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恋に狂う
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逃げる茉理の手を掴んだ時、震えが手に伝わった。
拒まれている事は解る。
彼女が未だに過去の恋の痛手が心の奥深く残っている事も。
それも解っている。
だが、もう俺の気持ちは限界が来ていた。
彼女を俺が守りたい。
彼女に哀しみを抱かせる事など、一切させたくない。
だから俺は行動に出た。
密かに見ていた聡たちが、俺達の事を心配げに見守っている。
振り切るように逃げる彼女を追いかけようとしたが、落としていった本が俺の行動を制止する。
「要」
「ああ、済まない。
お前の店で見世物の様な真似事をして……」
「……」
「大丈夫だ。
まだ、チャンスはある」
そう伝えながら俺は聡に、茉理が落としていった本を見せる。
「これが俺に可能性を残してくれた。
俺は彼女を手に入れる!」
「要……」
「悪いがこの本は俺が預かっておく。
彼女が気づいてここに連絡なり来る事があったら、俺の連絡先のメモを渡してくれないか」
「ふふふ。
狙われた彼女に同情するな……。
お前からもう逃れる事が出来ないから、な」
「ああ、恋に狂った男の情念がどれ程か、彼女に訴えてやるさ。
そして俺が忘れさせる。
彼女の哀しみの元を……」
「そうか……」
「お前には迷惑をかけた。
今日はもう帰る」
「……」
そう聡に伝え、茉理が落としていった本を携えて俺はマンションに戻った。
軽くシャワーを浴び、綺麗に刺繍されたカバーを掛けている本をぱらりと捲る。
彼女がどんな本に興味を示すのか、実は知りたいと思っていた。
読んでいて彼女の心境を垣間見る様な話にくすりと笑みが零れる。
「恋愛に対して深い傷を受けながらも君は恋を望むんだ……。
君をこの話の様な、いいや、それ以上に俺が幸せにする。
だから俺を拒ばないでくれ」
願いは唯一つ。
君が何時も俺の側で幸せな笑みを浮かべる事……。
いや違うな。
君が俺なしではいえられない程、俺に溺れる事だ。
浮かんだ考えに笑いが止まらない。
「全ては明日で決まる」
そして次の朝、予想通り茉理は俺に連絡を入れた。
君の心を揺さぶる言葉をどう伝えれば良いのか、既に言葉を選んでいる。
その言葉に俺の想いを込めればいいだけ。
ただそれだけ。
それ以上に伝える言葉など持ち合わせていない。
君が好きだ……。
君に愛を伝えたい。
この想いを君に受け止めて欲しい…。
「僕と付き合って欲しい……」
ありったけの想いを込めて俺は茉理に交際を申し込む。
頬を染めながら茉理が俺の言葉にこくりと頷く。
歓喜が体中に駆け巡る。
やっと、彼女を手に入れた……。
それから茉理と何度もデートを重ねた。
週末は必ず聡の店に行き、茉理とあの席でひと時を過ごす。
付き合いだして一ヶ月経ち、聡の店を出た後、俺は茉理をそのままマンションへ連れて行った。
最初、躊躇いながら茉理はマンションに入ってきた。
きょろきょろと辺りを見回し、俺の後を付いてくる茉理に苦笑が漏れる。
20畳ほどの広々としたリビングに嘆息を漏らす茉理に俺はベランダへと案内する。
視界を捉える夜景の美しさに魅入られている茉理に自然と笑みが零れる。
背後から茉理を抱きすくめ、茉理の動きを遮る。
羞恥で耳まで赤く染めている茉理に俺は茉理の首筋に顔を埋める。
鼻腔を擽る甘い薫り。
茉理の身体から漂う甘やかな薫りにだんだんと自制が効かなくなっていく。
身体を向かい合わせ、唇を求める。
最初はただ触れるだけ。
そしてだんだんと唇の柔らかさを堪能しながら口内に舌を這わす。
縋る茉理に余りキスに慣れていない事を察する。
それならば俺が教えていけばいい。
俺が茉理の奥深く潜んでいる女を暴いていけばいい……。
歯列をなぞりながら舌を絡め、茉理の理性を酔わせていく。
