君をいつまでも

華南

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後編

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眠れない日々が続いた。
郁に告白して、強引に唇を奪って傷付けて。
心に深い傷を背負わせた。
このまま自分の気持ちを抑える事が出来たら、哀しませる事にはならなかったと己を責め立てる。
後悔の言葉が過ぎる。

最後に見た郁の表情が深く心に刻まれ消す事が出来ない。

「ごめん、郁。
君を傷付けてごめん」

謝罪の言葉が何度も口から出る。
だけど限界だった。
何度も繰り返させられる恋情に、実る事も無い恋の結末に俺の心は既に限界だったんだ。

「郁……」

幾度となく君を好きになった。
君だけを愛した。


***

その日、俺は須藤に声を掛けられた。
郁に一方的な別れの後の事柄だ。

「……、俺達、別れた」

衝撃的な言葉に、一瞬言葉がでない。
俺の告白が郁を苦しめ別れに及んだかと瞬時に察した。

「何故だ?」

分かって俺は今の言葉を発したのか?
郁の幸せを俺の恋情が潰してしまったのか?

そんな俺に須藤が苦笑いをする。

「お前、今まで本当に気付いていなかったのか?
前世の記憶を持って生まれてくるのを疑問に思った事は無かったのか?」

須藤の衝撃的な言葉に蒼白する。
何故、須藤がその事を知っている?

唇が震えて言葉がでない。
冷たい汗が背中にじっとりと流れていく。

「郁が転生の度に、お前の恋情に心を痛めていた事を気付かなかったのか。
郁は、幾度も生まれて側で見守っているお前にいつの間にか心を奪われるようになっていた。
俺に対する恋情と同じく、お前にも心惹かれた。
だから俺達は前世の記憶を持って生まれる。
郁がお前の恋情に応える為に。
そして何度も繰り返させられる結末に終焉を迎えさせる為に」

須藤の言葉に一瞬、思考が真っ白になる。
須藤も郁も、前世の記憶を持っていた……。

口が乾いて上手く言葉が紡げない。
呻くように須藤に言う。

「郁は前世の記憶を持っていたのか?」

俺の問いに須藤が笑う。
寂しそうに。

「一週間前に記憶が甦ったらしい。
俺に会いに来て別れを告げた。
今の気持ちは誰にあるのか、気付いたと言って」

「郁……」

「ずっと側で見守っていたお前が誰よりも大切だと言った。
前世の記憶を持ちながら、ずっと自分に対して想いを告げること無く愛してくれたお前を誰よりも愛していると」

須藤の言葉に力無く言う。

「俺は郁の幸せを奪った男だ……」

俺の言葉に須藤が穏やかに言う。

「お前の所為ではない。
国々の事だ、いや、乱世がそうさせた」

「俺の恋情がお前達を引き裂いた」

「それを何時まで背負うつもりだ?
それが郁を、俺をも苦しめているとは思わないのか?」

「須藤……」

「郁を幸せにしてくれ。
そしてここで俺達の過去の連鎖を打ち切ってくれ」

静謐な迄に美しい笑みを浮かべる須藤に、過去の姿が重なる。
須藤がこの言葉を告げるまでに葛藤が無かったとは思わない。
辛い筈だ。

愛する女性を恋敵に委ねる言葉を告げるのだから……。

何が運命だったのか正直解らない。
俺が自分に正直になったのが俺だけの願いだとは言い切れない。
そこに行き着く何かが動いた。

(それでも俺は須藤の恋情を奪ってしまった……)

