龍騎士の花嫁

夜風 りん

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第一部 第四章 折れた止まり木

ep1

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 「奥様! 大変です!」

 よく晴れたある日、門の外に見慣れぬ馬車が停まっているのを見て、スーヴィエラは瞬いた。
 「お客様?」
 「はい! しかも、大旦那さまなんですよ!?」
 「はい?」
 スーヴィエラはキョトンとすると、リアラが息を切らせながら言った。
 「大旦那様がいらしているんです!」

 「大旦那様がいらして…いる?」

 スーヴィエラは言葉を失い、呆けたように口を開けたが、馬車から軽やかに降りた銀髪の男性が恭しくドアを開ける途中でドアを蹴り開け、いささか腹の出た男性が堂々と出て来た。

 リアラがスーヴィエラのドレスを手に取ると、カーテンを閉めて着替えを始める。
 「え、リアラ?!」
 「スー様、お客様がいらしておりますから、着替えましょうか」
 「はい…」
 スーヴィエラは真新しいドレスに着替え、相変わらずの長い丈のドレス姿でリアラと共にお出迎えに参上した。

 スーヴィエラが階段を降りると、ヴィンセントが胸倉を掴まれていた。

 「てめぇ、可愛い嫁を放ったらかして、いつまで昔の女に入れ込んでいるんだ、どアホ!」

 ビリビリと空気を揺らす怒声が響き渡り、スーヴィエラはキョトンとしていると、大旦那様らしい男が恫喝を続けた。

 「スーヴィエラさんがどれほど辛い思いをして生きてきたと思っているんだ! それなのにお前は…!」

 リアラがスーヴィエラの見開いた目を見て大声を上げた。

 「お願いだからやめて、パパ!」

 リアラの声に弾かれたように視線が集まる。
 スーヴィエラ含む若い使用人たちは驚きをもって。そして、その他はリアラの口出しに驚いていた。
 「リアラ、なぜ止めた?」
 大旦那の声にリアラがスーヴィエラの肩を抱いて告げる。

 「奥様が驚いていらっしゃるわ。女々しいヴィンセントを殴ってやりたいのは山々だけど、奥様の前ではやらないで」

 リアラはそう訴えると、大旦那はスーヴィエラを見とめてヴィンセントを手放し、ポリポリとほおを掻いた。

 「いや、すまんな。どうしてもこのバカが許せんくてな」

 「私も同じ。でも、パパ。スー様はべっぴんでしょ?」
 「おう、とても、な! 気の利いた言い回しは出来ないが、うちの嫁さんにそっくりーー」
 「ううん、ママより絶対に美人」
 リアラがバッサリとそう言って胸を張った。

 「リアラ、あなた…ヴィンセント様の妹…?」

 スーヴィエラの呟きにリアラが振り返って微笑んだ。
 「黙っていてごめんなさい。でも、私が今度はスー様をお守りするんです。ずっと守ってくれたスー様のように」
 「…それ、は…」
 「スー様の笑顔のためなら、兄の一人や二人、礎に捧げてやります」
 「…生贄?」
 「そう、それです!」
 リアラはそう言うと、大旦那がスーヴィエラの前にやってきた。

 「はじめまして、スーヴィエラさん。わしはガルフいうもんです。ヴィンセントとリネアが大変お世話になっています」

 丁寧にそう言った大旦那のガルフに、スーヴィエラは首を竦めた。
 「は、はじめまして…」
 「うちのヘタレ息子はコッテリと絞めあげますんで、お許しを」
 ガルフが頭を下げ、スーヴィエラは物凄く慌てふためいた。

 「そ、そんな! 頭をあげてください!」

 ガルフは頭を上げたが、ヴィンセントを鋭く睨んだ。

 「ほら、見ろ。とても素敵な女性が目の前にいるのに、お前という奴は…」

 ヴィンセントを今にも殴りたいというように握りこぶしを固めたガルフだったが、ドアの向こうで言い争う声が聞こえた。

 「いいから中に入れなさいよ! いい加減にして!」
 「困ります。無関係な人間を入れるわけには…」
 「私は無関係な人間じゃないわよ!」

 そして、ドアが大きく開き、一人の女性が現れた。

 「ヴィンセント、その女、誰?」

 その顔は、写真で見たディアナそっくりの女性だった。

 「フィアナ?」

 ヴィンセントが怪訝そうな顔をした。

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