愛のない婚約かと、ずっと思っていた。

華南

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29話

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どくんどくん。

どちらの心臓の音か分からない。
今の自分の顔を直視出来ない。
羞恥で顔が、ううん、身体全体が赤く染まっている。
クリストファーがドレスのボタンを一つずつ外していくのがリアルに伝わってくる。

(や、やだ、恥ずかしい……。
クリストファーがボタンを外している。
わ、解っている、触れ合いたいと言うのは素肌をクリストファーに見せると言う意味合いで)

ぎゅっと目を瞑る。
全てのボタンを外された。
今、クリストファーの目に映るのはシュミーズを纏っているだけの背中で。

シュミーズの紐に手をかけ一気に腰までずらした事にマリアンヌは息を呑む。
思わず両手で枕を強く握ってしまう。

「……、綺麗だ、マリアンヌ」

ほう、と溜息を吐きながらクリストファーはマリアンヌの背中に手を遭わす。
滑らかで真っ白な雪の様にシミ一つ無い素肌にクリストファーは身体を屈め唇を落とす。
背中にクリストファーの唇が触れた事にマリアンヌの肌がぶるり、と粟立つ。

(く、クリストファー……)

枕を握る手に更に力が籠る。
背中を掠めるクリストファーの吐息が熱を帯びていて、唇が触れる度にマリアンヌの下腹部はひくひくと収縮を繰り返す。
きゅんともどかしく切ない疼き。
自然と吐息が甘くなる。

「マリアンヌ、マリアンヌ……」

切なくマリアンヌの名を呼ぶクリストファーに、マリアンヌは枕を握っていた両手で口元を覆う。
背中にダイレクトに伝わるクリストファーの唇が、舌が、吐息がマリアンヌの中に潜む官能を呼び起こそうとしている。
口元から甘い喘ぎが出そうになってマリアンヌは慌てて口元をぐっと抑えようとするがその手をクリストファーに阻まれて。

「クリストファー?」

耳朶を甘く噛みながらクリストファーがマリアンヌに囁く。

「駄目だよ、マリアンヌ……。
僕に声を聞かせて」

艶やかなクリストファーの声にマリアンヌは嫌々とかぶりを振る。
マリアンヌの可愛らしい抵抗にクリストファーはふっと目を細め、マリアンヌの腹部に腕を回して素早く身体を起こしクリストファーの胸に抱かせる。
一瞬の出来事に驚く間も無い内にクリストファーの両手がマリアンヌの胸に触れる。

「や、やだ、く、クリストファーっ!
む、胸に、さ、触らないでよ」

ぷるんと小ぶりの胸がクリストファーの手にすっぽりと収まっている。
何も纏っていない上半身は当然裸身であり、クリストファーが直に胸を触っている。
その現実にマリアンヌの顔は真っ赤を通り越して蒼白になっていた。

「わ、私、彼女みたいに胸が大きく無いのよ。
こ、コゼット・ケンティフォリアの様な、たぷんたぷんでマシュマロ感触の豊満な胸では無いの。
触って解ったでしょう?
……、む、胸が小さいの……」

(も、もう、恥ずかしさを通り越して目眩を起こしそう。
な、何でこんな告白をさせるのよ!
出来れば気を失いたい、ううん、もう既に意識が遠退きそう……。
ううう、く、クリストファーの馬鹿あ!
お、乙女心を理解してよ!)

じんわりと涙が滲むマリアンヌに、クリストファーの声は何処までも甘やかであり。
言われる言葉にマリアンヌの目は大きく見開き、眦に溜まっていた涙がすうと頬に流れ落ちる。

「凄く柔らかくて、しっくりと手に馴染んで。
こんな感触、初めてだよマリアンヌ」

感慨深げにマリアンヌの胸の感触を味わうクリストファーの声が上擦っている事にマリアンヌは呆然と聞いている。

「え……」

「ああ、ずっと触れたかった。
ねえ、マリアンヌ。
僕の苦悩を理解出来る?
幼い頃からマリアンヌが欲しくて欲しくて堪らなくて。
マリアンヌの身体が胸が丸みを帯び始めているのに、僕はただただじっと指を咥えて見る事しか出来ない現実を」

「クリストファー?」

語り出すクリストファーの口調がいつに無く興奮している事が窺える。
初めての体験にクリストファーが熱弁する様はマリアンヌに衝撃を与えるには充分である。

高潔で孤高な精神を由とするクリストファーは今、ここには存在しない。

「僕はね、ある程度の年齢になれば君に触れる事が出来るとずっと思っていたんだ。
君には嫌われていると気付いていたけど、だけど、僕達は婚約者同士だ。
君が頑なに僕を拒もうとしても、僕は君に跪いてでも君に愛を乞えば君は優しいからいつかきっと僕の愛を受け入れてくれる、そして君に触れる赦しを得ようとさえ思っていたら……。
ショックだったよ、現実を知って。
僕達が結ばれる事が許されるのは婚姻をしてからの初夜だと知った衝撃を君には理解出来る?」

(り、理解云々よりも、く、クリストファーがずっと私をそんな目で見ていた事に衝撃だわ……。
それに初夜では無いと結ばれないと言いながらも、今のこの状況をクリストファーはどう思っているのかしら?)

一瞬、言葉に矛盾を感じると脳裏に過ったが、そこはスルーするのかクリストファーはとマリアンヌは心の中で突っ込んだ。

「ずっとマリアンヌの素肌に触れたかった。
僕のモノだとマリアンヌの身体中に痕をつけて、君には僕から愛される悦びをずっと知って欲しくて」

嘆息を洩らしながらじっくりと味わう様にマリアンヌの胸の感触を堪能しているクリストファーに、マリアンヌは切ない吐息が自然と漏れ始めて。
肌が淡い桃色に染まり、吐息が段々と荒くなっていく。
はあはあと忙しげに吐息を吐くマリアンヌにクリストファーのマリアンヌの胸を愛撫する手が更に強まっていき。
胸を揉みしだいていた指の背でぷっくりと立ち上がった先端を軽く押す。

「きゃあああ、ん」

思わず漏れた甘い声にクリストファーの理性がぶちり、と音を立て、そして。

(え……)

と、一瞬、声が出そうになるマリアンヌの身体を反転させ、クリストファーは素早くマリアンヌの身体をベッドに押し倒し、マリアンヌの唇を荒々しく奪った。


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