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ドンドンドンッ!
と、壁を叩くような音で強制的に目が覚めた。
「もう、一体なんなのよ……」
強制的に起こされたので、また頭がボーッとする。
折角気持ちよく眠っていたのに、こんな目覚め方ってない。
一体どこの馬鹿なのよ。壁なんか殴るの。
普通に考えれば家族の誰かなんだけど──うちは一軒家だからね──そんな馬鹿な事を仕出かす人物は居ない筈。
それに、私に用があるなら普通に起こせばいいだけだしね。
なら、この音は何なの?
未だにはっきりと覚醒しない頭で、相変わらず鳴り響いている音の発生源を探す。
壁からだと思っていたけど、それはどうやらドアの方から聞こえてきているらしい。
部屋に鍵なんかつけてないんだけどなぁ……。と、思いながら渋々とベッドから降りたところで、違和感を感じた。
んーっと、私の部屋のドアってこんな頑丈そうな木のドアだったっけ?
そういえば、ベッドの位置も違うような気がするし第一、内装がこんなのじゃなかった。
それにベッドのマットもなんか固い感じ?
いやでも、この部屋に見覚えがないわけでもないし……。
うーんと悩んでいる最中でも、ドアを叩く音は止まらない。
ほんっとうに、どこの馬鹿よ!
「うるさいっ!」
これだけ騒音を聞かされていたら、さすがに温厚の私でも怒鳴るというものだ。
私の怒声が聞こえたのか、さっきまでの騒音はピタリと止まった。まるで私の声を待っていたかのように。
「ユウ、起きたのか……?」
恐る恐るといった感じでドアの外から、男性の声が聞こえてきた。
ドア越しだからか、若干くぐもった感じの声だけど。
『ユウ』とは私の事だけど、この声に聞き覚えはない。ない?
いや、多分……。
寝起きの所為か、まだ脳がきちんと覚醒していないみたい。
「ユウ、起きているよな?
ドアを開けてくれないか?」
返答がない事に焦れてか、今度は少しばかり大きな声で聞こえる。
『ユウ』という名の他の人かと思う事にして、無視しようと思ったけどこの状況なら無理なんだろうな。
明らかにこの部屋のドアの向こうにいるみたいだし。
さっき怒鳴ったから、起きている事には気付いているんだろうし。
それに、このまま無視をし続けるという状況はもっと酷い事になるのは間違いない気がする。
あー……。
この声の人物に心当たりがあれば躊躇なく開けられるんだけど、仕方ないよね。
寝起きの乙女の顔を見るわけだから、大した用事じゃなければ問答無用で殴ってやるんだから。
でも……。顔ぐらいは洗ってもいいよね?
いや、寝癖チェックは必要だろうし、いやいやその前に私、パジャマのままじゃないっ!
着替えぐらいさせてもらえないかな。それぐらいの時間はくれるよね?
普通は、くれるよね?
「ユウッ!」
「分かった、分かったから叫ばないでっ!」
相手はかなり焦っている様子。
どうやら着替えの時間も、いや顔を洗う時間すらも、もらえないようです。
本当、乙女をなんだと思ってるんだ。
心の中でぶちぶちとぼやきつつドアの取っ手へと手を伸ばす。
──っと。
「あー……、そういえばあなたはどなたでしょうか?
すみませんが、お名前をお聞かせ願えますか?」
名前に心当たりがあれば、幾分か気持ちがマシになるかなぁとただそう思ったからなんだけどね。
だから別に、相手を焦らしているわけではないよ、うん。
「ナユタだ」
ナユタ……?
また、えらく珍しい名前ねー。そんな名前の知り合い……っ?!
私は慌ててドアノブを回すと、勢い良くドアを開けた。
そこには私の予想と違わず、身長二メートルほどのガッチリとまではいかないがしっかりと筋肉のついた、いわゆる細マッチョに近い体躯をした男性が立っていた。
背中まである癖のない艶やかな黒髪を後ろで一まとめにして括り、健康的な小麦色の肌と若干釣り目の為かややきつそうな印象を受ける顔。
それでも其々のパーツが均整が取れている為、カッコイイ部類に入る顔だ。
種族の特性である縦長の瞳孔の瞳は金色で、今は釣り目のその瞳が心なしか潤んでいる。
目の印象の所為で、性格もきつそうに見られるナユタだけど実際はその反対。
とても優しい、面倒見の良いお兄さんだ。
「ナユタが此処にいるっていう事は、あれ?
