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理解の及ばぬ感情
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そわそわと落ち着かない胸を抑えつけ、彼らの部屋へと向かう。
さすがにこの時間だったら早すぎると言われることもないだろう。
・・・何やら、使用人部屋の方が騒がしい。
何を騒いでいるのかまでは分からないが、俺はあのエルフの親子に用があるのだ。無視しよう。
「・・・!・・・・・・い!!」
「・・・か。俺・・・・だろ?」
・・・何故か声はだんだんと近くなっていく。
その声は、彼らを案内した部屋から聞こえてくる。誰かと言い争いになってしまったのだろうか。
・・・・・・彼と言い争っている相手の声に、ひどく聞きおぼえがある。
「やめてくださいと言ってるじゃありませんか!」
「だーかーらー、俺はそのかわいこちゃんと話したいんだって。」
「話をするのにべたべたと触る必要がありますか!?」
「んだよ、話がわからねえ奴だなぁ!俺はこのアイゼンシュトンの息子だぞ!!邪魔立てして、ただで済むと思ってんのか!?」
嫌な予感というのは的中するものらしい。
「ほう、その誇り高きアイゼンシュトンの息子が?使用人の部屋で?昨晩入ったばかりの新人を恫喝か?」
ドアを開け、愚弟の首根っこをひっつかむ。
「朝っぱらから何をやっているんだ、テオ・・・?」
ギ、ギ、ギ、という効果音が似合いそうな感じでテオが振り返る。
動きが悪いなら油でも差して一回転させてやろうか。
「あ、えっと・・・おはよう兄貴・・・。」
昨晩のうちに分解してやったはずのアルコールの匂い。
・・・無言で強めの回復魔法をかける。
「いででででででででででで
ごめんって!!ごめんて!!!!」
何に対して謝っているのか、こいつはわかっているのか?
痛いから反射的に謝っているだけではないか?
「なにか申し開きは?」
「えっと、なんかかわいい子が顔を洗いに来てたから口説こうかと思って・・・。」
「俺が聞きたいことがそれだと思っているのなら、見当違いだ。
なぜ、朝っぱらから酔っている。昨晩も回復魔法をかけてやっただろうが。」
いや、そんなことはどうでもいいはずだ。
何を俺はこんなにも苛立っている?
部屋に戻った後に、忠告を聞かずアルコールを飲んでいたことなど、ここまで苛立つことではないはずだ。今まで何度もあったことなのだから。聞きたいことは、こんなことではない。
では俺は何をテオの口から聞きたいのだろう?
「俺が何を聞きたいのか、わかるか?」
困惑からか、声音が必要以上に低くなってしまう。
テオは身を強張らせ、ひきつった笑いを顔に張り付けている。
・・・俺は、今、どんな顔をしている?
きっと、ひどい顔をしているのだろう。テオの顔を見れば、なんとなくわかる。
テオは、天敵に逃げ場を塞がれた動物に、よく似た表情を浮かべている。
ふと、背後から、お父さん、というか細い声が聞こえた。
その声はひどく怯えていて、俺の頭を冷やすには十分だった。
息子の方の声だ。
彼のなだめる声も聞こえてくる。
どうすればいい?
振りかえるか?
きっと怯える息子を抱きしめているはずだ。
いま、どんな表情を浮かべているかもわからないこの顔を彼らに向けられるか?
威嚇するような目で見られたら?
それは嫌だ、耐えられない。
どうしたらいい?
何が正しい行動だ?
何がこの場における最適解だ?
俺の沈黙に合わせるように場が静まり返る。
・・・今、俺は焦っている。それだけは分かる。
テオへ感じた不愉快な感情など、どうでもいいほどに焦っている。
何とかしなければ。この凍りつくような空気を作ってしまったのは俺なのだから、なんとか・・・しなければ。
だが、どうしたらいい?
テオへ感じた不快な感情の正体も理解できぬ。
怯えている彼らを、どうにかしてやれるほどのなにかも持ち合わせていない。
こういったとき、俺はどうしたらいいのかわからない。
「わ、我らのご主人さまに、ご挨拶を申し上げます。」
「ご、ご挨拶、申し、上げます。」
震える声が、沈黙を破った。
「っあ、ああ。ゆっくりと、休めたか?」
振り返ると同時に手は反射的にテオを部屋の外に放り投げ、膝は彼らと目線を合わせるために曲げられた。
「っは、はい!私共にこのような寝床を用意していただき、恐悦至極にございます!」
改まった態度。
ひどく緊張し、上ずった声。
息子を守るように前へ出る父。
・・・怯えている。彼らにとって、ここはまだ心安らぐ場所ではない。
「朝早くから騒がしくしてすまなかった。」
部屋の外を見やれば、何の騒ぎかと集まってきた使用人たちがたくさんいる。
「そこのお前。そう、お前だ。
彼らを執事長の元へ連れて行き、身なりを整えてくれるよう伝えてくれ。」
彼らに目を戻せば、息子の肩がビクッと跳ねる。
俺が彼らのことを何も知らないように、彼らも俺のことを一つだって知らないのだ。
怯えられて傷つくなど、あまりにも勝手が過ぎるだろう。
「お前たちの名を、聞かせておくれ。」
ひとつひとつ、知っていこう。
「俺の名は、イアン。イアン・シュトゥルム・アイゼンシュトン。」
ひとつひとつ、刻みつけていこう。
「わ、私は、ヒースと申します。・・・息子の方は、ロベルトと、いいます。」
ヒースとロベルトか。
脳内で何度もその名を反芻する。
「さあ、そこの者についていき、身なりを整えてこい。その後は、ほかの使用人の邪魔にならぬよう、屋敷を散策するといい。
ここは、お前たちの住処なのだから。」
ちら、とテオの方を見やれば、投げられた拍子に頭でもぶつけたのか伸びてしまっている。
・・・道理で静かなわけだ。
「愚弟には俺からきつく言っておく。」
少しでもここが安らげる場所だと、思えるようになってほしい。
どうか、いつまでもここにいたいと、思ってもらえるように。
さすがにこの時間だったら早すぎると言われることもないだろう。
・・・何やら、使用人部屋の方が騒がしい。
何を騒いでいるのかまでは分からないが、俺はあのエルフの親子に用があるのだ。無視しよう。
「・・・!・・・・・・い!!」
「・・・か。俺・・・・だろ?」
・・・何故か声はだんだんと近くなっていく。
その声は、彼らを案内した部屋から聞こえてくる。誰かと言い争いになってしまったのだろうか。
・・・・・・彼と言い争っている相手の声に、ひどく聞きおぼえがある。
「やめてくださいと言ってるじゃありませんか!」
「だーかーらー、俺はそのかわいこちゃんと話したいんだって。」
「話をするのにべたべたと触る必要がありますか!?」
「んだよ、話がわからねえ奴だなぁ!俺はこのアイゼンシュトンの息子だぞ!!邪魔立てして、ただで済むと思ってんのか!?」
嫌な予感というのは的中するものらしい。
「ほう、その誇り高きアイゼンシュトンの息子が?使用人の部屋で?昨晩入ったばかりの新人を恫喝か?」
ドアを開け、愚弟の首根っこをひっつかむ。
「朝っぱらから何をやっているんだ、テオ・・・?」
ギ、ギ、ギ、という効果音が似合いそうな感じでテオが振り返る。
動きが悪いなら油でも差して一回転させてやろうか。
「あ、えっと・・・おはよう兄貴・・・。」
昨晩のうちに分解してやったはずのアルコールの匂い。
・・・無言で強めの回復魔法をかける。
「いででででででででででで
ごめんって!!ごめんて!!!!」
何に対して謝っているのか、こいつはわかっているのか?
痛いから反射的に謝っているだけではないか?
「なにか申し開きは?」
「えっと、なんかかわいい子が顔を洗いに来てたから口説こうかと思って・・・。」
「俺が聞きたいことがそれだと思っているのなら、見当違いだ。
なぜ、朝っぱらから酔っている。昨晩も回復魔法をかけてやっただろうが。」
いや、そんなことはどうでもいいはずだ。
何を俺はこんなにも苛立っている?
