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20話
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(え、えっとこれは一体、どう言う事なんだ?
目の前にマリアンヌがいる。
何故、現実にマリアンヌが居るんだ?
僕は今までずっと夢の中でマリアンヌに愛を語りながら唇を深く貪りあって、そして)
「な、何よ、クリストファー!
まだ寝惚けているの?
いい加減に酔いから覚めなさいよ!」
不機嫌極まり無いマリアンヌの態度に、どう対応すれば良いのか解らないクリストファーは目をパチクリと動かす事しか出来なかった。
(どうしてここにマリアンヌが居るんだ?
今まで夢と思っていた事はもしかして……)
夢の出来事が現実を帯びている、いや違う。
事実そうであった。
額から冷たい水が流れ滴り落ちる。
マリアンヌから水を引っ掛けられて、頬を打たれて。
真相に気付いたクリストファーは、体温が一気に下がっていく感覚に陥ってしまった。
言葉を失い顔まで蒼白になる始末。
段々と状況を把握し出したクリストファーは今までに無い程、動揺していた。
マリアンヌに婚約破棄を言い渡された時よりも酷い有様でクリストファーは再起不能な迄に精神を追い込まれていた。
「やっと今の自分を理解し出したのね……。
全く、どうしてこんなに意識が混濁する程お酒を煽ったのよ!
何時ものクリストファーらしく無いわ。
ひ、品行方正で孤高で気高い精神の持ち主であるクリストファーとはとても思えない。
ば、馬鹿よ、クリストファーはっ!
私との婚約破棄がそんなに嫌だったのなら、何故、言葉で伝えないのよ!
そんなに私に本心を語るのが怖いの?
クリストファー……」
最後の告白は涙まじりで語っている。
目を真っ赤に腫らして全身で怒りを露わにして。
「マリアンヌ」
「や、やっと、マトモに名前を呼んでくれたわね、クリストファー!
い、いつも淡々とした声で抑揚の無い声で名を掛けられてどんな気持ちだったか解る?
ずっと嫌われていると思ったのよ!
愛のない婚約をしていたとずっと思っていた。
お父様同士が勝手に決めた婚約だからクリストファーだって、本意では無いと思ってたわ。
だ、だけどね、無言、無表情は失礼極まりと思わない訳?
出会ってから12年間、ずっと貴方の態度に一喜一憂して。
どんな気持ちになると思う?
自分よりも顔の整った貴方との婚約に自分に自信なんて持てる訳、無いでしょう?
美の化身である貴方に釣り合う存在だなんて、そんな事、思える訳ない……。
貴方が言葉で、態度で示してくれないと自信なんて持てないの?
貴方の婚約者である事が不安で不安で……」
ボロボロと涙を流してマリアンヌが己に訴えている。
ずっと愛されていないと不安を抱いていた、クリストファーに嫌われていると思っていた。
(なぜ、そう思うんだ?
僕が君の事を嫌うなんてあり得ない事なのに……)
そんな事なんて絶対にない事だと、言いたくても言えなかった自分の不甲斐なさ。
マリアンヌ自身を愛していると言っても自分の中に流れる血がマリアンヌとの愛に翳りを差すと思ってずっと悩んでいた。
対なる君だからでは無い、マリアンヌだから好きだ。
この言葉を堂々とマリアンヌに告げる事ができなくて、いや、違う。
ずっと怖かった、マリアンヌに拒まれる事が、愛を否定される事が。
幼い頃、抱いた不安が自分に自信を失わせて。
優柔不断な自分の態度でどれだけマリアンヌを傷つけてきた?
こんなにボロボロと君に涙を流させて、僕は……。
「ひっく、ひっく、く、クリストファーの馬鹿あ。
き、嫌いよ、クリストファーなんて……」
「ごめん、マリアンヌ……」
目尻を下げ困惑げに微笑みながらクリストファーがマリアンヌに謝罪の言葉を告げる。
目には薄らと涙を滲ませて。
「え?」
ふわりと柔らかい薫りに包まれる。
先程とは打って変わって心に身体に染み渡る優しい薔薇の薫り。
(く、クリストファー……)
抱き締められている、クリストファーに。
想いの限り、強く強く。
「ごめん、マリアンヌ。
君にずっと不安を抱かせて……。
僕が不甲斐ないばかりにずっと君を傷付けて涙を流させて。
初めて会った時から君に惹かれていた。
君が婚約者だと紹介された時の僕の気持ちが解る?
嬉しさの余り舞い上がって、君にその事を悟られたく無くて。
子供の意地だね、気恥ずかしかった、君に気持ちがバレる事に。
ううん、本当は今でも恥ずかしい、こんな僕が君に愛を乞うなんて……」
「クリストファー……」
すうと抱擁が解かれクリストファーに顔を覗き込まれる。
クリストファーの紺碧の瞳が濃い紫色に変化していって。
「愛しているよ、マリアンヌ……。
ずっと君に伝えたかった。
僕は君にずっと夢中だと、今でもそう。
君以外に愛する女性なんて永遠に存在しない」
真摯な目で自分を見つめて愛を語ってくれる。
ずっと望んでいた、クリストファーからの愛の告白を。
「クリストファー、う、嬉しい。
わ、私もクリストファーが好き。
貴方を誰よりも愛している……」
マリアンヌの言葉に一瞬、大きく目を見開いて、そして涙を滲ませながら破顔する。
柔らかい薔薇の薫りに包まれながらクリストファーとマリアンヌは、ふっと、互いを見つめ微笑み合い、そして。
自然と唇が重なっていく。
永遠の愛を誓う口付けをクリストファーとマリアンヌは交わしたのであった……。
目の前にマリアンヌがいる。
何故、現実にマリアンヌが居るんだ?
