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番外編 恋に落ちて その1
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「おい、要。
いい加減、その惚気顔は止めてくれ……」
茉理との同棲がスタートし、毎日が薔薇色だと言うのを包み隠さず表情に出している要に、聡は毎度の事ながらうんざりとしていた。
顔を顰める聡を横でくすくすと祥子が苦笑を漏らす事が日常と化している。
「人の事を言える立場か、聡。
お前も俺にどれだけ惚けた顔を見せていたか、知らないとは言わせない」
そう言って、異性の目を奪う程の魅惑的な笑みを浮かべる要に、聡は心の中で毒づいていた。
(こいつ、本当に性格が良いとしか言えない)
聡達夫婦の惚気を散々見ていたお返しとばかりに見せる要も、案外、子供っぽい性格だと思えてならない。
つまりそれ程聡達夫婦には心を許していると言う証なのだが。
それが解っているだけに聡は何も言えない。
(こいつがこんな風に俺に心を許す様になったのは、何時の頃からだろうか…?)
ふと、聡は幼い頃の要を思い出す。
子供の頃から要の美貌が抜きんでいた。
見る者の視線を奪う。
母親である真希は子供の聡から見ても美人だと思っていた。
だが、要の美貌は次元が違う。
一般で言う美形の類では無い。
綺麗なアーモンド形の目は母親の真希から譲り受けたモノだと見て解る。
だが、すっと鼻筋の通った全てのパーツが綺麗に当て嵌まっている要の顔は明らかに父親から譲り受けたモノだとしか考えられない。
要の父親である保とは容貌が全くといって似ていない。
薄々感じていた。
要は保の実の息子では無い事を。
だが、どう見ても保は要を実の息子の様に可愛がっている。
そして要も保を実の父と想い慕っている。
幼心に聡は要に問うた事があった。
「保おじさんと要は本当の親子ではないの…?
全然、似ていないね」
聡の言葉に一瞬要が目を見開き、そして言葉を紡がなくなった。
今に思えば随分と残酷な言葉を放った事だ。
それは一番、要が悩んでいた事ではなかっただろうかと。
子供であるがゆえに配慮も何もないストレートな言葉。
父親が親友で家族ぐるみの付き合いであり、何事にも隔たりがない関係だと子供の頃から肌で感じていただけあって、何を言っても許されると思っていた。
それが子供が持つ傲慢だと解ったのは何時の頃だろう?
人の心を子供の視線で探って何を言っても許される事では無いと悟ったのは、何時の頃だったのだろうか。
自分は子供の特権を使って要の心の奥深い所を傷つけていた。
無意識に……。
「聡は良いね……」
何気にぽそりと呟いた要。
それが何を語っているのか解った途端、俺は過去に放った己の言葉を恥じた。
「おれは…」
言おうとした言葉を要は柔らかい笑みで制する。
「そんな意味で言った訳ではない。
俺は父さんの息子だよ。
喩え血が繋がっていなくても……」
「……」
「俺が言うのは聡は自分が言った言葉で俺がどれだけ悩み、傷ついたかを心配したんだよね。
そんな風に人の心を考えられる聡の優しさを良いなと俺は思った」
「優しさ…?」
「うん、聡は優しいよ」
「違う、俺は優しくは無い。
無遠慮に要の心を傷つける言葉を放った俺が優しいとは到底、言えない」
「優しいよ。
何時か解るよ、俺が言った言葉の意味を……」
要の言葉がずっと心の中に引っかかっていた。
何故、俺の事をそんな風に言う?
要が言いたかった言葉の意味に気付くのはその先、ずっと後の事。
大人になり、互いの父親を失い、兄である尊が結婚し家を継ぎ。
何時か自分の店を開くために兄の元で修行をしていた俺は、運命の出会いをする。
一瞬にして心を奪われた存在。
祥子に出会った瞬間、俺は恋に落ちた……。
いい加減、その惚気顔は止めてくれ……」
茉理との同棲がスタートし、毎日が薔薇色だと言うのを包み隠さず表情に出している要に、聡は毎度の事ながらうんざりとしていた。
顔を顰める聡を横でくすくすと祥子が苦笑を漏らす事が日常と化している。
「人の事を言える立場か、聡。
お前も俺にどれだけ惚けた顔を見せていたか、知らないとは言わせない」
そう言って、異性の目を奪う程の魅惑的な笑みを浮かべる要に、聡は心の中で毒づいていた。
(こいつ、本当に性格が良いとしか言えない)
聡達夫婦の惚気を散々見ていたお返しとばかりに見せる要も、案外、子供っぽい性格だと思えてならない。
つまりそれ程聡達夫婦には心を許していると言う証なのだが。
それが解っているだけに聡は何も言えない。
(こいつがこんな風に俺に心を許す様になったのは、何時の頃からだろうか…?)
ふと、聡は幼い頃の要を思い出す。
子供の頃から要の美貌が抜きんでいた。
見る者の視線を奪う。
母親である真希は子供の聡から見ても美人だと思っていた。
だが、要の美貌は次元が違う。
一般で言う美形の類では無い。
綺麗なアーモンド形の目は母親の真希から譲り受けたモノだと見て解る。
だが、すっと鼻筋の通った全てのパーツが綺麗に当て嵌まっている要の顔は明らかに父親から譲り受けたモノだとしか考えられない。
要の父親である保とは容貌が全くといって似ていない。
薄々感じていた。
要は保の実の息子では無い事を。
だが、どう見ても保は要を実の息子の様に可愛がっている。
そして要も保を実の父と想い慕っている。
幼心に聡は要に問うた事があった。
「保おじさんと要は本当の親子ではないの…?
全然、似ていないね」
聡の言葉に一瞬要が目を見開き、そして言葉を紡がなくなった。
今に思えば随分と残酷な言葉を放った事だ。
それは一番、要が悩んでいた事ではなかっただろうかと。
子供であるがゆえに配慮も何もないストレートな言葉。
父親が親友で家族ぐるみの付き合いであり、何事にも隔たりがない関係だと子供の頃から肌で感じていただけあって、何を言っても許されると思っていた。
それが子供が持つ傲慢だと解ったのは何時の頃だろう?
人の心を子供の視線で探って何を言っても許される事では無いと悟ったのは、何時の頃だったのだろうか。
自分は子供の特権を使って要の心の奥深い所を傷つけていた。
無意識に……。
「聡は良いね……」
何気にぽそりと呟いた要。
それが何を語っているのか解った途端、俺は過去に放った己の言葉を恥じた。
「おれは…」
言おうとした言葉を要は柔らかい笑みで制する。
「そんな意味で言った訳ではない。
俺は父さんの息子だよ。
喩え血が繋がっていなくても……」
「……」
「俺が言うのは聡は自分が言った言葉で俺がどれだけ悩み、傷ついたかを心配したんだよね。
そんな風に人の心を考えられる聡の優しさを良いなと俺は思った」
「優しさ…?」
「うん、聡は優しいよ」
「違う、俺は優しくは無い。
無遠慮に要の心を傷つける言葉を放った俺が優しいとは到底、言えない」
「優しいよ。
何時か解るよ、俺が言った言葉の意味を……」
要の言葉がずっと心の中に引っかかっていた。
何故、俺の事をそんな風に言う?
要が言いたかった言葉の意味に気付くのはその先、ずっと後の事。
大人になり、互いの父親を失い、兄である尊が結婚し家を継ぎ。
何時か自分の店を開くために兄の元で修行をしていた俺は、運命の出会いをする。
一瞬にして心を奪われた存在。
祥子に出会った瞬間、俺は恋に落ちた……。
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