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27話
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「ねえ、お母様。
市井に、お父様の不義の娘がいるとの噂が屋敷中に広まっているのですが、その噂は確かなのでしょうか」
「……マリーベル」
「お母様の堅い表情が物語っていますわ。
噂は確かなのですね」
「……」
「お父様も情けない。
この子爵家での当主としての立場も危ういのに、何故こうも愚かなのでしょう。
実の娘が存在するのならどうしてその娘の軽いお口を封じられないのかしら。
財産目当てでの出自の明るみを目論んだとしたら、子爵家には当然相応しい娘とは思えません。
お母様のご様子を見る限り、子爵家の爵位にはご不満がある事はお父様もご存知の筈。
侯爵家の一人娘であり社交界の麗しの薔薇とも謳われたお母様には縁談のお話が、数え切れない程あったと伺っています。
前当主であったお爺様も多情な方でしたが、お父様も流石はお爺様のご子息。
多情な血が脈々と流れている。
なんて汚らわしい……」
「マリーベル」
「皮肉にも現王妃はお父様の異母妹。
お爺様の不義の娘である王妃が、何故、国王の愛妾から王妃に成り上がったのか密やかれる噂話に、私、余りの汚らわしい内容に目眩を覚えましたの。
現王妃は、当時愛妾であったマルグリット様を卑劣な罠に陥れ、失脚させたとの噂。
下賤な生まれである王妃が何故、王家に、いいえ、この王国にて王妃として君臨しているのは……」
「……、異世界からの転生者であると貴女は言いたいのでしょう?
マリーベル」
「ええ、お母様」
「聡明なマルグリットは全てを見通し、愛妾の座から退いたわ。
そしてこの世を儚んで去っていった。
表向きはね。」
「……」
「今は、密かに亡命した隣国にて、穏やかな日々を過ごしていると手紙を貰ったわ」
「マルグリット様は本当にお優しくて美しい方だった」
(そして、ルーファン様もマルグリット様の美貌に良く似て……)
脳裏に蘇るルーファンの、冴え冴えした月の様に美しい姿にマリーベルは自身の頬が赤く染まっていくのが解る。
幼い頃から憧れていた、ルーファン。
王太子ラルフが「暁の王太子」ならば、第2王子であるルーファンは正に「月魄の王子」である。
アクアマリンを溶かした様な瞳に白銀の髪。
感情の乏しいルーファンだが、幼い頃からマリーベルには穏やかな笑みを浮かべ、遊んでくれた。
初恋とも言えるルーファンに相応しい相手に、そして、いつかは婚約者として側に立ちたいと願い、マリーベルは幼い頃から全てに於いて完璧を目指し励んでいた。
努力は確実に実を結び、マリーベルは美しく聡明な少女として成長していった。
月日は流れ、16歳の誕生日を迎えたマリーベルは、今では貴族の子息達の羨望と熱い視線を一身に受ける子爵家の隠された秘宝とまで謳われる様になった。
(もうすぐ、社交界デヴュー日を迎える。
その時、ルーファン様は私をエスコートして下さるかしら)
16歳になったマリーベルは、社交界デヴューの日を心待ちにしていた。
華やかな舞踏会に憧れを抱いているが、一番、心踊らせているのはルーファンとのファーストダンスである。
ルーファンが幼馴染のマリーベルを大切に愛しんでいるのは分かっている。
ルーファンにとって、マリーベルは実の妹の様な存在だと穏やかな微笑みが物語っている。
今はまだ、男女間の間柄では無い。
でも社交界デヴューを果たしたら、一人の女性として社交の場で、ううん、ルーファンに認められる様になったらこの想いを伝えても良いだろうか。
(貴方が誰よりも好きです、ルーファン様……)
この淡い恋心が確かな愛となり、ルーファンと共に育んでいきたい。
甘い溜息を付きながら、マリーベルは心をときめかし、ルーファンとの恋に想いを馳せる。
