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○ こんにちは、新しい僕

◆ 9 幕間2

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 ユーリはまだ三歳の幼児だ。
 大人と違って、体力も生命力もかなり弱く、限界なんか直ぐにくる。
あまりに長引くようなら、より万全に診てくれる所へと移動をさせないと命が危険に晒されてしまう。
しかし、移動はさせたくない。ずっとこの邸で自分の元で診ておきたい。
 分かっている、それが自分の我儘だとは。
ユーリの為を思うならば、迅速に移動するべきなのだと……。

 療養先はもう決まっていた。
そして何時行っても大丈夫な様に、既に準備も万全に整えられている。
先方からは、何時くるのか、迎えを出そうかという催促が段々と増えてきた。それはもう、しつこい程に。
 快く受け入れてくれているのは充分に分かっているしありがたいが、出来れば移動させたくない。
移動したが最後、この邸にはなかなか帰らせてくれないのは目に見えている。
それどころか、素直に帰してくれる気があるのかすらも怪しいものだ。

──療養先の主人が殊の外、ユーリに執心しているからな。

v自然と深い溜息が出る。
それさえなければ、俺の気持ちももう少し前向きになっていただろう。──多分。

 ユーリの為にも一刻も早く移動させるべきだとは分かっている。こんな事で悩んでる時間が無駄であるとも。
そしてその思考が無限ループ状態になっている事も。
 そうした己との葛藤が、シャルにも分かっているのだろう。
シャルは何も言わずに、ただ、ユーリに付き添ってくれているが、心労は幾許のものか。
気丈に振舞ってはいるが、やつれてきているのは目に見えて分かる程だ。
そして邸自体も、まるで灯りが消えたかの様に静まっている。他の子供達がいるにも関わらず、だ。

──ここまでだな。

 どこかで諦めなければいけないのなら、きっと今なのだろう。
皆がどこかで無理をしている。今はまだいい。でもこれ以上は状況が改善するどころか、更に悪化の一途を辿る事は自明の理だ。
 最後にもう一度ユーリの顔を見たら、先方に連絡をするか……。

 そうして暗い面持ちのまま腰を上げようとした時だった。
慌ただしく叩かれるノック音と声。
 普段はそんな不作法をする人間はこの公爵邸にはいないが、例外があった。
それは、先日ユーリが倒れた時の知らせだった。
今回も同じ状況だという事は、まさかっ!?
 一気に血の気が引くのが分かる。
そんな、嘘だと言ってくれ!と、叫びそうになるのをグッと堪え表面上だけでも冷静に取り繕うと、報告を聞いた。

 良かった、本当に良かった……。

 ユーリが目覚め、起きている、と。
 思わず漏れ出た安堵の息と共に、深く椅子に座り込む。
こうしてはいられない。
シャルに知らせを送ると共に先方には断りの連絡を、それと魔術医の手配も必要だな。
 そうして来て頂いた魔術医がオリヴァー殿のだったのは、間違いなく先方の関与があったからだろう。
まあそれはいい。
魔術医長のオリヴァー殿に見てもらう程、確かな事はないのだから。
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