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恋の罪 その8
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目覚めた時、それは夢だったとそう思いたかった。
目が覚めた時、何時もの様に要さんが穏やかに微笑んで私を見つめてくれる。
愛を囁いてくれる。
優しく抱きしめてくれる。
なのに現実は要さんは側にいない。
未だに集中治療室にいる。
昏睡状態だと言われまだ面会は許されていない。
一応出血は止まり手術は終えたが、予断がならない状態だと医師は言う。
張り詰めた緊張が待合室に漂う。
要さんの容態が安定したらナースステーション近くの個室に移動と言う形になると言われ、その病室に案内され私は要さんを待っている。
失った意識が回復した時、病室で眠っていた時の違和感が、要さんが事故に遭った事をまざまざと思い知らせ私を深い悲しみに突き落とす。
一瞬、看護師さんが目覚めた私に一度尿検査を受ける事を勧めた。
何故?と問いただそうとしたが、曖昧に微笑まれた。
「念の為、今は余り内服は服用しない方が言いと思います」
含んだ物言いに私は首を傾げる。
「茉理、一度家に帰ってきなさい。
要さんの看病に必要なモノを準備してきなさい。
私たちがここにいるから」
母が私にマンションに帰る事を促すが、私は今はここで要さんの移送を待ちたかった。
躊躇う私に母が柔らかく微笑む。
「手術は成功したのだから要さんは大丈夫よ。
それよりもこれから先、長期入院になるのだから、貴女も色々準備しないと。
落ち着いたら相手方の保険会社さんが貴女とお話がしたいって言っていたわ。
茉理……。
解るでしょう?」
(お母さんの言いたい言葉は解っている。
籍は入っていないが、私はもう要さんの妻だ。
彼の家族として彼を守っていかないと駄目。
彼に母方の親戚がいると言うが、財産目当てしか考えのない人達だと要さんが言っていた。
もし要さんがこうなった事を知れば、看病よりも財産分与の事を言い出すだろう。
未だ予断がならない。
仮に最悪の事になったら……)
浮かんだ言葉にまた、涙が溢れる。
そんな事には絶対にならない。
彼が私の側から居なくなるなんて絶対にありえない。
なのに、心の中に過ぎる不安が広がり私に最悪な事ばかりを連想させる。
「駄目よ、茉理……。
気弱になったら駄目。
私が頑張らないと誰が要さんを守っていくの?
今まで彼がずっと私を見守ってくれた。
だから私が要さんも見守っていく。
そして彼の回復をずっと待ち続けるの。
目覚めた時、彼の目に映るのは私だと。
そう……。
そう、要さんはきっと私の元に帰ってくるの」
溢れる涙を拭いながら私は戻ったマンションで着替えを詰める準備に取り掛かる。
保険証と印鑑と、そしてキャッシュカード。
会社の上司の連絡先を要さんのスマホから検索し、連絡を入れる。
彼の上司に心を落ち着かせながら事故状況と要さんが搬送された救命救急センターの連絡先と住所を伝える。
一言一言話す度に唇が震える。
その事が伝わったのか、労わりの言葉を掛けられる。
思わずまた、涙が溢れそうになる。
現実だとまた、実感させられる。
要さんが事故に遭い、意識不明だと言う事がまた心の中を深く抉る。
「要さん……」
ぽとぽとと涙が零れる。
寝室に飾られている私たちの写真と要さんの両親の写真。
要さんの両親の写真を見つめながら私は祈った。
「どうか要さんを助けてください。
私から要さんを奪わないで!
彼と一緒になって貴方たちの様な家庭を築くって要さんと約束しているんです。
彼とこれから先も幸せになるって。
彼を愛しています。
誰よりも彼を愛しているんです!
だからどうか、私に要さんを返してください!