私、何時の間にログインしていたの?
え……?
でも、VRって寝オチしたら強制的にログアウトだよね?
え? これは夢……? 夢、だよね? 夢なの……?」
完全に混乱してきた。最早自分が何を言ってるのか自分でも分からない。
そんな私を落ち着かせようとしたのか、ナユタがそっと私を抱きしめると、優しく背中を撫でてくれる。
「ナユタ……?」
じんわりと服越しにナユタの体温が感じられる。落ち着かせるように撫でられる背中にも。
夢……というより、VRなのかな? どちらかというとこの感覚は……。
寝オチしていたわけではなく、敵の攻撃でも受けて意識が強制的に飛んでいただけなのかな、もしかして?
そして死に戻りして、宿屋にいたとか?
「落ち着いたか……?」
「ん……。ありがとう」
落ち着きはしたけど、現状把握は全く出来ていない。
とりあえず、ナユタに聞いてみれば分かるよね。
「あのさ、ナユタ……」
「ユウ、とりあえず座って話さないか」
「あ、うん」
とは言っても、この部屋には椅子は一脚しかない。
「あ、えっとナユタはそっちの椅子に座って。私はベッドに座るから」
ナユタの胸を軽く押して身体を開放してもらうと、私はそのままベッドに座った。
ナユタは私の言葉通りに椅子に座ってくれると思っていたけど、何故か同じようにベッドに座った。
「ナユタ?」
「こっちの方が……。近くで話したい」
今までとどこか雰囲気の違う、真剣な表情で告げるナユタに、少しの違和感を感じながらも拒否する理由もなかったので私は頷いた。
「ねぇ、ナユタ。私、もしかして戦いの途中に気絶しちゃったのかな?
どうして此処にいるかよく思い出せないんだけど、宿屋だよね? ここ」
この簡易な内装は、ログアウトする時に使用している宿屋と同じ印象だったから間違いないと思う。
そうだよ、と続く返事を待っていたのに何時まで経っても何も返ってこなかった。
なんで無視……?
私、何かナユタの気に障ることした?
もしかしてさっきすぐにドアを開けなかったから、それで?
いやでも、ナユタはそんな意地悪な人じゃなかったし……。
「……。
ユウは、覚えてないのか?」
「あ、うん。ごめんね?
寝起きの所為かな?
いや、寝起きというか、気絶の所為?
今一、現状把握出来てない……」
「そうか……。
今から俺が言う事で更に混乱すると思う。
それは当たり前だから、だから覚悟をもって聞いて欲しい」
な、何?
気絶した所為でSランクアイテム壊れたとか?
所持金が半分消えたとか?
まさかまさか、レベルが一になったとかっ?!
そんなペナルティ、今まで聞いた事なかったけど、レベル一ならマジで泣く。もう号泣、いや号泣なんてものじゃない。ショックすぎて当分ログインしないかも……。
それでも止める事を考えない私は、間違いなくこのゲームにのめり込んでいるんだろうけど。
「大丈夫か?」
「あ、うん。覚悟ね、覚悟……」
レ、レベル一でも泣かないから。レベル一……。
あ、聞く前から涙が出てきそう。
ナユタは私の内心に気付く筈もなく、大きく深呼吸を一つした。
どうやら話す方にも相当覚悟がいるらしい。
そこまで覚悟が強いられる状況ってなんなのよ、一体。
「──ユウ。
ここは、VRでもなく夢でもなく、現実、なんだ」
「レ、レベル……。ん? 現実?」
レベル一と呟きそうになって、どうやら違うらしかったのでナユタの言葉を慌ててなぞってみた。
「いいか、ここは、現実だ」
「ふーん。現実なんだ。……って現実っ!?」
どうやら私があまり理解出来ていないと思われたのか、今度はゆっくりと区切って分かりやすいようにナユタは言った。
「ここは、VRの世界でもなく、夢でもなく、現実。
ついでに言うならば──異世界だと思う」
──異世界だ、と。
と、壁を叩くような音で強制的に目が覚めた。
「もう、一体なんなのよ……」
強制的に起こされたので、また頭がボーッとする。
折角気持ちよく眠っていたのに、こんな目覚め方ってない。
一体どこの馬鹿なのよ。壁なんか殴るの。
普通に考えれば家族の誰かなんだけど──うちは一軒家だからね──そんな馬鹿な事を仕出かす人物は居ない筈。
それに、私に用があるなら普通に起こせばいいだけだしね。
なら、この音は何なの?
