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後先というものは意外と考えた方がいい
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伸びているテオを回収しつつ、周りに損害が無いか確認する。
よかった。反射的にしてしまったことだから、力加減がうまくいってなかったらと心配したが、破損個所は見受けられない。
・・・テオは無事か?息は、・・・しているな。
ヒースは何か言いたそうにしていたが、生憎俺には、話を聞いてやる余裕も図太さもない。
一体俺は、どうしてしまったのだろう。冷静に頭が回転しない。ヒースを目の前にすると、衝動のままに体が動いてしまう。
いや、彼のせいにしてはいけない。これは俺の、俺自身の問題であるはずだ。
彼らの部屋を振り返らずに後にする。
・・・その表現は正しくないか。
正確には、振り返ることができずに、だ。
どんな顔をさせてしまっただろう。どんな気持ちで俺を見ているのだろう。
こんな情けない自分など知らない。こんな自分の側面など知りたくもなかった。
俺は、人間としては至らずとも、“正しくある”ことには自信があった。
それがどうだ。
今の自分は“正しい”などとは到底言えない。
むしろ、今の俺は、“間違っている”。
いけない。
“間違っている俺”ではいけない。
“俺”は“正しく”なくてはならない。
**********
「それで、俺にどうしたらいいかって聞くのか。」
テオはあきれた顔で俺を見る。
「ああ。なにせ、こういった経験には疎いものだから。」
ヒースたちの部屋を出た後、俺はテオを担いで自室に戻った。
気絶させてしまったということへの申し訳なさから“丁寧”に回復魔法をかけ、使用人の部屋へ無理やり押し入ったことへの罰として少々手荒な気つけを施した。
「それにしたって俺に聞くか?」
うろちょろと部屋の中を物色しながらテオは続ける。
「俺が言うのもなんだけど、兄さんが感情ぐちゃぐちゃになったの俺のせいだぜ?」
チェストの下段から目敏く酒を見つけ、勝手に持ってくる。
「そうだとしても、お前の方が詳しいだろう。特にこの手の話ならお前は何度も経験している。
テオ、お前が適任だと思ったんだよ。」
あと、その酒は俺が知人から譲り受けたものでお前のものじゃない、と封を開けられる前に取り返す。
いいじゃないかケチ
俺はケチじゃないし、酒は朝から飲むものじゃない
まだ文句を言いたそうな顔をしていたが、少し睨んでやれば肩をすくめ、観念したように椅子に腰を下ろす。
「そういうもんかねえ・・・。」
ポリポリと頭をかき、背もたれに体重を乗せる。
「兄さんはさ、どうして人間らしくあることにこだわってんの?
別によくないか?俺には“人間らしさ”ってよく分かんないしさ、そうあることの意味がわからない。」
「努力しなければ、振る舞いを近づけることすら難しいからだ。」
「いや、だから、なんで人間になろうとするんだよ?兄さんは魔族なんだし、実力もある。もっとそれを前面に出して威張ったっていいんじゃないの?」
魔族な俺が、どうして人間としての振る舞いにこだわるのか。
「理由ならば、二つある。」
それは自分自身でも疑問に思い、一晩中考えたり、同族たちに尋ねたりしたことだ。
「一つは、母上にそうあるように期待されたからだ。」
母上は、幼い俺に人間としての在り方を叩き込んでくださった。少しでも、人の世に生きていられるように。人の世で、人間として、生きていくことを、母上は俺に望んだ。そうあることを、期待した。
俺は、尊敬する母上の期待に応えたい。
「もう一つの理由は、俺が魔族であることに由来している。
・・・・・・そして、それをおまえに教えてやることはできない。」
魔族は、俺だけではない。俺以外にも、個性の強い多種多様な魔族が存在している。
そのほとんどが人間種族の姿形をとり、その社会に馴染み、暮らしている。
魔族が担っている役割は、その社会の“管理”だ。
“管理”するだけなら何も難しいことはない。力で支配し、何も権限を与えず、傀儡のように扱えばいい。
けれど、それでは意味がないのだ。
魔族は人間種族に焦がれ、異なる次元からやってきた。いわば部外者なのだ。
しかし焦がれた世界は絶えず変化し、焦がれた形から酷く変質していく。それを焦がれた形のまま“管理”し、かつ、“支配”されていると感じさせないためには、“人間らしく”振る舞う必要があるのだ。
“魔族は人間の地位を脅かす存在ではない”と、思ってもらわないといけないのだ。そうでなければ、人間の社会は焦がれた形とはかけ離れていく。
・・・・・・同胞は、そう語った。
「ふーん・・・魔族って、俺が思っているよりも複雑で面倒くさいんだな。」
「ああ。
・・・それで、俺の質問には答えてくれるか?」
「どうしたらいいかって、そりゃ・・・正直に言ったらいいんじゃないの?