貴方たちがいる場所に要さんを導かないで下さい……」
涙ながらに訴えた。
要さんの両親に助けを請いたかった。
貴方たちの大切な要さんをどうか、助けて……。
「ずっと、一緒にいるって約束したの。
彼は私にとってもう身体の一部なの。
離れる事なんて出来ないの。
だって、彼は私の運命だから。
私にとって彼は……」
言葉が出ない。
それ以上の言葉なんてない。
だって要さんは私にとって言葉で表現できる相手ではない。
言葉なんて必要ない。
「要さん……」
心を強く持って彼を待たないと駄目なのに……。
なのに涙が止まらない。
堰切るように悲しみが溢れて止まらない。
ひと時、ぼんやりとただ写真を眺めていた。
涙で掠れて視野がぼやけて。
ふらりと身体を動かし、私は寝室を出て、マンションを後にした。
目が覚めた時、何時もの様に要さんが穏やかに微笑んで私を見つめてくれる。
愛を囁いてくれる。
優しく抱きしめてくれる。
なのに現実は要さんは側にいない。
未だに集中治療室にいる。
昏睡状態だと言われまだ面会は許されていない。
一応出血は止まり手術は終えたが、予断がならない状態だと医師は言う。
張り詰めた緊張が待合室に漂う。
要さんの容態が安定したらナースステーション近くの個室に移動と言う形になると言われ、その病室に案内され私は要さんを待っている。
失った意識が回復した時、病室で眠っていた時の違和感が、要さんが事故に遭った事をまざまざと思い知らせ私を深い悲しみに突き落とす。
一瞬、看護師さんが目覚めた私に一度尿検査を受ける事を勧めた。
何故?と問いただそうとしたが、曖昧に微笑まれた。
「念の為、今は余り内服は服用しない方が言いと思います」
含んだ物言いに私は首を傾げる。
「茉理、一度家に帰ってきなさい。
要さんの看病に必要なモノを準備してきなさい。
私たちがここにいるから」
母が私にマンションに帰る事を促すが、私は今はここで要さんの移送を待ちたかった。
躊躇う私に母が柔らかく微笑む。
「手術は成功したのだから要さんは大丈夫よ。
それよりもこれから先、長期入院になるのだから、貴女も色々準備しないと。
落ち着いたら相手方の保険会社さんが貴女とお話がしたいって言っていたわ。
茉理……。
解るでしょう?」
(お母さんの言いたい言葉は解っている。
籍は入っていないが、私はもう要さんの妻だ。
彼の家族として彼を守っていかないと駄目。
彼に母方の親戚がいると言うが、財産目当てしか考えのない人達だと要さんが言っていた。
もし要さんがこうなった事を知れば、看病よりも財産分与の事を言い出すだろう。
未だ予断がならない。
仮に最悪の事になったら……)
浮かんだ言葉にまた、涙が溢れる。
そんな事には絶対にならない。
彼が私の側から居なくなるなんて絶対にありえない。
なのに、心の中に過ぎる不安が広がり私に最悪な事ばかりを連想させる。
「駄目よ、茉理……。
気弱になったら駄目。
私が頑張らないと誰が要さんを守っていくの?
今まで彼がずっと私を見守ってくれた。
だから私が要さんも見守っていく。
そして彼の回復をずっと待ち続けるの。
目覚めた時、彼の目に映るのは私だと。
そう……。
そう、要さんはきっと私の元に帰ってくるの」
溢れる涙を拭いながら私は戻ったマンションで着替えを詰める準備に取り掛かる。
保険証と印鑑と、そしてキャッシュカード。
会社の上司の連絡先を要さんのスマホから検索し、連絡を入れる。
彼の上司に心を落ち着かせながら事故状況と要さんが搬送された救命救急センターの連絡先と住所を伝える。
一言一言話す度に唇が震える。
その事が伝わったのか、労わりの言葉を掛けられる。
思わずまた、涙が溢れそうになる。
現実だとまた、実感させられる。
要さんが事故に遭い、意識不明だと言う事がまた心の中を深く抉る。
「要さん……」
ぽとぽとと涙が零れる。
寝室に飾られている私たちの写真と要さんの両親の写真。
要さんの両親の写真を見つめながら私は祈った。
「どうか要さんを助けてください。
私から要さんを奪わないで!
彼と一緒になって貴方たちの様な家庭を築くって要さんと約束しているんです。
彼とこれから先も幸せになるって。
彼を愛しています。
誰よりも彼を愛しているんです!
だからどうか、私に要さんを返してください!
貴方たちがいる場所に要さんを導かないで下さい……」
涙ながらに訴えた。
要さんの両親に助けを請いたかった。
貴方たちの大切な要さんをどうか、助けて……。
「ずっと、一緒にいるって約束したの。
彼は私にとってもう身体の一部なの。
離れる事なんて出来ないの。
だって、彼は私の運命だから。
私にとって彼は……」
言葉が出ない。
それ以上の言葉なんてない。
だって要さんは私にとって言葉で表現できる相手ではない。
言葉なんて必要ない。
「要さん……」
心を強く持って彼を待たないと駄目なのに……。
なのに涙が止まらない。
堰切るように悲しみが溢れて止まらない。
ひと時、ぼんやりとただ写真を眺めていた。
涙で掠れて視野がぼやけて。
ふらりと身体を動かし、私は寝室を出て、マンションを後にした。
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