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恋の嵐 その6
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(ど、どうしてこんな事になるの……)
心の中で嘆息を漏らしながら茉理は3人の顔色を窺う。
すっと綺麗にアイメイクされ色艶やかなグロスに縁取られた唇は官能的だ。
正に女性を強調させている3人に茉理はくらくらする。
自分とはまるで違う華やかな3人に、あんな風に華やかで綺麗なら要の側にいても悩まないだろうと心の中で嘆息を漏らした。
平凡だ……、と何時も鏡を見つめて思う。
華やいだ場所に何時も気後れし、余り好んで出向く性格でもない。
普段、部屋の中で好きな音楽を聴いて気に入った本を読み、好きな料理を作ったり、お菓子を焼いたりして、穏やかな時間を過ごす事を好む茉理にとって、今、目の前にいる女性たちは自分とはまるで世界が違う。
きっとアフターファイブには合コンに出向いたり男友達と他愛の無い話に花を咲かせ、ウィットに富んだ会話でその場を和ましたりしているに違いない。
自分には到底出来ない事を彼女達は行い、異性に好感を持たれるんだろう、きっと……。
前の職場でも何時も浮いていた。
こつこつと仕事をして言葉数少ない自分はきっと、性格が暗いと思われていたに違いない。
功起も最初は戸惑いながら自分に接していたではないか。
上司だから自分に優しい言葉をかけてくれた。
当たり前の行為に、彼の優しさと勘違いをして彼に心惹かれて。
どんどん膨れ上がる恋心を抑える事が出来なくなって、勇気を持って告白して。
恋愛に免疫の無かった自分が功起に向けていた感情が本当に「恋心」だったのだろうか……。
今、要と付き合っていて自分の過去の恋愛に疑問を持つ。
余りにも違う要に対する想い。
功起に対して実際、どんな感情を抱いていたのであろうか。
この恋が無かったら自分は生きていけない。
激しいまでの感情に彩られた世界は、時の経過と言う残酷な、いや、今になってとても優しいと言える包まれた時間に抱かれ自分の胸の中で昇華した。
これも全て要が自分に「恋心」を教えてくれたから。
溢れる程の要の愛に包まれて自分は今、とても幸せだと思っている……。
柔らかい笑みが自然と浮かぶ。
深い思考に捕らわれながら微笑む茉理に、一ツ橋、二神、三田は怪訝な表情で茉理を見つめる。
苛つきながら三田が茉理に言葉を投げかける。
「ちょ、ちょっと貴女。
私達の事を無視しているの?」
言葉をかけられて、茉理は自分が置かれている状況をもう一度再確認する。
気づいた途端、顔を赤く染める。
「す、すみません。
少し考えてしまって……」
何をこんな状況で考える事が出来るんだろうか、この女は、と3人は茉理の事を見つめ思っていた。
「あの……、要さんの会社の方ですよね。
私にどんなご用件があって声を掛けられたのですか?」
至極真面目に問う茉理に、3人は、当初の目的を思い出し茉理に詰め寄る。
「そ、そうだったわ。
ねえ、貴女。
単刀直入に言うわ。
北澤課長と別れて欲しいの」
ストレートに言われる言葉に茉理は目を見開く。
目の前の女性達が要に好意を持っているとは思っていたが、まさか自分にはっきりと別れて欲しいと言うとは思わなかった。
想定外……、と一瞬思ったが真剣な趣に頭を振る。
(要さんの事、本当に好きなんだ……)
彼女達の目を見つめ茉理は過去の自分を思い出す。
功起に対して自分もあんな目で彼を見つめていた、と。
好きで好きで堪らなく、切ない想いに心を焦がし悩んでいた。
片思いの自分の表情が今、目の前の彼女達から思い出される。
そして要との交際で、彼に抱かれるまで思い悩んでいた自分を思い出す。
彼女達の想いが痛いほど解る。
きっと要に恋情を募らせていたに違いない。
要と交際している自分の存在をどんな風に思っているか、考えると心の奥が痛い。
憎しみを込めた視線で自分を貫く。
恐い……、と身体に震えが走る。
「貴女。
自分が北澤課長に相応しいと思っているの?
見ていると本当に凡庸な。
特別美しいと思われないし、どこかのご令嬢って言う訳でもないでしょう?
北澤課長が貴女と付き合うメリットが何処にあるの?