そんなマリーベルを母親であるレイチェルが複雑な思いで見つめているとは、甘い初恋に酔いしれているマリーベルには知る由も無かった。
市井に、お父様の不義の娘がいるとの噂が屋敷中に広まっているのですが、その噂は確かなのでしょうか」
「……マリーベル」
「お母様の堅い表情が物語っていますわ。
噂は確かなのですね」
「……」
「お父様も情けない。
この子爵家での当主としての立場も危ういのに、何故こうも愚かなのでしょう。
実の娘が存在するのならどうしてその娘の軽いお口を封じられないのかしら。
財産目当てでの出自の明るみを目論んだとしたら、子爵家には当然相応しい娘とは思えません。
お母様のご様子を見る限り、子爵家の爵位にはご不満がある事はお父様もご存知の筈。
侯爵家の一人娘であり社交界の麗しの薔薇とも謳われたお母様には縁談のお話が、数え切れない程あったと伺っています。
前当主であったお爺様も多情な方でしたが、お父様も流石はお爺様のご子息。
多情な血が脈々と流れている。
なんて汚らわしい……」
「マリーベル」
「皮肉にも現王妃はお父様の異母妹。
お爺様の不義の娘である王妃が、何故、国王の愛妾から王妃に成り上がったのか密やかれる噂話に、私、余りの汚らわしい内容に目眩を覚えましたの。
現王妃は、当時愛妾であったマルグリット様を卑劣な罠に陥れ、失脚させたとの噂。
下賤な生まれである王妃が何故、王家に、いいえ、この王国にて王妃として君臨しているのは……」
「……、異世界からの転生者であると貴女は言いたいのでしょう?
マリーベル」
「ええ、お母様」
「聡明なマルグリットは全てを見通し、愛妾の座から退いたわ。
そしてこの世を儚んで去っていった。
表向きはね。」
「……」
「今は、密かに亡命した隣国にて、穏やかな日々を過ごしていると手紙を貰ったわ」
「マルグリット様は本当にお優しくて美しい方だった」
(そして、ルーファン様もマルグリット様の美貌に良く似て……)
脳裏に蘇るルーファンの、冴え冴えした月の様に美しい姿にマリーベルは自身の頬が赤く染まっていくのが解る。
幼い頃から憧れていた、ルーファン。
王太子ラルフが「暁の王太子」ならば、第2王子であるルーファンは正に「月魄の王子」である。
アクアマリンを溶かした様な瞳に白銀の髪。
感情の乏しいルーファンだが、幼い頃からマリーベルには穏やかな笑みを浮かべ、遊んでくれた。
初恋とも言えるルーファンに相応しい相手に、そして、いつかは婚約者として側に立ちたいと願い、マリーベルは幼い頃から全てに於いて完璧を目指し励んでいた。
努力は確実に実を結び、マリーベルは美しく聡明な少女として成長していった。
月日は流れ、16歳の誕生日を迎えたマリーベルは、今では貴族の子息達の羨望と熱い視線を一身に受ける子爵家の隠された秘宝とまで謳われる様になった。
(もうすぐ、社交界デヴュー日を迎える。
その時、ルーファン様は私をエスコートして下さるかしら)
16歳になったマリーベルは、社交界デヴューの日を心待ちにしていた。
華やかな舞踏会に憧れを抱いているが、一番、心踊らせているのはルーファンとのファーストダンスである。
ルーファンが幼馴染のマリーベルを大切に愛しんでいるのは分かっている。
ルーファンにとって、マリーベルは実の妹の様な存在だと穏やかな微笑みが物語っている。
今はまだ、男女間の間柄では無い。
でも社交界デヴューを果たしたら、一人の女性として社交の場で、ううん、ルーファンに認められる様になったらこの想いを伝えても良いだろうか。
(貴方が誰よりも好きです、ルーファン様……)
この淡い恋心が確かな愛となり、ルーファンと共に育んでいきたい。
甘い溜息を付きながら、マリーベルは心をときめかし、ルーファンとの恋に想いを馳せる。
そんなマリーベルを母親であるレイチェルが複雑な思いで見つめているとは、甘い初恋に酔いしれているマリーベルには知る由も無かった。
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