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恋の罪 その14
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「あ、私…」
要さんの言葉に咄嗟に言葉が出ない。
どう、彼に言えば良いのか一瞬、解らなくなった。
気が動転して、彼にかける言葉が見つからない。
貴方の妻になる女。
今年の秋には挙式を上げ、貴方の側で、貴方の子供を産んで生涯、貴方を……。
貴方だけを愛して……。
動揺を隠せない私を見て、彼が少し困惑下に微笑んだ。
「済まない。
俺の状況を見て、君はどう答えれば良いのか悩んでいるんだね……」
その言葉に私を気を取り戻す。
動転している場合ではない。
要さんの方がもっと不安なはずだ。
目覚めて置かれている状況が解らない。
全ての記憶……。
自分が誰であるか何一つ解らないのに、私の事を心配して案じるなんて。
気遣う余裕すらないはずだ。
足元が覚束ない、真っ白な記憶を持って目覚めたのだから。
なのに、自分の事よりも人の事を気遣いする。
記憶が無くても、要さんは、要さんだ。
誰よりも優しい……。
唇が震える。
この時点から、ううん、違う。
もう既に始まっている。
記憶が無くても彼が私の全てを思い出さなくても……。
どんな状況であれ、私は彼の全てを受け止める。
喩え、彼が一生記憶を取り戻さなくても彼を愛する事の障害ではない。
彼が今ここに居ることが全てだから。
彼が目覚めて今、私の側にいる。
そう、それだけで私は幸せなんだと。
「私は貴方の妻です」
そう、その一言だけでいい。
震える唇で綴った言葉……。
これが私達二人の間にある真実。
私の言葉に要さんが一瞬、息を呑む。
私の顔をじっと見つめる。
その真摯なまでの彼の目を逸らす事無く見つめ、私は微笑んだ。
「…俺の妻…」
「ええ、私達は夫婦なんです。
貴方の名前は北澤要。
私は貴方の妻で、茉理と言います」
「茉理……」
確かめるように要さんが私の名前を言う。
「茉理……」
何度も彼が頭を振る。
「…解らない。
君が俺の妻である事を思い出せない……。
俺たちはどんな夫婦だった…?
俺は君とどんな風に時を過ごした。
君を愛し…」
それ以上の言葉を要さんが紡がず私を見つめる。
私を見つめる瞳が揺らぐ。
そして、躊躇うように私に手が伸びる。
ゆっくりと私の頬に触れる。
手の暖かさが伝わってくる。
「……、君が俺の妻なんだね」
溢れる涙を彼が優しく拭う。
彼が今にも泣きそうな顔で私を見つめる。
「君にこんなに悲しい涙を流させて済まない。
俺が記憶を無くした所為で、君に涙を流させている。
君を不安に陥らせている。
君の涙を止めたいのに、今の俺はどうすれば良いのか解らない……」
要さんの言葉に、私はただただ頭を振った。
「貴方が今、こうして目覚めてくれただけで私は幸せです。
貴方が側にいる。
それだけで私は……」
そう言って要さんに抱きついた。
急な私の抱擁に要さんが戸惑いを隠せない。
ただじっと私の抱擁を受け止めていた。
身体に伝わる要さんの体温。
ただ幸せだった。
彼の胸に涙が滲む。
嗚咽を漏らしながら泣く私を、いつの間にか要さんは優しく抱きとめていてくれた……。
要さんの言葉に咄嗟に言葉が出ない。
どう、彼に言えば良いのか一瞬、解らなくなった。
気が動転して、彼にかける言葉が見つからない。
貴方の妻になる女。
今年の秋には挙式を上げ、貴方の側で、貴方の子供を産んで生涯、貴方を……。
貴方だけを愛して……。
動揺を隠せない私を見て、彼が少し困惑下に微笑んだ。
「済まない。
俺の状況を見て、君はどう答えれば良いのか悩んでいるんだね……」
その言葉に私を気を取り戻す。
動転している場合ではない。
要さんの方がもっと不安なはずだ。
目覚めて置かれている状況が解らない。
全ての記憶……。
自分が誰であるか何一つ解らないのに、私の事を心配して案じるなんて。
気遣う余裕すらないはずだ。
足元が覚束ない、真っ白な記憶を持って目覚めたのだから。
なのに、自分の事よりも人の事を気遣いする。
記憶が無くても、要さんは、要さんだ。
誰よりも優しい……。
唇が震える。
この時点から、ううん、違う。
もう既に始まっている。
記憶が無くても彼が私の全てを思い出さなくても……。
どんな状況であれ、私は彼の全てを受け止める。
喩え、彼が一生記憶を取り戻さなくても彼を愛する事の障害ではない。
彼が今ここに居ることが全てだから。
彼が目覚めて今、私の側にいる。
そう、それだけで私は幸せなんだと。
「私は貴方の妻です」
そう、その一言だけでいい。
震える唇で綴った言葉……。
これが私達二人の間にある真実。
私の言葉に要さんが一瞬、息を呑む。
私の顔をじっと見つめる。
その真摯なまでの彼の目を逸らす事無く見つめ、私は微笑んだ。
「…俺の妻…」
「ええ、私達は夫婦なんです。
貴方の名前は北澤要。
私は貴方の妻で、茉理と言います」
「茉理……」
確かめるように要さんが私の名前を言う。
「茉理……」
何度も彼が頭を振る。
「…解らない。
君が俺の妻である事を思い出せない……。
俺たちはどんな夫婦だった…?
俺は君とどんな風に時を過ごした。
君を愛し…」
それ以上の言葉を要さんが紡がず私を見つめる。
私を見つめる瞳が揺らぐ。
そして、躊躇うように私に手が伸びる。
ゆっくりと私の頬に触れる。
手の暖かさが伝わってくる。
「……、君が俺の妻なんだね」
溢れる涙を彼が優しく拭う。
彼が今にも泣きそうな顔で私を見つめる。
「君にこんなに悲しい涙を流させて済まない。
俺が記憶を無くした所為で、君に涙を流させている。
君を不安に陥らせている。
君の涙を止めたいのに、今の俺はどうすれば良いのか解らない……」
要さんの言葉に、私はただただ頭を振った。
「貴方が今、こうして目覚めてくれただけで私は幸せです。
貴方が側にいる。
それだけで私は……」
そう言って要さんに抱きついた。
急な私の抱擁に要さんが戸惑いを隠せない。
ただじっと私の抱擁を受け止めていた。
身体に伝わる要さんの体温。
ただ幸せだった。
彼の胸に涙が滲む。
嗚咽を漏らしながら泣く私を、いつの間にか要さんは優しく抱きとめていてくれた……。
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