未だにはっきりと覚醒しない頭で、相変わらず鳴り響いている音の発生源を探す。
壁からだと思っていたけど、それはどうやらドアの方から聞こえてきているらしい。
部屋に鍵なんかつけてないんだけどなぁ……。と、思いながら渋々とベッドから降りたところで、違和感を感じた。
んーっと、私の部屋のドアってこんな頑丈そうな木のドアだったっけ?
そういえば、ベッドの位置も違うような気がするし第一、内装がこんなのじゃなかった。
それにベッドのマットもなんか固い感じ?
いやでも、この部屋に見覚えがないわけでもないし……。
うーんと悩んでいる最中でも、ドアを叩く音は止まらない。
ほんっとうに、どこの馬鹿よ!
「うるさいっ!」
これだけ騒音を聞かされていたら、さすがに温厚の私でも怒鳴るというものだ。
私の怒声が聞こえたのか、さっきまでの騒音はピタリと止まった。まるで私の声を待っていたかのように。
「ユウ、起きたのか……?」
恐る恐るといった感じでドアの外から、男性の声が聞こえてきた。
ドア越しだからか、若干くぐもった感じの声だけど。
『ユウ』とは私の事だけど、この声に聞き覚えはない。ない?
いや、多分……。
寝起きの所為か、まだ脳がきちんと覚醒していないみたい。
「ユウ、起きているよな?
ドアを開けてくれないか?」
返答がない事に焦れてか、今度は少しばかり大きな声で聞こえる。
『ユウ』という名の他の人かと思う事にして、無視しようと思ったけどこの状況なら無理なんだろうな。
明らかにこの部屋のドアの向こうにいるみたいだし。
さっき怒鳴ったから、起きている事には気付いているんだろうし。
それに、このまま無視をし続けるという状況はもっと酷い事になるのは間違いない気がする。
あー……。
この声の人物に心当たりがあれば躊躇なく開けられるんだけど、仕方ないよね。
寝起きの乙女の顔を見るわけだから、大した用事じゃなければ問答無用で殴ってやるんだから。
でも……。顔ぐらいは洗ってもいいよね?
いや、寝癖チェックは必要だろうし、いやいやその前に私、パジャマのままじゃないっ!
着替えぐらいさせてもらえないかな。それぐらいの時間はくれるよね?
普通は、くれるよね?
「ユウッ!」
「分かった、分かったから叫ばないでっ!」
相手はかなり焦っている様子。
どうやら着替えの時間も、いや顔を洗う時間すらも、もらえないようです。
本当、乙女をなんだと思ってるんだ。
心の中でぶちぶちとぼやきつつドアの取っ手へと手を伸ばす。
──っと。
「あー……、そういえばあなたはどなたでしょうか?
すみませんが、お名前をお聞かせ願えますか?」
名前に心当たりがあれば、幾分か気持ちがマシになるかなぁとただそう思ったからなんだけどね。
だから別に、相手を焦らしているわけではないよ、うん。
「ナユタだ」
ナユタ……?
また、えらく珍しい名前ねー。そんな名前の知り合い……っ?!
私は慌ててドアノブを回すと、勢い良くドアを開けた。
そこには私の予想と違わず、身長二メートルほどのガッチリとまではいかないがしっかりと筋肉のついた、いわゆる細マッチョに近い体躯をした男性が立っていた。
背中まである癖のない艶やかな黒髪を後ろで一まとめにして括り、健康的な小麦色の肌と若干釣り目の為かややきつそうな印象を受ける顔。
それでも其々のパーツが均整が取れている為、カッコイイ部類に入る顔だ。
種族の特性である縦長の瞳孔の瞳は金色で、今は釣り目のその瞳が心なしか潤んでいる。
目の印象の所為で、性格もきつそうに見られるナユタだけど実際はその反対。
とても優しい、面倒見の良いお兄さんだ。
「ナユタが此処にいるっていう事は、あれ?
