恋心

華南

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恋の嵐 その2

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「もしもし、お母さん。
元気?

え?私は元気よ。
実はね。
お母さん達に紹介したい男性がいるの。
今度、一緒に家に行こうかと思っているのだけど、その、お父さんに……」

要から指輪を贈られた次の日の夜。
帰宅した茉理はすぐさま実家に連絡を入れていた。

要との交際を伝える為に。

好きな人が出来た事は母親である由理には遠巻きに伝えてはいたが、要との交際が始まっていた事は未だ伏せていた。
前の恋愛で深く傷つき、茉理の精神状態がどんな風になっていたか知っていた由理達は、今も茉理が一人暮らしをしている事を快く思ってはいなかった。

一人暮らしをして、また娘が男に騙されたら……。

几帳面でしっかりしていると言っても、茉理はまだ余り世間を解ってはいない。
純粋で人の好意を素直に受け止める茉理の性格を美点と思う反面、その純粋さに付け込まれ、騙され傷つくのではないかと内心、心配しているのも事実である。

その茉理に好きな男が出来た。
それも相手が真剣に交際を考えていると言っている。

本当にそうなのか……。

茉理に言われる前に既に要との面識がある由理は最初、要の事を訝んでいた。

だが、未だに交際を認めて貰おうと日参している要の真剣な想いに、由理達の心はだんだんと動かされている。
そして、今日、茉理からの連絡。
こうなる事を事前に知っての要の行動かと思うと由理は、もう、折れるしかないと思っていた。

(本当に彼は茉理の事を心から愛してくれている)

自然と涙が眦に滲んでくる。
茉理に気づかれない様に由理はそっと涙を拭った。

躊躇いながら話す茉理に、心を落ち着かせた由理が電話越しに優しく微笑む。

「ねえ、茉理。
相手の方はどんな男性?」

由理の問いに茉理が頬を染めながら要の事を言い出す。

「とても優しい人なの。
穏やかで、大人な男性で。
何時も私の事を気遣って守ってくれる。

私、その人の側にずっといたいの。
彼は私との結婚も真剣に考えてくれて。

……。

前の恋愛で臆病になっていた私の心を彼は癒してくれた。
恋をする喜びを彼はもう一度、私に教えてくれたの。

彼の事、愛しているの、お母さん……」

最後の言葉が涙混じりになっている事に気づいた由理が慈愛を含んだ声で茉理を慰める。

「……、とても素敵な恋愛をしているのね。
茉理のそんな幸せな言葉を聞けて、お母さんはとっても嬉しい」

「お母さん……」

「何時、こっちに帰ってくる?」

「お父さんの都合も窺ってと思って。
前の彼の事でお父さんには散々怒られていたから、彼の事が言い辛くて。

……。

結婚を前提に付き合っていると言った矢先、前の彼との恋が破局して、その所為で仕事まで辞めてしまった。
あの職場に就職したから一人暮らしを許可して貰ったのに。
お父さん達に顔向けできない事をして本当にごめんなさい!」

「茉理」

「でもね。
今の彼は本当に私の事を真剣に想ってくれる。
私の立場を尊重してくれるの。
前の恋愛で私が傷ついているから、自分との交際を快く思わないだろうと言って。
もし、交際を反対されても誠心誠意を込めて説得する。
茉理は何も心配しなくていいって言うの。

私を愛しているからと自分の想いをお父さん達に訴えたいって。

私の所為なのに……。

彼がそこまで考えなくてもいいのに、私の気持ちを大切にしてくれる。
彼に申し訳なくて……」

言葉を詰まらせ嗚咽を零す茉理に由理が諭すように言葉をかける。

「茉理が悪い訳ではないから、余り自分を責めないで。
恋愛に何が良いか悪いかは誰にも解らない。
ましてや茉理だって、そんな事になる為に前の彼と付き合ったのではないのでしょう?

真剣に茉理は彼の事を愛した。
だけど彼とは別れてしまった。

彼は元々、茉理との縁が無かった人だったと思うの。
本当に運命の相手なら、きっと、何があっても別れる事は無いから。
だから茉理は今の彼に出会う為に、前の恋愛が離れていったのよ……」

由理の言葉に茉理は涙が溢れて止まらない。

自分も今はそう思っている。

そう思える様になった要との恋愛。
初めて知った本当の「恋心」は自分を癒してくれる。

自分の心の守ってくれる。
自分の心を強くしてくれる。

そして自分を許す事を教えてくれる……。

誰にでも過ちはある。
失敗もある。

想いを遂げる事が出来なかったと言って、相手を憎む気持ちも責める気持ちも、それも全て受け止めて自分の中に存在する感情だって事も気づかせてくれる。

醜い感情に捕らわれる事も。

それが自然な事だと言う事も……。


「お母さん…」

「早く茉理に会いたいわ。
そして私に見せて頂戴。
愛されている茉理の幸せな姿を」

そう言いながら由理は茉理との会話を終えた。
由理との会話が終わった後も茉理の涙は止まらない。

要の声が聞きたい…。

茉理の心に要のあの穏やかで優しい微笑が浮かぶ。

彼を愛している。

由理との会話でまた茉理は要に対する想いを確かめていた。
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