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12話
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(な、何?
一体、何が起こっているの?)
私、今、強くクリストファーに抱き締められていて。
そして、目の前にクリストファーが。
え?
クリストファー?
どうして……。
一瞬の出来事に言葉を奪われて。
「うん、う、はあんっ」
噛み付く様に唇を塞がれ抵抗する私の顎を掴み強引に唇をこじ開けて。
一瞬、視線が交わる。
深く濁った深紫の瞳。
何の感情も示さないどろりと澱んだクリストファーの瞳に思わず背中がぞくりとした寒気に襲われて。
ひやりと冷たい汗が背中に滲む。
心臓はバクバクと激しく音を立て、精神が圧迫されていき……。
そんな私の気持ちなど意にも介さずクリストファーは口内に舌を侵入させ歯列をなぞり、萎縮し引っ込んでいる私の舌を強引に絡めて口内を犯し始める。
今までに無いクリストファーの豹変に、動揺を通り越して怖くてカタカタと身体が震えてしまい、思わずクリストファーの腕にしがみ付く。
(き、キスをされている。
それもかなり大人のディ、ディープキスっ!
どうしてこんなキスを私に?
そ、それよりも、ど、何処でこんなキスを覚えたの?
ま、まさかクリストファーって、既に体験済みって訳では無いわよね?
い、一体、誰と関係を持ったの!
まさか……、既にク、クリスティアーナ様と。
そ、そんなのって。
……。
仮にそうだとしたら納得、出来るわ……。
クリストファーったらとってもキスが上手くて蕩ける様な感覚に陥って思わず身体の力が抜けてしまうわって!
違うでしょう、マ、マリアンヌ!
どうしてそう言った感想になってしまうの?
こ、婚約破棄の話の後に、ど、どうして、こんな展開になっているの!
どうしてクリストファーはこんなに情熱的なキスをしてくるの?
クリスティアーナ様の事を愛しているんでしょう?
なのに何故なの?
何故、私に想いをぶつける様なキスを。
クリストファーにとって私は一体……)
もう訳が分からない!
思考回路が滅茶苦茶になっている。
も、もし、クリストファーが体験済みなら嫉妬で気が狂ってしまうわ。
クリストファーの馬鹿!
触らないで、不潔よ!
だ、大っ嫌い!
急に抱き締められ呆然としている私の唇を強引に奪って。
初心な私にはハードルの高い大人のキスをするなんて!
(もう、一体何なのよおお……)
気持ちは怒りと嫉妬で最高潮に興奮していて。
そしてクリストファーの余りの変わりように気持ちが追いつかない。
思考が混乱してしまって収拾がつかない。
自分が置かれている状況に涙が出る……。
ああん、もう!
何故、何故、何故なの!
何度も心の中で反芻してしまう、この状況に!
クリスティアーナ様を愛しているのにどうして私にこんなに激しいキスを……。
私の事なんて愛していない癖に。
ずっと無言で無表情で私と付き合ってきたじゃない!
私の言葉に無言で耳を傾けるだけで、全然会話など成り立たない一方的な関係の私に一体、何故!
馬鹿にしている訳?
こんな風に唇を奪ったら婚約解消を取り消すと思っての行動なの?
どうして!
答えてよ、クリストファーっ!
(ああ、何故なの?
思考が上手く纏まらない。
解らない。
クリストファーが一体、何を考えているのか全然解らない)
クリストファーの本心が私には、一切、解らない……。
***
「駄目だ……。
絶対に赦さない」
凍てついた声でキスの合間にクリストファーが呻くように呟く。
冷ややかなクリストファーの声に恐怖で感情が昂り思わず目に涙が浮かぶ。
何度もかぶりを振り逃れようとする私の後頭部に手を添え逃さない様に固定し激しく唇を奪っていく。
今までに無いクリストファーの激情に段々と抵抗する意思を削がれていき。
(怖いのにこんな事をされてたら、気持ちが揺れ動いてしまう。
このまま流されてしまったら……)
どうなってしまうの?
このままずっと激しくクリストファーに求められたら。
クリスティアーナ様の事を愛しているのに、愛していない私に激情をぶつける事が出来るなんて。
勘違いしてしまうじゃないの?
