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48話
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(何故、こんな事になった……)
じりじりと焼けつく様な痛みと焦燥感。
前世を思い出した事の運命の残酷さ。
兄として、妹として俺達はこの世界に転生した。
(ずっと俺は紗雪の側にいた)
側でずっと見守る事が出来た。
15年の間、血縁者として、血の繋がった兄として常に側にいた。
幸せな笑顔を俺に君は見せてくれた。
前世であれ程望んだ君の幸せな姿を、俺は側でずっと見つめる事が出来た。
限りなく幸せだった。
前世の、一柳颯斗としての記憶さえ戻らなければ。
いや、違う。
前世の記憶が戻ろうが戻るまいが俺にとって、久保紗雪は、エレーヌ・グーベルトはたった一人の最愛の女性であった。
前世では初恋の相手であり、唯一愛した女性。
今世では、たった一人の愛しい妹。
(最愛の、)
ざっくりと抉られる。
引き裂かれた場所が化膿しじくじくと熱を孕み腐敗していく。
激しい痛みに精神が蝕んでいき、視界は濁った幻影に惑わされ。
君を喪った時、俺の何かが破綻した。
荒れ狂う感情に、狂乱した精神に正常な判断など無かった。
何故、君がこの世から去らなければ無かった?
何故、君が眩しい光に包まれた人生を歩む事無く生を終えた?
何故、とずっと自問して、そして答えに辿り着き。
俺は一つの答えを下した。
あの男の命を奪う事に。
腹の底が冷えていく。
浸透する怒りが身体中の熱を奪っていく。
冷たく凍った感情にただ一つ、憎しみの炎が灯り。
目の前が赤黒く染まっていく。
君を狂気の淵に陥れ、命を絶たせたあの男への復讐を。
俺はずっと心に秘め、そして実行した……。
***
「ああ、運命とは皮肉だな……」
オリバーとの会話を終えたルーファンは自室のソファに深く座り込んだ。
(紗雪、いや、エレーヌ)
月下美人が咲き誇るあの庭園でエレーヌに出会った時の衝撃。
全ての時間が一気に停止した。
呼吸がうまく出来ない。
紗雪が今、自分の目の前に居る。
(俺は……)
ずっと探し求めていた紗雪にやっと巡り会う事が出来た。
自分と同じくこの世に転生した事を知った時の歓喜。
自然と涙を流していた。
愛していた。
紗雪だけを幼い頃から愛していた。
幼い頃に出会った紗雪に魂を、全てを奪われた。
愛を知る前に、愛とは何かと言うものを紗雪の存在によって教えられた。
子供の他愛も無い会話に己の荒んだ心がどれ程癒されたか。
この世で唯一人己を望み、そして存在を肯定してくれた。
どんな女も紗雪の前では色褪せて見える。
虚飾で固められた中身の無い女達の噎せ返る様な異臭。
傲慢で、俺に相応しいと粘着質な媚態で絡んでくる愚かで浅はかな女達。
汚らわしいと何度も吐き捨てた。
紗雪だけが俺にとって唯一の女。
紗雪だけが俺の人生を色鮮やかにしてくれた。
数十年後、探し求めた紗雪とやっと再会し、ビルの花壇で初めて会話した時には、震える感情を抑えるのにどれだけ必死だったか。
年甲斐も無く、初めての恋を知った感情に捕らわれて。
会う度に紗雪に触れたい、愛したい。
あの、愛らしい唇を堪能したい。
強く抱き締め唇を求め、身体中に俺の痕を刻ませて。
一つになる悦びを共に分かちたい。
ドロドロと一つに蕩け愛を交わす。
紗雪の全てを、俺が、俺だけが知ればいい。
全ての感情を俺だけに向けて欲しい。
眩い笑顔もくるくると表情の変わる愛らしさも、俺に愛される悦びも愛欲に耽り、俺を求める痴態も。
女である事を俺だけが知り、俺の愛に溺れて。
唯一、俺の事を求めて……。
互いの存在だけを求め合う。
それだけを望んだ。
紗雪の人生に俺だけがいればいい。
そうなっていた。
紗雪の瞳に、心に俺だけがいた。
俺の愛に溺れて激しく交わる様は俺の心を潤わせ満たしていた。
こんな幸せが今まであっただろうか?
