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「やだ、目が真っ赤になってしまった。
もうすぐクリストファーのお屋敷に行くのに私ったら……」
ぽとぽと。
だって、だって……。
我慢できなかった。
感情を抑える事が出来なかった。
ずっとモヤモヤした気持ちでクリストファーに会っていた。
聞きたくても聞けない彼女の存在。
だってクリストファーと彼女の関係は……。
ずきん。
胸が痛い。
本当にやだあ……。
何を嫉妬しているの、マリアンヌ。
クリストファーにお似合いの彼女の存在に嫉妬して、一体、何がどう変わると言うの?
嫉妬で心を歪ませて醜くなっていくだけで。
姿だけではなく心まで卑しくなるなんて……。
そんなの絶対に嫌!
愚かな自分をクリストファーには絶対に悟られたくない。
クリストファーが蔑む存在にだけは絶対にいや!
私にもなけなしの矜持はある。
クリストファーと対等と思える容姿では無くても、せめて心栄えだけはクリストファーに相応しい女性でありたい。
クリストファーの婚約者として恥ずかしくない女性として……。
(ふふふ、私ったら……。
子供の頃はまだ良かった。
婚約者と言ってもそこまで真剣に考えていなかった。
ああ、この男の子が未来の旦那様だと、ぼんやりと考えていただけで現実味を帯びていなかった。
眩いばかりのクリストファーの美貌にただただ圧倒させられて。
そして美の化身とも言えるクリストファーの存在に顔面格差を意識させられた。
自分の両親だってクリストファーのご両親に負けず劣らずの美男美女の夫婦である。
その娘の顔が平凡以下だったら……。
クリストファーにコンプレックスを抱いてもおかしくないでしょう?)
女性よりも麗しいクリストファー。
おば様似の顔も含めて、子供の頃は本当に苦手だった……。
(はああ、なんか泣いたらスッキリした。
たまには心のデトックスをしないと駄目ね。
感情の赴くまま涙を流すのは決して恥ずかしい事では無いわ)
でも、どうしよう。
涙を流して気持ちがスッキリしたのは良いけど。
(この顔でクリストファーのお屋敷に行くのは流石に気が引けるわ。
変に勘繰られても嫌だし。
目は真っ赤でぱんぱんに腫れて顔は浮腫んでいるし。
化粧で誤魔化そうとしても、これはちょっと……。
……。
行くのをやめようかしら。
うん、それがいい。
変に気遣いされても心苦しいし、それに……)
乙女心としてはこんな顔をクリストファーには絶対に見せたくない。
(でも、どんな理由でお断りしよう?
昨日のパーティーで気疲れして体調が思わしくないって。
そう伝えたらクリストファーの責任になってしまうじゃない。
パートナー同伴での参加を強要したクリストファーの所為だと責められたら、私……)
一体、どうしたら。
コンコン。
「お嬢様、失礼します」
控えめな声で侍女のエマが入ってくる。
「どうしたの?エマ」
「あの、今しがたシャンペトル家から従者の方がお見えになってお嬢様に、この包紙を」
「え?」
「シャンペトル家への訪問ですが、今朝早くクリストファー様に至急の用が入り不在とのご伝言です。なので本日の訪問は控えていただきたいと申されて」
(な、なんて言うタイミングの良さ!
よ、良かった……、行かなくていいなんて!)
ああ、神様って存在するのね。
「……、ありがとう、エマ。
従者に少し待つ様に伝えて。
すぐにお礼を書くから」
「お嬢様」
(なんて現金なの、私って。
クリストファーの一挙一動に心を掻き乱したりして。
でも、嬉しいの!
こんな事されたら、私……)
今日の気分にぴったりの紅茶に私の好きな焼き菓子が添えている。
両方とも凄く人気があって、欲しくても直ぐに売り切れて、中々手に入らない。
(ま、まさか、クリストファー自ら買いに行ったの?
あ、あり得ない。
私が好きな焼き菓子や紅茶の種類も把握していたなんて、そんな……)
どんな気持ちで購入したのかしら。
昨日の私を気にしての行動なの?
婚約者として少しは認められていると思っても良いのかな?
(ふふふ……)
なんだか心がぽかぽかとして暖かい。
擽ったい様な気恥ずかしい感じで……。
「こほん、お嬢様……」
「あ、え、エマ、御免なさい。
こ、この手紙を従者に渡しに行って!
あ、あと、とても喜んでいたと言葉を添えて渡してね」
「もう、お嬢様ったら」
「……」
(や、やだ、頬が熱いわ。
こんな不意打ちをされたら、私、これから先、どんな顔をしてクリストファーに)
ドキドキドキドキ。
鼓動が早鐘の様に鳴って収まらない。
狡い。
クリストファーったら狡いわ。
こんな事をされたら、私はクリストファーの事を……。
***
幸せな気持ちだった。
こんなに幸せな気持ちは今まで無いと思える位、満たされていて……。
でも、その後、私は知ってしまう。
至急の用でクリストファーを呼び出した相手を……。
知りたくは無かった。
彼女がそんな立場の女性だったなんて……。
社交界デビューでクリストファーと親密に会話をしていた女性の事を。
クリスティアーナ・レガーリス公爵令嬢。
レガーリス家の白薔薇と謳われ、クリストファーとは再従兄弟の関係にあたる女性で。
そして本家でもあるレガーリス家が決めたクリストファーの婚約者であった事を……。
私はその後、知る様になる。
もうすぐクリストファーのお屋敷に行くのに私ったら……」
ぽとぽと。
だって、だって……。
我慢できなかった。
感情を抑える事が出来なかった。
ずっとモヤモヤした気持ちでクリストファーに会っていた。
聞きたくても聞けない彼女の存在。
だってクリストファーと彼女の関係は……。
ずきん。
胸が痛い。
本当にやだあ……。
何を嫉妬しているの、マリアンヌ。
クリストファーにお似合いの彼女の存在に嫉妬して、一体、何がどう変わると言うの?
