42 / 59
34話
しおりを挟む
マリアンヌとクリストファーが相思相愛の仲になって、3ヶ月が経過した。
両親が勝手に決めた婚約者同士だとマリアンヌは幼い頃から思っていたが、実際は、「対なる君の呪い」が関与しての婚約であった事をクリストファーの告白によって知った。
クリストファーが「レガーリス家の呪い」である対なる君の呪いの保持者である事。
そしてマリアンヌがクリストファーの対なる君である事。
クリストファーから拡散される薔薇の芳香。
時折、紺碧の瞳が鈍い輝きを放つ紫色の瞳に変化する現象。
婚約者として紹介された時から、どうしてクリストファーがマリアンヌに無言で押し通してきたか。
会話として成り立たない、マリアンヌが一方的に話すだけの不毛な関係。
これが愛のない婚約を成立させた自分達の関係だとマリアンヌは諦観していたが、実際はクリストファーから幼い頃から愛されていて。
クリストファーから愛を告げられた時、マリアンヌの心は喜びに満ち溢れ自然と涙を零していた。
(クリストファーに愛されている。
私は、クリストファーに愛されていたんだ……)
対なる君の呪いが絡んでの愛は不純だとクリストファーは幼い頃から思い、マリアンヌに無言を押し通していた。
会う度にマリアンヌに対する想いが溢れていたが呪いがクリストファーに絡みつき、愛を伝える事が出来ない。
対なる君の呪いがクリストファーを苦しめ、純粋な愛に影をおとす。
すれ違う二人の想い。
互いを想いながらも愛を伝える事が出来なかったマリアンヌとクリストファー。
紆余曲折を経てやっと2人の絡み合った想いは一つに結ばれ、マリアンヌとクリストファーは真実の愛を誓い……。
今、マリアンヌとクリストファーは人生最大の幸せを噛み締めていた……。
***
(うふふ、今日は私が勝ちね)
カーテンから薄らと光が差し込む。
夜明け前の静けさに包まれた寝室に仄かに薫る薔薇の芳香。
クリストファーの紫の薔薇が咲き綻び瑞々しい芳香を漂わせている。
(最近、クリストファーの方が早起きで寝顔をずっと眺められていたんだもの。
本当に心臓に悪いわ)
毎回、寝起きの顔を見られる乙女心を察してほしい。
美の化身であるクリストファーが自分の寝顔を眺めている。
目覚めた時、間近でクリストファーの顔を見るマリアンヌの心は複雑である。
(ああ、クリストファーの美貌が呪いが関与しているから規格外なのかしら。
ううん、違う。
美男美女の両親から産まれたのだから当たり前の事だわ。
そ、そうよ!
確実にご両親の血を受け継いでいるからクリストファーは麗しいのよ、私と違って!
同じ美男美女の両親を持つ私とは雲泥の差だわ。
どうして私には受け継がれなかったのよ!
ああ、クリストファーの美貌が恨めしい……)
今更、嘆いても仕方がないとマリアンヌは思うのだが、愛する人が完璧な美を誇っていると、これはこれで中々、切実な問題だと思っている。
顔面格差とはいい例えだと、毎回、鏡に映された顔を見ながらマリアンヌは嘆息を漏らしていた。
(で、でも、クリストファーは私の事を可愛い、綺麗だと褒めてくれるわ。
お世辞だと思っているけど、でも、愛する人に言われると気恥ずかしいと言うか、う、嬉しいと言うか……)
段々と頬が熱くなっていく。
夜中までクリストファーに愛された。
身体の隅々までクリストファーの唇が触れて、刻印が刻まれて。
愛の証だと耳元で囁かれながら、声が枯れるまで鳴かされて。
「マリアンヌ、愛している……」
欲情に濡れた目で愛マリアンヌに愛を告げるクリストファーの壮絶な色気にマリアンヌの心は乱され、クリストファーの愛に溺れ、与えられる愛撫に端なく喘いで翻弄されて。
まだ、婚姻は結んでいない。
来年、クリストファーが成人したら、マリアンヌはクリストファーの妻になる。
婚姻を結ぶ迄は純潔を守らないといけないのでギリギリの線までは貞節を守っているが、既にクリストファーが触れていない場所は無い程、マリアンヌはクリストファーに愛されている。
週末、新居になる屋敷で2人は愛を交わしている。
対なる君の呪いが暴走する事を恐れたクリストファーの母親であるリアナが渋々、2人が新居で過ごす事を許した。
クリストファーの父親であるライアンは妻であるリアナの心情を尊重し同意したがマリアンヌの父親であるロベルトは不機嫌極まり無い。
己がクリストファーと同じく対なる君の呪いの保持者であるが故に、クリストファーの気持ちに理解を示しているが、娘が婚姻前に汚される事に対して腹の中が煮え繰り返っている。