部屋に戻った後に、忠告を聞かずアルコールを飲んでいたことなど、ここまで苛立つことではないはずだ。今まで何度もあったことなのだから。聞きたいことは、こんなことではない。
では俺は何をテオの口から聞きたいのだろう?
「俺が何を聞きたいのか、わかるか?」
困惑からか、声音が必要以上に低くなってしまう。
テオは身を強張らせ、ひきつった笑いを顔に張り付けている。
・・・俺は、今、どんな顔をしている?
きっと、ひどい顔をしているのだろう。テオの顔を見れば、なんとなくわかる。
テオは、天敵に逃げ場を塞がれた動物に、よく似た表情を浮かべている。
ふと、背後から、お父さん、というか細い声が聞こえた。
その声はひどく怯えていて、俺の頭を冷やすには十分だった。
息子の方の声だ。
彼のなだめる声も聞こえてくる。
どうすればいい?
振りかえるか?
きっと怯える息子を抱きしめているはずだ。
いま、どんな表情を浮かべているかもわからないこの顔を彼らに向けられるか?
威嚇するような目で見られたら?
それは嫌だ、耐えられない。
どうしたらいい?
何が正しい行動だ?
何がこの場における最適解だ?
俺の沈黙に合わせるように場が静まり返る。
・・・今、俺は焦っている。それだけは分かる。
テオへ感じた不愉快な感情など、どうでもいいほどに焦っている。
何とかしなければ。この凍りつくような空気を作ってしまったのは俺なのだから、なんとか・・・しなければ。
だが、どうしたらいい?
テオへ感じた不快な感情の正体も理解できぬ。
怯えている彼らを、どうにかしてやれるほどのなにかも持ち合わせていない。
こういったとき、俺はどうしたらいいのかわからない。
「わ、我らのご主人さまに、ご挨拶を申し上げます。」
「ご、ご挨拶、申し、上げます。」
震える声が、沈黙を破った。
「っあ、ああ。ゆっくりと、休めたか?」
振り返ると同時に手は反射的にテオを部屋の外に放り投げ、膝は彼らと目線を合わせるために曲げられた。
「っは、はい!私共にこのような寝床を用意していただき、恐悦至極にございます!」
改まった態度。
ひどく緊張し、上ずった声。
息子を守るように前へ出る父。
・・・怯えている。彼らにとって、ここはまだ心安らぐ場所ではない。
「朝早くから騒がしくしてすまなかった。」
部屋の外を見やれば、何の騒ぎかと集まってきた使用人たちがたくさんいる。
「そこのお前。そう、お前だ。
彼らを執事長の元へ連れて行き、身なりを整えてくれるよう伝えてくれ。」
彼らに目を戻せば、息子の肩がビクッと跳ねる。
俺が彼らのことを何も知らないように、彼らも俺のことを一つだって知らないのだ。
怯えられて傷つくなど、あまりにも勝手が過ぎるだろう。
「お前たちの名を、聞かせておくれ。」
ひとつひとつ、知っていこう。
「俺の名は、イアン。イアン・シュトゥルム・アイゼンシュトン。」
ひとつひとつ、刻みつけていこう。
「わ、私は、ヒースと申します。・・・息子の方は、ロベルトと、いいます。」
ヒースとロベルトか。
脳内で何度もその名を反芻する。
「さあ、そこの者についていき、身なりを整えてこい。その後は、ほかの使用人の邪魔にならぬよう、屋敷を散策するといい。
ここは、お前たちの住処なのだから。」
ちら、とテオの方を見やれば、投げられた拍子に頭でもぶつけたのか伸びてしまっている。
・・・道理で静かなわけだ。
「愚弟には俺からきつく言っておく。」
少しでもここが安らげる場所だと、思えるようになってほしい。
どうか、いつまでもここにいたいと、思ってもらえるように。
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