嫉妬で心を歪ませて醜くなっていくだけで。
姿だけではなく心まで卑しくなるなんて……。
そんなの絶対に嫌!
愚かな自分をクリストファーには絶対に悟られたくない。
クリストファーが蔑む存在にだけは絶対にいや!
私にもなけなしの矜持はある。
クリストファーと対等と思える容姿では無くても、せめて心栄えだけはクリストファーに相応しい女性でありたい。
クリストファーの婚約者として恥ずかしくない女性として……。
(ふふふ、私ったら……。
子供の頃はまだ良かった。
婚約者と言ってもそこまで真剣に考えていなかった。
ああ、この男の子が未来の旦那様だと、ぼんやりと考えていただけで現実味を帯びていなかった。
眩いばかりのクリストファーの美貌にただただ圧倒させられて。
そして美の化身とも言えるクリストファーの存在に顔面格差を意識させられた。
自分の両親だってクリストファーのご両親に負けず劣らずの美男美女の夫婦である。
その娘の顔が平凡以下だったら……。
クリストファーにコンプレックスを抱いてもおかしくないでしょう?)
女性よりも麗しいクリストファー。
おば様似の顔も含めて、子供の頃は本当に苦手だった……。
(はああ、なんか泣いたらスッキリした。
たまには心のデトックスをしないと駄目ね。
感情の赴くまま涙を流すのは決して恥ずかしい事では無いわ)
でも、どうしよう。
涙を流して気持ちがスッキリしたのは良いけど。
(この顔でクリストファーのお屋敷に行くのは流石に気が引けるわ。
変に勘繰られても嫌だし。
目は真っ赤でぱんぱんに腫れて顔は浮腫んでいるし。
化粧で誤魔化そうとしても、これはちょっと……。
……。
行くのをやめようかしら。
うん、それがいい。
変に気遣いされても心苦しいし、それに……)
乙女心としてはこんな顔をクリストファーには絶対に見せたくない。
(でも、どんな理由でお断りしよう?
昨日のパーティーで気疲れして体調が思わしくないって。
そう伝えたらクリストファーの責任になってしまうじゃない。
パートナー同伴での参加を強要したクリストファーの所為だと責められたら、私……)
一体、どうしたら。
コンコン。
「お嬢様、失礼します」
控えめな声で侍女のエマが入ってくる。
「どうしたの?エマ」
「あの、今しがたシャンペトル家から従者の方がお見えになってお嬢様に、この包紙を」
「え?」
「シャンペトル家への訪問ですが、今朝早くクリストファー様に至急の用が入り不在とのご伝言です。なので本日の訪問は控えていただきたいと申されて」
(な、なんて言うタイミングの良さ!
よ、良かった……、行かなくていいなんて!)
ああ、神様って存在するのね。
「……、ありがとう、エマ。
従者に少し待つ様に伝えて。
すぐにお礼を書くから」
「お嬢様」
(なんて現金なの、私って。
クリストファーの一挙一動に心を掻き乱したりして。
でも、嬉しいの!
こんな事されたら、私……)
今日の気分にぴったりの紅茶に私の好きな焼き菓子が添えている。
両方とも凄く人気があって、欲しくても直ぐに売り切れて、中々手に入らない。
(ま、まさか、クリストファー自ら買いに行ったの?
あ、あり得ない。
私が好きな焼き菓子や紅茶の種類も把握していたなんて、そんな……)
どんな気持ちで購入したのかしら。
昨日の私を気にしての行動なの?
婚約者として少しは認められていると思っても良いのかな?
(ふふふ……)
なんだか心がぽかぽかとして暖かい。
擽ったい様な気恥ずかしい感じで……。
「こほん、お嬢様……」
「あ、え、エマ、御免なさい。
こ、この手紙を従者に渡しに行って!
あ、あと、とても喜んでいたと言葉を添えて渡してね」
「もう、お嬢様ったら」
「……」
(や、やだ、頬が熱いわ。
こんな不意打ちをされたら、私、これから先、どんな顔をしてクリストファーに)
ドキドキドキドキ。
鼓動が早鐘の様に鳴って収まらない。
狡い。
クリストファーったら狡いわ。
こんな事をされたら、私はクリストファーの事を……。
***
幸せな気持ちだった。
こんなに幸せな気持ちは今まで無いと思える位、満たされていて……。
でも、その後、私は知ってしまう。
至急の用でクリストファーを呼び出した相手を……。
知りたくは無かった。
彼女がそんな立場の女性だったなんて……。
社交界デビューでクリストファーと親密に会話をしていた女性の事を。
クリスティアーナ・レガーリス公爵令嬢。
レガーリス家の白薔薇と謳われ、クリストファーとは再従兄弟の関係にあたる女性で。
そして本家でもあるレガーリス家が決めたクリストファーの婚約者であった事を……。
私はその後、知る様になる。
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