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11話
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大人達の絶えない口論の最中、その場にぽつんと1人座っている私。
周りに漂う薫りが鼻につき顔を顰める。
(ああ、これって線香の匂いだ)
この場面は両親が交通事故で亡くなった時の場面。
葬儀の場での出来事。
相手方の親族と、そして相手方の子供達。
私と同じ位の女の子と、少し年上の男の子達。
私を見詰める目の闇さ。
哀しみとそして憎しみが鬩ぎ合っている。
互いの両親が即死だった。
交差点で急に飛び出してきた自転車を避けようとして相手の車が、私の両親の車に正面衝突。
その日は私の誕生日で。
両親共々、私のプレゼントとケーキを買って幼稚園に迎えに行く途中の出来事だった……。
***
「う、ん」
(ここは何処だろう……)
ぼんやりとした意識の中で私は幼い頃の夢を見ていた。
紗雪の運命を狂わした5歳の誕生日の出来事。
その日が誕生日では無かったら、両親は今でも存命で紗雪の人生も違った展開を迎えていた。
1人娘で大切に育てられていた。
溢れんばかりの愛情を注がれてすくすくと育っていた。
微かな記憶がそう語っている。
優しい両親に愛されて、いつも絶えない笑顔を周りに振り撒いて。
そう、今のエレーヌの様に。
「気が付いたか、エレーヌ……」
(あれ、一柳さんの声。
では無く、オリバー兄様の声が聞こえる)
「お兄様、私は……」
「お前はラルフ様からの突然の申し出に目眩を起こし、その場にて倒れた。
全く、あの馬鹿王太子はよりによって、大切なお前の誕生日に下らない話を持ち込んで」
(何時ものお兄様とはとても思えない口の悪さだわ。
本当にラルフの事が嫌いなのね。
ラルフの突然の登場に、私が誕生日に急に倒れたら、そりゃあ驚くわよね。
特にお兄様は私の5歳の時を思い出しては、鬼気迫る顔で色々するからね……)
「それでラルフ様は?」
恐る恐るお兄様の様子を窺いながら尋ねる。
額に青筋が立っている。
本気にきれているのね、お兄様。
「今、父上と母上が相手をしている。
お前の事でじっくりと相談したいと言われて。
全く持って不愉快だ。
何で王太子がグーベルト家にいる。
あの馬鹿に煌びやかな王太子が、このグーベルト家に馴染む訳無いだろう。
グーベルト家の平穏な静けさに満ちた清浄な場に邪悪で禍々しい気を引き入れて……。
ああ、早く退散してくれ、一刻も早く」
(凄い言われ様だわ。
そして益々ラルフのイメージが崩れていく。
気高く凛々しい王太子ラルフが想像出来ない。
だって、突然の登場もどうかと思えてならないし。
辺境地であるグーベルト家にお忍びで来るかしら、普通。
多分、護衛も万全たる準備をして来ているとは思うけど、でも、余りに軽い。
あ、公式ではラルフの信望者である騎士団長のライオネルが絶対にセットな筈だけど。
もしかして来ているのかな?
ライオネル……)
190センチは有にある高身長で引き締まった体躯に、見事な筋肉を持ち合わせた、騎士団長ライオネル。
年齢は27歳。
紗雪よりも2歳年下だけど、彫りが深くてキリリとした眉に切れ長の目に短髪の「黒獅子」の異名を持つ最強の騎士。
因みにラルフは20歳になる筈。
オリバー兄様と同じ歳だから。
(ちょっと見てみたいのよね。
ライオネルの騎士姿は本当にカッコ良いから。
性格も本当に真面目で忠誠心厚くて騎士の鏡の様な人だから。
ああ、見てみたい)
「あのお兄様。
私、もう大丈夫だからお父様とお母様にお伝えして」
「いや、もう少しベットで休んでいた方が良い。
その方が好都合だ。
お前が病弱だと強調する事が出来る。
そうすれば王妃様付きの侍女の件は当然、流れるだろう。
病気がちなお前が王妃様に仕える事がどれ程の無理難題か。
今回の件でお前の社交界デビューも控えた方がいい。
その方がお前の為だ、エレーヌ……」
(え、それって私がリリアンヌと出逢わないでいいって事?