今の俺には須藤に詫びることしか出来ない。 

「済まない、須藤」

俺の言葉に微笑みながらその場を去っていった。

***

俺は直ぐ様、郁の家へと向かった。
心臓がばくばくと音をたてている。
こんなに気持ちが逸る事など今まで無かった。
君に会って何て言えば良いのか言葉が見付からない。

「郁っ」

インターフォンを鳴らす。
息が荒い。
はあはあと息遣いが治まらない。
自然と頬が紅潮する。

静かに扉が開く。
郁の顔が一瞬驚いて、そして。
俺の顔を見詰め涙を流しながら俺に抱きついてきた。

「郁……」

「ずっと蓮に会いたかった……」

涙に濡れた頬を両手で挟む。
じっと見詰める俺に郁が微笑む。

愛しい。

ただそれだけが心に浮かぶ。

「蓮、あなたが好き」

郁のその後の言葉が発せられる事は無かった。
重なる唇から零れるのは甘い吐息だけだった。


「あ、れ、蓮……」

何度も唇を重ねながら郁を抱き上げ部屋へと向かう。
郁の両親が不在なのも知っている。
それに及んでではないが、気持ちを知った以上郁の全てが欲しかった。

ゆっくりとベットに横たえ郁を抱き締める。
耳元で郁が欲しいと囁くと真っ赤に染めながら抱き付いてくる。

「蓮の好きにして……」

理性が崩壊する。
欲情に全てを奪われた。

「れ、蓮」

噛みつくように唇を奪い、郁の衣服を床に落としていく。
淡いピンクのブラとお揃いのショーツ。
欲情に濡れた眼でじっと見詰める俺から胸を隠そうとするが直ぐに両腕を押さえ込む。

「駄目だ、隠さないで」と唇をついばみながら伝えると郁は顔を真っ赤にしながらシーツを握り締める。
従順な反応に更に欲望が高まっていく。
背に手を回しブラのフォックを外すと淡く色付いた先端が目に映る。
恥ずかしさで震えている郁に「綺麗だ」と囁きながら口に含む。
舌のざらりとした感触が郁の羞恥を深めていく。
ピクピクと身体が震わすのが感じていることだと伝わり、自分の熱が高まっているのに苦笑する。
早く一つになりたいと欲求する己を抑えながら郁の柔らかい肌とまろやかな胸を堪能する。
既に濡れているショーツに手をかけると郁の顔に不安な表情で俺を見る。

「郁が欲しい。
ひとつになって郁が俺のモノだと感じたいんだ……」

ずっと望んでいた願い。
俺の言葉に郁は静かに涙を流しながら俺の唇にそっと触れた。

狭い郁の中を暴くように唇と舌と指で触れていく。
濡れていく口許に口角が上がる。
郁が感じていると伝わる悦び。
抑えつけない灼熱をゆっくりと郁の中に沈めていく。

ボロボロと涙を流ししがみつく郁が愛しい。
ぶつりと中が突き破れる感触に喜びを隠せない。

(ああ、今俺は何て幸せなんだろう……)

自然と涙を流しながら深く郁と繋がり何度も愛した。

深く愛し合った余韻の中、郁が微笑みながら俺に言う。

「初めて貴方が私に触れた時、私は貴方を強く意識した。
貴方は私を強引に奪いながらも優しく情熱的に愛した。
そんな貴方に何時か私の中に戸惑いが生じたの。
あの方の命を奪った憎むべき敵国の将なのに、なのに、貴方の恋情に、優しさに心惹かれている事を……。
そして貴方の子を身籠った時、私は貴方を愛し始めていることを悟ったの。
だから心を封印した。
貴方を愛する自分を戒める為に。
あの方を裏切る己が許せなくて。
亡くなったあの方への愛が過去のモノへと変化していく様を私は受け入れる事が出来なかった。
だから自らの命を断ち、貴方の元を去った……。

だけど私は自分の心とは裏腹に貴方にもう一度出会う事を望んだの。
貴方に出会って貴方に想いを伝えたい」

「……」

「蓮。
貴方が好き。
貴方を愛している……」

郁の告白に俺は郁を強く抱きしめ耳元で囁く。

「俺も郁を愛している」

「蓮」

抱擁をゆっくり解き、郁の頬に両手を添えゆっくりと唇を重ねる。
口付けの最中、俺は郁に言う。

「郁。
今も昔もこれから先も君だけを愛している。
君を何時までも……」

俺の告白に郁がそっと俺の唇に触れた……。


記憶が運んだ俺の恋。
全てが定められた運命だったのか、それとも。

想定された事ではない。

想う気持ちが俺を導いた。
ただそれだけ。

郁、君を愛している。
ずっと君だけを愛している……。
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