僕は今までずっと夢の中でマリアンヌに愛を語りながら唇を深く貪りあって、そして)
「な、何よ、クリストファー!
まだ寝惚けているの?
いい加減に酔いから覚めなさいよ!」
不機嫌極まり無いマリアンヌの態度に、どう対応すれば良いのか解らないクリストファーは目をパチクリと動かす事しか出来なかった。
(どうしてここにマリアンヌが居るんだ?
今まで夢と思っていた事はもしかして……)
夢の出来事が現実を帯びている、いや違う。
事実そうであった。
額から冷たい水が流れ滴り落ちる。
マリアンヌから水を引っ掛けられて、頬を打たれて。
真相に気付いたクリストファーは、体温が一気に下がっていく感覚に陥ってしまった。
言葉を失い顔まで蒼白になる始末。
段々と状況を把握し出したクリストファーは今までに無い程、動揺していた。
マリアンヌに婚約破棄を言い渡された時よりも酷い有様でクリストファーは再起不能な迄に精神を追い込まれていた。
「やっと今の自分を理解し出したのね……。
全く、どうしてこんなに意識が混濁する程お酒を煽ったのよ!
何時ものクリストファーらしく無いわ。
ひ、品行方正で孤高で気高い精神の持ち主であるクリストファーとはとても思えない。
ば、馬鹿よ、クリストファーはっ!
私との婚約破棄がそんなに嫌だったのなら、何故、言葉で伝えないのよ!
そんなに私に本心を語るのが怖いの?
クリストファー……」
最後の告白は涙まじりで語っている。
目を真っ赤に腫らして全身で怒りを露わにして。
「マリアンヌ」
「や、やっと、マトモに名前を呼んでくれたわね、クリストファー!
い、いつも淡々とした声で抑揚の無い声で名を掛けられてどんな気持ちだったか解る?
ずっと嫌われていると思ったのよ!
愛のない婚約をしていたとずっと思っていた。
お父様同士が勝手に決めた婚約だからクリストファーだって、本意では無いと思ってたわ。
だ、だけどね、無言、無表情は失礼極まりと思わない訳?
出会ってから12年間、ずっと貴方の態度に一喜一憂して。
どんな気持ちになると思う?
自分よりも顔の整った貴方との婚約に自分に自信なんて持てる訳、無いでしょう?
美の化身である貴方に釣り合う存在だなんて、そんな事、思える訳ない……。
貴方が言葉で、態度で示してくれないと自信なんて持てないの?
貴方の婚約者である事が不安で不安で……」
ボロボロと涙を流してマリアンヌが己に訴えている。
ずっと愛されていないと不安を抱いていた、クリストファーに嫌われていると思っていた。
(なぜ、そう思うんだ?
僕が君の事を嫌うなんてあり得ない事なのに……)
そんな事なんて絶対にない事だと、言いたくても言えなかった自分の不甲斐なさ。
マリアンヌ自身を愛していると言っても自分の中に流れる血がマリアンヌとの愛に翳りを差すと思ってずっと悩んでいた。
対なる君だからでは無い、マリアンヌだから好きだ。
この言葉を堂々とマリアンヌに告げる事ができなくて、いや、違う。
ずっと怖かった、マリアンヌに拒まれる事が、愛を否定される事が。
幼い頃、抱いた不安が自分に自信を失わせて。
優柔不断な自分の態度でどれだけマリアンヌを傷つけてきた?
こんなにボロボロと君に涙を流させて、僕は……。
「ひっく、ひっく、く、クリストファーの馬鹿あ。
き、嫌いよ、クリストファーなんて……」
「ごめん、マリアンヌ……」
目尻を下げ困惑げに微笑みながらクリストファーがマリアンヌに謝罪の言葉を告げる。
目には薄らと涙を滲ませて。
「え?」
ふわりと柔らかい薫りに包まれる。
先程とは打って変わって心に身体に染み渡る優しい薔薇の薫り。
(く、クリストファー……)
抱き締められている、クリストファーに。
想いの限り、強く強く。
「ごめん、マリアンヌ。
君にずっと不安を抱かせて……。
僕が不甲斐ないばかりにずっと君を傷付けて涙を流させて。
初めて会った時から君に惹かれていた。
君が婚約者だと紹介された時の僕の気持ちが解る?
嬉しさの余り舞い上がって、君にその事を悟られたく無くて。
子供の意地だね、気恥ずかしかった、君に気持ちがバレる事に。
ううん、本当は今でも恥ずかしい、こんな僕が君に愛を乞うなんて……」
「クリストファー……」
すうと抱擁が解かれクリストファーに顔を覗き込まれる。
クリストファーの紺碧の瞳が濃い紫色に変化していって。
「愛しているよ、マリアンヌ……。
ずっと君に伝えたかった。
僕は君にずっと夢中だと、今でもそう。
君以外に愛する女性なんて永遠に存在しない」
真摯な目で自分を見つめて愛を語ってくれる。
ずっと望んでいた、クリストファーからの愛の告白を。
「クリストファー、う、嬉しい。
わ、私もクリストファーが好き。
貴方を誰よりも愛している……」
マリアンヌの言葉に一瞬、大きく目を見開いて、そして涙を滲ませながら破顔する。
柔らかい薔薇の薫りに包まれながらクリストファーとマリアンヌは、ふっと、互いを見つめ微笑み合い、そして。
自然と唇が重なっていく。
永遠の愛を誓う口付けをクリストファーとマリアンヌは交わしたのであった……。
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