愛のない婚約かと、ずっと思っていた。

華南

文字の大きさ
上 下
53 / 59

45話

しおりを挟む
黄色い薔薇、黄色い薔薇。
甘く気怠い薫りを漂わせ、鈍い輝きを放つ黄金の薔薇。

ここは棘に囲まれた鳥籠。
愛を請うても受け入れない、愚かな男の歪んだ愛の表れ。
執着が哀しいと心が訴え涙を流しても、受け入れる事が出来ない。
罪深き愛。

薄紅の薔薇、薄紅の薔薇。
甘美で仄かに漂う、コーラルピンクの薔薇。

すれ違う想い。
互いを想い愛を抱きながらも、躊躇う心。
貴方は私を愛しているの?
貴女は私を愛しているの?
互いの想いが交錯する。
愛している、でも、伝える事が出来ない。
甘く切ない薔薇が互いの心を棘で覆う。

ねえ、君に愛を伝えても構わないだろうか?
君を愛してる。

ねえ、貴方に想いを伝えても良いのかしら?
貴方を心からお慕いしています。
貴方の愛が欲しいの。

純白の薔薇、純白の薔薇。
穢れなき純白の清廉なる輝きを放つ、乙女の純真な愛。

其の薫りは正に聖なる芳香。
瑞々しく朝露を含んだ花弁にそっと触れる。
貴方に相応しいのは私だけ。
貴方に真実の愛を捧げているのも私だけ。

ねえ、私の愛を受け入れて。
幼き愛は今は成熟し、貴方の愛を受け入れる事が出来る。
愛しているの、貴方を。
穢れなき想いは今は仄かな色香を漂わせる。
清純な想いに潜む愛の密やかな狂気。
一途に願うは貴方の愛だけ。

貴方を愛しているの。

薄紫の薔薇、薄紫の薔薇。
全てが求める真実の愛。
甘酸っぱい、爽やかで仄かに芳しい、相愛の薔薇。

君の愛を願っていた。
貴方の愛を願っていた。
君を愛している。
貴方を愛している。

でも、私の愛は君に伝える事が出来ない。
純愛は時に残酷で、矛盾を孕む。
君に伝えようとしても真実が伝わらない。

君を傷つけてしまうから。
君を穢してしまうから。
君に微笑んで欲しい。
君の全てが私を惑わす。
君の全てが愛おしい。

愛している、愛している、愛している。
何度となく君に伝えようとした私の心の叫び。
言葉で伝える事が出来ない。
仕草で、表情で、瞳で、君に愛を伝える事が出来ない。

ねえ、君にどうすれば真実を伝える事が出来る?
私達を隔てる棘の鎖。
絡まり、絡まり、解く事が出来ない。

そう思っていた。

なのに、君は私の愛に気付いてくれた。
相愛の薔薇が絡まった棘を解き、私の心を君に届けてくれた。

ああ、君を愛している。
君の愛だけが私の全て。

真紅の薔薇、真紅の薔薇。
愛を厭いながらも愛を求める破滅の薔薇。

全ては君が私を受け入れなかったから。
愛していた、君を。
全てを捧げていた。
だが、君は……。

全てを破滅に導く黒く染まった真紅の薔薇。
今は暗闇に深く閉ざされ目醒める事は無い。

そう、今は……。

***

「ふう、ん。
相愛の薔薇が咲いたのか。
だったら、破滅の薔薇が目覚めてもおかしくは無いか……」

「何を独言ているのですか?」

視界を覆う黄色い薔薇。
少し燻んだ輝きを放つ。

「何て見事な薔薇なんだろう。
浮かばれない愛を抱いて狂い咲く、哀れな黄色い薔薇」

淡々と語る声音にくすり、と揶揄を含んだ笑い声。

「同情心なんて全く皆無だと言ってる様に聞こえます」

肩を軽く竦めながら、くつくつと笑う。

「浅ましい男の愚かな愛だ。
……、でも、この愚かさが心地よい」

「……、歪んだ思考ですね」

「ふふふ……」

「ああ、早く会いたいものだ。
私の対なる君に」

「……」

「心が歓喜で震えている。
これが私の真実の、愛」

「貴方様の対なる君は既に他の男と相愛です。
それも対なる君の呪いの保持者と」

ぴくり、と柳眉が上がる。
段々と不機嫌さが男から漂ってくる。

「……、関係ない。
私の、対なる君は私を選ぶ」

ざわり、と風が吹く。
禍々しく歪んだ薔薇の薫り。
咽帰る薔薇に包まれ思考が朦朧となって、全ての血が引いていき。
息さえ吸う事を許されない、全てを破壊する。

「……、2度と私の前で失言するな。
次は命が無いと思え」

「お、お許し下さい、我が君」

「……、ふふふ。
ああ、早くこの腕に抱きたい、私の、対なる君。
私の、マリアンヌ」

さああ、と濃厚で蠱惑的な薫りが男から漂う。
うっとりと微笑む口元は狂気の笑みを零していた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

処理中です...