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13話
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「表向きは王妃付きの侍女としてだが、俺の婚約者候補として王都に迎えたい」
王太子ラルフの意外な言葉に、グーベルト伯爵夫妻は互いの顔を見合わせ深い溜息を漏らす。
未来の国王の前で不敬では無いかと思われても、ここは王都でも王室でも無く、グーベルト伯爵家である。
多少の不敬はこの際関係ない、大切な一人娘の未来がかかっている。
グーベルト伯爵はラルフに問う。
「エレーヌ本人の意思は尊重はされないのですか?」
伯爵の意外な問いにラルフは即座に聞き返す。
「本人の意思とはどう言う意味だ?
未来の王妃候補として迎えられる名誉をエレーヌは望まないと言うのか。
それに其方の言動にも些か疑問なのだが。
其方はエレーヌが王都に上がる事をまるで拒んでいると言った風情では無いか。
年頃の娘がこんな辺境地での生活に満足していると言いたげだが」
「エレーヌがこの領地での生活に不満を抱いて等、一切ありません。
あの娘はこのグーベルト家を心から愛しています」
「……王都での華やかな生活を知らないからそう言ってるだけであって、一度でも王都に行けば直ぐにでも気持ちが変わるだろう」
ラルフの言いぶりに伯爵夫人はやんわりと微笑む。
「我が娘は王都の令嬢の様に、上辺だけの華やか生活を望む様な愚かな娘ではございません。
エレーヌは事の真実を見極める目を持ち合わせています。
華やかな社交の場が貴族達の様々な思惑で成り立っていると直ぐに察するでしょう。
心根の美しいエレーヌにとって王都の醜い権力争いは心を痛める要因でしかありません。
私はエレーヌには、王都の、いいえ、貴族社会での愚かで醜い争いの渦中に身を投じさせる事に断固として反対です」
「アデリーヌ」
「ラルフ様。
無礼を承知で敢えて伺います。
何故、エレーヌを未来の王妃候補に望まれるのですか?
貴方様がエレーヌに想いを寄せられているとは、到底思えません」
「……勝手に判断するな」
剣呑な声音でラルフが呟く。
ラルフの口調の変化にアデリーヌは一瞬、言葉を失う。
そして意外過ぎる事実に夫妻の表情が強張っていく。
「ま、まさか、貴方様はエレーヌに……。
何時、貴方様がエレーヌに出会いましたか?
エレーヌはこのグーベルト家からも、領地からも一切、出た事もございません。
貴方様との接点なんて」
「……数年前から、時折エレーヌを垣間見ていた。
このグーベルト家に赴いては、エレーヌの姿を密かに見詰めていた」
「……」
「エレーヌに心を奪われている。
あの汚れなど知らない心優しく美しいエレーヌに私は恋をした。
最初、オリバーの掌中の珠であり、最愛の妹であるエレーヌがどの様な娘であるか興味を抱き、グーベルト家に忍んで姿を垣間見て。
王都から帰郷したオリバーに輝く様な笑顔で出迎え、喜ぶエレーヌに一瞬にして目を奪われた」
「……」
「エレーヌを我が妻にと望んでいる。
王妃候補としてでは無く、未来の王妃として私の側にいて欲しい。
これが俺の偽りない想いである」
ラルフの真摯な言葉にグーベルト伯爵夫妻は呆然とし、暫し言葉を失うのであった。
王太子ラルフの意外な言葉に、グーベルト伯爵夫妻は互いの顔を見合わせ深い溜息を漏らす。
未来の国王の前で不敬では無いかと思われても、ここは王都でも王室でも無く、グーベルト伯爵家である。
多少の不敬はこの際関係ない、大切な一人娘の未来がかかっている。
グーベルト伯爵はラルフに問う。
「エレーヌ本人の意思は尊重はされないのですか?」
伯爵の意外な問いにラルフは即座に聞き返す。
「本人の意思とはどう言う意味だ?
未来の王妃候補として迎えられる名誉をエレーヌは望まないと言うのか。
それに其方の言動にも些か疑問なのだが。
其方はエレーヌが王都に上がる事をまるで拒んでいると言った風情では無いか。
年頃の娘がこんな辺境地での生活に満足していると言いたげだが」
「エレーヌがこの領地での生活に不満を抱いて等、一切ありません。
あの娘はこのグーベルト家を心から愛しています」
「……王都での華やかな生活を知らないからそう言ってるだけであって、一度でも王都に行けば直ぐにでも気持ちが変わるだろう」
ラルフの言いぶりに伯爵夫人はやんわりと微笑む。
「我が娘は王都の令嬢の様に、上辺だけの華やか生活を望む様な愚かな娘ではございません。
エレーヌは事の真実を見極める目を持ち合わせています。
華やかな社交の場が貴族達の様々な思惑で成り立っていると直ぐに察するでしょう。
心根の美しいエレーヌにとって王都の醜い権力争いは心を痛める要因でしかありません。
私はエレーヌには、王都の、いいえ、貴族社会での愚かで醜い争いの渦中に身を投じさせる事に断固として反対です」
「アデリーヌ」
「ラルフ様。
無礼を承知で敢えて伺います。
何故、エレーヌを未来の王妃候補に望まれるのですか?
貴方様がエレーヌに想いを寄せられているとは、到底思えません」
「……勝手に判断するな」
剣呑な声音でラルフが呟く。
ラルフの口調の変化にアデリーヌは一瞬、言葉を失う。
そして意外過ぎる事実に夫妻の表情が強張っていく。
「ま、まさか、貴方様はエレーヌに……。
何時、貴方様がエレーヌに出会いましたか?
エレーヌはこのグーベルト家からも、領地からも一切、出た事もございません。
貴方様との接点なんて」
「……数年前から、時折エレーヌを垣間見ていた。
このグーベルト家に赴いては、エレーヌの姿を密かに見詰めていた」
「……」
「エレーヌに心を奪われている。
あの汚れなど知らない心優しく美しいエレーヌに私は恋をした。
最初、オリバーの掌中の珠であり、最愛の妹であるエレーヌがどの様な娘であるか興味を抱き、グーベルト家に忍んで姿を垣間見て。
王都から帰郷したオリバーに輝く様な笑顔で出迎え、喜ぶエレーヌに一瞬にして目を奪われた」
「……」
「エレーヌを我が妻にと望んでいる。
王妃候補としてでは無く、未来の王妃として私の側にいて欲しい。
これが俺の偽りない想いである」
ラルフの真摯な言葉にグーベルト伯爵夫妻は呆然とし、暫し言葉を失うのであった。
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