恋心

華南

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恋の戸惑い 前編

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要さんに初めて抱かれたあの日から私は、要さんに毎週末、彼のマンションで過ごす事を余儀なく言い渡された。

彼の言葉を聞いた時、一瞬、恥ずかしさの余りに言葉が出なかった。

彼と一緒に居る事が出来るのはとても嬉しい。

何時も彼の側にいたい。
彼の側で彼の愛を感じていたい……。

ずっと彼に抱かれて嫌われたらどうしようかと、散々悩んでいた。
それが彼に求められて、そして彼と一つになって溶け合って、蕩けるような快楽に身を落として。
まるで自分では無くなる感覚に全てを奪われた。

そう。

彼の愛撫に、喘ぎ、乱され、翻弄されたあの熱い夜。
意識を失う程求められて、目覚めた時には彼のマンションだった事にどれだけ羞恥が体中に走ったか。

(も、もう、あの旅館に行く事なんて絶対に出来ない…!
か、要さんが散々私を愛したから起き上がる事が出来なくて、それで……。
ああん、もう、いや!
恥ずかしさの余り、どうにかなりそう)

一瞬、脳裏に浮かんだ痴態を思い出し頬が熱くなる。

「どうしよう…」

あれ程要に抱かれる事を躊躇っていた以前の自分とは思えない、贅沢な悩みだと茉理は心の中で叱咤する。

情熱的に愛されたと今でも思い出すと身体の奥が熱くなる。

女として求められた。

深く愛され繋がった。

だけど……。

自分の理性まで奪うあの快楽が正直恐いと思うのもまた事実で。
恋に溺れると言う事はこういう意味合いを含めての事なのか…と茉理は着替えをバックに詰めながら何度目かの溜息を零した。

***

マンションから出て駐車場に向かうと既に要が待っていた。
息を弾ませながら要の元に向かう。

「遅くなってごめんなさい…」

詫びる茉理の言葉を遮るように要が優しく言葉をかける。

「そんなに待っていないから、気にしないで欲しい」

穏やかに微笑みながら茉理を見つめる。
アーモンド型の、深い焦げ茶の瞳。
すっと鼻梁が通った整った美貌に茉理は何時見ても要の事を綺麗だ…と見惚れてしまう。

普通、女性に「綺麗」と形容するものだと思っていたが要は特別だ。
一つ一つのパーツが綺麗に顔の中に納まって完成度を高めている。

胸が自然とどきどきと鳴ってしまう。
要といると性格の穏やかと優しさに心ときめくが、彼の美貌にもまたときめく事も真実だと、茉理は要に視線を注ぎながらそう思った。

茉理の無言の視線に気づいた要が苦笑を漏らす。

「俺の顔に何か付いている?」

不躾にじっと見つめていた事に気づいた茉理はあわてて視線を逸らす。

「ご、ごめんなさい、か、要さん。
な、何でも無いです…」

かああ、と頬を仄かに赤く染めうつむく茉理が微笑ましい。

「茉理……」

名を呼ばれて顔を上げ要を見つめる。

顔が近づき唇が触れる。
そっと触れる、優しいキス。

目を閉じ要のキスを受け入れる。
肩を抱き寄せ、茉理の顎に手を寄せ深く茉理の唇を奪う。
とろり、と身体の奥が熱くなる。
要の情熱的なキスに茉理の思考がくらくらとし、眩暈を呼び起こす。

(だ、駄目…。
まだ夕暮れの、こんな駐車場で誰かに見られたら!)

やんわりと要を胸を押す茉理に、要は目を細めながら唇を離す。

「済まない。
恥ずかしかった?」

しれっと何事も無かった様に話す要に茉理は頬を赤く染める。
こくりと素直に頷く茉理に要は既に求める気持ちを抑える事が出来ない。

「…早く茉理を抱きたい」

求める気持ちを隠さない要に、言葉が出ない。

「か、要さん!」

動揺する茉理にくつくつ笑いながら要は車を走行させる。
茉理は要のストレートな欲望に、要を強く意識してしまう。

(ど、どうしよう……。
解っている事なのに、変に意識してしまう。
や、やだ、こ、こんな……)

茉理の中で以前の恋愛が脳裏に過ぎる。
塩崎との恋愛で、身体を求められた時、一つになった悦びも大きかったがそれ以上に身体の引き裂くような痛みも強かった事が、あの後、何度も求められても身体がこわばり茉理は受け入れる事を躊躇っていた。
馴染ませようと塩崎が何度か試みたが一向に茉理の緊張を解す事が出来ない苛立ちに、茉理に触れるのをだんだんと控えるようになっていた。
恋愛に身体の繋がりも必要だと感じていたが、それ以上に塩崎の側にいる事の方がもっと幸せだと考えていた茉理にとってセックスは今ひとつ理解できない事であった。

快楽に身を窶す……。

理性を奪われる様な感覚に陥った要とのセックスは茉理の中の女を刺激し、未知なる思いに茉理を陥らせたと言っても過言では無い。

何も知らなかった「恋」にこんな不可解な感情を齎す。

要との恋愛でもっと知らなかった自分が暴かれ、翻弄されるようになるのか。

初めて要に抱かれたと時とは違う不安が心の中に広がっていく。
求められる喜び、愛される悦び……。

恋愛の深い部分を垣間見始めている茉理にとって、今から要のマンションで求められる事に身体を震えさせるのであった。
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