マリアンヌの外泊にこめかみに青筋を立てながら微笑むロベルトの目は冷ややかで、告げる言葉には棘が含まれており、クリストファーの背中には、毎回、冷たい汗がダラダラと流れ落ちる。
ゆったりと微笑みながらロベルトがクリストファーの耳元でそっと囁く。
マリアンヌを未婚の母親にしたら、どうなるか知っているよね、と。
流石にクリストファーもロベルトの言葉に身の危険を感じ、顔を引き攣らせ頷く事しか出来ない。
だが、愛するマリアンヌを目の前にして何時迄、理性を保たせる事が出来るかと言えば、それは既に神の領域だと思い始めるクリストファーも存在していて。
青少年の健全なる性欲を妨げる事が果たして正しい事柄なんだろうか、とクリストファーは己に問う。
マリアンヌと身も心も一つに結ばれたいと願うクリストファーの思考回路は既に破綻していた。
そんなロベルトとクリストファーを見詰めながら、マリアンヌの母親であるセシリアの心境は複雑だった。
マリアンヌとクリストファーの外泊云々では無い。
セシリアは2人の外泊に関しては寛大である。
クリストファーとの愛を育む為に望むのならセシリアはマリアンヌの気持ちを第一に考え尊重した。
だが、夫であるロベルトが感情を露わにしてクリストファーに絡んでいる、この事にセシリアは衝撃を受けていた。
対なる君であるセシリアしか興味を示さないロベルト。
娘であるマリアンヌもセシリアを縛る枷と思い出産させ、マリアンヌにも表面上、愛情を与えているとしか思っていなかった。
いや、今でもそう思っている。
だが、今のロベルトは……。
かぶりを振りセシリアは否定する。
自分の思い違いだと。
狂気を孕んだ目で常に監視され自由を奪うロベルトに、人としての、親としての感情など持ち合わせていない。
もし、仮に多少なりに親としての感情が芽生え始めているとしても自分の気持ちは揺るがない。
愛のない結婚ほど苦痛なものは、無い。
過ぎ去った愛に未だ心が乱されるセシリアには、ロベルトの愛は届く事は無かった……。
両親が勝手に決めた婚約者同士だとマリアンヌは幼い頃から思っていたが、実際は、「対なる君の呪い」が関与しての婚約であった事をクリストファーの告白によって知った。
クリストファーが「レガーリス家の呪い」である対なる君の呪いの保持者である事。
そしてマリアンヌがクリストファーの対なる君である事。
クリストファーから拡散される薔薇の芳香。
時折、紺碧の瞳が鈍い輝きを放つ紫色の瞳に変化する現象。
婚約者として紹介された時から、どうしてクリストファーがマリアンヌに無言で押し通してきたか。
会話として成り立たない、マリアンヌが一方的に話すだけの不毛な関係。
これが愛のない婚約を成立させた自分達の関係だとマリアンヌは諦観していたが、実際はクリストファーから幼い頃から愛されていて。
クリストファーから愛を告げられた時、マリアンヌの心は喜びに満ち溢れ自然と涙を零していた。
(クリストファーに愛されている。
私は、クリストファーに愛されていたんだ……)
対なる君の呪いが絡んでの愛は不純だとクリストファーは幼い頃から思い、マリアンヌに無言を押し通していた。
会う度にマリアンヌに対する想いが溢れていたが呪いがクリストファーに絡みつき、愛を伝える事が出来ない。
対なる君の呪いがクリストファーを苦しめ、純粋な愛に影をおとす。
すれ違う二人の想い。
互いを想いながらも愛を伝える事が出来なかったマリアンヌとクリストファー。
紆余曲折を経てやっと2人の絡み合った想いは一つに結ばれ、マリアンヌとクリストファーは真実の愛を誓い……。
今、マリアンヌとクリストファーは人生最大の幸せを噛み締めていた……。
***
(うふふ、今日は私が勝ちね)
カーテンから薄らと光が差し込む。
夜明け前の静けさに包まれた寝室に仄かに薫る薔薇の芳香。
クリストファーの紫の薔薇が咲き綻び瑞々しい芳香を漂わせている。
(最近、クリストファーの方が早起きで寝顔をずっと眺められていたんだもの。
本当に心臓に悪いわ)
毎回、寝起きの顔を見られる乙女心を察してほしい。
美の化身であるクリストファーが自分の寝顔を眺めている。
目覚めた時、間近でクリストファーの顔を見るマリアンヌの心は複雑である。
(ああ、クリストファーの美貌が呪いが関与しているから規格外なのかしら。
ううん、違う。
美男美女の両親から産まれたのだから当たり前の事だわ。
そ、そうよ!