満ち足りた幸せな時間。
「祥吾さんが好き……」
うっとりとした目で俺を見つめ、自ら唇を求めて。
紗雪の体内に深く己を沈めて精を放ち。
どろりと下肢から流れる白濁に自然と広角を上げていた。
紗雪と永遠に結びつく存在を欲し、何度も深く繋がり中を満たした。
最初、躊躇い恐れを抱いていた紗雪の心が段々と変化していく様が嬉しくて。
自然と口元が緩んでいる事に、紗雪が首を傾げて俺を見て。
「祥吾さん?」
「ああ、紗雪……」
感極まる俺が弾んだ声で紗雪の名を呼ぶ。
腕の中に捕らえて唇を何度も啄んだ。
擽ったそうに目を細め頬を赤く染めて、紗雪は俺の口付けを受け入れる。
「俺が今、どれだけ幸せか分かるか?」
「祥吾さん」
「紗雪に好きだと告白されて俺は浮かれているんだ。
ずっと愛していた紗雪が、やっと俺の想いを受け入れてくれた。
こんな喜ばしい事なんて無い」
「私……」
紗雪がボロボロと涙を流し始めた。
こんなに愛されて私って幸せね、と小さな声で呟く紗雪が愛しくて。
このまま時が止まれば良いとどれ程、願った事か。
紗雪の心にやっと俺の存在を刻む事が出来た。
愛し愛される存在とやっとなり得る事が出来た。
「紗雪、愛している……」
永遠に、と囁きながら俺達は愛を交わした。
そんな幸せな日々に、少しずつ翳りが刺した事に俺は気づいていなかった。
紗雪の心が蝕んでいき、俺の愛から逃れようとしている事に。
そして紗雪の心に、今でも忘れ得ぬ存在がいた事に。
愛に溺れていた俺は見失っていた。
紗雪が真実、願う愛を。
俺は気付く事が出来なかった……。
じりじりと焼けつく様な痛みと焦燥感。
前世を思い出した事の運命の残酷さ。
兄として、妹として俺達はこの世界に転生した。
(ずっと俺は紗雪の側にいた)
側でずっと見守る事が出来た。
15年の間、血縁者として、血の繋がった兄として常に側にいた。
幸せな笑顔を俺に君は見せてくれた。
前世であれ程望んだ君の幸せな姿を、俺は側でずっと見つめる事が出来た。
限りなく幸せだった。
前世の、一柳颯斗としての記憶さえ戻らなければ。
いや、違う。
前世の記憶が戻ろうが戻るまいが俺にとって、久保紗雪は、エレーヌ・グーベルトはたった一人の最愛の女性であった。
前世では初恋の相手であり、唯一愛した女性。
今世では、たった一人の愛しい妹。
(最愛の、)
ざっくりと抉られる。
引き裂かれた場所が化膿しじくじくと熱を孕み腐敗していく。
激しい痛みに精神が蝕んでいき、視界は濁った幻影に惑わされ。
君を喪った時、俺の何かが破綻した。
荒れ狂う感情に、狂乱した精神に正常な判断など無かった。
何故、君がこの世から去らなければ無かった?
何故、君が眩しい光に包まれた人生を歩む事無く生を終えた?
