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49話
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***
かちゃり、ティーカップを置く音が鳴る。
不機嫌さを醸し出す仕草に男の苛立ちが伝わってくる。
「……、ふん、愚かな女だ。
素直に呪いに従順すれば愛しい男と交わる事が出来たのに」
ふわりと蠱惑的な香りが男から漂う。
淫靡で濃厚な薔薇の香りに堪えながら、側に控えていた執事が躊躇いがちに言う。
「貴方様の姉君になんと言う暴言を」
執事の言葉にぴくりと柳眉が上がる。
くつくつと嗤う主人に執事の額から汗が滲み出す。
「私の姉か……。
そうだな、確かに私の血の繋がった姉だな、クリスティアーナは」
ソファから立ち上がり優美な仕草で真紅の薔薇に触れる。
触れた花弁が真紅から漆黒へと変色し、儚く散っていく。
色褪せた花弁を男は感情のない瞳で眺めている。
ピジョンブラッドのルビーの如く、赤い瞳で。
「アーネスト様……」
「……レガーリス家の直系で白薔薇の呪いの保持者であるクリスティアーナ。
私とは質の違う、対なる君の呪いの……」
「……」
「別に皮肉を言っている訳では無い。
私は清廉で穢れなき白薔薇の呪いの保持者にはなれなかった。
ただそれだけの事」
「対なる君の呪いに、清廉等決して存在しません。
呪いに精神は蝕まれ最後には身体が腐敗し朽ち果てていく、悍ましいの一言に付きます」
「……、ふふふ、お前は私を慰めているのか?」
「いえ、滅相もございません。私は事実を申し上げているだけ。
対なる君の呪いは罪であり、そして罰でもあります。
……。
アーネスト様。
紅の薔薇の呪いの保持者である貴方様の苦しみと哀しみは想像を絶するものかと思われます。
贖罪の為に貴方様は存在する。
破滅を回避する為に貴方様がこの世に生を受けた事を誰一人、存じ上げない。
私は対なる君の呪いの残酷さに、憤りを抱いております」
「モーリス」
「アーネスト様」
「ふふふ、お前に同情されるとは思わなかった。
……落胆しているのでは、ない。
ただ、白薔薇の呪いの保持者であれば、阻まれる事なく出会えた筈だ。
私の対なる君と……」
「……」
「出会えば対なる君が私を愛する事は解っている。
それが私達が定められた運命。
だが、その運命すら、打ち砕かれてしまった。
相愛の薔薇が咲いた事で、私の対なる君は奪われてしまった。
私の愛しいマリアンヌを」
「アーネスト様」
「モーリス。
私はね、白薔薇の呪いの保持者であるクリスティアーナにある意味、哀れを抱いている。
浄化を司る白薔薇の呪い。
罪を浄化するが故に己が身を呪いに捧げる。
クリスティアーナは耐え難い苦しみを一人で抱き、これから先も生きていかなければならない。
対なる君を喪ったクリスティアーナは一人、孤独に……」
「アーネスト様」
「……ふふふ、無駄話が過ぎたな」
「……」
「温室に行く」
「……」
一面に咲き乱れる真紅の薔薇。
忘却は憐れだと、誰が語ったか。
愛を語りましょう、愛しい貴方。
貴方が忘れても、私は貴方を愛している。
貴方を決して一人にはさせない。
貴方の苦しみは私の苦しみ。
貴方の罪は私の罪。
ねえ、貴方。
もう一度、貴方に出会えたら、私に愛を囁いて。
私に真紅の薔薇を捧げて愛を伝えて。
私の愛しい貴方……。
アーネストの口元から笑みが零れる。
過ぎ去りし過去の記憶に一瞬、心が和らぐ。
そして先程のモーリスとの会話を思い出す。
(如何なる理由であれ、交われば良かったのだ、クリスティアーナは。
愚かにも人としての感情に囚われた事で、呪いの種子が目覚めてしまった)
温室に足を踏み入れる。
ふわりと漂う、ミルラとティーの薫り。
懐かしい友の。
歳の離れた唯一の友の薫り。
「フランシス……」
アーネストの声に呼応するかの如く、花弁が揺れる。
穏やかで優しかったフランシス。
「……何故、呪いに心を委ねてクリスティアーナを抱かなかった?」
「……」
「フランシス」
ゆらりと仄かな光に包まれた人物がアーネストの前に現れる。
困った様な笑みを浮かべアーネストに柔らかく微笑む。
