恋心

華南

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恋の戸惑い 後編

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(拒絶されてしまった!
私が上手く気持ちを伝える事が出来なかった所為で、要さんを困惑させてしまった。
ど、どうしよう、嫌われたら。
こんな、どうして……)

涙が滲んで嗚咽が自然に出る。
身体を抱きしめながら茉理は要に気づかれない様に涙を抑えようとするが、感情を抑える事が出来ない。
涙が頬を翳める。

ふと、背中に暖かい温もりを感じる。
抱きしめられる腕の温かさに茉理は目を閉じ要に縋る。

「何があった?」

優しく問われる言葉に茉理の目から涙がとめどなく溢れる。

「…ご、ごめんなさい、要さん!
私、貴方に抱かれるのが嫌で拒んだ訳では……」

必死になって涙ながらに訴える茉理を要は強く抱きしめる。
茉理の不安を和らげようと穏やかに耳元で囁く。

「言いたくなければ言わなくていいから。
だからもう泣かないで、茉理……」

「ごめんなさい、要さん。
ごめんなさい!」

茉理の嗚咽が治まるまで、要は無言でそっと優しく抱きしめていた…。

***

明け方。

窓の隙間から入ってくる風が頬を翳める。
いつの間にか要の腕の中で眠っていた茉理は、そっと要の腕を外し、起き上がる。
以前、要が言っていたベランダからの景色を思い出した茉理は、窓を開けベランダへと出る。

日が昇ろうとする朝の静けさ。
清涼なる空気の中で、空の変化を見つめながら、茉理は要の事を想っていた。

「要さんが好き……」

自然と出る言葉に、茉理は自分の不安の根源を思案する。

変化がある事は前もって知っていたはずだ。
最初、要と出会って彼の手を取った時から、要から与えられる全ての感情に思い悩む事は当たり前だと。
恋に思い悩み、涙を流し、未知なる想いに気持ちが捕らわれ、そして。

その全てを愛おしく想うのだと……。

だから恐がる事も当たり前。
自分では無くなる感覚に陥る事も当たり前。
だから大丈夫。

恐れる事ではない。

要を愛しているから……。

「貴方を愛しているから…」

言葉が溢れて抑える事が出来ない。

「…、そう言われると押さえが利かなくなる」

背後から、あの深みのある優しい声が茉理の鼓膜を捕らえる。

「要さん……」

「俺の事を愛している?」

問われる言葉に茉理はじっと要を見つめ素直に頷く。

「貴方が好きだから変わっていく自分が恐くなった。
愛される事がこんなにも我を忘れさせ、全てが無くなっていく感覚に捕らわれる事が恐かった。
だけど、これも自分なんだと気づいたの。
この変化は私にとってとても愛しいものだと悟ったの。
貴方を愛したから自分の中に宿った感情なんだと」

「茉理……」

強く抱きしめる要の背中に腕を回し要を見つめる。

「貴方を愛してる、要さん……」

もう自分の中に迷いは無い。
揺ぎ無い想いがあるだけ。

要を愛している言う事実が全てだと。

自然と重なる唇。

唇を貪られながら抱き上げられ、ベッドへと運ばれる。
そっと横たえられ、部屋着を脱がされていく。
忙しく自分の部屋着を脱ぎ捨て要が茉理の身体に重なっていく。

互いの吐息が寝室に漏れる。

甘い喘ぎを抑える事が出来ない。

「茉理……」

欲情を隠す事なく茉理に注ぐ要の頚に腕を回し唇を求める。
深く唇を奪われ、強く抱きしめられる。
互いの熱を直に感じながら唇を解いた茉理は要の胸に顔を埋める。

背中に手を回していた要の手が臀部へと、そしてもう片方の手で秘所に触れる。
中を解され潤った秘所に要が入ってくる。
深く繋がり最奥に要の熱を強く感じる。
快楽に耽る茉理に艶やかな目で見つめながら、腰を律動させ茉理を高みへと導く。

「はああ、かなめさ……」

体中を熱に冒され、今にでも爆発しそうな程、要の情熱に浮かされる。
迸る要の欲望を膜越しに何度も感じる。
その都度、茉理は快楽へと落とされていく。

(こんなにも貴方の愛を感じる。
もっと深く貴方を感じたい……)

求めるこの感情が全てを奪っていく。
恐いと思う感情すら飲み込んでいく。

貴方を愛している。

そう、ただ貴方が愛しいだけ……。

***

心地よい気だるさが二人を襲う。
要の心音を聞く茉理の髪を要が優しく梳いていく。

「付き合っていた相手はどんな男だった?」

急に問われる要の言葉に、茉理はぴくりと肩を震わす。
要の胸から顔を上げ見つめる。

「どうしてそんな事を問われるの?」

不安げに見つめる茉理に要が目を細め微笑む。

「どうして茉理と別れたのか俺には理解が出来ない」

「も、もう、な、何を急に言い出すの……」

「別れた男は茉理の何を見つめていたのかな、と。
そう思えてならない」

そっと要の顔が近づき茉理の唇に軽く触れる。
啄ばむように優しく何度も何度も触れていく。

「あの男が茉理を手放したから俺は茉理に出会う事が出来た。
茉理の最初の恋の結末が俺との恋に結び付いた」

「……、要さん」

「茉理は今でも前の恋に哀しみを抱いている?」

茉理を見つめる瞳が慈愛に満ち溢れている。
その瞳を見つめながら茉理は柔らかく微笑む。

「貴方に出会う前まではそうだった……。
恋の哀しみに捕らわれていた。

何故、彼と別れたのか。
何故、彼の心が離れていったのか。
何度も何度も自分の中で答えを見つけようともがいて、苦しんで、自分を責めて、そして別れた彼を憎んで…。
でも、憎んでも苦しんでも、もう、どうにもならないと思ったら心が何も感じなくなって。
ただ時が過ぎるのを見つめていたわ。

彼が全てだった……。
自分の人生で彼は共にいる人だとずっと信じていたから。
でも、違っていた。
彼は私にとって、ただの人生の通過点だったと。
彼との恋は人生の中での一瞬の出来事だったと。

それを貴方が気づかせてくれたの。
貴方と出会って、貴方に初めて言われた言葉に心が大きく揺れ動かされて。
貴方は私の知らない私を見つけてくれる。
私が欲しかった「真実」を貴方は私に気づかせてくれる。
そして恋の喜びも、愛の深さも貴方は私に気づかせてくれるの」

「茉理……」

「だから私にとって彼は既に過去であり、今に繋がるために必要だったとしか思えない。
それも全て貴方と出会ったから。
貴方が私を愛してくれたから、そう思えるようになったの」

戸惑いの中、何時も要は自分を優しく見守っていた。

真摯に向けられる瞳。
情熱を秘めた愛の深さを感じるその瞳に捕らわれた時から、既に塩崎との恋は茉理の心の中から消え去ろうとしていた。
燻っていたのは、要がどれだけ愛しているかを知り得る為。
今に繋がる過去は既に思い出として、茉理の中にただあるだけ。
そこにもう哀しみは存在しない。

「これからも貴方の側にいたい……」

「ああ、ずっと側にいて欲しい。
茉理。
愛している……」

唇が重なっていく。
互いを求める感情がまた幾度となく深くなり。

茉理は要との愛をまた深く確かめ合うのであった……。
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