涙を滲ませ頬を上気させる茉理に俺は目を細めながゆっくりと身体に触れていく。
形を確かめるように胸に手を添えた時、茉理が目を見開き俺の動きを遮る。
茉理の瞳に不安の色が濃く浮かぶ。
躊躇いがちに俺の手に手を重ねる茉理の身体をそっと離し、言葉をかける。
「まだ早かったかな……」
視線を逸らす茉理の身体をそっと抱きしめ軽く唇に触れる。
「茉理が欲しい……」
俺の言葉に茉理の頬が一気に赤く染まる。
「早く僕を求めて欲しい」
「……」
その後、何度か茉理に触れるが身体を重ねる事は未だ無かった。
茉理が俺に惹かれ始めている事に気付いている。
最初、戸惑いの笑みしか向けなかった茉理が、今では俺に心からの笑みを浮かべ微笑んでいる。
ずっと願っていた笑顔。
そう、その笑みをずっと見つめたかった。
だが、まだ茉理の心の中には別れた男の存在が燻っている。
最後の最後で茉理が俺を拒絶するのがその証。
俺は茉理を誰よりも深く愛している。
真実の愛だと君が知り受け入れる事を、俺はずっと待ち続けている。
手に入れたと思う存在が未だに隔たりを作り俺の側にいる……。
それが茉理に溺れている俺の心を深く苛む。
茉理の全てが欲しい。
甘い香りを漂わす肢体を早く暴きたい。
艶やかな声を上げ善がる茉理の身体の全てに俺を刻ませたい。
それが全ては儚い願いだと言う事を俺はこの後、思い知らされる…。
偶然、出現した茉理の別れた男の存在によって。
見た途端、茉理は唇を震えさせその場に立ち竦む。
俺の存在など感じる事なく、ただじっと見つめている。
呆けた様に男を見つめる茉理を視線を落としながら俺は悟った。
未だに茉理があの男の事を愛しているのを……。
焦燥感が俺の中に広がっていく。
あの男に対する嫉妬と憎しみの感情が思考を奪う。
じりじりと心が焼け付くように熱い。
(渡さない!
ああ、誰が離すものか!
茉理は俺のモノだ。
そう、茉理は俺のモノ……)
仄暗い感情が俺の中から湧き上がっていく。
抑えることが出来ない程、俺の感情の全てを飲み込み、そして俺は強引に茉理の身体を暴いていった……。
拒まれている事は解る。
彼女が未だに過去の恋の痛手が心の奥深く残っている事も。
それも解っている。
だが、もう俺の気持ちは限界が来ていた。
彼女を俺が守りたい。
彼女に哀しみを抱かせる事など、一切させたくない。
だから俺は行動に出た。
密かに見ていた聡たちが、俺達の事を心配げに見守っている。
振り切るように逃げる彼女を追いかけようとしたが、落としていった本が俺の行動を制止する。
「要」
「ああ、済まない。
お前の店で見世物の様な真似事をして……」
「……」
「大丈夫だ。
まだ、チャンスはある」
そう伝えながら俺は聡に、茉理が落としていった本を見せる。
「これが俺に可能性を残してくれた。
俺は彼女を手に入れる!」
「要……」
「悪いがこの本は俺が預かっておく。
彼女が気づいてここに連絡なり来る事があったら、俺の連絡先のメモを渡してくれないか」
「ふふふ。
狙われた彼女に同情するな……。
お前からもう逃れる事が出来ないから、な」
「ああ、恋に狂った男の情念がどれ程か、彼女に訴えてやるさ。
そして俺が忘れさせる。
彼女の哀しみの元を……」
「そうか……」
「お前には迷惑をかけた。
今日はもう帰る」
「……」
そう聡に伝え、茉理が落としていった本を携えて俺はマンションに戻った。
軽くシャワーを浴び、綺麗に刺繍されたカバーを掛けている本をぱらりと捲る。
彼女がどんな本に興味を示すのか、実は知りたいと思っていた。
読んでいて彼女の心境を垣間見る様な話にくすりと笑みが零れる。
「恋愛に対して深い傷を受けながらも君は恋を望むんだ……。
君をこの話の様な、いいや、それ以上に俺が幸せにする。
だから俺を拒ばないでくれ」
願いは唯一つ。
君が何時も俺の側で幸せな笑みを浮かべる事……。
いや違うな。
君が俺なしではいえられない程、俺に溺れる事だ。
浮かんだ考えに笑いが止まらない。
