「貴方に心ときめいて」

華南

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42話

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(だ、駄目だよ、紗雪。
これ以上、オリバーを受け入れては駄目!
オリバーの事を想っているのなら、尚更、オリバーの愛を受け入れては駄目……)

ボロボロと絶え間なく涙が流れる。
互いの気持ちが同じであった。
オリバーに愛されていた。
妹で無く一人の女性として。

(オリバー……)

押し留めていた感情が溢れて止まらない。
オリバーに対する想いが溢れて止まらない。

貴方が好き。
愛している……。

もっと触れて欲しい。
もっと求めて欲しい。

オリバー。
貴方と一つになれたら私はどれだけ幸せだろう。
ずっと貴方が側に居てくれたら、私は……。

(だけど駄目なの。
貴方はこの世界では実の兄だから。
血の繋がりのある、最愛の兄だから)

禁忌の恋を結んでしまったら私達だけでは無い。
グーベルト家の両親もアルフォンソ兄様も、そして領地の民達をも不幸にしてしまう。

そんなのは絶対に、駄目……。
だって私はグーベルト家の人々を愛しているから。
それはオリバー。

貴方だってそうだから。

そんな優しい貴方だから、私は恋をした。
貴方に心惹かれた。

ドンと、オリバーの身体を押し除ける。
これ以上の触れ合いを拒絶するかの如く、強く。

唇を噛み締め涙を流しながらオリバーを見詰める。
何度も何度もかぶりを振りながら距離を取る。

「エレーヌ……」

そんな表情をしないで。
貴方のそんな哀しい顔を私は見たくない。
切ない目で私を希う視線を私に向けないで。

決心が鈍ってしまう。
私は……。

「これ以上の戯れは控えて、お兄様。
この事は忘れます、いいえ。
初めから無かった事。
お兄様は私がルーファン様の私室に招かれた件で、何かがあったと誤解され、混乱されての過ちであったと。
そうでしょう、オリバー兄様」

「ち、違う、エレーヌ!
俺はお前を……」

「オリバー兄様……」

「……」

「私達は実の兄妹です。
この事が露見したらグーベルト家はどうなるか。
私は、グーベルト家を、両親をアル兄様を、そしてオリバー兄様。
貴方を喪いたく、無い」

「エレーヌ……」

「私の大切な人々を喪いたく無いんです……」

初めからこう言えば良かった。
心が緩んで隙が出来てしまって、取り返しのつかない。

互いの心に生まれてはならない感情が宿ってしまった。

「私とルーファン様には男女の過ちなど決して無かった。
だけど私の軽はずみな行動で、ルーファン様と只ならぬ関係だと密やかれている可能性がある。
デビュー前の私が既に純潔を失っていると囁かれても、否定をする事さえ難しい状況に陥るかも知れません」

「エレーヌ」

「もし、ルーファン様が私を願うならば、私は……」

「だ、駄目だ、エレーヌ」

「私は応じたいと思います」

「エレーヌ……」

力無く私の名を呼ぶオリバーに、私は静かに告げる。

何かを問いただそうとするオリバーの表情が心に引っ掛かる。
何かを言いたげなオリバーの言葉を遮り、私は部屋を出ようとした瞬間、扉が開いて。

目が大きく見開く。

ルーファンが私の私室に来ている。
何故?

鋭い視線をオリバーに投げ付ける。
忌々しげに見詰めるルーファンに、オリバーが強く拳を握る。

全身を怒りで震えさせながら。

「ルーファン、様」

鎮まった部屋で、互いの感情が交錯する。

私と、オリバーと、ルーファンと。

この時、私は気づいていなかった。

ルーファンも、そしてオリバーも転生者であった事を。
二人が生前、久保紗雪の人生に深く関わりのあった人物であった事に。

私は気付いていなかった。
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