君をいつまでも

華南

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前編

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もし、最初に俺と出会っていたら君は俺を愛してくれたのだろか……?

何時も俺が目覚めて心の中で反芻する言葉。

「君を愛している」と伝えようとしても君は俺の想いに応えてくれない。
君は俺ではない男に心を寄せているから。
何度も何度も君に聞こうとして言えなかった言葉。
出会っても君と結ばれることは、無い。

君には既に運命の相手が居て、出逢って必ず結ばれる。

そう、それは確かな事柄で覆すことの出来ない「運命」

だが俺はそんな君を愛した。
過去も、現在も。
何度も君に巡りあって恋をする。

ただ、君だけを愛している……。

***


「ねえ、蓮(れん)?
告白したら良いと思う?」

幼馴染みの郁(かおる)が俺の言葉を期待する。
何故、何時も俺は君の心を掴む事が出来ない?

こんなにも君の側に居て君だけを見詰めているのに、君は何時も「あの男」を選ぶ。
自然と溜め息が零れる。

俺は何時も前世の記憶を持って産まれてくる。

君に対して俺の狂わしい恋情が俺に過去の記憶を抱かせ目覚めさせる。
姿形も身分も違っても俺は何時も君を見つけ、恋をする。
そして君も君の運命にしたがって、愛する「伴侶」に出会い結ばれる。

「俺の言葉で決心が鈍る訳?」

俺の言葉に郁は口を尖らす。

「もう、連の意地悪!
恋する乙女心を気遣ってよ!」

真っ赤になって言葉を放つ郁にやるせない想いに駆られる。

何時もそう。
俺は君のそんな姿を見詰め心に鈍い痛みを抱きながら君の背を押す。

「……、須藤もお前の事、気にしていると思うよ」

俺の言葉に、一瞬にして顔を綻ばせる。
ああ、俺が一番好きな笑顔。

今も昔も変わらない……。

初めて出会った時には、君は「あの男」の側妃であった。

相思相愛の仲睦ましい姿は俺の国にも伝わっていた。
物語のように麗しい二人の恋物語。

幼馴染みで本当は君が正妃になる筈だったのに、俺の国との同盟に俺の妹を正妃に迎えた。
君は妹の降嫁を取り乱すことなく凛とした姿で臨んだと、話に聞く。

仮染めの平和の条件。
均衡を崩す事など容易い、条約。

同盟をアッサリと崩した我が国に侵略され君の愛しい男は、この世を去った。
残された君は国の為に追うことを赦されず、俺の戦の「戦利品」となった。

王弟の立場であった俺は直ぐ様、君を欲した。
柔らかい笑みを溢す優しい彼女は、俺の心を掴んで離さなかった。
かの国との戦が表立った頃、兄王に密かに褒賞として彼女を望んだのも事実だった……。

「……、蓮?」

郁の呼び掛けに俺の記憶が途切れる。

「なに、ぼーっとしているの?」

「ああごめん。
いい加減に聞き飽きて」

俺の言葉に郁が頬を膨らませる。

「もう真面目に考えてよ!
初めて好きになったのに……。
真剣なのに、私は!」

郁の言葉に、俺の思考がヒヤリとなる。

(俺だって真剣だよ。
産まれて17年間、郁だけを見詰めてきた。
過去の記憶だけではなく、今の「郁」に恋をした。
俺の気持ちには気付いてはくれないのか?)

均衡を崩そうかと何度も思った。
だが、目の前に過ぎる残像が俺の心を押し止める。
この世を去った時まで彼女はあの男を愛した。
心が壊れるまで……。

奪うことしか出来なかった俺は最期まで君を追い詰めてしまった。
激情のまま君を抱き、何度も君の心を傷付けて。
君の心を欲しいと願っても手に入れる事が出来なかった。

その過去が俺を問い詰める。
言葉を飲み込んでしまう。

「ごめん、郁」

君を諦めることが出来なくて、君の側に居て。
何時か気付いてくれるだろうと甘い感情に心を委ねるバカな俺。

諦めたいといけないのに。
なのに俺は君を求めてしまう。

絶対に交わらない恋情。

過去の残像。

現在の感傷。

「……、須藤に取り次ぎをしてやるから、それでいいか?」

俺の言葉に、郁は大きく眼を見開き、俺を見詰める。
そして急に涙をボロボロ流し始める。

「あ、有り難う、蓮!
わ、私、スゴく嬉しい!」

心の涙が存在するって誰かが言っていたな。

愚かな俺。
自分の心を押し殺して、君の涙を見詰めている。

俺のためにその涙が欲しかった。
喜びの涙を流して欲しかった……。

変わらない「運命」

何処までも続く想いの果てに、終わりがあるのだろうか?

心の中で反芻しながら、俺は郁に微笑んだ。
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