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02 ドリームランド
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陽の香りが、片桐の腕の中にすっぽりと収まるように丸くなっていた。最前からのサヤカは自身を背後から抱きすくめさせる様に、共にベッドに横たわった片桐に身を預けてきていた。上機嫌に揺れる尻尾は、片桐の足腰に巻きついたり離れたりを繰り返している。心を許されているのは光栄だったが、こそばゆい上に、まるでいかがわしい行為に及んでいるみたいで落ち着かなかった。
「……慣れてないか、こういうの?」
「うん……なんか恥ずかしいよ。サヤカは平気なの」
「俺は、お前さえ喜んでくれるなら、それで充分だ……もっと好きなようにしていいんだぜ」
抱きすくめた腕の隙間から、カノジョは手を伸ばしてきて片桐の頬にそっと触れる。小さな掌についた肉球が、こちらの唇の端に優しげなキスをくれる。
「言っただろ、この世界にはルールなんてない。お前が自分の欲に忠実になったって、責める奴なんて何処にもいやしないんだ」
「二人でずっと、こうしているのは駄目?」
サヤカの細い手首から手の甲まで指を這わせる。片桐はサヤカの手を包み込むように自らのそれを重ね合わせた。ふたつの猫耳の間に鼻先を埋め、少女の髪が発散する独特の甘い香りを鼻腔いっぱいに吸い込む。
片桐の鼓動は、それだけのことをしながら早まる気配をまるで見せなかった。むしろサヤカと触れ合えば触れ合うほどに、片桐のそれは興奮を示すどころか次第に落ち着いて、ただひたすら穏やかなリズムを刻むだけになっていくのだ。
「僕はサヤカと、こうやって一緒に眠っていたい。ただそれだけでいいんだ。それ以上のことなんかいらない……今の僕には、これが一番の幸せなんだ。だから」
「……そっか。それなら、それでもいいぜ」
サヤカはひとりごちる様にそう呟くと、片桐の腕の中で大人しく丸くなった。それ以上何かを言う代わりに、片桐の手をきゅっと小さく握り返してくる。
乙女の柔肌と、猫の毛並みとが入り混じったサヤカは美しすぎて、安易に汚す気にはなれなかった。ならばこうやって、静かに寄り添い合い眠っている方がいい。夢の中だというのに、そこで更に安眠を求めるとは片桐自身、可笑しな話だと思った。
二人の横たわる小さな個室は、ドリームランドの壁際に面した場所だった。カーテンもない窓から覗くのは、どこまでも広がる、凍てつくような一面の荒野。草木の一本も視界に入ってこない。ひと目で分かる彼我の温度差に、片桐の心は冷え切りそうだった。
片桐は一層、腕の中の小さな太陽が愛おしいと思った。呼吸に合わせてほんの僅かに膨張と収縮を繰り返す身体。自然界の恵みを一身に吸収し続け、それを片桐ひとりに分け与えてくれる小さなカノジョ。二度と手放したくないと、心の底からそう感じた。
地平の彼方から、世界がうっすら明るさを取り戻してきていた。この心地好い眠りの時は、まもなく終わってしまうだろう。だがせめてひと時でも長くと。片桐はサヤカを抱く手に一層力を籠め、その無防備な背中に自身を埋もれさせた。
「……慣れてないか、こういうの?」
「うん……なんか恥ずかしいよ。サヤカは平気なの」
「俺は、お前さえ喜んでくれるなら、それで充分だ……もっと好きなようにしていいんだぜ」
抱きすくめた腕の隙間から、カノジョは手を伸ばしてきて片桐の頬にそっと触れる。小さな掌についた肉球が、こちらの唇の端に優しげなキスをくれる。
「言っただろ、この世界にはルールなんてない。お前が自分の欲に忠実になったって、責める奴なんて何処にもいやしないんだ」
「二人でずっと、こうしているのは駄目?」
サヤカの細い手首から手の甲まで指を這わせる。片桐はサヤカの手を包み込むように自らのそれを重ね合わせた。ふたつの猫耳の間に鼻先を埋め、少女の髪が発散する独特の甘い香りを鼻腔いっぱいに吸い込む。
片桐の鼓動は、それだけのことをしながら早まる気配をまるで見せなかった。むしろサヤカと触れ合えば触れ合うほどに、片桐のそれは興奮を示すどころか次第に落ち着いて、ただひたすら穏やかなリズムを刻むだけになっていくのだ。
「僕はサヤカと、こうやって一緒に眠っていたい。ただそれだけでいいんだ。それ以上のことなんかいらない……今の僕には、これが一番の幸せなんだ。だから」
「……そっか。それなら、それでもいいぜ」
サヤカはひとりごちる様にそう呟くと、片桐の腕の中で大人しく丸くなった。それ以上何かを言う代わりに、片桐の手をきゅっと小さく握り返してくる。
乙女の柔肌と、猫の毛並みとが入り混じったサヤカは美しすぎて、安易に汚す気にはなれなかった。ならばこうやって、静かに寄り添い合い眠っている方がいい。夢の中だというのに、そこで更に安眠を求めるとは片桐自身、可笑しな話だと思った。
二人の横たわる小さな個室は、ドリームランドの壁際に面した場所だった。カーテンもない窓から覗くのは、どこまでも広がる、凍てつくような一面の荒野。草木の一本も視界に入ってこない。ひと目で分かる彼我の温度差に、片桐の心は冷え切りそうだった。
片桐は一層、腕の中の小さな太陽が愛おしいと思った。呼吸に合わせてほんの僅かに膨張と収縮を繰り返す身体。自然界の恵みを一身に吸収し続け、それを片桐ひとりに分け与えてくれる小さなカノジョ。二度と手放したくないと、心の底からそう感じた。
地平の彼方から、世界がうっすら明るさを取り戻してきていた。この心地好い眠りの時は、まもなく終わってしまうだろう。だがせめてひと時でも長くと。片桐はサヤカを抱く手に一層力を籠め、その無防備な背中に自身を埋もれさせた。
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