「貴方に心ときめいて」

華南

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9話

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(どうして此処に、王太子ラルフがいるの……。
だってラルフはゲームの展開ではヒロインのリリアンヌと、お忍びで視察に来ていた孤児院で運命的な出会いを果たしている筈。
子供達に囲まれて賛美歌を歌うリリアンヌを垣間見て、ラルフは一目で恋に落ちるのよ。
そしてリリアンヌの身元を調べて、リリアンヌが孤児では無くエドモンド子爵家の娘だと突き止めるの。
そして、一ヶ月後、社交界デビューをリリアンヌは果たす事になる。
ラルフがリリアンヌを舞踏会に招待するから。
そして、私、エレーヌもこの舞踏会で社交界デビューを果たすの。
エレーヌもリリアンヌと舞踏会で出会い、友人となる。

だから今、ラルフが此処にいてはイベントが発動しない。
ヒロインの、ううん、「貴方に心ときめいて」自体の物語が始まらない。

一体、どうゆう事なの?
どうしてラルフは此処にいるの?
何故、辺境地であるグーベルト家にラルフが登場するの……)

ラルフとリリアンヌとの出会いはどうなるの?

ガタガタと身体が震えてしまう。
ここは、「貴方に心ときめいて」と全く同じ舞台である筈。
今までの展開も私がモブキャラと言うだけで、物語に影響なんて無い筈よ。
だって、物語はあくまでもヒロインであるリリアンヌの視点で展開するのだから。

私の……。

エレーヌの視点で展開なんて、絶対にあり得ない!

なのに今ラルフは、私との出会いを果たしている。
リリアンヌでは無く、エレーヌと。

(私は一体、「ここ」でどんな立場なの?)

エレーヌは「貴方に心ときめいて」では唯のモブキャラ。
それ以上もそれ以下も無い。
物語になんの影響も与えない、唯のモブキャラなのに。

驚愕の余り言葉を発さないエレーヌを、ラルフは面白げに見詰めている。

(オリバーが溺愛している妹のエレーヌとは「初めて」の対面だと言うのに、なんだこの娘の驚き様は。
まるで俺の事を見知っている様子ではないか……)

面白い、とラルフはぼそりと呟く。

チラリとオリバーに視線を落とすと、忌々しげに舌打ちをしている。
王太子の急な出現に不機嫌さを隠す事なく露わにしている。

(ふふふ、溺愛している妹とのひと時を邪魔された事に憤慨しているのか。
それとも妹に邪な感情を抱いて近づこうとしていると思い、剣呑な目で俺を見ているのか。
どちらにしても俺の登場が気に食わないんだな)

くつくつと苦笑を漏らしながら、ラルフはエレーヌの前に立つ。

「逃げないでくれないか、エレーヌ」

急に自分の名を呼ぶラルフにエレーヌはただただ呆然とラルフを見ていた。

(ど、どうしてラルフが私の名前を知っているの?
もう、「貴方に心ときめいて」のあらすじを全く無視した展開だわ。
ど、どうなるの……)

「あ、私……」

(こんなに間近で神々しい迄の美貌と、超絶美ボイスを聴いて、私……。
二次元が実写になればどうなるかと考えた事は無かったけど。
余りに非現実的だから。
でも、これはくる……。
流石に、や、ヤバいわ、紗雪。
主要キャラだけあって、絵師さんと製作者側の力の入れ具合が半端ない程の美形だもん。
それに声は、まあ……。
駄目、うっとりしそう。
既にしている。
一柳さんとはまた別次元の声よ。
もう、反則。
こんなのありなの?

烟るような金髪に、深い海の様な紺碧の瞳。
ああ、陳腐な言葉しか浮かばない。
なんて言う美貌なのっ!
鑑賞するには最高な美形だわ……)

うん、側にいるには余りにしんどい美形だけど。
神々し過ぎて。

「ずっと、お前と語りたいと思っていた、エレーヌ」

(は?
な、何ですと……。
今、なんて言いましたか?

うん、空耳だ、きっと。
こんな展開ある訳、無い。
絶対に無い……。

モブキャラがヒロインを差し置いて出しゃばるなんて……)

ああ、私、これからどんな展開を迎えるの……。
誰か教えて、お願いっ!
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