ゆっくりと口元が綻び、穏やかに名を呼ぶ。
アーネスト様、と。
かちゃり、ティーカップを置く音が鳴る。
不機嫌さを醸し出す仕草に男の苛立ちが伝わってくる。
「……、ふん、愚かな女だ。
素直に呪いに従順すれば愛しい男と交わる事が出来たのに」
ふわりと蠱惑的な香りが男から漂う。
淫靡で濃厚な薔薇の香りに堪えながら、側に控えていた執事が躊躇いがちに言う。
「貴方様の姉君になんと言う暴言を」
執事の言葉にぴくりと柳眉が上がる。
くつくつと嗤う主人に執事の額から汗が滲み出す。
「私の姉か……。
そうだな、確かに私の血の繋がった姉だな、クリスティアーナは」
ソファから立ち上がり優美な仕草で真紅の薔薇に触れる。
触れた花弁が真紅から漆黒へと変色し、儚く散っていく。
色褪せた花弁を男は感情のない瞳で眺めている。
ピジョンブラッドのルビーの如く、赤い瞳で。
「アーネスト様……」
「……レガーリス家の直系で白薔薇の呪いの保持者であるクリスティアーナ。
私とは質の違う、対なる君の呪いの……」
「……」
「別に皮肉を言っている訳では無い。
私は清廉で穢れなき白薔薇の呪いの保持者にはなれなかった。
ただそれだけの事」
「対なる君の呪いに、清廉等決して存在しません。
呪いに精神は蝕まれ最後には身体が腐敗し朽ち果てていく、悍ましいの一言に付きます」
「……、ふふふ、お前は私を慰めているのか?」
「いえ、滅相もございません。私は事実を申し上げているだけ。
対なる君の呪いは罪であり、そして罰でもあります。
……。
アーネスト様。
紅の薔薇の呪いの保持者である貴方様の苦しみと哀しみは想像を絶するものかと思われます。
贖罪の為に貴方様は存在する。
破滅を回避する為に貴方様がこの世に生を受けた事を誰一人、存じ上げない。
私は対なる君の呪いの残酷さに、憤りを抱いております」
「モーリス」
「アーネスト様」
「ふふふ、お前に同情されるとは思わなかった。
……落胆しているのでは、ない。
ただ、白薔薇の呪いの保持者であれば、阻まれる事なく出会えた筈だ。
私の対なる君と……」
「……」
「出会えば対なる君が私を愛する事は解っている。
それが私達が定められた運命。
だが、その運命すら、打ち砕かれてしまった。
相愛の薔薇が咲いた事で、私の対なる君は奪われてしまった。
私の愛しいマリアンヌを」
「アーネスト様」
「モーリス。
私はね、白薔薇の呪いの保持者であるクリスティアーナにある意味、哀れを抱いている。
浄化を司る白薔薇の呪い。
罪を浄化するが故に己が身を呪いに捧げる。
クリスティアーナは耐え難い苦しみを一人で抱き、これから先も生きていかなければならない。
対なる君を喪ったクリスティアーナは一人、孤独に……」
「アーネスト様」
「……ふふふ、無駄話が過ぎたな」
「……」
「温室に行く」
「……」
一面に咲き乱れる真紅の薔薇。
忘却は憐れだと、誰が語ったか。
愛を語りましょう、愛しい貴方。
貴方が忘れても、私は貴方を愛している。
貴方を決して一人にはさせない。
貴方の苦しみは私の苦しみ。
貴方の罪は私の罪。
ねえ、貴方。
もう一度、貴方に出会えたら、私に愛を囁いて。
私に真紅の薔薇を捧げて愛を伝えて。
私の愛しい貴方……。
アーネストの口元から笑みが零れる。
過ぎ去りし過去の記憶に一瞬、心が和らぐ。
そして先程のモーリスとの会話を思い出す。
(如何なる理由であれ、交われば良かったのだ、クリスティアーナは。
愚かにも人としての感情に囚われた事で、呪いの種子が目覚めてしまった)
温室に足を踏み入れる。
ふわりと漂う、ミルラとティーの薫り。
懐かしい友の。
歳の離れた唯一の友の薫り。
「フランシス……」
アーネストの声に呼応するかの如く、花弁が揺れる。
穏やかで優しかったフランシス。
「……何故、呪いに心を委ねてクリスティアーナを抱かなかった?」
「……」
「フランシス」
ゆらりと仄かな光に包まれた人物がアーネストの前に現れる。
困った様な笑みを浮かべアーネストに柔らかく微笑む。
ゆっくりと口元が綻び、穏やかに名を呼ぶ。
アーネスト様、と。
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