正直にさ、
君のことが好きだから大事にしたいけど、初めての経験だからどうしたらいいのか分からない。
って。」
案外、素直に気持ちを伝えた方がうまくいくこともあるよ、とテオは続ける。
「いいものなのか?俺と彼らの関係は雇用主と使用人だ。」
「その関係で終わりたいわけじゃないんでしょ?」
なるほど。その関係性に満足していないのなら、関係性の枠組みを超えることも必要というわけだな。
「参考になった。感謝する。」
謝礼替わりに、先ほど酒とは別の珍しい酒をくれてやれば、テオは満足げに口角を上げる。
「じゃ、俺は部屋に戻って寝るよ。」
もう用はないと言わんばかりに、テオは部屋を後にしようとする。
「ちょっと待て。」
首根っこを掴んで引きとめれば、思い当たる節があるのか、顔をひきつらせる。
「相談に乗ってくれたことは感謝しているし、投げ飛ばしたことは済まなかったと思っている。
だが、使用人の部屋に無断で立ち入り、あろうことか俺が連れてきた新人に絡んだことは話が別だ。」
「げ・・・、あの子、兄さんが連れてきた子だったのか・・・」
「俺が連れてきていなくても、使用人に手を出すのはいかがなものかと思うが、どうだ?」
「す、すいませんでしたぁ!!!!!!」
「謝る相手が違うよなあ・・・?」
小一時間ほど叱り、後日俺同伴のもと、ヒースとロベルト、ならびに迷惑をかけた使用人に謝りに行くことを約束させた。
**********
「これに懲りたら、むやみやたらと手を出すことと、アルコールは控えることだな。」
「わーかったよ・・・」
ぐったりとしたテオを見送るために、廊下に出る。
「兄さんも、難しく考えすぎないようにね。
“恋愛”なんて大層な名前してても、人間関係の延長でしかないんだからさ。」
ふと、テオの肩越しに見慣れぬ男がいることに気が付く。
・・・おかしい。この屋敷に、俺の把握してない人間などいないはずだ。
「ちょ、兄さん聞いてんの?せっかく俺が頭使ってアドバイスしてんのに!」
男と目が合う。
手元には、刃物。その刃には何か塗られている。おそらくは毒物だ。
・・・暗殺者。
俺たちのことを認識するや否や、男は突っ込んでくる。
・・・・・・狙いはテオか!!
「死ね!!!」
テオを引っ張り、俺の後ろへ持ってくる。
腹に鋭い痛みが走る。
「兄さん!?!?」
暗殺者の刃物を持っている腕を掴み、力任せにひねり上げる。
「曲者だ!」
足を払い、組伏せる。
「ぐっ・・・!?くそっ、化け物め!」
俺の腹からは血がにじみ、少しだけ頭がくらつく。だがこの程度ならばどうということはない。テオに当たらなくてよかった。
早く拘束魔法で捕らえ、尋問しよう。
拘束魔法を発動させようとした、時だった。
「ッゴホ・・・!かはっ!?」
口や鼻から、血が溢れる。
俺の、血か?
動揺した俺の手から男は逃れると、俺の腹から刃物を奪い取る。傷口からも、血が噴き出した。
なぜだ?
魔族は腹を貫かれた程度では死なないし、毒物に至っては効きもしないのに。
「っは、ははははは!!!!!驕ったな化け物め!!!
刃に魔力が逆流する毒をたっぷり塗ってやったのよ!!!!!