私、何時の間にログインしていたの?
え……?
でも、VRって寝オチしたら強制的にログアウトだよね?
え? これは夢……? 夢、だよね? 夢なの……?」
完全に混乱してきた。最早自分が何を言ってるのか自分でも分からない。
そんな私を落ち着かせようとしたのか、ナユタがそっと私を抱きしめると、優しく背中を撫でてくれる。
「ナユタ……?」
じんわりと服越しにナユタの体温が感じられる。落ち着かせるように撫でられる背中にも。
夢……というより、VRなのかな? どちらかというとこの感覚は……。
寝オチしていたわけではなく、敵の攻撃でも受けて意識が強制的に飛んでいただけなのかな、もしかして?
そして死に戻りして、宿屋にいたとか?
「落ち着いたか……?」
「ん……。ありがとう」
落ち着きはしたけど、現状把握は全く出来ていない。
とりあえず、ナユタに聞いてみれば分かるよね。
「あのさ、ナユタ……」
「ユウ、とりあえず座って話さないか」
「あ、うん」
とは言っても、この部屋には椅子は一脚しかない。
「あ、えっとナユタはそっちの椅子に座って。私はベッドに座るから」
ナユタの胸を軽く押して身体を開放してもらうと、私はそのままベッドに座った。
ナユタは私の言葉通りに椅子に座ってくれると思っていたけど、何故か同じようにベッドに座った。
「ナユタ?」
「こっちの方が……。近くで話したい」
今までとどこか雰囲気の違う、真剣な表情で告げるナユタに、少しの違和感を感じながらも拒否する理由もなかったので私は頷いた。
「ねぇ、ナユタ。私、もしかして戦いの途中に気絶しちゃったのかな?
どうして此処にいるかよく思い出せないんだけど、宿屋だよね? ここ」
この簡易な内装は、ログアウトする時に使用している宿屋と同じ印象だったから間違いないと思う。
そうだよ、と続く返事を待っていたのに何時まで経っても何も返ってこなかった。
なんで無視……?
私、何かナユタの気に障ることした?
もしかしてさっきすぐにドアを開けなかったから、それで?
いやでも、ナユタはそんな意地悪な人じゃなかったし……。
「……。
ユウは、覚えてないのか?」
「あ、うん。ごめんね?
寝起きの所為かな?
いや、寝起きというか、気絶の所為?
今一、現状把握出来てない……」
「そうか……。
今から俺が言う事で更に混乱すると思う。
それは当たり前だから、だから覚悟をもって聞いて欲しい」
な、何?
気絶した所為でSランクアイテム壊れたとか?
所持金が半分消えたとか?
まさかまさか、レベルが一になったとかっ?!
そんなペナルティ、今まで聞いた事なかったけど、レベル一ならマジで泣く。もう号泣、いや号泣なんてものじゃない。ショックすぎて当分ログインしないかも……。
それでも止める事を考えない私は、間違いなくこのゲームにのめり込んでいるんだろうけど。
「大丈夫か?」
「あ、うん。覚悟ね、覚悟……」
レ、レベル一でも泣かないから。レベル一……。
あ、聞く前から涙が出てきそう。
ナユタは私の内心に気付く筈もなく、大きく深呼吸を一つした。
どうやら話す方にも相当覚悟がいるらしい。
そこまで覚悟が強いられる状況ってなんなのよ、一体。
「──ユウ。
ここは、VRでもなく夢でもなく、現実、なんだ」
「レ、レベル……。ん? 現実?」
レベル一と呟きそうになって、どうやら違うらしかったのでナユタの言葉を慌ててなぞってみた。
「いいか、ここは、現実だ」
「ふーん。現実なんだ。……って現実っ!?」
どうやら私があまり理解出来ていないと思われたのか、今度はゆっくりと区切って分かりやすいようにナユタは言った。
「ここは、VRの世界でもなく、夢でもなく、現実。
ついでに言うならば──異世界だと思う」
──異世界だ、と。
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