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第1章

第三十九話 「ガオンくんがさらわれた!」

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「んく、んく、んく、んく……。」

ふっ、おっぱいをおいしそうに飲んでやがる。

「ぷはぁ!あい、あい!」

おいしかったかぁ?

「う、う、う。」

ん?うとうとしてる。眠たいのかな?
あたしは、ガオンの背中を優しくたたいて、ベッドへ行き、ガオンを寝かせた。
ふっ、おやすみ、ガオン。
あたしはガオンのほっぺにキスをした。
ふぁ~、あたしも眠たくなっちゃった。
寝室で30分だけ、寝よう。
ガチャン。

「……もう、行ったか?」

「あぁ。寝室で、グーグー寝てる。」

「よし、今のうちにさらうぞっ!」

「おう!」


                            ☆


ふぁ~、よく寝た。
さて、ガオンのお世話をしよっと。
ガチャ……。
ん?あれ?
ガオンがいない。
ガオーン、ガオーン、どこにいるのぉ~?返事してぇ~。
寝室のベッドの下、ソファー、台所の戸棚、お風呂場を探しても、ガオンの姿は見当たらない。
おっかしいなぁ。さっきまで、ここで寝ていたのに……。
あっ、窓閉めるの、忘れてた!
早く閉めないと!
ん?はっ!ま、まさか……。

「ただいまぁ~。ん?どうした、ネル!」

「あ……あ……。」

「おい、一体どうした、ネル!」

「ウ、ウルフ一郎……ガオンがさらわれた!」

「えっ!?なんだとぉ!?ん?」

ウルフ一郎が、窓の方を見た。

「おい、まさか窓、閉めるの忘れたのかよ。」

「う、うん。」

「バカヤロー!だからさらわれるんだ!」

「ゔ……ゔぅ……。」

あたしは突然、泣き始めた。

「あぁっ、ごめん!今すぐ警察に相談しよう!そして、お城に行こう!」

あ……あぁ。


                              ☆

「えっ!?ガオンくんが行方不明!?」

「あぁ。ついさっき、警察に相談した。」

そ、そんな……あのガオンくんが、行方不明だなんて……。

「あたしが……あたしが全部、悪いんだ。」

ネルさん、下を向いて、手をグーにしてる……。
しかも、ものすごく震えてるし。

「あたしが……あたしが窓を閉め忘れたから、ガオンは……ガオンは……うわ~ん!」

ああっ、ネルさん、泣き出したよぉ。

「あなた、落ち着いて。私と一緒に、向こうへ行きましょう。」

「う、うん。」

リリアさんはネルさんを連れて、向こうへ行った。
あんなに悲しむネルさんの姿、初めて見た……。

「で、誰がガオンを連れ去ったか、まだはっきりしてないのか?」

「あぁ。今、警察が、捜索してる。」

「ところであんた、その間、なにをしてたのかい?」

うわぁ~。ウルフ一郎さんのお母さん、名探偵みたいになってるぅ~。

「お、俺様?俺様はぁ、畑を耕してぇ……。」

「ウルフ一郎様!犯人らしき人物から、お電話が!」

「なにぃ!?」

犯人から、電話が……。

「すぐ代われっ。」

「はいはい、ただいまぁ~。」

ルクトさんが、ウルフ一郎さんに、受話器を渡した。

「……こちら、ガオンの父親、ウルフ一郎だ。」

「『貴様が桜吹雪のネルの旦那か。』」

う、うわぁ~。声、ものすごく低い。
まるで、スローモーションをした時の声みたいだし、
誰の声かわからない……。
ていうか、本格的に、誘拐事件になっちゃったよぉ。

「あぁ。息子をどこへやった。」

「『さあね。』」

「さあねじゃねぇ!」

ウルフ一郎さん、すっごく怒ってる……。
テーブルを、バン!ってたたいたし……。

「さっさと教えねぇと、ぶっ飛ばすぞ!」

「『はいはい。わかったから、教えてあげますよー。息子さんは今……車の中にいる。』」

「!?」

「おい!まさか息子に、なにかしたんじゃないだろーなぁ!」

「『安心してください。息子さんは今、すやすや寝ています。』」

「ま、まさか、すいみん薬を……。」

「『ちがう。ただ、眠っているだけだ。』」

「あだーっ!」

私達は、お笑い劇のようにコケた。

「今、どこに向かってる。」

「『貴族の街のはずれにある、桜の街。』」

「桜の街!?」

「ギロさん、知ってるんですか!?」

「あぁ。桜の街は、小さいころ、リッちゃんとネルちゃんとよく行ってねぇ。桜の街は、桜の木がいっぱいあって、夏になっても、秋になっても、ずーっと、咲き続けてるんだ。」

へぇー。

「ネル様は3年前、その街の観光大使に選ばれたんですよ!ほらっ!」

「うおぉぉぉぉぉぉ!貝殻の水着ならぬ、桜色の水着じゃねぇかぁ!」

「『くおうら!人の話を聞けぇ!』」

「あ、すまない。で、用件は?」  

「『今日から俺の言う事にしたがえ。まず、今日の条件は……桜吹雪のネルの下着を持って来い。』」

「そんなの、断る!」

「『はぁ?なんでだ。持って来なけりゃ、息子の命はないぞ。』」

「ネルの下着は、誰にも渡さん!なぜなら、ネルの下着はら俺様にとって、だ~いの宝物だからー……。」

「おい!変なこと、言うんじゃねぇ!」

「ぎゃふん!」

あ、復活した。

「『なら、仕方ない。代わりに別の物を……。』」

「今日のネルのパンティーは、うさちゃんだぞ!俺様、見ちゃったもんねー。」

ボカッ!

「いーかけんにせいっ!」

「はい、すみません。」

「『んんー。パンティーのことはわかった。じゃあ、代わりに別の物を言う。今日の条件は……桜吹雪のネルの写真集を持って来い。』」

「はぁ!?俺様、そんなの持ってないぞ!」

「兄貴、たくさーん、ありますよっ。」

「おぉ!サンキュー!ウヒョー♡ぜーんぶヌードじゃねぇかぁ!Dのくせによく、やりきったなぁ。」

スパッ!
わ!ネルさんが思いっきり、写真集をウルフ一郎さんこ頭にすり抜けるほど、叩きつけたよぉ!

「ゔ!」

「いーかげんにせいっ!」

「ぐ、ぐるじ~い!」

「ネ、ネル様、それは俺様の、大事な物……。」

「『おい!俺を忘れるなっ!』」

「あ、ごめーん。」

「『ちっ、写真集がだめなら、幼いころの写真を持って来いっ!』」

この誘拐犯、よくネルさんグッズを欲しがるよねぇ。

「幼いころの写真、あるわよ。」

「わわわ!ちょっ、それはやめてくれ!」

「ふーん。お前、スカート、はいてたのかぁ。かっわい♡」

「おまけに髪なんか結んじゃって。」

「み、見るんじゃねぇ!」

「『えーかげんにせんかーい!』」

犯人、ものすごく怒ってます。

「『ちっ、事件だってのに、ワーワー騒ぎやがって。いいか!桜吹雪のネルの……。』」

「あのう、一応、誘拐犯だから、身代金の方が、いいじゃないですかぁ?」

「うんうん。」

私達は2回、うなずいた。

「『はぁ……ちっ、仕方ねぇ。身代金でいくかぁ。……身代金は、200万。』」

「はーい、そんなお金、持ってませーん。もうちよわっと、安くしてくださーい。」

「『ちっ、うぜーやつだなぁ。』」

「だって、そーゆー性格なんだもーん。」

「『今度会って、一発ぶんなぐりてぇ!じゃあ、一万円でいいか?』」

「おう!それなら安い!」

「犯人を困らせてるよ、あの人。」

「『じゃあ、午後8時まで、桜の木の下に、一万円を置いて来い。もし、置いてなかったら、息子の命はもう、ないと思え!アッハッハッハッハ!アッハッハッハッハ!』」

ブチッ。
プー、プー。

「切れちゃったぜぇ。」

「一体、なんの会話だったんだ?」

ねぇ。犯人は最初、「桜吹雪の旦那か。」って、言ってたじゃない?

「あぁ。」

なんで知ってるんだろ。
そのあとの条件のことだって、ネルさんばっかり言ってたじゃない?

「あぁ。確かに。」

「ネルさん、なにか、心当たりはありませんか?少しだけでいいので。」

「う~ん、あたしの周りには、剣士仲間とか、賞金稼ぎとかいたからなぁ~。その数いっぱいいるから、名前など覚えとらん。」

そうなんですかぁ~。

「じゃあ、剣士をやめるって言った日は、誰かとしゃべりましたか?」

「う~ん……わからん、忘れた!2ヵ月前のことは、覚えとらん!」

そうなんですかぁ~。

「じゃあ、連絡先は?」

「それは持っとらん。みんな、ケータイは持ってないからなぁ。」

えっ!?剣士って、ケータイ持たないんだぁ!
初耳ですっ!

「ただ、番号を交換したやつは、いるけどなぁ。」

えっ!?

「そ、そいつは誰だ!?」

「……ロゼッタ。」

「ロゼッタさん!?」

ウルフ三郎さん、知ってるんですか?

「知ってるに決まってんだろ!紅月のロゼッタさんは、ネル様の次にえらい人で、ネル様の次に美人で、ネル様のライバルなんですっ!」

へぇー。そのロゼッタさんに聞けば、何か心当たりがあるはずかも!

「ロゼッタと話すのは久しぶりだ。」

ネルさん、嬉しそう。
ネルさんは、早速、ロゼッタさんっていう人に、電話をかけた。
トゥゥゥゥル、トゥゥゥゥル。

「『おかけになった電話番号は、現在、音信不信の場所にいるため、おかけできません。ピーッと発信音が鳴るまで、メッセージを言ってください。』」

ピッ。

「だめだ。繋がんねぇ。」

そ、そんな……。

「あいつ、あたしがおやつのゼリーをぬすみ食いしたことを気にしているのか?」

『どんだけライバル視、してるんだよ。ま、とりあえず……ギロ、一緒に来てくれるか?』

「はいっ!」

ギロさんは笑顔でうなずいた。

「じゃあ私達は、犯人の電話が来るのを待つわ。」

「おう。」

「う、う!」

ガオンくんが心配だね、道華。


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