神皇様謹製の毒が効かぬ道理はない!!!思い知ったかこの侵攻者め!!!!!!」
大きな声で、逃げもせず、膝をつく俺を見下す。
なるほど、反魔族派のはねっ返りか。
どくどくと血が溢れる腹を押さえながら、今度は手加減などせず足を蹴り飛ばす。
男の足から、ゴキャッと肉がつぶれ、骨が折れる音がする。
「思ったよりも力が入らないな・・・」
足を消し飛ばしてやるつもりだったのだが。
「ぁ?あ、ああ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!!!」
男が悲鳴を上げたところで、はっとしたようにテオが駆け寄ってくる。
そのテオの姿がぐらぐらと揺れる。まずい、魔力が欠乏してきている。
傷口に目を凝らせば、そこから魔力が尋常ではないほど流出していることがわかった。
あ、死ぬかもしれない。
常人にとってみれば、魔力など底をついても困りはしない代物。だが、魔族にとって、魔力は生命力そのもの。魔力が無ければ、魔族はその肉体を維持することが叶わない。
「て、お・・・ちちうえに・・・・・・」
視界のぐらつきが酷くなる。
意識を失うわけにはいかない。魔力を求め、周りの人間を襲ってしまうかもしれない。意識は、手放してはいけない。
「兄さん!!もう、もう喋るなよ!
もう医者も呼んだから!侵入者も捕縛したから!!父上も呼びに行かせたから・・・・・・!!!!
しゃべったら、毒がまわるかもだろ・・・?じっと、じっとしてくれよ、兄さん!」
「ただの、いしゃで、は・・・むりだ。
ちちうえに、・・・ダンダを・・・ダンダのじっさまを・・・呼ぶように、・・・・・・つた、え・・・」
視界が暗くなる。
テオの声が遠い。
意識が、遠のく。
魔力を渇望する本能がふつふつと湧いてくる。
奪え、足りないのなら奪ってしまえ。
血肉を食らい、奪い取ってしまえ。
「なるべく、おれから、はなれ、ろ・・・・・・」
抵抗虚しく、俺は意識を手放した。
よかった。反射的にしてしまったことだから、力加減がうまくいってなかったらと心配したが、破損個所は見受けられない。
・・・テオは無事か?息は、・・・しているな。
ヒースは何か言いたそうにしていたが、生憎俺には、話を聞いてやる余裕も図太さもない。
一体俺は、どうしてしまったのだろう。冷静に頭が回転しない。ヒースを目の前にすると、衝動のままに体が動いてしまう。
いや、彼のせいにしてはいけない。これは俺の、俺自身の問題であるはずだ。
彼らの部屋を振り返らずに後にする。
・・・その表現は正しくないか。
正確には、振り返ることができずに、だ。
どんな顔をさせてしまっただろう。どんな気持ちで俺を見ているのだろう。
こんな情けない自分など知らない。こんな自分の側面など知りたくもなかった。
俺は、人間としては至らずとも、“正しくある”ことには自信があった。
それがどうだ。
今の自分は“正しい”などとは到底言えない。
むしろ、今の俺は、“間違っている”。
いけない。
“間違っている俺”ではいけない。
“俺”は“正しく”なくてはならない。
**********
「それで、俺にどうしたらいいかって聞くのか。」
テオはあきれた顔で俺を見る。
「ああ。なにせ、こういった経験には疎いものだから。」
ヒースたちの部屋を出た後、俺はテオを担いで自室に戻った。
気絶させてしまったということへの申し訳なさから“丁寧”に回復魔法をかけ、使用人の部屋へ無理やり押し入ったことへの罰として少々手荒な気つけを施した。
「それにしたって俺に聞くか?」
うろちょろと部屋の中を物色しながらテオは続ける。
「俺が言うのもなんだけど、兄さんが感情ぐちゃぐちゃになったの俺のせいだぜ?」
チェストの下段から目敏く酒を見つけ、勝手に持ってくる。
「そうだとしても、お前の方が詳しいだろう。特にこの手の話ならお前は何度も経験している。
テオ、お前が適任だと思ったんだよ。」
あと、その酒は俺が知人から譲り受けたものでお前のものじゃない、と封を開けられる前に取り返す。
いいじゃないかケチ
俺はケチじゃないし、酒は朝から飲むものじゃない
まだ文句を言いたそうな顔をしていたが、少し睨んでやれば肩をすくめ、観念したように椅子に腰を下ろす。
「そういうもんかねえ・・・。」
ポリポリと頭をかき、背もたれに体重を乗せる。
「兄さんはさ、どうして人間らしくあることにこだわってんの?
別によくないか?俺には“人間らしさ”ってよく分かんないしさ、そうあることの意味がわからない。」
「努力しなければ、振る舞いを近づけることすら難しいからだ。」
「いや、だから、なんで人間になろうとするんだよ?兄さんは魔族なんだし、実力もある。もっとそれを前面に出して威張ったっていいんじゃないの?」
魔族な俺が、どうして人間としての振る舞いにこだわるのか。
「理由ならば、二つある。」
それは自分自身でも疑問に思い、一晩中考えたり、同族たちに尋ねたりしたことだ。
「一つは、母上にそうあるように期待されたからだ。」
母上は、幼い俺に人間としての在り方を叩き込んでくださった。少しでも、人の世に生きていられるように。人の世で、人間として、生きていくことを、母上は俺に望んだ。そうあることを、期待した。
俺は、尊敬する母上の期待に応えたい。
「もう一つの理由は、俺が魔族であることに由来している。
・・・・・・そして、それをおまえに教えてやることはできない。」
魔族は、俺だけではない。俺以外にも、個性の強い多種多様な魔族が存在している。
そのほとんどが人間種族の姿形をとり、その社会に馴染み、暮らしている。
魔族が担っている役割は、その社会の“管理”だ。
“管理”するだけなら何も難しいことはない。力で支配し、何も権限を与えず、傀儡のように扱えばいい。
けれど、それでは意味がないのだ。
魔族は人間種族に焦がれ、異なる次元からやってきた。いわば部外者なのだ。
しかし焦がれた世界は絶えず変化し、焦がれた形から酷く変質していく。それを焦がれた形のまま“管理”し、かつ、“支配”されていると感じさせないためには、“人間らしく”振る舞う必要があるのだ。
“魔族は人間の地位を脅かす存在ではない”と、思ってもらわないといけないのだ。そうでなければ、人間の社会は焦がれた形とはかけ離れていく。
・・・・・・同胞は、そう語った。
「ふーん・・・魔族って、俺が思っているよりも複雑で面倒くさいんだな。」
「ああ。
・・・それで、俺の質問には答えてくれるか?」
「どうしたらいいかって、そりゃ・・・正直に言ったらいいんじゃないの?
正直にさ、
君のことが好きだから大事にしたいけど、初めての経験だからどうしたらいいのか分からない。
って。」
案外、素直に気持ちを伝えた方がうまくいくこともあるよ、とテオは続ける。
「いいものなのか?俺と彼らの関係は雇用主と使用人だ。」
「その関係で終わりたいわけじゃないんでしょ?」
なるほど。その関係性に満足していないのなら、関係性の枠組みを超えることも必要というわけだな。
「参考になった。感謝する。」
謝礼替わりに、先ほど酒とは別の珍しい酒をくれてやれば、テオは満足げに口角を上げる。
「じゃ、俺は部屋に戻って寝るよ。」
もう用はないと言わんばかりに、テオは部屋を後にしようとする。
「ちょっと待て。」
首根っこを掴んで引きとめれば、思い当たる節があるのか、顔をひきつらせる。
「相談に乗ってくれたことは感謝しているし、投げ飛ばしたことは済まなかったと思っている。
だが、使用人の部屋に無断で立ち入り、あろうことか俺が連れてきた新人に絡んだことは話が別だ。」
「げ・・・、あの子、兄さんが連れてきた子だったのか・・・」
「俺が連れてきていなくても、使用人に手を出すのはいかがなものかと思うが、どうだ?」
「す、すいませんでしたぁ!!!!!!」
「謝る相手が違うよなあ・・・?」
小一時間ほど叱り、後日俺同伴のもと、ヒースとロベルト、ならびに迷惑をかけた使用人に謝りに行くことを約束させた。
**********
「これに懲りたら、むやみやたらと手を出すことと、アルコールは控えることだな。」
「わーかったよ・・・」
ぐったりとしたテオを見送るために、廊下に出る。
「兄さんも、難しく考えすぎないようにね。
“恋愛”なんて大層な名前してても、人間関係の延長でしかないんだからさ。」
ふと、テオの肩越しに見慣れぬ男がいることに気が付く。
・・・おかしい。この屋敷に、俺の把握してない人間などいないはずだ。
「ちょ、兄さん聞いてんの?せっかく俺が頭使ってアドバイスしてんのに!」
男と目が合う。
手元には、刃物。その刃には何か塗られている。おそらくは毒物だ。
・・・暗殺者。
俺たちのことを認識するや否や、男は突っ込んでくる。
・・・・・・狙いはテオか!!
