30 / 73
30話
しおりを挟む
(え、ど、どうしてルーファンとキスしているの?
こんな事って「貴方に心ときめいて」のルーファンルートの展開であったかしら。
スチルは無かったし、今の様な庭園での出会いも、当然、無かった。
一応、ルーファンとのスチルも全てコンプリートしたけど、キスシーンは無かったし、恋愛モードに入ってもキスシーンを匂わすストーリーは無かった。
だって、ルーファンとの恋愛って綺麗過ぎて。
あんまり生々しくは無かったのよねって、紗雪ったら。
こんな状況でルーファンを攻略した時を思い出そうとしているなんて)
いや、冷静に分析なんかしている場合では無い。
私は今、プレイヤーでは無くこの世界の住人なんだから。
そう、エレーヌ・グーベルト伯爵令嬢なんだから。
だからこの展開は非常にマズい。
「う、んん、や、やあ……」
ルーファンとのキスの合間に零れる抵抗の言葉。
そんな私の言葉さえ飲み込もうとするルーファンの激しい口付けに、私はかぶりを振って逃れようとするが腰と後頭部に回された手で固定され逃れる事が出来ない。
(こんなに情熱的な人だったの?
ルーファンって……)
含まれる様に唇を啄まれ緩まった唇の一瞬の隙をついて、私の口内に舌を入れる。
逃れる舌を捕らえ絡ませるルーファンに、私の混乱はピークに達する。
(ファ、ファーストキスなのに……。
紗雪にとっても、エレーヌにとっても)
と、浮かんだ言葉に違和感を感じる。
(え、わ、私、こんなキスに記憶が、ある……)
生前の紗雪は恋愛とは縁遠い、干物女だった筈。
当然、SEXも経験、無い……。
無い筈なのに、なのに、こんな……。
どれ位の時間が経ったのだろう。
長いとも短いとも思えるルーファンとのキス。
唇が離れた時に私はぼんやりとした目でルーファンを見る。
ぼやけた視界でルーファンの表情が分からない。
だけど瞳の色の違いに感情が揺さぶられる。
印象の強い、アクアマリンの瞳。
どうして菫色の瞳では無いの?
(私、何かを忘れている……)
ふっと意識が薄れていく。
ふわりと身体の力が抜けて意識が遠のく。
倒れる私を抱きとめるルーファンが私に何かを囁いていたが、意識を失った私にはルーファンの言葉を聞き逃してしまった。
***
ふわり、ふわり。
ふわふわと浮遊する身体。
以前もこんな事があった。
誰かが私を抱き上げて、そっとベッドに横たえて。
涙を流している眦に口付けて私を慰めていた。
今から私は彼と結ばれる。
初めてを奪われる。
そう、捧げるのでは無く、奪われる。
私が好きなのは一柳さんなのに。
なのに私は彼に告白する事なく、今から一柳さんでは無い男性と結ばれようとしている。
「紗雪……」
貴方に呼ばれたく無い。
私は一柳さんに名前を呼ばれたかった。
貴方なんて嫌い。
大っ嫌い……。
どうして私を望むの?
どうして私の全てを奪おうとするの……。
もう充分に私から奪ったじゃ無いの?
これ以上私の何を望むの?
そんな目で私を見ないで。
憐む様な目で私を見ないで。
どうして私をそっとしておいてくれないの?
私は……。
***
「ここは……」
薄らと涙の軌跡が頬に残っている。
私、夢を見て泣いていた。
とても苦しい夢。
一柳さんでは無い、男の人の夢を見ていた……。
「お目覚めですか、エレーヌ様」
「マリーナ?」
「散策中に急に目眩を起こしたエレーヌ様を、ルーファン様が助けて下さった事を覚えてますか?」
急に告げられるマリーナの言葉に、私は言葉を詰まらせてしまう。
あの、月下美人の花々が咲き綻ぶ庭園で私はルーファンと……。
そっと唇に指を這わす。
ルーファンとキスした。
エレーヌとは初対面のルーファンが何故、キスを……。
(ルーファンが分からない。
エレーヌの事なんて知らない癖に、何故、突然唇を奪ったの?)
第2王子ルーファン……。
この世界で、エレーヌにとってどんな存在なの?
ルーファンは。
急にぶるりと身体が震える。
(何かを忘れている。
大切な何かを私は忘れている……)
その鍵を握っているのはルーファンなの?
「私は、一体、何があってこの世界に転生したの?」
呟く言葉に私はルーファンが私に告げた言葉を思い出す。
微かに聞こえた言葉に私は幻聴では無いかと疑ってしまう。
きっとそうに違いない。
だってルーファンは私の事を、紗雪と呼ぶなんて、有り得ない事だから……。
こんな事って「貴方に心ときめいて」のルーファンルートの展開であったかしら。
スチルは無かったし、今の様な庭園での出会いも、当然、無かった。
一応、ルーファンとのスチルも全てコンプリートしたけど、キスシーンは無かったし、恋愛モードに入ってもキスシーンを匂わすストーリーは無かった。
だって、ルーファンとの恋愛って綺麗過ぎて。
あんまり生々しくは無かったのよねって、紗雪ったら。
こんな状況でルーファンを攻略した時を思い出そうとしているなんて)
いや、冷静に分析なんかしている場合では無い。
私は今、プレイヤーでは無くこの世界の住人なんだから。
そう、エレーヌ・グーベルト伯爵令嬢なんだから。
だからこの展開は非常にマズい。
「う、んん、や、やあ……」
ルーファンとのキスの合間に零れる抵抗の言葉。
そんな私の言葉さえ飲み込もうとするルーファンの激しい口付けに、私はかぶりを振って逃れようとするが腰と後頭部に回された手で固定され逃れる事が出来ない。
(こんなに情熱的な人だったの?
