ヴァンパイア♡ラブどっきゅ〜ん!

田口夏乃子

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第三十八話 「ハチャメチャな美女と野獣!」

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みなさん、こんにちは。春間真莉亜です。
今日は、なにをやっているかというと、花田中文芸発表会の練習です。
私達のクラスは、なにをやるかというと、演劇です。
劇はなにをやるかって?『美女と野獣』です!
提案者は、比奈多さん。
最初は、『ロミオとジュリエット』をやろうかと意見が出たけど、比奈多さんが手を挙げて、「『ロミオとジュリエット』より、ロマンチックなラブストーリーが、ありますわよ。」と言って、『美女と野獣』が、圧倒的に、賛成意見が多くなって、決定しました。
で、私は何役かというと、なんと、主役のベルですっ!
理由は、私がこのクラスで、一番かわいいから。
比奈多さん達は、くやしそうにしてたけど、主役だから、別に気にしなくてもいいやと、思いました。
ついでに、野獣役は、あの、赤崎健司くん。
昨日、『美女と野獣』のディズニーの方のアニメを観て、勉強したんだって。
 
「真莉亜様!なにボーとしてらっしゃるの?セリフ、早く言ってちょうだい!」
 
あ!そうだった!
えっとぉ、あ、あった!
 
「パパをここから出して!」
 
「なんだとぉ?」
 
健司くん、演技がうまい。
 
「私をここに閉じこめて。そして、パパを自由にして。」
 
「よかろう。お前の言う通りにしてやる。」
 
「・・・・・・ゔぅ・・・・・・。」
 
春間真莉亜、初めて演技をして、涙が出ました。
 
「カット、カ―ット!」
 
比奈多さん、どうしたんですか?急に止めて。
比奈多さんは、健司くんの前に出た。
 
「あなた、全然、こわくないですわ!」
 
「えっ!?」
 
そんな!健司くん、徹夜をしてまで、『美女と野獣』のDVDを観て、勉強したんだよ!?
 
「比奈多、健司くんは、どこも悪くないわ。」
 
「そうよ!勝手に演技を止めるなんて、ひきょうよ!」
 
私もそう思います!
 
「健司くんが、かわいそー!」
 
「そうよ、そうよ!」
 
「私達のまね、しないでくれる?」
 
みんなが、「健司くんは、悪くない!」と、ギャーギャー騒ぎ出した。
 
「健司様は、野獣という、おそろしいものの本当の怖さを、知らないだけですわ!」
 
き、厳し~い。
 
「このままでは、花田中文芸会で、恥をかかされてしまいますわ!
 
「ちょっと!健司くんばっかり、せめないでくれる?」
 
紅葉が止めようとした。
 
「紅葉様!あなたはだまってくれます?」
 
「そうよ、そうよ!」
 
「・・・・・・。」
 
紅葉は健司くんのために、言ったのに・・・・・・。
すると、比奈多さんが、びしっと健司くんの方を、指さした。
 
「赤崎健司様!あなたは野獣・王子様役、失格ですわ!」
 
「え~!?」
 
健司くんは、落ちこんだ。
それじゃあ、誰が野獣・王子様役をやるのよ!
比奈多さんは、くるりとみんなの方を、振り向いた。
 
「誰か、野獣・王子様役を、引き受けてくれますか?」
 
みーんな、手を挙げる人もおらず、しーんと、静まり返るばかり。
 
「比奈多がやればいいじゃねぇかよ!」
 
「わたくし?わたくしは、結構ですわ!だって、わたくしは、魔女役ですもの。」
 
比奈多さんと、男子生徒全員の言い争いが、始まった。
ど、どーしよー。
 
「冬香様!あなた、野獣・王子様役を、引き受けてくれるわよね?」
 
「えぇっ!?」
 
冬香は、このクラスの中で、一番、背が高いから、似合うと思うけど、
 
「む、無理!宝塚みたいに、男役をしろなんて、絶っ対無理!」
 
そうだよねぇ。
 
「じゃあ、紅葉様は?」
 
「私はいやよ。」
 
紅葉は、ポット夫人役だもん。
 
「クリス様は?」
 
「あたしは、いや!」
 
クリスさんは、あっさり断っちゃった。
比奈多さんは、とうとう、カンカンに怒り出した。
 
「もう!なんで、あっさり断るのよぉ!」
 
比奈多さんは、わがままモードになっています。
 
「あ、そうだ。」
 
比奈多さん、なにを思いついたんですか?
 
