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3話
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「今頃、ディオンと結衣は「蜜月」を迎えているか」
くすくすと笑いながら佑はみのりに告げる。
佑の言葉にみのりは歯を食いしばり顔を背ける。
「ずっとお預けを喰らったのだから、結衣も数日間はディオンから解放されないだろう。
僕と一緒だ……」
楽しげに語っていた口調に艶が含まれる。
みのりに向ける視線は捕食者のそれだ。
みのりは佑から距離を取ろうとするが佑に腕を掴まれ、ベッドへと誘われる。
みのりの背にじっとりと汗が滲む。
ばくばくと心臓が激しく音を立てる。
今から自分も結衣と同じく佑に身体を奪われる。
逃れる事は出来ない。
拒む事は出来ない。
拒めば最後。
佑は直ぐにでも結衣の命を奪うだろう。
何の躊躇いもなく、あっさりと。
そして結衣の命を守ろうとする恒の命までも。
今までこの男の求愛を拒んだのは、ただただ結衣の命を守る為。
愛しても無い、いや、この世で一番憎んでいる。
憎しみ?
そんな単純な言葉では済まされない。
もし赦されるのならこの男の命を今直ぐにでも消し去りたい。
和彦と同じく無惨な死を迎えさせたい。
自らの手で命を奪いたい。
みのりが愛しているのは今でも和彦だけ。
優しくて穏やかで、一人娘の結衣を慈しむ。
最初みのりにとって和彦は同じ職場の上司と部下と言う関係。
それ以上でもそれ以下でも無かった。
それがいつから上司と言う関係以上の感情を抱いたのだろうか……。
心にすっぽりと和彦が住み着いたのだろうか。
気付くと自然と和彦の姿を追い見詰める自分に気付いた。
恋に陥る自分に戸惑いながらも、甘い感傷に浸る自分に苦笑して。
亡くなった妻の分までも結衣を幸せにしようとする、和彦の懸命な姿にみのりは心惹かれた。
激しい恋では無い。
情熱的な恋愛とはとても言い難い。
でもこの人と生涯を共にしたい。
巡りめく季節の変わり目を、過ぎていく日々を同じ目線で見詰めていきたい。
そんな優しい感情。
和彦に抱いたのは、そんな静かな愛であった。
仄昏い感情で佑を睨む。
この男の摂理でみのりが番だと言うのなら、自分にとって番と言える人は亡くなった結衣の父親。
和彦、ただ一人だ。
だから和彦の遺児である結衣をみのりは護らないといけない。
誰よりも幸せにしないといけない。
愛する人と出会い幸せな結婚をして、誰よりも幸せに。
その姿を見る事がみのりの願いであり生きる全てであった。
だからみのりは佑に告げた。
結衣が高校を卒業するまでは佑の求愛を受け入れる事は出来ない、と。
もしそれまでに結衣の命を奪う事があれば、みのりは躊躇う事なく命を捨てると。
みのりの揺るぎない思いに、幼い佑は結衣に激しい怒りと憎しみを抱いた。
番である佑では無く、結衣のみにみのりは心を寄せている。
柔らかい笑みを愛情を慈しみを惜しみなく注いでいる。
番である佑には一切、注ぐことの無い感情。
幼い結衣を見る度に佑は結衣をこの世から抹殺したい衝撃に捉われていた。
今直ぐにでも結衣の頚をこの手で縊りみのりの目の前に晒して、佑だけがみのりの唯一だと示したい。
獣王である佑の、高貴なる愛を捧げる相手はみのりだけ。
その偉大なる愛に気付かないみのりに幼い佑は苛立ちを募らせるばかり。
(みのりの心に存在するのは僕だけなのに。
なのに何故、その事に気付かない)
佑にとって番であるみのり以外は塵芥に過ぎない。
「兄」である恒も、「恋人」である結衣も。
人としての感情も、常識も佑には一切、持ち合わせていない。
あるのはみのりに対する異常な執着と偏愛。
ただそれだけ。
そして今、長年の想いが成就されようとしている。
組み敷くみのりを佑はうっとりとした眼で見つめていた。
蕩ける様な甘い笑み。
女性よりも麗しい美貌の佑。
花が綻んだ様な壮絶な色気を佑は全身に漂わせてみのりに視線を注ぐ。
今から愛しい番をこの手で乱す事が出来る。
愛を交わす事が出来る。
その歓喜が佑の理性を狂わそうとしている。
ずっとこの日を待ち望んでいた。
番との蜜月を。
今でも鮮明に瞼に思い浮かぶ。
初めてみのりに会った時の衝撃を。
この世界に転移してから微かに漂う芳香。
まだ意識を持たない幼児であった自分をこの世界に導いた光。
幼体の自分にはその光が、芳香が何なのか理解出来なかった。
ただこの薫りの源が自分が求める全てだと本能が告げていた。
「兄」である恒も、自らを狂わせる芳香を求めていた。
そして数年の時を経て、佑も、恒も、その芳香の根原にたどり着く事が出来た。
互いが求める場所がたまたま同じであった運命の皮肉さに佑は顔を歪ませるのだか。
佑はみのりを、そして恒は結衣を番と認めた。
唯一、愛を捧げる相手として。
獣人である佑が生涯求める番として。
「今頃、ディオンと結衣は「蜜月」を迎えているか」
くすくすと笑いながら佑はみのりに告げる。
佑の言葉にみのりは歯を食いしばり顔を背ける。
「ずっとお預けを喰らったのだから、結衣も数日間はディオンから解放されないだろう。
僕と一緒だ……」
楽しげに語っていた口調に艶が含まれる。
みのりに向ける視線は捕食者のそれだ。
みのりは佑から距離を取ろうとするが佑に腕を掴まれ、ベッドへと誘われる。
みのりの背にじっとりと汗が滲む。
ばくばくと心臓が激しく音を立てる。
今から自分も結衣と同じく佑に身体を奪われる。
逃れる事は出来ない。
拒む事は出来ない。
拒めば最後。
佑は直ぐにでも結衣の命を奪うだろう。
何の躊躇いもなく、あっさりと。
そして結衣の命を守ろうとする恒の命までも。
今までこの男の求愛を拒んだのは、ただただ結衣の命を守る為。
愛しても無い、いや、この世で一番憎んでいる。
憎しみ?
そんな単純な言葉では済まされない。
もし赦されるのならこの男の命を今直ぐにでも消し去りたい。
和彦と同じく無惨な死を迎えさせたい。
自らの手で命を奪いたい。
みのりが愛しているのは今でも和彦だけ。
優しくて穏やかで、一人娘の結衣を慈しむ。
最初みのりにとって和彦は同じ職場の上司と部下と言う関係。
それ以上でもそれ以下でも無かった。
それがいつから上司と言う関係以上の感情を抱いたのだろうか……。
心にすっぽりと和彦が住み着いたのだろうか。
気付くと自然と和彦の姿を追い見詰める自分に気付いた。
恋に陥る自分に戸惑いながらも、甘い感傷に浸る自分に苦笑して。
亡くなった妻の分までも結衣を幸せにしようとする、和彦の懸命な姿にみのりは心惹かれた。
激しい恋では無い。
情熱的な恋愛とはとても言い難い。
でもこの人と生涯を共にしたい。
巡りめく季節の変わり目を、過ぎていく日々を同じ目線で見詰めていきたい。
そんな優しい感情。
和彦に抱いたのは、そんな静かな愛であった。
仄昏い感情で佑を睨む。
この男の摂理でみのりが番だと言うのなら、自分にとって番と言える人は亡くなった結衣の父親。
和彦、ただ一人だ。
だから和彦の遺児である結衣をみのりは護らないといけない。
誰よりも幸せにしないといけない。
愛する人と出会い幸せな結婚をして、誰よりも幸せに。
その姿を見る事がみのりの願いであり生きる全てであった。
だからみのりは佑に告げた。
結衣が高校を卒業するまでは佑の求愛を受け入れる事は出来ない、と。
もしそれまでに結衣の命を奪う事があれば、みのりは躊躇う事なく命を捨てると。
みのりの揺るぎない思いに、幼い佑は結衣に激しい怒りと憎しみを抱いた。
番である佑では無く、結衣のみにみのりは心を寄せている。
柔らかい笑みを愛情を慈しみを惜しみなく注いでいる。
番である佑には一切、注ぐことの無い感情。
幼い結衣を見る度に佑は結衣をこの世から抹殺したい衝撃に捉われていた。
今直ぐにでも結衣の頚をこの手で縊りみのりの目の前に晒して、佑だけがみのりの唯一だと示したい。
獣王である佑の、高貴なる愛を捧げる相手はみのりだけ。
その偉大なる愛に気付かないみのりに幼い佑は苛立ちを募らせるばかり。
(みのりの心に存在するのは僕だけなのに。
なのに何故、その事に気付かない)
佑にとって番であるみのり以外は塵芥に過ぎない。
「兄」である恒も、「恋人」である結衣も。
人としての感情も、常識も佑には一切、持ち合わせていない。
あるのはみのりに対する異常な執着と偏愛。
ただそれだけ。
そして今、長年の想いが成就されようとしている。
組み敷くみのりを佑はうっとりとした眼で見つめていた。
蕩ける様な甘い笑み。
女性よりも麗しい美貌の佑。
花が綻んだ様な壮絶な色気を佑は全身に漂わせてみのりに視線を注ぐ。
今から愛しい番をこの手で乱す事が出来る。
愛を交わす事が出来る。
その歓喜が佑の理性を狂わそうとしている。
ずっとこの日を待ち望んでいた。
番との蜜月を。
今でも鮮明に瞼に思い浮かぶ。
初めてみのりに会った時の衝撃を。
この世界に転移してから微かに漂う芳香。
まだ意識を持たない幼児であった自分をこの世界に導いた光。
幼体の自分にはその光が、芳香が何なのか理解出来なかった。
ただこの薫りの源が自分が求める全てだと本能が告げていた。
「兄」である恒も、自らを狂わせる芳香を求めていた。
そして数年の時を経て、佑も、恒も、その芳香の根原にたどり着く事が出来た。
互いが求める場所がたまたま同じであった運命の皮肉さに佑は顔を歪ませるのだか。
佑はみのりを、そして恒は結衣を番と認めた。
唯一、愛を捧げる相手として。
獣人である佑が生涯求める番として。
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