ああ、あるとしたら若さかしら。
何も知らない初心な貴女を、北澤課長は付き合うに容易いと思っての事ではないの?
そうではないと、貴女如きがつきあえる男性ではないのよ、北澤課長は。
本来ならば私の様な、容姿端麗、家柄も、そして社会的キャリアも積み上げたこの、パーフェクトな私が北澤課長の側にいるべき存在なのに。
なのに、課長ったら何を血迷ったのかしら。
貴女と婚約までなさって!」
「まあ、三田さん。
ちょっと言葉が過ぎません?
途中までのお言葉は同意できますが、それから先の言葉は聞き捨てなりませんわ。
北澤課長は私と添い遂げる為に存在するお方。
貴女方が相手にするべき方ではないの!」
「まああ、一ツ橋さんったら。
何をどうこう思われたらそんな言葉が口から出るのかしら?
流石、私よりも世間をご存知だと厚顔無恥な言葉もするり、と発する事がお出来になるんですね。
本当に年かさな方々は言葉の重みが違いますね……」
このオバン、と忌々しげに舌打ちをする二神に一ツ橋、三田は顔を歪ませる。
協定を結んで茉理に挑んだ筈が何処を間違ったのか、何時ものバトルに展開し始めている。
だんだんと話がずれていっている3人に、茉理はただただ呆然と見つめる事しか出来ない。
からんと、ドアが開く音が聞こえる。
息を弾ませながら要が茉理の側に近寄ってくる。
「遅くなって済まない茉理」と話しかける要に、茉理はなんて間の悪い時に来たのだろう……と心の中で嘆息を漏らす。
要の存在に気づかない3人は互いの主張を押し通そうと躍起になっている。
(わ、別れ話がいつの間にかどうしてこんな!)
出来ればこの場から立ち去りたい、と視線を泳がす茉理の肩に要が触れ、優しい視線を落とす。
「気づかれないように出よう……」と耳元で囁かれ、席を立とうと思った途端、3人の視線に捕らわれる。
「まだ、お話は終わっていませんわ……」
艶やかに微笑む3人に茉理の身体が硬直する。
(ああ、なんで気づくの~!!!)
今日は厄日かしら、と茉理は何度目かの溜息を心の中で零した……。
心の中で嘆息を漏らしながら茉理は3人の顔色を窺う。
すっと綺麗にアイメイクされ色艶やかなグロスに縁取られた唇は官能的だ。
正に女性を強調させている3人に茉理はくらくらする。
自分とはまるで違う華やかな3人に、あんな風に華やかで綺麗なら要の側にいても悩まないだろうと心の中で嘆息を漏らした。
平凡だ……、と何時も鏡を見つめて思う。
華やいだ場所に何時も気後れし、余り好んで出向く性格でもない。
普段、部屋の中で好きな音楽を聴いて気に入った本を読み、好きな料理を作ったり、お菓子を焼いたりして、穏やかな時間を過ごす事を好む茉理にとって、今、目の前にいる女性たちは自分とはまるで世界が違う。
きっとアフターファイブには合コンに出向いたり男友達と他愛の無い話に花を咲かせ、ウィットに富んだ会話でその場を和ましたりしているに違いない。
自分には到底出来ない事を彼女達は行い、異性に好感を持たれるんだろう、きっと……。
前の職場でも何時も浮いていた。
こつこつと仕事をして言葉数少ない自分はきっと、性格が暗いと思われていたに違いない。
功起も最初は戸惑いながら自分に接していたではないか。
上司だから自分に優しい言葉をかけてくれた。
当たり前の行為に、彼の優しさと勘違いをして彼に心惹かれて。
どんどん膨れ上がる恋心を抑える事が出来なくなって、勇気を持って告白して。
恋愛に免疫の無かった自分が功起に向けていた感情が本当に「恋心」だったのだろうか……。
今、要と付き合っていて自分の過去の恋愛に疑問を持つ。
余りにも違う要に対する想い。
功起に対して実際、どんな感情を抱いていたのであろうか。
この恋が無かったら自分は生きていけない。
激しいまでの感情に彩られた世界は、時の経過と言う残酷な、いや、今になってとても優しいと言える包まれた時間に抱かれ自分の胸の中で昇華した。
これも全て要が自分に「恋心」を教えてくれたから。
溢れる程の要の愛に包まれて自分は今、とても幸せだと思っている……。
