズムを取るように揺れているが、ある意味で凶器に他ならない。
他の龍同様にコウモリのような翼を持つその龍は口で旗を咥え、行進している。
「彼がヴィクトル様の相棒、シグルド様ですよ」
シグルドはこちらに目を向けるとウインクした。
スーヴィエラは瞬くと、リアラがフニャリと口元を緩める。
「ふわぁ、可愛いです」
「へ?」
「私、龍が大好きなんです。兄のパートナーであるレレーシャさんもお美しいですし、何より、スー様が可愛くて仕方がないのです」
「え、そういうこと…?」
「スー様も、龍のお姿も全部好きなのです♪」
ワキワキと指を動かすリアラが、なんとなく迫ってきているような態度であり、引き気味に身を逸らす。
だが、視線を外している間にヴィクトルたちはずっと前に行ってしまっていた。
「あ、もう行っちゃった…」
リアラがため息を漏らす。
再びパレードに目を戻したスーヴィエラはふと、ヴィンセントを見つけて目を丸くした。
「あ」
リアラが振り返ってスーヴィエラの顔を手のひらで覆い隠し、身を乗り出して黙々と行進するヴィンセントを睨んでいると、彼は視線に気がついてチラリと振り返り、ギョッとして表情を引きつらせる。
微かに『リアラ?』と動いた口元が呆けたように開かれたが、相棒のレレーシャに睨まれて慌ててパレードに集中する。
リアラの手を降ろさせてスーヴィエラは息を吐き出すと、ヴィンセントと目が合った。
「あ…」
ヴィンセントは複雑そうな顔をしたが、スーヴィエラはペコリと会釈しただけだった。
「スー様はオトナですね」
リアラはそう言うと、スーヴィエラは肩を竦めた。
「恨んではいませんよ。保護してくれたことには感謝しているけれども」
「よし、スー様。あいつよりずっと幸せになってやりましょうね!」
スーヴィエラはリアラの言葉に口元を綻ばせた。
「うん、幸せになれるように頑張らなくちゃ」
パレードの行進を見ながら、スーヴィエラは少し力強くそう言った。
「さて、そろそろ王宮前広場に行きましょうか。女王陛下のご挨拶と、貴族たちの献上品を献上する式典が行われますからね」
促すスーヴィエラに、リアラは瞬いたが、ニッコリと笑ってスーヴィエラの腕を抱きしめた。
「行きましょう、スー様!」
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