「死ね!!!」
テオを引っ張り、俺の後ろへ持ってくる。
腹に鋭い痛みが走る。
「兄さん!?!?」
暗殺者の刃物を持っている腕を掴み、力任せにひねり上げる。
「曲者だ!」
足を払い、組伏せる。
「ぐっ・・・!?くそっ、化け物め!」
俺の腹からは血がにじみ、少しだけ頭がくらつく。だがこの程度ならばどうということはない。テオに当たらなくてよかった。
早く拘束魔法で捕らえ、尋問しよう。
拘束魔法を発動させようとした、時だった。
「ッゴホ・・・!かはっ!?」
口や鼻から、血が溢れる。
俺の、血か?
動揺した俺の手から男は逃れると、俺の腹から刃物を奪い取る。傷口からも、血が噴き出した。
なぜだ?
魔族は腹を貫かれた程度では死なないし、毒物に至っては効きもしないのに。
「っは、ははははは!!!!!驕ったな化け物め!!!
刃に魔力が逆流する毒をたっぷり塗ってやったのよ!!!!!
神皇様謹製の毒が効かぬ道理はない!!!思い知ったかこの侵攻者め!!!!!!」
大きな声で、逃げもせず、膝をつく俺を見下す。
なるほど、反魔族派のはねっ返りか。
どくどくと血が溢れる腹を押さえながら、今度は手加減などせず足を蹴り飛ばす。
男の足から、ゴキャッと肉がつぶれ、骨が折れる音がする。
「思ったよりも力が入らないな・・・」
足を消し飛ばしてやるつもりだったのだが。
「ぁ?あ、ああ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!!!」
男が悲鳴を上げたところで、はっとしたようにテオが駆け寄ってくる。
そのテオの姿がぐらぐらと揺れる。まずい、魔力が欠乏してきている。
傷口に目を凝らせば、そこから魔力が尋常ではないほど流出していることがわかった。
あ、死ぬかもしれない。
常人にとってみれば、魔力など底をついても困りはしない代物。だが、魔族にとって、魔力は生命力そのもの。魔力が無ければ、魔族はその肉体を維持することが叶わない。
「て、お・・・ちちうえに・・・・・・」
視界のぐらつきが酷くなる。
意識を失うわけにはいかない。魔力を求め、周りの人間を襲ってしまうかもしれない。意識は、手放してはいけない。
「兄さん!!もう、もう喋るなよ!
もう医者も呼んだから!侵入者も捕縛したから!!父上も呼びに行かせたから・・・・・・!!!!
しゃべったら、毒がまわるかもだろ・・・?じっと、じっとしてくれよ、兄さん!」
「ただの、いしゃで、は・・・むりだ。
ちちうえに、・・・ダンダを・・・ダンダのじっさまを・・・呼ぶように、・・・・・・つた、え・・・」
視界が暗くなる。
テオの声が遠い。
意識が、遠のく。
魔力を渇望する本能がふつふつと湧いてくる。
奪え、足りないのなら奪ってしまえ。
血肉を食らい、奪い取ってしまえ。
「なるべく、おれから、はなれ、ろ・・・・・・」
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