龍騎士の花嫁

夜風 りん

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第一部 第三章 初めてのデート

ep1

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 スーヴィエラはリアラが新たに調達してきた町娘風のシンプルなドレスを着て出掛けた。
 今日はリアラが一緒ではない。

 言いたいことはわかっているので、今回に期待してはいけないとわかっているが、スーヴィエラは少しだけドキドキと弾んだ気持ちを抱いていた。

 (一回だけでいいからしてみたかったのよね、デート)

 形だけでよかった。
 義理を果たすだけでよかった。

 それでも、スーヴィエラにだって年頃の娘が抱く憧れは確かにあり、異性とデートをしてみたいという気持ちは確かにあった。

 でも、それを望める環境にないと諦めていた。

 (怖い、けど…旦那様はまだ、知らないから堪えなくちゃ)

 デートに誘われたことは嬉しいが、異性と二人きりという状況は憧れていても、怖いものは怖い。

 (よし…)

 とりあえずスーヴィエラは気合いを入れて待ち合わせしている門の外に足を踏み出した。

 「スーヴィエラ」

 ヴィンセントに声を掛けられて振り返ると、彼が待っていた。
 「…髪の毛、結んだのか…」
 「町娘はこうして結わえている方が多いと聞きまして。似合わないですか?」
 ヴィンセントは首を横に振った。
 「そ、そうじゃなくて…いつもと違うから驚いた」
 「なら、いいですけど…」
 スーヴィエラがそう言うと、ヴィンセントはフィッと顔を背けて言った。

 「それじゃあ、行くか」

 「はい」



 二人が横に並んで歩き出した光景をハラハラしながら、物陰からリアラと執事長が見守っていた。

 「うわぁ、ドキドキします」

 リアラが少し興奮したようにそう言うと、執事長はゴクリと生唾を飲んだ。
 「旦那様…どうか奥様を守ってあげてくださいよ…」
 「スー様ぁ…旦那様から離れて迷子にならないでくださいよ…」
 リアラはそう言って手を握りあわせる。

 彼らも、また、行動を開始した。

 祖父と孫娘という設定で一定の距離を保ちながらデートを見守る二人の護衛はその後をついて行ったのである。


 普段ならヴィンセントも気が付いただろうが、スーヴィエラと手を握った方がいいのか、このままでも連れだと気が付いてもらえるなら、これでいいのかと迷っており、それどころではなかったのだが。

 とりあえず歩幅を合わせ、スーヴィエラと並んで歩けるように配慮だけはしていたヴィンセントはスーヴィエラに声を掛けられて彼女の足元から視線をあげた。

 「ヴィンセント様」

 「ん?」

 「あの…今日は誘ってくださってありがとうございます」

 「…いや、俺こそ付き合わせて悪いな」

 スーヴィエラは首を横に振った。
 「こうして異性と二人きりで歩くのは初めてです」

 「兄貴たちと歩かなかったのか?」

 スーヴィエラはギュッと胸の前で握りこぶしを固めたが、嘘笑いを貼り付けた。
 コテンと首を傾げ、反対側の手に触れる。

 「ないですよ」

 「無理に笑わなくていい。…っていうか、兄貴とも歩いたことがないって、相当の箱入りだったんだな」

 「かもしれませんね」

 スーヴィエラは嘘笑いを浮かべて見せたが、ヴィンセントはまずいことを聞いたと勘付いたのだろう。

 「す、すまない」

 まあ、箱入だと言われたくなかったんだろう、その程度の感覚だろうが。


 こうして二人のデートは始まったわけだが、微妙に距離が開いて歩いており、どうも恋人同士には見えない二人は単に歩いているようだった。

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