もしかしたらクリストファーも私の事をって。
私の事を愛しているの?
そんな事あり得ない!
愛しているのなら、何故、私に言葉で愛を語ってくれないの?
一方的に唇を奪って情熱的に求められても、貴方の気持ちが私には解らない。
愛されてるとは到底思えない。
こんなのは絶対におかしい。
こんな事はあっては駄目、駄目なの。
だってクリストファーに愛されていないのに、こんな事をされるなんて惨めでしかない。
愛を告白されて、互いの気持ちが重なって、そして自然と求め合う。
そんな風に私は貴方にキスをされたかった。
シャンペトル家の小高い丘の上であの時一瞬触れた、あんなに優しくて心をときめかすキスを貴方と。
こんな事をされても私は……。
心を深く抉られて傷付けられるだけ。
「い、いやっ!」
一瞬、口の中に鉄の混じった味が広がる。
クリストファーとのキスを抵抗した私がクリストファーの唇を噛んでしまって互いの口内に血が広がっていく。
口内に血の味と仄かに甘い味が含まれていく。
口内に広がる甘味と同時にむせ返る様な薔薇の薫り。
一瞬、クリストファーの身体から薔薇の薫りが漂ってきて。
官能的な薔薇の薫りが段々と私の身体に浸透していく。
(ああ、何、この甘美な甘い薫り……)
思考が真っ白に染まっていき意識が朦朧とし始めて……。
(だ、駄目、マリアンヌ……。
意識を手放したら、駄目)
何も解決していない。
クリストファーに問い質していない。
この状況を、クリストファーの心情を。
クリストファーの本心を聞いていないのに、こんな……。
身体の力が抜けていく。
倒れる私をクリストファーが抱き止めて。
どんな気持ちで私を見ていたのか判らない。
ただ、クリストファーの瞳が深紫色に変化していて、そして。
見間違いかも知れない。
意識が途切れる前に見たクリストファーの顔。
顔を歪ませ目に涙が溢れていたのは……。
きっと私の勘違いに違いない。
一体、何が起こっているの?)
私、今、強くクリストファーに抱き締められていて。
そして、目の前にクリストファーが。
え?
クリストファー?
どうして……。
一瞬の出来事に言葉を奪われて。
「うん、う、はあんっ」
噛み付く様に唇を塞がれ抵抗する私の顎を掴み強引に唇をこじ開けて。
一瞬、視線が交わる。
深く濁った深紫の瞳。
何の感情も示さないどろりと澱んだクリストファーの瞳に思わず背中がぞくりとした寒気に襲われて。
ひやりと冷たい汗が背中に滲む。
心臓はバクバクと激しく音を立て、精神が圧迫されていき……。
そんな私の気持ちなど意にも介さずクリストファーは口内に舌を侵入させ歯列をなぞり、萎縮し引っ込んでいる私の舌を強引に絡めて口内を犯し始める。
今までに無いクリストファーの豹変に、動揺を通り越して怖くてカタカタと身体が震えてしまい、思わずクリストファーの腕にしがみ付く。
(き、キスをされている。
それもかなり大人のディ、ディープキスっ!
どうしてこんなキスを私に?
そ、それよりも、ど、何処でこんなキスを覚えたの?
ま、まさかクリストファーって、既に体験済みって訳では無いわよね?
い、一体、誰と関係を持ったの!
まさか……、既にク、クリスティアーナ様と。
そ、そんなのって。
……。
仮にそうだとしたら納得、出来るわ……。
クリストファーったらとってもキスが上手くて蕩ける様な感覚に陥って思わず身体の力が抜けてしまうわって!
違うでしょう、マ、マリアンヌ!
どうしてそう言った感想になってしまうの?
こ、婚約破棄の話の後に、ど、どうして、こんな展開になっているの!
どうしてクリストファーはこんなに情熱的なキスをしてくるの?
クリスティアーナ様の事を愛しているんでしょう?
なのに何故なの?
何故、私に想いをぶつける様なキスを。
クリストファーにとって私は一体……)
もう訳が分からない!
