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第一部 第五章 羽休めの街
ep6
しおりを挟むスーヴィエラがメイドの声で目を覚ますと、そのメイドが弾んだ声をあげた。
「おはようございます、スー様♪」
スーヴィエラは瞬くと、慌てて飛び起きて驚いたようにその見慣れたメイドの顔を見つめた。
「リアラ…?」
リアラがニコリと笑っていた。
「スー様のアイドル、リアラちゃんの参上です☆」
スーヴィエラの生気のない瞳に微かに光が戻り、涙がとめどなく溢れ出した。
「リアラぁ…!」
スーヴィエラが抱きつくと、リアラは照れたように笑った。
「えへへ、来ちゃいました。…なんて、自力じゃないんですけどね」
「え?」
「旅の途中でミストさんに助けられました。あの人も龍人だったんですね」
「そう、かもね」
シリウスの言葉尻から考えて、恐らくは違う。聖龍の一匹だろう。
だが、それを否定するのも億劫で、リアラの胸元に顔を埋め、泣いた。
「スー様が元気そうで何よりです」
リアラの言葉に顔を上げると、彼女は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「まさか、スー様が元領主であるシリウス様の元にいらっしゃるとは思いませんでしたけど」
「あの後、助けられたの。こうして再会できて嬉しい」
スーヴィエラは涙を拭うと、リアラがニコリと笑った。
「スー様を守るのは私のお役目ですから。…それにしても、シリウス様に養女として置いてもらうのですね」
「そう、なの? まあ、しばらく身の振り方が決まるまではずっと普通に客人としていてもいいってシリウス様はおっしゃるのだけど、それでは嫌なの…」
「では、天龍シルクで何か作れば良いのでは?」
「じゃあ、マフラー?」
「…え? 夏にマフラーは…」
「今から作れば冬には出来るかなって…」
スーヴィエラの言葉に、リアラはニヤリと意味ありげな笑みを浮かべる。
「リアラ?」
「誰に渡すおつもりで?」
「え?」
スーヴィエラは考えたが、ニコリと笑った。
「パパに」
「パパって…シリウス様ですか?」
「うん。拾ってくれて、衣食住にも困らない。とても幸せなの」
スーヴィエラはニコリと笑うと、リアラはふぅとため息を漏らす。
「まあ、スー様に殿方を意識するなんてまだ、早いですからね」
「え、どういう意味?」
スーヴィエラはキョトンとすると、リアラは肩を竦めた。
「さて、どういう意味でしょうか?」
「うーん、男の人が怖い?」
「…スー様ぁ」
ガクッと肩を落としてスーヴィエラを見ていたリアラだが、スーヴィエラのドレスを手に取った。
「さて、スー様。まずはお着替えからですね」
「なんだか、リアラに手伝ってもらうの、久しぶり」
スーヴィエラの瞳に灯ったごく僅かな光をリアラは眩しそうに見ながら顔を綻ばせる。
「スー様。このリアラ、全力でスー様をサポートいたしますので、これからもよろしくお願いしますね!」
「うん、ありがとう、リアラ」
スーヴィエラは心からの感謝を伝えると、リアラはポンッと手を打った。
「そういえば、今年は王国建国500年だそうで、記念式典があるそうですよ?」
「へぇ…」
スーヴィエラは呆けたようにそう言うと、リアラはニコリと笑った。
「シリウス様やヴィクトル様は招待されているみたいですし、スー様も行ってみては…?」
「私はいいよ。だって…家族に会うの、嫌だし…」
「…スー様」
「あの人たちも仮に貴族だし、いるでしょ? なら、会いたくないな。一ヶ月くらいしか経っていないから…」
「そう、ですね…。うちのヴィンセントのせいでたいしてゆっくり出来ませんでしたし」
「…そんなこと、ないよ?」
「スー様。無理にフォローしなくて大丈夫です。それより、新しい恋に生きましょう」
リアラが意味ありげに笑った。
「そういえば、聞きましたよ? 先日、プロポーズされたんですって?」
「誰が?」
スーヴィエラは本気でそう尋ねると、リアラはキョトンとし、やがて、泣きそうな顔をした。
「スー様…」
「いや、私はされていないからね?」
スーヴィエラは慌てふためくと、リアラは遠い目をした。
「スー様、リアラは心配です。…これから先のことが」
「え、なんで?」
スーヴィエラはリアラの心配の意味がちっともわかっていなかった。
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