「王子様といえば、かっこよくて、優しい、わたくし達女子にとっては、あこがれのお方♡」
 
???
 
「そのお方が、東京という、日本の大都市に、住んでいますわ♡」
 
比奈多さんの目が、キラキラ光っている。
 
「比奈多様、そのお方は、ひょっとして!」
 
女子の軍団が、目をハートにしてる。
 
「そう!黒月潤様ですわ!」
 
え~!?
 
「キャ―ッ♡潤様ぁ~♡」
 
ジュンブライトのファンクラブの女子のみんなの声が、廊下じゅうに響き渡る。
 
「潤様なら、野獣・王子様役を、引き受けてくれる!」
 
いや、そう簡単に、いけないと思うんですけど・・・・・・。
 
「それに、潤様の声、ディズニーの方の『美女と野獣』の、野獣の吹き替えをした、声の人にそっくりですわ~♡」
 
声で判断しないでください。
 
「あたし、さんせ―い!」
 
って、クリスさん!なに、目をハートにしてるんですかっ。
 
「いいでしょ、白田先生!」
 
「あ・・・・・・あぁ・・・・・・。」
 
そのとたん、ジュンブライトファンクラブのみんなは、キャーキャー騒ぎ始めた。
 
(あいつがOKを出すならね。)
 
すると、比奈多さんが、私の両手を、ぎゅっとにぎりしめた。
 
「真莉亜様!潤様に野獣・王子様役をしてくれるよう、たのんでくれる?」
 
えぇっ!?私が!?
 
「そうよ。だって、真莉亜様は、潤様の彼女ですもの。」
 
で、でも・・・・・・。
 
「もし、断られたら、ベル役を、わたくしにさせてくれない?」
 
そ、そんな自分勝手なことを!
 
「わ、わかりました!潤にたのんでみます!」
 
私が言うと、比奈多さんは、にっこりと笑った。
 
「ありがとうございますっ。これで、花田中文芸会は、バッチリですわ!オ―ホッホッホッホッホッホ!」
 
う、うるさい・・・・・・。
てか、まだジュンブライトが出るって、決まったわけじゃないんですけど・・・・・・。
 
 

 
私は満月荘に行って、ジュンブライトに花田中文芸会のことを、全部話した。
 
「へぇー。『美女と野獣』をやんのかぁ。」
 
うん。で、私はベル役をやるの。
 
「真莉亜ちゃんにぴったりだよ~♡」
 
「お前はひっこんでろ。」
 
「あんだとオラァ!」
 
「やんのかオラァ!」
 
あーもー!けんかしないでくれる?
二人は、けんかをやめた。
 
「ごめん、ごめん。」
 
「私はポット夫人をやるの。」
 
「懐かしいなぁ。」
 
「あたしはベルをやりま~す♡」
 
「あんたはチップだろーがっ!」
 
比奈多さんが魔女役で、なぎささんがフィフィ役で、雪さんが、ワードローブ役なの。
 
「なに?なぎさが、ミッフィー役だと?」
 
フィフィ!あんた、どこまでボケてんのよっ!
 
「私、ディズニーの方の『美女と野獣』、観たことあります!」
 
内容も、ディズニーと同じだよ。
 
「やったぁ~!私、見に行きたいですぅ!」
 
マドレーヌちゃんが、ピョンピョン跳びはねた。
マドレーヌちゃん、そんなに『美女と野獣』が、好きなんだぁ。
 
「DVD、もってるからね。」
 
「はい!」
 
マドレーヌちゃんは、笑顔でうなずいた。
 
「いいなぁ。あたしも出たーい!」
 
あんたはだーめ。小学生だから。
 
「え―っ?」
 
「俺、野獣・王子様役だったよ。」
 
えぇっ!?ギロさん、やってたんですかっ!?
 
「あぁ。」
 
「けど、文化祭当日、ギロはインフルエンザになって、出られなくなったの。」
 
「リッちゃーん。」
 
あらら。なんて不運なギロさんでしょう。
 
「あれ?」
 
ペラペラ台本をめくっていたジュンブライトの目が、止まった。
 
「なんで、野獣・王子様役、人の名前がのってないんだ?」
 
あ、そこは、本当は健司くんだったの。
けど、比奈多さんに降ろされて、照明係になったんだ。
 
「ひでぇなぁ。赤崎先生、かわいそ―。」
 
でしょ?
 
「で、野獣・王子様役は、誰がやるのか?」
 
私とテレサさんと紅葉とクリスさんは、ジュンブライトの方を指さした。
 
「えっ?俺?」
 
あたり前でしょ。
 
「比奈多が提案したんだよ。」
 
「野獣・王子様役は、あなたしかいないって。」
 
「それに、ディズニーの方の『美女と野獣』の、野獣・王子様の吹き替えをした、声優さんの声にそっくりだってさ。」
 
「山寺宏一か。」
 
えぇっ!?山寺さんだったの!?初耳です。
 
「お父さん、やってみなよ!」
 
「断る。」
 
えぇっ!?あっさりと!
 
「なんでなんですか、ジュンブライト様!」
 
「演技に興味ねぇから。」
 
で、でも・・・・・・。
 
「王子、なんで演技に興味示さないんですか。」
 
ジュンブライトは、「はぁ。」とため息をついた。
 
「そこまで話さねぇといけねぇのかよぉ。」
 
「うんうん。」
 
私達は、うなずいた。
 
「はぁ。仕方ねぇなぁ。じゃあ、話すよ。俺が演技に興味をなくした理由。」
 
早く教えて!
ジュンブライトは、テレサさんの方に、顔を向けた。
 
「テレサ、お前、幼稚園のお遊戯会で、なにをやったか、覚えてるか?」
 
「えっとぉ、確かぁ、『桃太郎』だったねぇ。」
 
それが、どうしたの?
 
「年少のころ、お遊戯会で、『桃太郎』をやることになって、俺は、桃太郎をやりたかったんだ。けど、人数が多くて・・・・・・結局、じゃんけんで、決めることにしたんだ。」
 
で、結果は?
 
「最後に残ったけど、負けて、桃太郎は、ほかのやつが、やることになったんだ。犬役もだめ、さる役もだめ、きじもだめ、鬼役もだめ、おじいさん役もだめだった。」
 
「じゃあ、なんになったんですか?」
 
「・・・・・・そこらへんの木。」
 
「ぷっ!」
 
私達は、思わずほっぺたをふくらまして・・・・・・。
 
「ぷはははは~!」
 
思わず、大きな声で笑ってしまった。
 
「なに笑ってんだよぉ!」
 
ジュンブライトの顔が、怒りで赤くなっている。
だってぇ、おもしろいんだも―ん!
 
「そこらへんの木なんて、このパターン、よくあるぞ!」
 
「てめぇ、俺の毛皮のマフラーにしてやる!」
 
「お父さん、おもしろーい!」
 
な、なんか、私達、笑うたび、涙が出て来ない?
 
「そうと思う~!」
 
クリスさんも、お腹をおさえて、笑っている。
 
「あ、あのジュンブライト様が、そこらへんの木だったとは!」
 
「ネル~!」
 
アハハハハ!笑いが止まらなーい!
 
「その時の写真、ありますよ。」
 
ルクトさんが笑いながら、ポケットにつっこもうとした。
 
「こうら!じいや!やめろ!」
 
「くすくすくす。そこらへんにしといたら?」
 
私達は、笑うのをやめた。
 
「とりあえず、俺はやだ。」
 
思い通りにいかないことも、あるんだよ。
 
「そうですよ、先輩。ここは、引き受けてあげなくちゃ。」
 
ギロさんは、ジュンブライトを説得しようとしている。
 
「ふん!やだと言ったら、やだ!オオカミヤロー、お前がやれ。」
 
「え―っ?」
 
ウルフ一郎さんは、自分とひとさし指でさして、驚いた。
 
「あぁ。」
 
そ、そんなぁ~。
 
「イエス!やりますとも!真莉亜ちゅわ~ん♡俺様と、ラブシーン、やろ~♡」
 
結構です。
 
「ガーン。」
 
ウルフ一郎さんは、落ちこんだ。
 
「どうしても、ジュンブライトが、必要なの!」
 
紅葉が、親父ずわりをしている、ジュンブライトに、必死に、たのんでいる。
けど、ジュンブライトは、鼻をほじって、シカトゥー。
 
「オオカミヤローは、動物だからなぁ。野獣役に、ぴったりだぜ。」
 
「それだったんかいっ!」
 
ジュンブライト・・・・・・。
 
「バカ女、あきらめなさい。」
 
むか―っ!アキちゃん、超~腹が立つぅ~!
なんでよっ!
 
「役はそう簡単に、引き受けるもんじゃないわ。」
 
で、でも・・・・・・。
 
「アキちゃんの言う通りだよ、真莉亜お姉ちゃん。」
 
ソラちゃん・・・・・・。
私は、親父ずわりをしている、ジュンブライトの後ろに立った。
 
「ジュンブライト。」
 
私の声で反応したのか、ジュンブライトは、後ろを振り返った。
 
「これは、あなたしかだめなの。」
 
「なんでだ。」
 
私は、息をごくんと飲んで、口を動かした。
 
「・・・・・・ジュンブライトが断ったら、私、健司くんと同じように、役を降ろされて、比奈多さんが、ベル役をやるの。」
 
「なんだとぉ?」
 
ジュンブライトは、まゆを上げた。
 
「だからお願い!野獣・王子様役を、やって!」
 
私は深く、頭を下げた。
ここで断れたら、終わりだ・・・・・・。
すると、ジュンブライトは、立ち上がって、私の方に歩き始めて、私の肩をポンっとたたいた。
たたかれたとたん、私は頭を上げた。
 
「お前の気持ち、よくわかった。引き受けるよ。」
 
本当!?
 
「あたり前だろ?」
 
出た!流行語ノミネート大賞予定の言葉!
 
「彼女のためなら、なんでもやるぜっ!」
 
と、ジュンブライトは、ニッと笑った。
 
「ありがとー!ジュンブライト!」
 
私、思わずジュンブライトに、だきついちゃった。
 
「ちょっ・・・・・・離せよぉ!」
 
これで、ベル役を降ろさせずにすむよぉ。
 
「ちょっとまった。」
 
ネルさん、どーしたんですか?
 
「ここ。」
 
私達は、ネルさんが指さした、台本に書いてあるセリフを、じっと見つめた。
最後らへんだね。ん?
 
〈二人は熱いキスをする。〉
 
「あ・・・・・・あ・・・・・・・。」
 
熱いキスですとぉ~!?
私は、大きな声でさけんだ。
 
「そんなの、聞いてないぞ!」
 
「私もだよ!こんな台本、誰が書いたの!?」
 
私とジュンブライトは、騒ぎ始めた。
 
「うそつけ。最初っから、書いてあったぞ。」
 
人前で熱いキスなんて、恥ずかしいよぉ~。
うちの両親と、琉理と、大阪に住んでいるおばあちゃんと、千葉に住んでいる、お父さんの方のおじいちゃんとおばあちゃんが来るって、言ってたし・・・・・・。
千葉のおじいちゃん、私に溺愛してて、もし、それを見たら、どんな反応をするか・・・・・・。
 
「ネル、それがどーしたの?」
 
「どーしたもこーもねぇ!春間真莉亜!あたし、『美女と野獣』に出るぞ!」
 
え~!?
 
「貴様に、ジュンブライト様との熱いキスは、させねぇ!」
 
ネルさんが、こわーい目で、私をにらんでる・・・・・・こわーい。
 
「俺様もだ!ヴァンパイア界の王子!」
 
ウルフ一郎さんが、すくっと立ち上がった。
 
「お前もか!」
 
あのう、これは、ジュンブライトだけなんですけどぉ・・・・・・。
 
「あったり前だぁ!お前はだまって、俺様と真莉亜ちゃんのキスシーンを見てろ!」
 
うぇ、想像するたび、気持ち悪くなりました。
 
「あたしも出るわ!」
 
「アキ!」
 
「バカ女!ジュンブライト様の唇は、あたしがもらうわ!」
 
え~!?
アキちゃんは、ソラちゃんの手をひっぱった。
 
「あんたも出るでしょ、ソラ!」
 
「え~?私、人前に出るのが恥ずかしいから、やだよ~。」
 
ソラちゃんは、おろおろしている。
アキちゃんは、そんなソラちゃんの耳元に、こうささやいた。
 
「大丈夫。あたしがフォロー、してやるから。」
 
「うん・・・・・・。」
 
ソラちゃんは、心配そうな顔をして、うなずいた。
はぁ・・・・・・。これを見たら、比奈多さん、どんな反応をするんだろ。
 
 
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