柔らかい笑みが自然と浮かぶ。
深い思考に捕らわれながら微笑む茉理に、一ツ橋、二神、三田は怪訝な表情で茉理を見つめる。
苛つきながら三田が茉理に言葉を投げかける。
「ちょ、ちょっと貴女。
私達の事を無視しているの?」
言葉をかけられて、茉理は自分が置かれている状況をもう一度再確認する。
気づいた途端、顔を赤く染める。
「す、すみません。
少し考えてしまって……」
何をこんな状況で考える事が出来るんだろうか、この女は、と3人は茉理の事を見つめ思っていた。
「あの……、要さんの会社の方ですよね。
私にどんなご用件があって声を掛けられたのですか?」
至極真面目に問う茉理に、3人は、当初の目的を思い出し茉理に詰め寄る。
「そ、そうだったわ。
ねえ、貴女。
単刀直入に言うわ。
北澤課長と別れて欲しいの」
ストレートに言われる言葉に茉理は目を見開く。
目の前の女性達が要に好意を持っているとは思っていたが、まさか自分にはっきりと別れて欲しいと言うとは思わなかった。
想定外……、と一瞬思ったが真剣な趣に頭を振る。
(要さんの事、本当に好きなんだ……)
彼女達の目を見つめ茉理は過去の自分を思い出す。
功起に対して自分もあんな目で彼を見つめていた、と。
好きで好きで堪らなく、切ない想いに心を焦がし悩んでいた。
片思いの自分の表情が今、目の前の彼女達から思い出される。
そして要との交際で、彼に抱かれるまで思い悩んでいた自分を思い出す。
彼女達の想いが痛いほど解る。
きっと要に恋情を募らせていたに違いない。
要と交際している自分の存在をどんな風に思っているか、考えると心の奥が痛い。
憎しみを込めた視線で自分を貫く。
恐い……、と身体に震えが走る。
「貴女。
自分が北澤課長に相応しいと思っているの?
見ていると本当に凡庸な。
特別美しいと思われないし、どこかのご令嬢って言う訳でもないでしょう?
北澤課長が貴女と付き合うメリットが何処にあるの?
ああ、あるとしたら若さかしら。
何も知らない初心な貴女を、北澤課長は付き合うに容易いと思っての事ではないの?
そうではないと、貴女如きがつきあえる男性ではないのよ、北澤課長は。
本来ならば私の様な、容姿端麗、家柄も、そして社会的キャリアも積み上げたこの、パーフェクトな私が北澤課長の側にいるべき存在なのに。
なのに、課長ったら何を血迷ったのかしら。
貴女と婚約までなさって!」
「まあ、三田さん。
ちょっと言葉が過ぎません?
途中までのお言葉は同意できますが、それから先の言葉は聞き捨てなりませんわ。
北澤課長は私と添い遂げる為に存在するお方。
貴女方が相手にするべき方ではないの!」
「まああ、一ツ橋さんったら。
何をどうこう思われたらそんな言葉が口から出るのかしら?
流石、私よりも世間をご存知だと厚顔無恥な言葉もするり、と発する事がお出来になるんですね。
本当に年かさな方々は言葉の重みが違いますね……」
このオバン、と忌々しげに舌打ちをする二神に一ツ橋、三田は顔を歪ませる。
協定を結んで茉理に挑んだ筈が何処を間違ったのか、何時ものバトルに展開し始めている。
だんだんと話がずれていっている3人に、茉理はただただ呆然と見つめる事しか出来ない。
からんと、ドアが開く音が聞こえる。
息を弾ませながら要が茉理の側に近寄ってくる。
「遅くなって済まない茉理」と話しかける要に、茉理はなんて間の悪い時に来たのだろう……と心の中で嘆息を漏らす。
要の存在に気づかない3人は互いの主張を押し通そうと躍起になっている。
(わ、別れ話がいつの間にかどうしてこんな!)
出来ればこの場から立ち去りたい、と視線を泳がす茉理の肩に要が触れ、優しい視線を落とす。
「気づかれないように出よう……」と耳元で囁かれ、席を立とうと思った途端、3人の視線に捕らわれる。
「まだ、お話は終わっていませんわ……」
艶やかに微笑む3人に茉理の身体が硬直する。
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