ルーファンって……)
含まれる様に唇を啄まれ緩まった唇の一瞬の隙をついて、私の口内に舌を入れる。
逃れる舌を捕らえ絡ませるルーファンに、私の混乱はピークに達する。
(ファ、ファーストキスなのに……。
紗雪にとっても、エレーヌにとっても)
と、浮かんだ言葉に違和感を感じる。
(え、わ、私、こんなキスに記憶が、ある……)
生前の紗雪は恋愛とは縁遠い、干物女だった筈。
当然、SEXも経験、無い……。
無い筈なのに、なのに、こんな……。
どれ位の時間が経ったのだろう。
長いとも短いとも思えるルーファンとのキス。
唇が離れた時に私はぼんやりとした目でルーファンを見る。
ぼやけた視界でルーファンの表情が分からない。
だけど瞳の色の違いに感情が揺さぶられる。
印象の強い、アクアマリンの瞳。
どうして菫色の瞳では無いの?
(私、何かを忘れている……)
ふっと意識が薄れていく。
ふわりと身体の力が抜けて意識が遠のく。
倒れる私を抱きとめるルーファンが私に何かを囁いていたが、意識を失った私にはルーファンの言葉を聞き逃してしまった。
***
ふわり、ふわり。
ふわふわと浮遊する身体。
以前もこんな事があった。
誰かが私を抱き上げて、そっとベッドに横たえて。
涙を流している眦に口付けて私を慰めていた。
今から私は彼と結ばれる。
初めてを奪われる。
そう、捧げるのでは無く、奪われる。
私が好きなのは一柳さんなのに。
なのに私は彼に告白する事なく、今から一柳さんでは無い男性と結ばれようとしている。
「紗雪……」
貴方に呼ばれたく無い。
私は一柳さんに名前を呼ばれたかった。
貴方なんて嫌い。
大っ嫌い……。
どうして私を望むの?
どうして私の全てを奪おうとするの……。
もう充分に私から奪ったじゃ無いの?
これ以上私の何を望むの?
そんな目で私を見ないで。
憐む様な目で私を見ないで。
どうして私をそっとしておいてくれないの?
私は……。
***
「ここは……」
薄らと涙の軌跡が頬に残っている。
私、夢を見て泣いていた。
とても苦しい夢。
一柳さんでは無い、男の人の夢を見ていた……。
「お目覚めですか、エレーヌ様」
「マリーナ?」
「散策中に急に目眩を起こしたエレーヌ様を、ルーファン様が助けて下さった事を覚えてますか?」
急に告げられるマリーナの言葉に、私は言葉を詰まらせてしまう。
あの、月下美人の花々が咲き綻ぶ庭園で私はルーファンと……。
そっと唇に指を這わす。
ルーファンとキスした。
エレーヌとは初対面のルーファンが何故、キスを……。
(ルーファンが分からない。
エレーヌの事なんて知らない癖に、何故、突然唇を奪ったの?)
第2王子ルーファン……。
この世界で、エレーヌにとってどんな存在なの?
ルーファンは。
急にぶるりと身体が震える。
(何かを忘れている。
大切な何かを私は忘れている……)
その鍵を握っているのはルーファンなの?
「私は、一体、何があってこの世界に転生したの?」
呟く言葉に私はルーファンが私に告げた言葉を思い出す。
微かに聞こえた言葉に私は幻聴では無いかと疑ってしまう。
きっとそうに違いない。
だってルーファンは私の事を、紗雪と呼ぶなんて、有り得ない事だから……。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
完全無欠なライバル令嬢に転生できたので男を手玉に取りたいと思います
藍原美音
恋愛
ルリアーノ・アルランデはある日、自分が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界に転生していると気付いた。しかしルリアーノはヒロインではなくライバル令嬢だ。ストーリーがたとえハッピーエンドになろうがバッドエンドになろうがルリアーノは断罪エンドを迎えることになっている。
「まあ、そんなことはどうでもいいわ」
しかし普通だったら断罪エンドを回避しようと奮闘するところだが、退屈だった人生に辟易していたルリアーノはとある面白いことを思い付く。
「折角絶世の美女に転生できたことだし、思いっきり楽しんでもいいわよね? とりあえず攻略対象達でも手玉に取ってみようかしら」
そして最後は華麗に散ってみせる──と思っていたルリアーノだが、いつまで経っても断罪される気配がない。
それどころか段々攻略対象達の愛がエスカレートしていって──。
「待って、ここまでは望んでない!!」
変態王子&モブ令嬢 番外編
咲桜りおな
恋愛
「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」と
「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」の
番外編集です。
本編で描ききれなかったお話を不定期に更新しています。
「小説家になろう」でも公開しています。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました
かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。
「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね?
周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。
※この作品の人物および設定は完全フィクションです
※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。
※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。)
※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。
※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。
異世界転生先で溺愛されてます!
目玉焼きはソース
恋愛
異世界転生した18歳のエマが転生先で色々なタイプのイケメンたちから溺愛される話。
・男性のみ美醜逆転した世界
・一妻多夫制
・一応R指定にしてます
⚠️一部、差別的表現・暴力的表現が入るかもしれません
タグは追加していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる