まるでシンデレラの姉の様に

華南

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「全く、やっと瞳と再会できると心弾ませていたのに……。
予定が狂ってしまった」

散々、柊哉に愚痴を零しマンションに帰宅した慧は、即座にシャワーを浴びブランデーを飲んでいた。
からんとグラスの氷の音が聴こえる。
グラスの中に注いだブランデーを一気に飲む。

瞳に直に会える喜びを抑えながら今日、梁井家へと向かった。
曽祖父からの付き合いで、父親同士は親友とも言える間柄だ。

学生の頃、柊哉の父親の婚約者であった母親の親友が慧の母親である。
柊哉の母親の紹介で慧の母親である久美子に出会った慧の父櫂は、一瞬にして久美子に心を奪われた。

子供の頃から既に柊哉の叔母である比沙子との結婚は決められていた。

しかし8歳も年下である比沙子を一人の女として見ることは、櫂には到底出来なかった。
妹としての親愛の情はある。

だが……。

恋愛と結婚は別物だ、割り切っていた筈だった。

久美子が妊娠を知る迄は。

激情を抑える事が出来なかった櫂は久美子を心から求め、そして過ちを犯した。
妊娠を知った久美子は櫂の元を離れ、一人で産もうと考えていたが、その事を知った櫂は家を捨ててでも久美子と一緒になる道を選んだ。

そんな二人を回りは別れさそうと躍起になったが、最後には二人の熱意に負け結婚を許した。

比沙子はその時まだ16歳であった。

ずっと櫂の花嫁になる事を夢見て生きてきた。
櫂を子供の頃から慕っていた。
最初は淡い初恋であった。
だが成長するにつれ、それは一人の男性に抱く愛に変わっていた。

もし、柊哉の母親で義姉である園子が久美子を父親に紹介しなかったら。
久美子と出会わなかったら、比沙子は櫂と結ばれる事が出来たと思うと、慧は遣る瀬無い気持ちに何時も陥っていた。
自分がもし母親のお腹に宿っていなかったら、比沙子は……。

罪悪感が心の中に深く突き刺す。

子供の頃からずっと聞かされた父と母の馴れ初め。
瞳の不幸の元凶は自分だと思うと、瞳を何としても幸せにしないといけない。

だからずっと見守っていた、瞳を。

瞳が3歳の時、比沙子はこの世を去った。

比沙子の死を知った時の喪失感。

何一つ、比沙子に償っていない……。

比沙子は自分に何時も柔らかな笑みを浮かべ優しく接してくれた。
自分の夢を、愛を、そして未来を奪った女の息子。
自分の将来を閉ざした憎みべき存在。

なのに自分を見つめる比沙子の目がどれだけ優しかったか……。

「瞳……」

久々に遠目で見た瞳は比沙子によく似ていた。
淡い茶色の髪に栗色の瞳。
まるで比沙子が生き返ったのではないのでは?思うくらいに。

自分の胸が高鳴るのを抑える事が出来ない。

あの淡い髪に触れたい。
柔らかい唇に触れたらどんな顔をするだろう?

あの華奢な身体を抱きしめたらどんな反応を示すだろうか。

自分を一人の男性として瞳は見つめてくれるだろうか。

比沙子を失った喪失感を瞳は拭い去ってくれるであろうか。

自分の心を満たしてくれるだろうか。

自分の存在を瞳は許してくれるだろうか。

比沙子と同じく。

「ああ、早く瞳に会いたい。
会って、自分の想いを伝えて、そして限りなく愛したい……」

逸る気持ちをどうして抑えないといけない。
ずっと待った。

瞳が日に日に花開いていく様を。

綺麗になる様を見守り続けた。

「……、瞳の義理の姉。
美夜と言ったな。
あの少女の所為で瞳が僕の元にこないのなら、徹底的に排除するまでだ。
瞳を幸せにするのは僕だ。
あの少女ではない。
これから先、どんな生活が瞳に降りかかるかと思うと居ても経っても居られない。
どうにか、瞳との繋がりを作り接触しなければ。
どうすれば……」

一瞬、慧の瞳が揺らぐ。
浮かんだ案に薄く笑う。

「ああ、何故、こんな簡単な事を考え付かなかった。
今まで周りの意見を尊重して指を咥えてただ見守っていたが、もう遠慮などする必要などない。
瞳のただ一人の親族である父親も亡くなった。
保護者の居ない瞳。
いくら義理の姉と言っても何が出来る。

優しい罠を張り巡らせて瞳を恋に陥れ、奪えばいい。
そんな簡単な事に何故、気付かなかった」

くつくつと笑う慧の笑みは何処までも艶やかで壮絶なまで、美しかった……。

「待っていて瞳。
直ぐに君を救い出すから。
そして僕を愛する様に、君に素敵な出会いを用意してあげる。
ああ、楽しみだ」

慧の目に宿る炎。
執着と言う狂気を含んだ慧の想いが、瞳の運命を飲み込もうとしていた。
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