思考回路が滅茶苦茶になっている。
も、もし、クリストファーが体験済みなら嫉妬で気が狂ってしまうわ。
クリストファーの馬鹿!
触らないで、不潔よ!
だ、大っ嫌い!
急に抱き締められ呆然としている私の唇を強引に奪って。
初心な私にはハードルの高い大人のキスをするなんて!
(もう、一体何なのよおお……)
気持ちは怒りと嫉妬で最高潮に興奮していて。
そしてクリストファーの余りの変わりように気持ちが追いつかない。
思考が混乱してしまって収拾がつかない。
自分が置かれている状況に涙が出る……。
ああん、もう!
何故、何故、何故なの!
何度も心の中で反芻してしまう、この状況に!
クリスティアーナ様を愛しているのにどうして私にこんなに激しいキスを……。
私の事なんて愛していない癖に。
ずっと無言で無表情で私と付き合ってきたじゃない!
私の言葉に無言で耳を傾けるだけで、全然会話など成り立たない一方的な関係の私に一体、何故!
馬鹿にしている訳?
こんな風に唇を奪ったら婚約解消を取り消すと思っての行動なの?
どうして!
答えてよ、クリストファーっ!
(ああ、何故なの?
思考が上手く纏まらない。
解らない。
クリストファーが一体、何を考えているのか全然解らない)
クリストファーの本心が私には、一切、解らない……。
***
「駄目だ……。
絶対に赦さない」
凍てついた声でキスの合間にクリストファーが呻くように呟く。
冷ややかなクリストファーの声に恐怖で感情が昂り思わず目に涙が浮かぶ。
何度もかぶりを振り逃れようとする私の後頭部に手を添え逃さない様に固定し激しく唇を奪っていく。
今までに無いクリストファーの激情に段々と抵抗する意思を削がれていき。
(怖いのにこんな事をされてたら、気持ちが揺れ動いてしまう。
このまま流されてしまったら……)
どうなってしまうの?
このままずっと激しくクリストファーに求められたら。
クリスティアーナ様の事を愛しているのに、愛していない私に激情をぶつける事が出来るなんて。
勘違いしてしまうじゃないの?
もしかしたらクリストファーも私の事をって。
私の事を愛しているの?
そんな事あり得ない!
愛しているのなら、何故、私に言葉で愛を語ってくれないの?
一方的に唇を奪って情熱的に求められても、貴方の気持ちが私には解らない。
愛されてるとは到底思えない。
こんなのは絶対におかしい。
こんな事はあっては駄目、駄目なの。
だってクリストファーに愛されていないのに、こんな事をされるなんて惨めでしかない。
愛を告白されて、互いの気持ちが重なって、そして自然と求め合う。
そんな風に私は貴方にキスをされたかった。
シャンペトル家の小高い丘の上であの時一瞬触れた、あんなに優しくて心をときめかすキスを貴方と。
こんな事をされても私は……。
心を深く抉られて傷付けられるだけ。
「い、いやっ!」
一瞬、口の中に鉄の混じった味が広がる。
クリストファーとのキスを抵抗した私がクリストファーの唇を噛んでしまって互いの口内に血が広がっていく。
口内に血の味と仄かに甘い味が含まれていく。
口内に広がる甘味と同時にむせ返る様な薔薇の薫り。
一瞬、クリストファーの身体から薔薇の薫りが漂ってきて。
官能的な薔薇の薫りが段々と私の身体に浸透していく。
(ああ、何、この甘美な甘い薫り……)
思考が真っ白に染まっていき意識が朦朧とし始めて……。
(だ、駄目、マリアンヌ……。
意識を手放したら、駄目)
何も解決していない。
クリストファーに問い質していない。
この状況を、クリストファーの心情を。
クリストファーの本心を聞いていないのに、こんな……。
身体の力が抜けていく。
倒れる私をクリストファーが抱き止めて。
どんな気持ちで私を見ていたのか判らない。
ただ、クリストファーの瞳が深紫色に変化していて、そして。
見間違いかも知れない。
意識が途切れる前に見たクリストファーの顔。
顔を歪ませ目に涙が溢れていたのは……。
きっと私の勘違いに違いない。
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