まるでシンデレラの姉の様に

華南

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瞳との新たな生活が始まった。

義父が自分の余命が余り無いことを察した時から、ずっと私達の今後の事を考え、動いてくれていた。
まず、自分が死んだら高校の時の恩師である石崎先生に連絡を入れる事を私に告げた。
学生の頃、両親を亡くした義父は在学中に担任であった石崎先生に随分助けられたと言った。

自分の余命を考え、義父は全ての事情を石崎先生に話し私の後継人になって欲しいと願った。
石崎先生は穏やかに微笑みながら承諾したと言う。
瞳には母方の親戚に既に連絡していると瞳の言葉で知った。
瞳の事は解る。
でも赤の他人である私の将来の事も考えていてくれた義父の優しさに涙が出る。

中小企業の社長である義父は会社の負債の事を考え自身に多額な保険金を掛けていた。
もし、自分の身に何かあった場合、従業員の退職金を確保しないといけない。
それだけではなく私達の今後の事も考え、死亡保険金を受け取れるように采配していた。
経営者としての義父を思う。

会社は自分ひとりで成り立っているのではない。
会社で働く従業員がいるから自分は経営者としていられるんだと穏やかに言っていた言葉を思い出す。

人を大切にし、尊重していた義父をどうして人は裏切っていくのだろうか?

義父の優しさに付け込んで母は殆どの財産を奪い去った。
従業員も影で不正を働き、会社の負債を膨らませ衰退へと追い込んだ。
全ての尻拭いをする為に義父は身体を壊すまで働き、そして命を落とした……。

そんな人生もある。

母の様に身勝手に生きる人生もあれば、義父の様に人の為に生きる人生もある。

どの生き方が幸せなんだろうか。

義父を亡くして気持ちが動転していてそんな考えなど浮かぶ事が無かった。
瞳が親戚の元に向かわず私と一緒に暮らしたいと言った時、ふと、義父の事を思った。

「貴方は私にとってかけがいのない男性だった。
貴方以上に心を奪われる存在に私は一生巡り合う事等、無い。
ううん、あったとしても私には必要が無い。
貴方は私の人生の中でただ一人の男性……。
ずっと心の奥底に生きている」

貴方が好き……。

誰も私の心を乱さないで。
この箱庭の様な大切な想いを私から奪うことなどしないで。

心からの願いは何時も叶うことなんて無かった……。

そう、叶う事等無い。
一人の男性の出現によって。


「……、君が瞳の義姉か」

石崎先生の懇意のある不動産屋の紹介で引っ越したアパートに尋ねてきた男性。

最初、私を見た時の見下した瞳に嫌悪を感じる。
特権階級社会に生きる人物だと解る風貌に、瞳の母方の親戚はかなりの資産家だと言う事が窺える。

「こんな人が住むとは到底思えない粗末なアパートで瞳を君は養っていくつもりか?
父のたった一人の妹の娘である瞳は、私にとってもただ一人の従兄妹だ。
惨めな生活をさせて良いとは思っていない。

喩え瞳の出生が、我が家の恥であってもだ。

昔、瞳の母親が私の祖父の反対を押し切って男と駆け落ちしたが、数ヵ月後、男は叔母の元を去っていた。
男の子供を宿していた叔母は、既に勘当された身であった為、実家に帰ることも出来なかった。
途方に暮れていた叔母を瞳の義父が助け、その後、籍を入れたと言っていたが。
中小企業の会社を運営していたと言うが、経営者として彼は一体何をしていた?
家族を十分に養うことも出来ず、挙句の果てにこんなみすぼらしい生活を娘にさせているとは。
全く嘆かわしい……」

整った美貌で告げられる言葉に、瞳に対する愛情なんて全く感じられない。
瞳と一緒に住むことに最初躊躇ったが、もし母方の実家に引き取られていたら、どんな思いを抱くようになったかと考えるとぞっとした。

この男に人としての温かみなんて感じる事が出来ない。
高級なスーツを厭味なほど綺麗に着こなしているが、それが一体何だって言うんだろうか。

それが最初、瞳の従兄妹である梁井柊哉に対して抱いた感情だった。

自分の人生に関わる人物とは思っていなかった。

生きる世界がまるで違う……。

なのに何処で運命は狂っていったのだろう。

義父との思い出を胸に秘め生きることを願う私に、彼は今後、深く関わる事になる……。
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