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「アンタの娘なんて絶対にお断りなんだから、セシリア!
どうして私の愛息子がアンタの娘の婚約者であるのよ!
絶対におかしいんだから!」
「ふん、それは私の台詞よ、リアナ!
どうしてアンタの息子を、私の可愛いマリアンヌの婿にしないといけないのよ!」
(あーあ、また始めだしたわ。
全くどうして顔を合わせる度に、こうも派手な言い争いを行うのかしら)
幼い頃から見慣れた所為で、二人の口論に動揺する事など無い。
因みに二人は少し年嵩の(こほん、失礼)、美魔女と謳われる美貌の持ち主である。
リアナ・シャンペトル伯爵夫人と、セシリア・ピアッチェ伯爵夫人。
若き日の御二方は、それはそれは麗しい令嬢でありました。
今は年嵩の、唯の伯爵夫人……。
(えー、ど、どうして二人とも私を睨む訳?
まさか、私の心を透視しているとは。
……。
相違ないわね、これは。
あら、いやだ、睨まないで下さい。
背中がゾッとするでは無いでしょうか……。
ああ、いやだいやだ、これだから、おば様は……)
もう、ますます視線がギラギラと輝いて、こ、怖いって。
ああ、語彙に不備がありました……、今もなお美しさに磨きをかけられ、艶やかな美女、と申しましょうか。
その、御二方には憧れの貴公子が存在していて、それはそれは華やかな恋のバトルを行なって。
余りに凄まじい2人の恋の攻防に恐れをなした貴公子は、ひっそりと佇んでいる控えめな美貌の令嬢と恋に陥り、二人の前から立ち去ったのでした。
我こそが相応しい、と意気込んでいた御二方の、呆気ない恋の幕引きでありました。
「「ど、どーしてこうなるの!」」
キャンキャンと喚く二人に周りの視線は生温かく。
((ああ、これで私は誰と恋をすればいいのよ))
同時に思った事でしたが、何の因果か、二人は同時期に家同士の繋がりで婚約し、そして、同時期にこれまた婚姻を結ばれたのでした。
ただ、御二方のご夫君がちょっと、いや、かなり御二方にとって問題のある人物で。
お人柄ではありません。
見目麗しい、人柄も申し分ない裕福な伯爵家の嫡男であります。
ただ、御二方のお相手が親友同士の間柄で……。
ここまでの話の流れでお分かりになると思いますが、父親同士が無二の親友の間柄。
互いの子供がもし男女で有れば結ばせようと、互いの妻を無視し誓約したものだから激怒した、御二方はそれはそれは見事なまでの青筋を立てながら夫に問い詰める。
「「どうして私に黙って決めてしまわれたの!」」
以心伝心とはこの事を言い表すのか。
御二方の夫が同時に思った事でした。
(これが上手い具合に、ピアッチェ家には私が、そして、シャンペトル家には子息が生まれたのよね。
それも、同時期に。
本当に深い因縁を感じるわ……)
伯爵令嬢らしく無い私が、どうして社交界随一の貴公子と謳われるクリストファーの婚約者なのかしら。
(クリストファー、ねえ。
正直苦手なのよね。
あの男、一体、何を考えているのか。
子供の頃から全くもって理解出来なかったわ)
ふうう、と溜息が零れる。
幼い頃、婚約者だと紹介されたクリストファー。
母親の美貌が優った赤みのかかった金髪に紺碧の瞳。
すうと鼻梁が通った美貌に、薄い唇。
幼いながらも既に貴公子の片鱗を見せるクリストファーに、ただただ魅入っていた。
(うわああ、完璧な美貌。
まるで王子様の様だわ……)
キラキラしい姿に感嘆するしか無かった。
ただ、これで一目惚れと言えば、微妙。
何故か自分の好みに当てはまらなかった。
多分、お母様の血を濃く受け継いだのか、クリストファーは好みのタイプでは無かった。
クリストファーがお父君に似ていれば、多少、心が揺れ動いたのかもしれない。
遺伝子的に何かが作用しているのか、この手の顔は苦手だと。
ああ、お母様の遺伝子、侮れない!
と、まあ、令嬢らしからぬ思考である為、クリストファーにとっても残念な婚約者と思われても仕方が無い。
(クリストファーにとって、私との婚約って災難としか言えないんだろうな……)
と、思った途端、ちくんと胸に小さな痛みが走る。
(あれ、どうして。
ううん、気の所為だわ……)
こんな風に思うのは、多分、彼女の所為。
社交界デビューで私をエスコートしたクリストファーが、ある令嬢と親しげに話していたから。
私に見せない表情で彼女と話していて。
見せつけられるような感じだった。
だって、お似合いだったもの。
完璧な美貌のクリストファーに相応しい、見目麗しい令嬢。
一枚の絵画の如くその場が煌めいていて。
何故、私はここで二人を見つめているのだろう。
場違いな存在だと思い知らされてしまって。
(あー、やだやだ、落ち込んでしまう。
だから……)
本当はお母様の発言に、少し感謝している。
クリストファーとの婚約解消。
クリストファーにとって、私は不相応な相手だから。
彼の美貌に沿う事が出来ない、出来損ないの令嬢だから。
だから、時折、彼の側に居るのが息苦しいの……。
どうして私の愛息子がアンタの娘の婚約者であるのよ!
絶対におかしいんだから!」
「ふん、それは私の台詞よ、リアナ!
どうしてアンタの息子を、私の可愛いマリアンヌの婿にしないといけないのよ!」
(あーあ、また始めだしたわ。
全くどうして顔を合わせる度に、こうも派手な言い争いを行うのかしら)
幼い頃から見慣れた所為で、二人の口論に動揺する事など無い。
因みに二人は少し年嵩の(こほん、失礼)、美魔女と謳われる美貌の持ち主である。
リアナ・シャンペトル伯爵夫人と、セシリア・ピアッチェ伯爵夫人。
若き日の御二方は、それはそれは麗しい令嬢でありました。
今は年嵩の、唯の伯爵夫人……。
(えー、ど、どうして二人とも私を睨む訳?
まさか、私の心を透視しているとは。
……。
相違ないわね、これは。
あら、いやだ、睨まないで下さい。
背中がゾッとするでは無いでしょうか……。
ああ、いやだいやだ、これだから、おば様は……)
もう、ますます視線がギラギラと輝いて、こ、怖いって。
ああ、語彙に不備がありました……、今もなお美しさに磨きをかけられ、艶やかな美女、と申しましょうか。
その、御二方には憧れの貴公子が存在していて、それはそれは華やかな恋のバトルを行なって。
余りに凄まじい2人の恋の攻防に恐れをなした貴公子は、ひっそりと佇んでいる控えめな美貌の令嬢と恋に陥り、二人の前から立ち去ったのでした。
我こそが相応しい、と意気込んでいた御二方の、呆気ない恋の幕引きでありました。
「「ど、どーしてこうなるの!」」
キャンキャンと喚く二人に周りの視線は生温かく。
((ああ、これで私は誰と恋をすればいいのよ))
同時に思った事でしたが、何の因果か、二人は同時期に家同士の繋がりで婚約し、そして、同時期にこれまた婚姻を結ばれたのでした。
ただ、御二方のご夫君がちょっと、いや、かなり御二方にとって問題のある人物で。
お人柄ではありません。
見目麗しい、人柄も申し分ない裕福な伯爵家の嫡男であります。
ただ、御二方のお相手が親友同士の間柄で……。
ここまでの話の流れでお分かりになると思いますが、父親同士が無二の親友の間柄。
互いの子供がもし男女で有れば結ばせようと、互いの妻を無視し誓約したものだから激怒した、御二方はそれはそれは見事なまでの青筋を立てながら夫に問い詰める。
「「どうして私に黙って決めてしまわれたの!」」
以心伝心とはこの事を言い表すのか。
御二方の夫が同時に思った事でした。
(これが上手い具合に、ピアッチェ家には私が、そして、シャンペトル家には子息が生まれたのよね。
それも、同時期に。
本当に深い因縁を感じるわ……)
伯爵令嬢らしく無い私が、どうして社交界随一の貴公子と謳われるクリストファーの婚約者なのかしら。
(クリストファー、ねえ。
正直苦手なのよね。
あの男、一体、何を考えているのか。
子供の頃から全くもって理解出来なかったわ)
ふうう、と溜息が零れる。
幼い頃、婚約者だと紹介されたクリストファー。
母親の美貌が優った赤みのかかった金髪に紺碧の瞳。
すうと鼻梁が通った美貌に、薄い唇。
幼いながらも既に貴公子の片鱗を見せるクリストファーに、ただただ魅入っていた。
(うわああ、完璧な美貌。
まるで王子様の様だわ……)
キラキラしい姿に感嘆するしか無かった。
ただ、これで一目惚れと言えば、微妙。
何故か自分の好みに当てはまらなかった。
多分、お母様の血を濃く受け継いだのか、クリストファーは好みのタイプでは無かった。
クリストファーがお父君に似ていれば、多少、心が揺れ動いたのかもしれない。
遺伝子的に何かが作用しているのか、この手の顔は苦手だと。
ああ、お母様の遺伝子、侮れない!
と、まあ、令嬢らしからぬ思考である為、クリストファーにとっても残念な婚約者と思われても仕方が無い。
(クリストファーにとって、私との婚約って災難としか言えないんだろうな……)
と、思った途端、ちくんと胸に小さな痛みが走る。
(あれ、どうして。
ううん、気の所為だわ……)
こんな風に思うのは、多分、彼女の所為。
社交界デビューで私をエスコートしたクリストファーが、ある令嬢と親しげに話していたから。
私に見せない表情で彼女と話していて。
見せつけられるような感じだった。
だって、お似合いだったもの。
完璧な美貌のクリストファーに相応しい、見目麗しい令嬢。
一枚の絵画の如くその場が煌めいていて。
何故、私はここで二人を見つめているのだろう。
場違いな存在だと思い知らされてしまって。
(あー、やだやだ、落ち込んでしまう。
だから……)
本当はお母様の発言に、少し感謝している。
クリストファーとの婚約解消。
クリストファーにとって、私は不相応な相手だから。
彼の美貌に沿う事が出来ない、出来損ないの令嬢だから。
だから、時折、彼の側に居るのが息苦しいの……。
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