「貴方に心ときめいて」

華南

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23話

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***

夢を見ている……。
身体の浮遊感。
ふわふわと心許無い。

こう、心にぽっかりと穴が開いた様に気持ちの中が空洞で。
何故、こんな気持ちになっているのだろう……。

これは生前の私の感情?
それとも今の私の感情なの?

***

(ああ、私、今、どこに居るの……)

ぼんやりとした思考で周りを見渡す。
自分の部屋では無い。
16年間、住んでいたグーベルト家では、無い。

(あ、そうか。
私、王妃付きの侍女として王宮に上がったんだ)

しんみりと今の状況を考える。
この一週間、怒濤の様な日々だった。
王宮に上がる事になって、社交界デビューも同時進行となったので、やたら準備に手を取られた。
取り敢えず、一年は確実に侍女として勤める事になったのだが、これが果たして本当か、どうか。
エレーヌの人生の先が読めない。
ゲームの中では一切、触れて無かった。

だって、モブキャラだから。

ヒロイン、リリアンヌに焦点を当てた「貴方に心ときめいて」だったから、それが今はヒロイン、リリアンヌの存在すら、感じられない。

いや、もしかして、何処かでリリアンヌが存在しているのかも。
でも、喩えそうだとしてもリリアンヌ視点では、ここの世界は回ってはいない。

多分……。

(王空に上がってから、毎日の如く、ラルフとの接触があるのよね。
オリバー兄様とは……。
ラルフに仕えているから、当然、会うかと思えば、ずっと会っていない。
王宮に上がっても、オリバー兄様も宮仕えしているから必然的に会う事と言う考えに及ばなかった。
失念していてた。
あの時は冷静では無かった。
自分の気持ちに動揺して逃れる事に必死だった。
これも今考えれば、この世界の強制システムが作動したのかしら。
うーん、紗雪として目覚めているから、中々判断に苦しい。
エレーヌの立場として常に考えて行動に移さないといけないのに、感情が先走っていつの間にかリリアンヌが辿ろうとする展開を迎えている。
形は違うけど、話の筋は間違っては、いない……)

オリバー兄様の事を思うと、今は少し気持ちを落ち着かせて考える事が出来る。
接点がない事が気持ちに余裕を持たせてくれる。

こうして会うことが少しずつ無くなれば、オリバー兄様の事も、気の迷いと考える事が出来る、かも……。

それが本来のエレーヌの感情だ。
紗雪の感情を絡ませてはいけない。
エレーヌとして振る舞い、エレーヌとして誰かに恋をして結ばれて。

王太子ラルフがエレーヌに執心なのは、毎日、贈られるプレゼントに顕著に現れている。

(ほとほと困っているのよね。
王妃様に仕える様になったばかりなのに、毎日、ラルフに絡まれて強引に渡されるプレゼントの数々に周りを気にしながらビクビクと受け取っている事に気付かないのかしら。
気付いても我関せず、と言う塩梅かな?
恋は盲目だと言うけど、ラルフ、貴方、王太子でしょう?
個人的感情を素直に出して言い訳では無いでしょう。
王太子が気に入った女性が、いる。
それが何を言うか、分からない愚か者でもあるまいし。
なのに、やたらと好き好きアピールを全面に出してエレーヌに迫ってくる。
これは何の障害もなければ、王道エンディングにまっしぐら。
エレーヌに選択肢なんて存在しないでしょう。
こんなに強引なんだから。

気持ちが追いつかない、ラルフとの恋愛に発展しそうな……)

それに、ここが本当に「貴方に心ときめいて」の世界とは随分、かけ離れた世界だと思い知らされているけど……。

ラルフとの恋愛だって、本来ならばヒロインであるリリアンヌが不在だから、成り立っているだけであってエレーヌを本当に好きであるかは疑わしい。
リリアンヌに向ける感情が、そのままそっくりエレーヌ移行されている。

まあ、本来の王太子ラルフとは性格がかなりかけ離れているが……。

でもエレーヌに向ける情熱的な視線は疑いようも無い程、エレーヌにラルフは恋い焦がれている。
このまま何も障害が無ければ、ラルフとの王道エンディングを迎える事になる。

だが、ここにエレーヌの気持ちが伴えばの話だけど。
紗雪としての気持ちが勝っているエレーヌには、ラルフの思いは正直、荷が重い。
気持ちが追いつかない。

ゲームでは確かに、恋愛に発展する段階を事前に知っているし、客観的に恋愛を捉えているので、そこまでの気持ちに深く入らない。
あくまでもゲームとして考えていたから、ラルフとの恋愛は。

でも今は「貴方に心ときめいて」の世界に、いる。

そして何故かは今でも思うのだが、エレーヌがヒロインとして立たされている。

(素直にラルフの想いを受け入れる事が出来ないのよね。
王宮に上がる事は、この事も想定していたけど、でも、こんなに気持ちをアピールされるとは思わなかった。政治的要因も絡んでくるラルフとの恋愛は常に身の危険を感じていなければいけないし。
まだ一週間だけど、社交界デビューでラルフとのファーストダンスを注目を浴びたら……。

もう、逃げられない。
未来の王妃候補として舞台に立たされてしまう。
ラルフを好きだと言う感情が育つかどうか解らないけど状況で、王妃候補にされてしまう)

ラルフの美麗な姿を思い浮かべる。

確かに主要キャラだけあって、完璧な美貌である、
それに未来国王となる人物なので、本来ならば性格も完璧である。

だがここは「貴方に心ときめいて」ての世界とは少し、世界観が違う。

それに王妃との険悪な設定であるラルフが、王妃との関係が良好だ。

それもその筈だと、私はつい、唸ってしまう。

義母である王妃の設定は確かに同じなのだが、それがどうして、こうなっているのか……。

(ここでは国王は王妃を3、迎えている事になっている……)

第二王子の母親であるマルグリット。
息子を国王にするが為に散々、リリアンヌとラルフの恋愛を妨害しまくる。
陰謀渦巻くラルフとの恋愛はスリリングで本当に、胸キュンな、ドキドキ展開で。
流石に主要キャラだわ、と思わせる。

でも、マルグリットは既にこの世を去っている展開になっている。
それも表向きは病死で。

では、3人目は誰かと言えば、私は言葉に窮する事に、なる……。

***


何故、こんな展開になっているのか……。
どうして、彼女が現王妃となっているのか。

ずっと私は疑問に思っていた。
その疑問が解かれる時、私は一つの答えを導き出す。



その事に気付くのは、もう少し後の事。
全てが繋がっている事に気付く事になるのは。


(何処かで時間のズレが生じたのか、確かに、である。
まあ、国王もまだ40代の男盛りで、若々しいと噂されているが、どうして……)

初めて王妃に謁見した時の衝撃。

確かに、彼女だった。

ああ、だからエレーヌがヒロインとして成立しているのか……。

妖艶な笑みを浮かべて私を見詰めている。
色々な感情が入り混じった、そんな目で私を射抜いている。

(ああ、なんでこうなっているの?)

本来のヒロインであるリリアンヌが現王妃なんて。

どうして、こんな展開を迎えているの。

私は驚愕な現実に立たされ、ただただ茫然に、王妃であるリリアンヌを見詰めていた。
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