確実にご両親の血を受け継いでいるからクリストファーは麗しいのよ、私と違って!
同じ美男美女の両親を持つ私とは雲泥の差だわ。
どうして私には受け継がれなかったのよ!
ああ、クリストファーの美貌が恨めしい……)
今更、嘆いても仕方がないとマリアンヌは思うのだが、愛する人が完璧な美を誇っていると、これはこれで中々、切実な問題だと思っている。
顔面格差とはいい例えだと、毎回、鏡に映された顔を見ながらマリアンヌは嘆息を漏らしていた。
(で、でも、クリストファーは私の事を可愛い、綺麗だと褒めてくれるわ。
お世辞だと思っているけど、でも、愛する人に言われると気恥ずかしいと言うか、う、嬉しいと言うか……)
段々と頬が熱くなっていく。
夜中までクリストファーに愛された。
身体の隅々までクリストファーの唇が触れて、刻印が刻まれて。
愛の証だと耳元で囁かれながら、声が枯れるまで鳴かされて。
「マリアンヌ、愛している……」
欲情に濡れた目で愛マリアンヌに愛を告げるクリストファーの壮絶な色気にマリアンヌの心は乱され、クリストファーの愛に溺れ、与えられる愛撫に端なく喘いで翻弄されて。
まだ、婚姻は結んでいない。
来年、クリストファーが成人したら、マリアンヌはクリストファーの妻になる。
婚姻を結ぶ迄は純潔を守らないといけないのでギリギリの線までは貞節を守っているが、既にクリストファーが触れていない場所は無い程、マリアンヌはクリストファーに愛されている。
週末、新居になる屋敷で2人は愛を交わしている。
対なる君の呪いが暴走する事を恐れたクリストファーの母親であるリアナが渋々、2人が新居で過ごす事を許した。
クリストファーの父親であるライアンは妻であるリアナの心情を尊重し同意したがマリアンヌの父親であるロベルトは不機嫌極まり無い。
己がクリストファーと同じく対なる君の呪いの保持者であるが故に、クリストファーの気持ちに理解を示しているが、娘が婚姻前に汚される事に対して腹の中が煮え繰り返っている。
マリアンヌの外泊にこめかみに青筋を立てながら微笑むロベルトの目は冷ややかで、告げる言葉には棘が含まれており、クリストファーの背中には、毎回、冷たい汗がダラダラと流れ落ちる。
ゆったりと微笑みながらロベルトがクリストファーの耳元でそっと囁く。
マリアンヌを未婚の母親にしたら、どうなるか知っているよね、と。
流石にクリストファーもロベルトの言葉に身の危険を感じ、顔を引き攣らせ頷く事しか出来ない。
だが、愛するマリアンヌを目の前にして何時迄、理性を保たせる事が出来るかと言えば、それは既に神の領域だと思い始めるクリストファーも存在していて。
青少年の健全なる性欲を妨げる事が果たして正しい事柄なんだろうか、とクリストファーは己に問う。
マリアンヌと身も心も一つに結ばれたいと願うクリストファーの思考回路は既に破綻していた。
そんなロベルトとクリストファーを見詰めながら、マリアンヌの母親であるセシリアの心境は複雑だった。
マリアンヌとクリストファーの外泊云々では無い。
セシリアは2人の外泊に関しては寛大である。
クリストファーとの愛を育む為に望むのならセシリアはマリアンヌの気持ちを第一に考え尊重した。
だが、夫であるロベルトが感情を露わにしてクリストファーに絡んでいる、この事にセシリアは衝撃を受けていた。
対なる君であるセシリアしか興味を示さないロベルト。
娘であるマリアンヌもセシリアを縛る枷と思い出産させ、マリアンヌにも表面上、愛情を与えているとしか思っていなかった。
いや、今でもそう思っている。
だが、今のロベルトは……。
かぶりを振りセシリアは否定する。
自分の思い違いだと。
狂気を孕んだ目で常に監視され自由を奪うロベルトに、人としての、親としての感情など持ち合わせていない。
もし、仮に多少なりに親としての感情が芽生え始めているとしても自分の気持ちは揺るがない。
愛のない結婚ほど苦痛なものは、無い。
過ぎ去った愛に未だ心が乱されるセシリアには、ロベルトの愛は届く事は無かった……。
0
お気に入りに追加
677
あなたにおすすめの小説
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる