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第三十八話 「ハチャメチャな美女と野獣!」
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みなさん、こんにちは。春間真莉亜です。
今日は、なにをやっているかというと、花田中文芸発表会の練習です。
私達のクラスは、なにをやるかというと、演劇です。
劇はなにをやるかって?『美女と野獣』です!
提案者は、比奈多さん。
最初は、『ロミオとジュリエット』をやろうかと意見が出たけど、比奈多さんが手を挙げて、「『ロミオとジュリエット』より、ロマンチックなラブストーリーが、ありますわよ。」と言って、『美女と野獣』が、圧倒的に、賛成意見が多くなって、決定しました。
で、私は何役かというと、なんと、主役のベルですっ!
理由は、私がこのクラスで、一番かわいいから。
比奈多さん達は、くやしそうにしてたけど、主役だから、別に気にしなくてもいいやと、思いました。
ついでに、野獣役は、あの、赤崎健司くん。
昨日、『美女と野獣』のディズニーの方のアニメを観て、勉強したんだって。
「真莉亜様!なにボーとしてらっしゃるの?セリフ、早く言ってちょうだい!」
あ!そうだった!
えっとぉ、あ、あった!
「パパをここから出して!」
「なんだとぉ?」
健司くん、演技がうまい。
「私をここに閉じこめて。そして、パパを自由にして。」
「よかろう。お前の言う通りにしてやる。」
「・・・・・・ゔぅ・・・・・・。」
春間真莉亜、初めて演技をして、涙が出ました。
「カット、カ―ット!」
比奈多さん、どうしたんですか?急に止めて。
比奈多さんは、健司くんの前に出た。
「あなた、全然、こわくないですわ!」
「えっ!?」
そんな!健司くん、徹夜をしてまで、『美女と野獣』のDVDを観て、勉強したんだよ!?
「比奈多、健司くんは、どこも悪くないわ。」
「そうよ!勝手に演技を止めるなんて、ひきょうよ!」
私もそう思います!
「健司くんが、かわいそー!」
「そうよ、そうよ!」
「私達のまね、しないでくれる?」
みんなが、「健司くんは、悪くない!」と、ギャーギャー騒ぎ出した。
「健司様は、野獣という、おそろしいものの本当の怖さを、知らないだけですわ!」
き、厳し~い。
「このままでは、花田中文芸会で、恥をかかされてしまいますわ!
「ちょっと!健司くんばっかり、せめないでくれる?」
紅葉が止めようとした。
「紅葉様!あなたはだまってくれます?」
「そうよ、そうよ!」
「・・・・・・。」
紅葉は健司くんのために、言ったのに・・・・・・。
すると、比奈多さんが、びしっと健司くんの方を、指さした。
「赤崎健司様!あなたは野獣・王子様役、失格ですわ!」
「え~!?」
健司くんは、落ちこんだ。
それじゃあ、誰が野獣・王子様役をやるのよ!
比奈多さんは、くるりとみんなの方を、振り向いた。
「誰か、野獣・王子様役を、引き受けてくれますか?」
みーんな、手を挙げる人もおらず、しーんと、静まり返るばかり。
「比奈多がやればいいじゃねぇかよ!」
「わたくし?わたくしは、結構ですわ!だって、わたくしは、魔女役ですもの。」
比奈多さんと、男子生徒全員の言い争いが、始まった。
ど、どーしよー。
「冬香様!あなた、野獣・王子様役を、引き受けてくれるわよね?」
「えぇっ!?」
冬香は、このクラスの中で、一番、背が高いから、似合うと思うけど、
「む、無理!宝塚みたいに、男役をしろなんて、絶っ対無理!」
そうだよねぇ。
「じゃあ、紅葉様は?」
「私はいやよ。」
紅葉は、ポット夫人役だもん。
「クリス様は?」
「あたしは、いや!」
クリスさんは、あっさり断っちゃった。
比奈多さんは、とうとう、カンカンに怒り出した。
「もう!なんで、あっさり断るのよぉ!」
比奈多さんは、わがままモードになっています。
「あ、そうだ。」
比奈多さん、なにを思いついたんですか?
「王子様といえば、かっこよくて、優しい、わたくし達女子にとっては、あこがれのお方♡」
???
「そのお方が、東京という、日本の大都市に、住んでいますわ♡」
比奈多さんの目が、キラキラ光っている。
「比奈多様、そのお方は、ひょっとして!」
女子の軍団が、目をハートにしてる。
「そう!黒月潤様ですわ!」
え~!?
「キャ―ッ♡潤様ぁ~♡」
ジュンブライトのファンクラブの女子のみんなの声が、廊下じゅうに響き渡る。
「潤様なら、野獣・王子様役を、引き受けてくれる!」
いや、そう簡単に、いけないと思うんですけど・・・・・・。
「それに、潤様の声、ディズニーの方の『美女と野獣』の、野獣の吹き替えをした、声の人にそっくりですわ~♡」
声で判断しないでください。
「あたし、さんせ―い!」
って、クリスさん!なに、目をハートにしてるんですかっ。
「いいでしょ、白田先生!」
「あ・・・・・・あぁ・・・・・・。」
そのとたん、ジュンブライトファンクラブのみんなは、キャーキャー騒ぎ始めた。
(あいつがOKを出すならね。)
すると、比奈多さんが、私の両手を、ぎゅっとにぎりしめた。
「真莉亜様!潤様に野獣・王子様役をしてくれるよう、たのんでくれる?」
えぇっ!?私が!?
「そうよ。だって、真莉亜様は、潤様の彼女ですもの。」
で、でも・・・・・・。
「もし、断られたら、ベル役を、わたくしにさせてくれない?」
そ、そんな自分勝手なことを!
「わ、わかりました!潤にたのんでみます!」
私が言うと、比奈多さんは、にっこりと笑った。
「ありがとうございますっ。これで、花田中文芸会は、バッチリですわ!オ―ホッホッホッホッホッホ!」
う、うるさい・・・・・・。
てか、まだジュンブライトが出るって、決まったわけじゃないんですけど・・・・・・。
☆
私は満月荘に行って、ジュンブライトに花田中文芸会のことを、全部話した。
「へぇー。『美女と野獣』をやんのかぁ。」
うん。で、私はベル役をやるの。
「真莉亜ちゃんにぴったりだよ~♡」
「お前はひっこんでろ。」
「あんだとオラァ!」
「やんのかオラァ!」
あーもー!けんかしないでくれる?
二人は、けんかをやめた。
「ごめん、ごめん。」
「私はポット夫人をやるの。」
「懐かしいなぁ。」
「あたしはベルをやりま~す♡」
「あんたはチップだろーがっ!」
比奈多さんが魔女役で、なぎささんがフィフィ役で、雪さんが、ワードローブ役なの。
「なに?なぎさが、ミッフィー役だと?」
フィフィ!あんた、どこまでボケてんのよっ!
「私、ディズニーの方の『美女と野獣』、観たことあります!」
内容も、ディズニーと同じだよ。
「やったぁ~!私、見に行きたいですぅ!」
マドレーヌちゃんが、ピョンピョン跳びはねた。
マドレーヌちゃん、そんなに『美女と野獣』が、好きなんだぁ。
「DVD、もってるからね。」
「はい!」
マドレーヌちゃんは、笑顔でうなずいた。
「いいなぁ。あたしも出たーい!」
あんたはだーめ。小学生だから。
「え―っ?」
「俺、野獣・王子様役だったよ。」
えぇっ!?ギロさん、やってたんですかっ!?
「あぁ。」
「けど、文化祭当日、ギロはインフルエンザになって、出られなくなったの。」
「リッちゃーん。」
あらら。なんて不運なギロさんでしょう。
「あれ?」
ペラペラ台本をめくっていたジュンブライトの目が、止まった。
「なんで、野獣・王子様役、人の名前がのってないんだ?」
あ、そこは、本当は健司くんだったの。
けど、比奈多さんに降ろされて、照明係になったんだ。
「ひでぇなぁ。赤崎先生、かわいそ―。」
でしょ?
「で、野獣・王子様役は、誰がやるのか?」
私とテレサさんと紅葉とクリスさんは、ジュンブライトの方を指さした。
「えっ?俺?」
あたり前でしょ。
「比奈多が提案したんだよ。」
「野獣・王子様役は、あなたしかいないって。」
「それに、ディズニーの方の『美女と野獣』の、野獣・王子様の吹き替えをした、声優さんの声にそっくりだってさ。」
「山寺宏一か。」
えぇっ!?山寺さんだったの!?初耳です。
「お父さん、やってみなよ!」
「断る。」
えぇっ!?あっさりと!
「なんでなんですか、ジュンブライト様!」
「演技に興味ねぇから。」
で、でも・・・・・・。
「王子、なんで演技に興味示さないんですか。」
ジュンブライトは、「はぁ。」とため息をついた。
「そこまで話さねぇといけねぇのかよぉ。」
「うんうん。」
私達は、うなずいた。
「はぁ。仕方ねぇなぁ。じゃあ、話すよ。俺が演技に興味をなくした理由。」
早く教えて!
ジュンブライトは、テレサさんの方に、顔を向けた。
「テレサ、お前、幼稚園のお遊戯会で、なにをやったか、覚えてるか?」
「えっとぉ、確かぁ、『桃太郎』だったねぇ。」
それが、どうしたの?
「年少のころ、お遊戯会で、『桃太郎』をやることになって、俺は、桃太郎をやりたかったんだ。けど、人数が多くて・・・・・・結局、じゃんけんで、決めることにしたんだ。」
で、結果は?
「最後に残ったけど、負けて、桃太郎は、ほかのやつが、やることになったんだ。犬役もだめ、さる役もだめ、きじもだめ、鬼役もだめ、おじいさん役もだめだった。」
「じゃあ、なんになったんですか?」
「・・・・・・そこらへんの木。」
「ぷっ!」
私達は、思わずほっぺたをふくらまして・・・・・・。
「ぷはははは~!」
思わず、大きな声で笑ってしまった。
「なに笑ってんだよぉ!」
ジュンブライトの顔が、怒りで赤くなっている。
だってぇ、おもしろいんだも―ん!
「そこらへんの木なんて、このパターン、よくあるぞ!」
「てめぇ、俺の毛皮のマフラーにしてやる!」
「お父さん、おもしろーい!」
な、なんか、私達、笑うたび、涙が出て来ない?
「そうと思う~!」
クリスさんも、お腹をおさえて、笑っている。
「あ、あのジュンブライト様が、そこらへんの木だったとは!」
「ネル~!」
アハハハハ!笑いが止まらなーい!
「その時の写真、ありますよ。」
ルクトさんが笑いながら、ポケットにつっこもうとした。
「こうら!じいや!やめろ!」
「くすくすくす。そこらへんにしといたら?」
私達は、笑うのをやめた。
「とりあえず、俺はやだ。」
思い通りにいかないことも、あるんだよ。
「そうですよ、先輩。ここは、引き受けてあげなくちゃ。」
ギロさんは、ジュンブライトを説得しようとしている。
「ふん!やだと言ったら、やだ!オオカミヤロー、お前がやれ。」
「え―っ?」
ウルフ一郎さんは、自分とひとさし指でさして、驚いた。
「あぁ。」
そ、そんなぁ~。
「イエス!やりますとも!真莉亜ちゅわ~ん♡俺様と、ラブシーン、やろ~♡」
結構です。
「ガーン。」
ウルフ一郎さんは、落ちこんだ。
「どうしても、ジュンブライトが、必要なの!」
紅葉が、親父ずわりをしている、ジュンブライトに、必死に、たのんでいる。
けど、ジュンブライトは、鼻をほじって、シカトゥー。
「オオカミヤローは、動物だからなぁ。野獣役に、ぴったりだぜ。」
「それだったんかいっ!」
ジュンブライト・・・・・・。
「バカ女、あきらめなさい。」
むか―っ!アキちゃん、超~腹が立つぅ~!
なんでよっ!
「役はそう簡単に、引き受けるもんじゃないわ。」
で、でも・・・・・・。
「アキちゃんの言う通りだよ、真莉亜お姉ちゃん。」
ソラちゃん・・・・・・。
私は、親父ずわりをしている、ジュンブライトの後ろに立った。
「ジュンブライト。」
私の声で反応したのか、ジュンブライトは、後ろを振り返った。
「これは、あなたしかだめなの。」
「なんでだ。」
私は、息をごくんと飲んで、口を動かした。
「・・・・・・ジュンブライトが断ったら、私、健司くんと同じように、役を降ろされて、比奈多さんが、ベル役をやるの。」
「なんだとぉ?」
ジュンブライトは、まゆを上げた。
「だからお願い!野獣・王子様役を、やって!」
私は深く、頭を下げた。
ここで断れたら、終わりだ・・・・・・。
すると、ジュンブライトは、立ち上がって、私の方に歩き始めて、私の肩をポンっとたたいた。
たたかれたとたん、私は頭を上げた。
「お前の気持ち、よくわかった。引き受けるよ。」
本当!?
「あたり前だろ?」
出た!流行語ノミネート大賞予定の言葉!
「彼女のためなら、なんでもやるぜっ!」
と、ジュンブライトは、ニッと笑った。
「ありがとー!ジュンブライト!」
私、思わずジュンブライトに、だきついちゃった。
「ちょっ・・・・・・離せよぉ!」
これで、ベル役を降ろさせずにすむよぉ。
「ちょっとまった。」
ネルさん、どーしたんですか?
「ここ。」
私達は、ネルさんが指さした、台本に書いてあるセリフを、じっと見つめた。
最後らへんだね。ん?
〈二人は熱いキスをする。〉
「あ・・・・・・あ・・・・・・・。」
熱いキスですとぉ~!?
私は、大きな声でさけんだ。
「そんなの、聞いてないぞ!」
「私もだよ!こんな台本、誰が書いたの!?」
私とジュンブライトは、騒ぎ始めた。
「うそつけ。最初っから、書いてあったぞ。」
人前で熱いキスなんて、恥ずかしいよぉ~。
うちの両親と、琉理と、大阪に住んでいるおばあちゃんと、千葉に住んでいる、お父さんの方のおじいちゃんとおばあちゃんが来るって、言ってたし・・・・・・。
千葉のおじいちゃん、私に溺愛してて、もし、それを見たら、どんな反応をするか・・・・・・。
「ネル、それがどーしたの?」
「どーしたもこーもねぇ!春間真莉亜!あたし、『美女と野獣』に出るぞ!」
え~!?
「貴様に、ジュンブライト様との熱いキスは、させねぇ!」
ネルさんが、こわーい目で、私をにらんでる・・・・・・こわーい。
「俺様もだ!ヴァンパイア界の王子!」
ウルフ一郎さんが、すくっと立ち上がった。
「お前もか!」
あのう、これは、ジュンブライトだけなんですけどぉ・・・・・・。
「あったり前だぁ!お前はだまって、俺様と真莉亜ちゃんのキスシーンを見てろ!」
うぇ、想像するたび、気持ち悪くなりました。
「あたしも出るわ!」
「アキ!」
「バカ女!ジュンブライト様の唇は、あたしがもらうわ!」
え~!?
アキちゃんは、ソラちゃんの手をひっぱった。
「あんたも出るでしょ、ソラ!」
「え~?私、人前に出るのが恥ずかしいから、やだよ~。」
ソラちゃんは、おろおろしている。
アキちゃんは、そんなソラちゃんの耳元に、こうささやいた。
「大丈夫。あたしがフォロー、してやるから。」
「うん・・・・・・。」
ソラちゃんは、心配そうな顔をして、うなずいた。
はぁ・・・・・・。これを見たら、比奈多さん、どんな反応をするんだろ。
☆
今日は、なにをやっているかというと、花田中文芸発表会の練習です。
私達のクラスは、なにをやるかというと、演劇です。
劇はなにをやるかって?『美女と野獣』です!
提案者は、比奈多さん。
最初は、『ロミオとジュリエット』をやろうかと意見が出たけど、比奈多さんが手を挙げて、「『ロミオとジュリエット』より、ロマンチックなラブストーリーが、ありますわよ。」と言って、『美女と野獣』が、圧倒的に、賛成意見が多くなって、決定しました。
で、私は何役かというと、なんと、主役のベルですっ!
理由は、私がこのクラスで、一番かわいいから。
比奈多さん達は、くやしそうにしてたけど、主役だから、別に気にしなくてもいいやと、思いました。
ついでに、野獣役は、あの、赤崎健司くん。
昨日、『美女と野獣』のディズニーの方のアニメを観て、勉強したんだって。
「真莉亜様!なにボーとしてらっしゃるの?セリフ、早く言ってちょうだい!」
あ!そうだった!
えっとぉ、あ、あった!
「パパをここから出して!」
「なんだとぉ?」
健司くん、演技がうまい。
「私をここに閉じこめて。そして、パパを自由にして。」
「よかろう。お前の言う通りにしてやる。」
「・・・・・・ゔぅ・・・・・・。」
春間真莉亜、初めて演技をして、涙が出ました。
「カット、カ―ット!」
比奈多さん、どうしたんですか?急に止めて。
比奈多さんは、健司くんの前に出た。
「あなた、全然、こわくないですわ!」
「えっ!?」
そんな!健司くん、徹夜をしてまで、『美女と野獣』のDVDを観て、勉強したんだよ!?
「比奈多、健司くんは、どこも悪くないわ。」
「そうよ!勝手に演技を止めるなんて、ひきょうよ!」
私もそう思います!
「健司くんが、かわいそー!」
「そうよ、そうよ!」
「私達のまね、しないでくれる?」
みんなが、「健司くんは、悪くない!」と、ギャーギャー騒ぎ出した。
「健司様は、野獣という、おそろしいものの本当の怖さを、知らないだけですわ!」
き、厳し~い。
「このままでは、花田中文芸会で、恥をかかされてしまいますわ!
「ちょっと!健司くんばっかり、せめないでくれる?」
紅葉が止めようとした。
「紅葉様!あなたはだまってくれます?」
「そうよ、そうよ!」
「・・・・・・。」
紅葉は健司くんのために、言ったのに・・・・・・。
すると、比奈多さんが、びしっと健司くんの方を、指さした。
「赤崎健司様!あなたは野獣・王子様役、失格ですわ!」
「え~!?」
健司くんは、落ちこんだ。
それじゃあ、誰が野獣・王子様役をやるのよ!
比奈多さんは、くるりとみんなの方を、振り向いた。
「誰か、野獣・王子様役を、引き受けてくれますか?」
みーんな、手を挙げる人もおらず、しーんと、静まり返るばかり。
「比奈多がやればいいじゃねぇかよ!」
「わたくし?わたくしは、結構ですわ!だって、わたくしは、魔女役ですもの。」
比奈多さんと、男子生徒全員の言い争いが、始まった。
ど、どーしよー。
「冬香様!あなた、野獣・王子様役を、引き受けてくれるわよね?」
「えぇっ!?」
冬香は、このクラスの中で、一番、背が高いから、似合うと思うけど、
「む、無理!宝塚みたいに、男役をしろなんて、絶っ対無理!」
そうだよねぇ。
「じゃあ、紅葉様は?」
「私はいやよ。」
紅葉は、ポット夫人役だもん。
「クリス様は?」
「あたしは、いや!」
クリスさんは、あっさり断っちゃった。
比奈多さんは、とうとう、カンカンに怒り出した。
「もう!なんで、あっさり断るのよぉ!」
比奈多さんは、わがままモードになっています。
「あ、そうだ。」
比奈多さん、なにを思いついたんですか?
「王子様といえば、かっこよくて、優しい、わたくし達女子にとっては、あこがれのお方♡」
???
「そのお方が、東京という、日本の大都市に、住んでいますわ♡」
比奈多さんの目が、キラキラ光っている。
「比奈多様、そのお方は、ひょっとして!」
女子の軍団が、目をハートにしてる。
「そう!黒月潤様ですわ!」
え~!?
「キャ―ッ♡潤様ぁ~♡」
ジュンブライトのファンクラブの女子のみんなの声が、廊下じゅうに響き渡る。
「潤様なら、野獣・王子様役を、引き受けてくれる!」
いや、そう簡単に、いけないと思うんですけど・・・・・・。
「それに、潤様の声、ディズニーの方の『美女と野獣』の、野獣の吹き替えをした、声の人にそっくりですわ~♡」
声で判断しないでください。
「あたし、さんせ―い!」
って、クリスさん!なに、目をハートにしてるんですかっ。
「いいでしょ、白田先生!」
「あ・・・・・・あぁ・・・・・・。」
そのとたん、ジュンブライトファンクラブのみんなは、キャーキャー騒ぎ始めた。
(あいつがOKを出すならね。)
すると、比奈多さんが、私の両手を、ぎゅっとにぎりしめた。
「真莉亜様!潤様に野獣・王子様役をしてくれるよう、たのんでくれる?」
えぇっ!?私が!?
「そうよ。だって、真莉亜様は、潤様の彼女ですもの。」
で、でも・・・・・・。
「もし、断られたら、ベル役を、わたくしにさせてくれない?」
そ、そんな自分勝手なことを!
「わ、わかりました!潤にたのんでみます!」
私が言うと、比奈多さんは、にっこりと笑った。
「ありがとうございますっ。これで、花田中文芸会は、バッチリですわ!オ―ホッホッホッホッホッホ!」
う、うるさい・・・・・・。
てか、まだジュンブライトが出るって、決まったわけじゃないんですけど・・・・・・。
☆
私は満月荘に行って、ジュンブライトに花田中文芸会のことを、全部話した。
「へぇー。『美女と野獣』をやんのかぁ。」
うん。で、私はベル役をやるの。
「真莉亜ちゃんにぴったりだよ~♡」
「お前はひっこんでろ。」
「あんだとオラァ!」
「やんのかオラァ!」
あーもー!けんかしないでくれる?
二人は、けんかをやめた。
「ごめん、ごめん。」
「私はポット夫人をやるの。」
「懐かしいなぁ。」
「あたしはベルをやりま~す♡」
「あんたはチップだろーがっ!」
比奈多さんが魔女役で、なぎささんがフィフィ役で、雪さんが、ワードローブ役なの。
「なに?なぎさが、ミッフィー役だと?」
フィフィ!あんた、どこまでボケてんのよっ!
「私、ディズニーの方の『美女と野獣』、観たことあります!」
内容も、ディズニーと同じだよ。
「やったぁ~!私、見に行きたいですぅ!」
マドレーヌちゃんが、ピョンピョン跳びはねた。
マドレーヌちゃん、そんなに『美女と野獣』が、好きなんだぁ。
「DVD、もってるからね。」
「はい!」
マドレーヌちゃんは、笑顔でうなずいた。
「いいなぁ。あたしも出たーい!」
あんたはだーめ。小学生だから。
「え―っ?」
「俺、野獣・王子様役だったよ。」
えぇっ!?ギロさん、やってたんですかっ!?
「あぁ。」
「けど、文化祭当日、ギロはインフルエンザになって、出られなくなったの。」
「リッちゃーん。」
あらら。なんて不運なギロさんでしょう。
「あれ?」
ペラペラ台本をめくっていたジュンブライトの目が、止まった。
「なんで、野獣・王子様役、人の名前がのってないんだ?」
あ、そこは、本当は健司くんだったの。
けど、比奈多さんに降ろされて、照明係になったんだ。
「ひでぇなぁ。赤崎先生、かわいそ―。」
でしょ?
「で、野獣・王子様役は、誰がやるのか?」
私とテレサさんと紅葉とクリスさんは、ジュンブライトの方を指さした。
「えっ?俺?」
あたり前でしょ。
「比奈多が提案したんだよ。」
「野獣・王子様役は、あなたしかいないって。」
「それに、ディズニーの方の『美女と野獣』の、野獣・王子様の吹き替えをした、声優さんの声にそっくりだってさ。」
「山寺宏一か。」
えぇっ!?山寺さんだったの!?初耳です。
「お父さん、やってみなよ!」
「断る。」
えぇっ!?あっさりと!
「なんでなんですか、ジュンブライト様!」
「演技に興味ねぇから。」
で、でも・・・・・・。
「王子、なんで演技に興味示さないんですか。」
ジュンブライトは、「はぁ。」とため息をついた。
「そこまで話さねぇといけねぇのかよぉ。」
「うんうん。」
私達は、うなずいた。
「はぁ。仕方ねぇなぁ。じゃあ、話すよ。俺が演技に興味をなくした理由。」
早く教えて!
ジュンブライトは、テレサさんの方に、顔を向けた。
「テレサ、お前、幼稚園のお遊戯会で、なにをやったか、覚えてるか?」
「えっとぉ、確かぁ、『桃太郎』だったねぇ。」
それが、どうしたの?
「年少のころ、お遊戯会で、『桃太郎』をやることになって、俺は、桃太郎をやりたかったんだ。けど、人数が多くて・・・・・・結局、じゃんけんで、決めることにしたんだ。」
で、結果は?
「最後に残ったけど、負けて、桃太郎は、ほかのやつが、やることになったんだ。犬役もだめ、さる役もだめ、きじもだめ、鬼役もだめ、おじいさん役もだめだった。」
「じゃあ、なんになったんですか?」
「・・・・・・そこらへんの木。」
「ぷっ!」
私達は、思わずほっぺたをふくらまして・・・・・・。
「ぷはははは~!」
思わず、大きな声で笑ってしまった。
「なに笑ってんだよぉ!」
ジュンブライトの顔が、怒りで赤くなっている。
だってぇ、おもしろいんだも―ん!
「そこらへんの木なんて、このパターン、よくあるぞ!」
「てめぇ、俺の毛皮のマフラーにしてやる!」
「お父さん、おもしろーい!」
な、なんか、私達、笑うたび、涙が出て来ない?
「そうと思う~!」
クリスさんも、お腹をおさえて、笑っている。
「あ、あのジュンブライト様が、そこらへんの木だったとは!」
「ネル~!」
アハハハハ!笑いが止まらなーい!
「その時の写真、ありますよ。」
ルクトさんが笑いながら、ポケットにつっこもうとした。
「こうら!じいや!やめろ!」
「くすくすくす。そこらへんにしといたら?」
私達は、笑うのをやめた。
「とりあえず、俺はやだ。」
思い通りにいかないことも、あるんだよ。
「そうですよ、先輩。ここは、引き受けてあげなくちゃ。」
ギロさんは、ジュンブライトを説得しようとしている。
「ふん!やだと言ったら、やだ!オオカミヤロー、お前がやれ。」
「え―っ?」
ウルフ一郎さんは、自分とひとさし指でさして、驚いた。
「あぁ。」
そ、そんなぁ~。
「イエス!やりますとも!真莉亜ちゅわ~ん♡俺様と、ラブシーン、やろ~♡」
結構です。
「ガーン。」
ウルフ一郎さんは、落ちこんだ。
「どうしても、ジュンブライトが、必要なの!」
紅葉が、親父ずわりをしている、ジュンブライトに、必死に、たのんでいる。
けど、ジュンブライトは、鼻をほじって、シカトゥー。
「オオカミヤローは、動物だからなぁ。野獣役に、ぴったりだぜ。」
「それだったんかいっ!」
ジュンブライト・・・・・・。
「バカ女、あきらめなさい。」
むか―っ!アキちゃん、超~腹が立つぅ~!
なんでよっ!
「役はそう簡単に、引き受けるもんじゃないわ。」
で、でも・・・・・・。
「アキちゃんの言う通りだよ、真莉亜お姉ちゃん。」
ソラちゃん・・・・・・。
私は、親父ずわりをしている、ジュンブライトの後ろに立った。
「ジュンブライト。」
私の声で反応したのか、ジュンブライトは、後ろを振り返った。
「これは、あなたしかだめなの。」
「なんでだ。」
私は、息をごくんと飲んで、口を動かした。
「・・・・・・ジュンブライトが断ったら、私、健司くんと同じように、役を降ろされて、比奈多さんが、ベル役をやるの。」
「なんだとぉ?」
ジュンブライトは、まゆを上げた。
「だからお願い!野獣・王子様役を、やって!」
私は深く、頭を下げた。
ここで断れたら、終わりだ・・・・・・。
すると、ジュンブライトは、立ち上がって、私の方に歩き始めて、私の肩をポンっとたたいた。
たたかれたとたん、私は頭を上げた。
「お前の気持ち、よくわかった。引き受けるよ。」
本当!?
「あたり前だろ?」
出た!流行語ノミネート大賞予定の言葉!
「彼女のためなら、なんでもやるぜっ!」
と、ジュンブライトは、ニッと笑った。
「ありがとー!ジュンブライト!」
私、思わずジュンブライトに、だきついちゃった。
「ちょっ・・・・・・離せよぉ!」
これで、ベル役を降ろさせずにすむよぉ。
「ちょっとまった。」
ネルさん、どーしたんですか?
「ここ。」
私達は、ネルさんが指さした、台本に書いてあるセリフを、じっと見つめた。
最後らへんだね。ん?
〈二人は熱いキスをする。〉
「あ・・・・・・あ・・・・・・・。」
熱いキスですとぉ~!?
私は、大きな声でさけんだ。
「そんなの、聞いてないぞ!」
「私もだよ!こんな台本、誰が書いたの!?」
私とジュンブライトは、騒ぎ始めた。
「うそつけ。最初っから、書いてあったぞ。」
人前で熱いキスなんて、恥ずかしいよぉ~。
うちの両親と、琉理と、大阪に住んでいるおばあちゃんと、千葉に住んでいる、お父さんの方のおじいちゃんとおばあちゃんが来るって、言ってたし・・・・・・。
千葉のおじいちゃん、私に溺愛してて、もし、それを見たら、どんな反応をするか・・・・・・。
「ネル、それがどーしたの?」
「どーしたもこーもねぇ!春間真莉亜!あたし、『美女と野獣』に出るぞ!」
え~!?
「貴様に、ジュンブライト様との熱いキスは、させねぇ!」
ネルさんが、こわーい目で、私をにらんでる・・・・・・こわーい。
「俺様もだ!ヴァンパイア界の王子!」
ウルフ一郎さんが、すくっと立ち上がった。
「お前もか!」
あのう、これは、ジュンブライトだけなんですけどぉ・・・・・・。
「あったり前だぁ!お前はだまって、俺様と真莉亜ちゃんのキスシーンを見てろ!」
うぇ、想像するたび、気持ち悪くなりました。
「あたしも出るわ!」
「アキ!」
「バカ女!ジュンブライト様の唇は、あたしがもらうわ!」
え~!?
アキちゃんは、ソラちゃんの手をひっぱった。
「あんたも出るでしょ、ソラ!」
「え~?私、人前に出るのが恥ずかしいから、やだよ~。」
ソラちゃんは、おろおろしている。
アキちゃんは、そんなソラちゃんの耳元に、こうささやいた。
「大丈夫。あたしがフォロー、してやるから。」
「うん・・・・・・。」
ソラちゃんは、心配そうな顔をして、うなずいた。
はぁ・・・・・・。これを見たら、比奈多さん、どんな反応をするんだろ。
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