それで良いのかしら。
もし、それで良かったら私はのんびりとグーベルト家で生きていける。
結婚迄の間だけど、でも、誰も私の気持ちを無視して強制はしないでしょう。
なんせ生死を彷徨っているからね、5歳の時に。
うーん、ちょっと卑怯だけど、自分を守る手段と用いる事が出来るから)
私は出来ればずっと、ここに居たいから。
家族と離れる事なくずっと。
だからラルフの話は私にとって迷惑なのよ、本音として。
だけど一応、物語の強制があるのか、私は王都に行く事が決定事項になるのよね。
社交界デビューとセットで王妃様付きの侍女として。
そこで私は、モブキャラでは無い、エレーヌの物語を紡ぎ出すことになるのよね。
ああ、どんな展開を迎えるのかしら。
超不安だわ。
周りに漂う薫りが鼻につき顔を顰める。
(ああ、これって線香の匂いだ)
この場面は両親が交通事故で亡くなった時の場面。
葬儀の場での出来事。
相手方の親族と、そして相手方の子供達。
私と同じ位の女の子と、少し年上の男の子達。
私を見詰める目の闇さ。
哀しみとそして憎しみが鬩ぎ合っている。
互いの両親が即死だった。
交差点で急に飛び出してきた自転車を避けようとして相手の車が、私の両親の車に正面衝突。
その日は私の誕生日で。
両親共々、私のプレゼントとケーキを買って幼稚園に迎えに行く途中の出来事だった……。
***
「う、ん」
(ここは何処だろう……)
ぼんやりとした意識の中で私は幼い頃の夢を見ていた。
紗雪の運命を狂わした5歳の誕生日の出来事。
その日が誕生日では無かったら、両親は今でも存命で紗雪の人生も違った展開を迎えていた。
1人娘で大切に育てられていた。
溢れんばかりの愛情を注がれてすくすくと育っていた。
微かな記憶がそう語っている。
優しい両親に愛されて、いつも絶えない笑顔を周りに振り撒いて。
そう、今のエレーヌの様に。
「気が付いたか、エレーヌ……」
(あれ、一柳さんの声。
では無く、オリバー兄様の声が聞こえる)
「お兄様、私は……」
「お前はラルフ様からの突然の申し出に目眩を起こし、その場にて倒れた。
全く、あの馬鹿王太子はよりによって、大切なお前の誕生日に下らない話を持ち込んで」
(何時ものお兄様とはとても思えない口の悪さだわ。
本当にラルフの事が嫌いなのね。
ラルフの突然の登場に、私が誕生日に急に倒れたら、そりゃあ驚くわよね。
特にお兄様は私の5歳の時を思い出しては、鬼気迫る顔で色々するからね……)
「それでラルフ様は?」
恐る恐るお兄様の様子を窺いながら尋ねる。
額に青筋が立っている。
本気にきれているのね、お兄様。
「今、父上と母上が相手をしている。
お前の事でじっくりと相談したいと言われて。
全く持って不愉快だ。
何で王太子がグーベルト家にいる。
あの馬鹿に煌びやかな王太子が、このグーベルト家に馴染む訳無いだろう。
グーベルト家の平穏な静けさに満ちた清浄な場に邪悪で禍々しい気を引き入れて……。
ああ、早く退散してくれ、一刻も早く」
(凄い言われ様だわ。
そして益々ラルフのイメージが崩れていく。
気高く凛々しい王太子ラルフが想像出来ない。
だって、突然の登場もどうかと思えてならないし。
辺境地であるグーベルト家にお忍びで来るかしら、普通。
多分、護衛も万全たる準備をして来ているとは思うけど、でも、余りに軽い。
あ、公式ではラルフの信望者である騎士団長のライオネルが絶対にセットな筈だけど。
もしかして来ているのかな?
ライオネル……)
190センチは有にある高身長で引き締まった体躯に、見事な筋肉を持ち合わせた、騎士団長ライオネル。
年齢は27歳。
紗雪よりも2歳年下だけど、彫りが深くてキリリとした眉に切れ長の目に短髪の「黒獅子」の異名を持つ最強の騎士。
因みにラルフは20歳になる筈。
オリバー兄様と同じ歳だから。
(ちょっと見てみたいのよね。
ライオネルの騎士姿は本当にカッコ良いから。
性格も本当に真面目で忠誠心厚くて騎士の鏡の様な人だから。
ああ、見てみたい)
「あのお兄様。
私、もう大丈夫だからお父様とお母様にお伝えして」
「いや、もう少しベットで休んでいた方が良い。
その方が好都合だ。
お前が病弱だと強調する事が出来る。
そうすれば王妃様付きの侍女の件は当然、流れるだろう。
病気がちなお前が王妃様に仕える事がどれ程の無理難題か。
今回の件でお前の社交界デビューも控えた方がいい。
その方がお前の為だ、エレーヌ……」
(え、それって私がリリアンヌと出逢わないでいいって事?
それで良いのかしら。
もし、それで良かったら私はのんびりとグーベルト家で生きていける。
結婚迄の間だけど、でも、誰も私の気持ちを無視して強制はしないでしょう。
なんせ生死を彷徨っているからね、5歳の時に。
うーん、ちょっと卑怯だけど、自分を守る手段と用いる事が出来るから)
私は出来ればずっと、ここに居たいから。
家族と離れる事なくずっと。
だからラルフの話は私にとって迷惑なのよ、本音として。
だけど一応、物語の強制があるのか、私は王都に行く事が決定事項になるのよね。
社交界デビューとセットで王妃様付きの侍女として。
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ああ、どんな展開を迎えるのかしら。
超不安だわ。
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