何故、とずっと自問して、そして答えに辿り着き。
俺は一つの答えを下した。
あの男の命を奪う事に。
腹の底が冷えていく。
浸透する怒りが身体中の熱を奪っていく。
冷たく凍った感情にただ一つ、憎しみの炎が灯り。
目の前が赤黒く染まっていく。
君を狂気の淵に陥れ、命を絶たせたあの男への復讐を。
俺はずっと心に秘め、そして実行した……。
***
「ああ、運命とは皮肉だな……」
オリバーとの会話を終えたルーファンは自室のソファに深く座り込んだ。
(紗雪、いや、エレーヌ)
月下美人が咲き誇るあの庭園でエレーヌに出会った時の衝撃。
全ての時間が一気に停止した。
呼吸がうまく出来ない。
紗雪が今、自分の目の前に居る。
(俺は……)
ずっと探し求めていた紗雪にやっと巡り会う事が出来た。
自分と同じくこの世に転生した事を知った時の歓喜。
自然と涙を流していた。
愛していた。
紗雪だけを幼い頃から愛していた。
幼い頃に出会った紗雪に魂を、全てを奪われた。
愛を知る前に、愛とは何かと言うものを紗雪の存在によって教えられた。
子供の他愛も無い会話に己の荒んだ心がどれ程癒されたか。
この世で唯一人己を望み、そして存在を肯定してくれた。
どんな女も紗雪の前では色褪せて見える。
虚飾で固められた中身の無い女達の噎せ返る様な異臭。
傲慢で、俺に相応しいと粘着質な媚態で絡んでくる愚かで浅はかな女達。
汚らわしいと何度も吐き捨てた。
紗雪だけが俺にとって唯一の女。
紗雪だけが俺の人生を色鮮やかにしてくれた。
数十年後、探し求めた紗雪とやっと再会し、ビルの花壇で初めて会話した時には、震える感情を抑えるのにどれだけ必死だったか。
年甲斐も無く、初めての恋を知った感情に捕らわれて。
会う度に紗雪に触れたい、愛したい。
あの、愛らしい唇を堪能したい。
強く抱き締め唇を求め、身体中に俺の痕を刻ませて。
一つになる悦びを共に分かちたい。
ドロドロと一つに蕩け愛を交わす。
紗雪の全てを、俺が、俺だけが知ればいい。
全ての感情を俺だけに向けて欲しい。
眩い笑顔もくるくると表情の変わる愛らしさも、俺に愛される悦びも愛欲に耽り、俺を求める痴態も。
女である事を俺だけが知り、俺の愛に溺れて。
唯一、俺の事を求めて……。
互いの存在だけを求め合う。
それだけを望んだ。
紗雪の人生に俺だけがいればいい。
そうなっていた。
紗雪の瞳に、心に俺だけがいた。
俺の愛に溺れて激しく交わる様は俺の心を潤わせ満たしていた。
こんな幸せが今まであっただろうか?
満ち足りた幸せな時間。
「祥吾さんが好き……」
うっとりとした目で俺を見つめ、自ら唇を求めて。
紗雪の体内に深く己を沈めて精を放ち。
どろりと下肢から流れる白濁に自然と広角を上げていた。
紗雪と永遠に結びつく存在を欲し、何度も深く繋がり中を満たした。
最初、躊躇い恐れを抱いていた紗雪の心が段々と変化していく様が嬉しくて。
自然と口元が緩んでいる事に、紗雪が首を傾げて俺を見て。
「祥吾さん?」
「ああ、紗雪……」
感極まる俺が弾んだ声で紗雪の名を呼ぶ。
腕の中に捕らえて唇を何度も啄んだ。
擽ったそうに目を細め頬を赤く染めて、紗雪は俺の口付けを受け入れる。
「俺が今、どれだけ幸せか分かるか?」
「祥吾さん」
「紗雪に好きだと告白されて俺は浮かれているんだ。
ずっと愛していた紗雪が、やっと俺の想いを受け入れてくれた。
こんな喜ばしい事なんて無い」
「私……」
紗雪がボロボロと涙を流し始めた。
こんなに愛されて私って幸せね、と小さな声で呟く紗雪が愛しくて。
このまま時が止まれば良いとどれ程、願った事か。
紗雪の心にやっと俺の存在を刻む事が出来た。
愛し愛される存在とやっとなり得る事が出来た。
「紗雪、愛している……」
永遠に、と囁きながら俺達は愛を交わした。
そんな幸せな日々に、少しずつ翳りが刺した事に俺は気づいていなかった。
紗雪の心が蝕んでいき、俺の愛から逃れようとしている事に。
そして紗雪の心に、今でも忘れ得ぬ存在がいた事に。
愛に溺れていた俺は見失っていた。
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俺は気付く事が出来なかった……。
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