「全ては明日で決まる」
そして次の朝、予想通り茉理は俺に連絡を入れた。
君の心を揺さぶる言葉をどう伝えれば良いのか、既に言葉を選んでいる。
その言葉に俺の想いを込めればいいだけ。
ただそれだけ。
それ以上に伝える言葉など持ち合わせていない。
君が好きだ……。
君に愛を伝えたい。
この想いを君に受け止めて欲しい…。
「僕と付き合って欲しい……」
ありったけの想いを込めて俺は茉理に交際を申し込む。
頬を染めながら茉理が俺の言葉にこくりと頷く。
歓喜が体中に駆け巡る。
やっと、彼女を手に入れた……。
それから茉理と何度もデートを重ねた。
週末は必ず聡の店に行き、茉理とあの席でひと時を過ごす。
付き合いだして一ヶ月経ち、聡の店を出た後、俺は茉理をそのままマンションへ連れて行った。
最初、躊躇いながら茉理はマンションに入ってきた。
きょろきょろと辺りを見回し、俺の後を付いてくる茉理に苦笑が漏れる。
20畳ほどの広々としたリビングに嘆息を漏らす茉理に俺はベランダへと案内する。
視界を捉える夜景の美しさに魅入られている茉理に自然と笑みが零れる。
背後から茉理を抱きすくめ、茉理の動きを遮る。
羞恥で耳まで赤く染めている茉理に俺は茉理の首筋に顔を埋める。
鼻腔を擽る甘い薫り。
茉理の身体から漂う甘やかな薫りにだんだんと自制が効かなくなっていく。
身体を向かい合わせ、唇を求める。
最初はただ触れるだけ。
そしてだんだんと唇の柔らかさを堪能しながら口内に舌を這わす。
縋る茉理に余りキスに慣れていない事を察する。
それならば俺が教えていけばいい。
俺が茉理の奥深く潜んでいる女を暴いていけばいい……。
歯列をなぞりながら舌を絡め、茉理の理性を酔わせていく。
涙を滲ませ頬を上気させる茉理に俺は目を細めながゆっくりと身体に触れていく。
形を確かめるように胸に手を添えた時、茉理が目を見開き俺の動きを遮る。
茉理の瞳に不安の色が濃く浮かぶ。
躊躇いがちに俺の手に手を重ねる茉理の身体をそっと離し、言葉をかける。
「まだ早かったかな……」
視線を逸らす茉理の身体をそっと抱きしめ軽く唇に触れる。
「茉理が欲しい……」
俺の言葉に茉理の頬が一気に赤く染まる。
「早く僕を求めて欲しい」
「……」
その後、何度か茉理に触れるが身体を重ねる事は未だ無かった。
茉理が俺に惹かれ始めている事に気付いている。
最初、戸惑いの笑みしか向けなかった茉理が、今では俺に心からの笑みを浮かべ微笑んでいる。
ずっと願っていた笑顔。
そう、その笑みをずっと見つめたかった。
だが、まだ茉理の心の中には別れた男の存在が燻っている。
最後の最後で茉理が俺を拒絶するのがその証。
俺は茉理を誰よりも深く愛している。
真実の愛だと君が知り受け入れる事を、俺はずっと待ち続けている。
手に入れたと思う存在が未だに隔たりを作り俺の側にいる……。
それが茉理に溺れている俺の心を深く苛む。
茉理の全てが欲しい。
甘い香りを漂わす肢体を早く暴きたい。
艶やかな声を上げ善がる茉理の身体の全てに俺を刻ませたい。
それが全ては儚い願いだと言う事を俺はこの後、思い知らされる…。
偶然、出現した茉理の別れた男の存在によって。
見た途端、茉理は唇を震えさせその場に立ち竦む。
俺の存在など感じる事なく、ただじっと見つめている。
呆けた様に男を見つめる茉理を視線を落としながら俺は悟った。
未だに茉理があの男の事を愛しているのを……。
焦燥感が俺の中に広がっていく。
あの男に対する嫉妬と憎しみの感情が思考を奪う。
じりじりと心が焼け付くように熱い。
(渡さない!
ああ、誰が離すものか!
茉理は俺のモノだ。
そう、茉理は俺のモノ……)
仄暗い感情が俺の中から湧き上がっていく。
抑えることが出来ない程、俺の感情の全てを飲み込み、そして俺は強引に茉理の身体を暴いていった……。
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