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第1章

第三十八話 「ウルフ一郎さん、また人間になる?」

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ゴクゴクゴク……。

「あ゛ー!」

(ウルフ一郎です。)

(最近、うちの嫁が、俺様に冷たかとです。)

(ウルフ一郎です。)

(最近、うちの子供が、うちになついてくれないとです。)

(ウルフ一郎です。)

(もう、離婚したいなぁ~と、思っているとです。)

(ウルフ一郎です。)

(寝る時は嫁はベッドで寝て、俺様は布団で寝ているとです。)

(ウルフ一郎です。)

(朝ご飯の量が、嫁より少なかとです。)

(ウルフ一郎です、ウルフ一郎です、ウルフ一郎です。)

「うわ~ん!」

「お兄さん、もうそのくらいにしといたら?」

やだ!
俺様は……死ぬまで飲み続ける!

「意味わからん。」

ゴクゴクゴク……。
あ゛ー!うまい!
……この2年、俺様はなにをしたかったんだろ。
ネルと再会して、子供ができて、結婚して、子供が産まれたという人生、なんだったんだろ。
なんで、ネルを好きになったんだろう。
あんなにうざかったのに、なぜ……。
俺様の右手のとなりには、俺様のきたない字で書かれた、離婚届が。
俺様は、それを取った。
ネルがサインをしてくれれば、俺様はもう、自由の身だ。
もう、ありのままの自分になれる。
では、おやすみなさーい!ガーゴー、ガーゴー。

「ああっ!お客さん!ったくぅ、だからそのくらいにしといたらって、言ったんだ。さぁ、寝ている間に、グラスを片付けよう。」

ガランガラン。

「あ、いらっしゃい。お一人?」

「見てわかるだろ。あたしの旦那はもう、30年前以上、亡くなったんだ。」

「あ……いや、そう聞いてはいないんですけど。」

「お水を。」

「はい、かしこまりました。」

「ん?あんた、あの時の……!」

「んがぁ!」

ん?俺様のとなりにすわっている、黒いロープを着ていて、腰が曲がってて、顔がしわだらけの、白髪のおばあさんは……。

「あ!魔女のおばあさん!」

そう!
2年前、俺様に人間クリームという、塗ったら人間になれる道具をくれた、不思議なおばあさん!
まだ生きてたのか。

「バカ!このあたしが、死ぬわけないだろ!」

いやあ、長生きしてらっしゃる。

「君達、知り合いかい?」

「あぁ。」

バーテンダーが、おばあさんに水をわたした。
ゴク、ゴク、ゴク……。

「あ~、おいし~い!ん?」

おばあさんが、俺様の左手の薬指を見つめた。
な、なんだよ。

「兄さん、結婚したのかい。」

あぁ。

「おめでと~!相手は?どんな子かい?美人か?不美人か?」

失礼なっ。
美人だよ、美人!べっぴんさんだよ!23歳だよ!

「うわ!若っ!」

そんなに驚く必要、あるのか?

「で、名前は?」

「ネル。」

「えっ!?」

驚いたのは、バーテンダー。
なんでお前が驚くんだよっ。

「で、子供もいる。まだ、生後間もないけどな。」

「へえー。しあわせの絶頂なのに、離婚するのかぁ。」

あ、こら!見るなっ!

「……どうやら、あたしに力を、また借りたいわけだね。」

えっ?

「……どう?また人間になるかい?」

あ……ああ!またなりたい!
今度は2年後バージョンってことで、髪型を、ロンゲで!

「わかったよ。ほいっ。」

ばあさんは俺様に、人間クリームを渡した。
ありがとう、ばあさん!

「どういたしまして。ところで、やり方、覚えてるかい?」

忘れた。

「がくっ。ま、2年経っているから、しょうがないか。まず、それを体中にぬる。で、ぬる時に、自分がなりたい人間を想像しながら、ぬるんだよ。」

あ、そうだった!
ありがとう、おばあさん!

「どういたしまして。さぁ、早くぬるんだよ。」

あぁ!
俺様は、なりたい人間を想像しながら、体中にクリームをぬり始めた。
すると……。
ピカーッ!
うわ!体が光り出した!

「う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「な、なんじゃこりゃあ~!」


                            ☆


「う、う~!」

ガオン、お父しゃん、おそいねぇ。

「あい、あい!」

早く帰って来て欲しいねぇ。

「う、う~!」

うふふ。
ったくぅ、あいつ、なにしてんだよぉ。
ピンポーン。
ん?誰か来た。

「あい、あい!」

ガチャッ。

「もう、帰ってくんのがおそいんだよ……ん?」

「よっ。」

誰だ?この男。
茶髪のロンゲで、サングラスをかけていて、中途半端にボタンを開けた、学生服を着ていて、あたしより2cm高くて、顔をニヤッてさせている、男の人。
バタン。

「あ!な、ちょっと!なにすんだよぉ!」

知らない人は、出て行ってくださいっ!

「俺様は知らないやつじゃねぇ!ウルフ一郎だっ!」

はぁ!?嘘つけ!
あたしの旦那は、そんなにかっこよくありませんっ!

「!?だったら開けろ!」

はぁ!?なんで!
あたしは仕方なく、ドアを開けた。

「サングラス、外してやっから、だまって見てろ。」

あたしは、ごくりとつばを飲み込んだ。
お、おう。
男はゆっくりと、サングラスを額まで上げた。

「どうだ。この夜行性の目、見たことあるだろ?」

ん?そう言われるとぉ、見たことあるような……あ!

「ウ、ウルフ一郎!」

「ったくぅ、さっきからそう言ってんだよ。」

お前、どうやって人間になった!

「ん?ばあさんから人間クリームをもらって、なったんだ。」

人間クリーム?

「あぁ。このクリームを体中にぬると、あっという間に人間になれるんだよ。」

へぇー。ドラ○もんみてぇな道具だなぁ。

「どう?ネル。俺様、かっこいいか?」

全然。

「がくしっ。ガオーン、お父しゃんでちゅよぉ~。」

「うぇーん、うぇーん!」

「なんで泣くんだよぉ!」

「人間のお前をこわがってんだよ。さぁ、早く入れ。」

「……はーい。」


                             ☆


「なぁ、ネルー、今度、一緒に映画観に行こっ。ガオンは母ちゃん達にまかせてさ。この映画、すっごくおもしろいんだよぉ。主人公がさ、宇宙人にさらわれてさ、で、宇宙を救う、ヒーローになるんだよ……。」

「はいはい。わかったから、これ、持って行け。」

「えーっ?」

「あう、あう!」

「ガオーン、お父しゃんと一緒に、遊びまちょうかぁ~。」

「うぇーん、うぇーん!」

「泣くなよっ!よーし、よし。いい子だから、泣かないでねぇ~。」

「だ、だーあー!」

「いてっ!ちょっ、ガオン!人の顔面、たたくなよっ!」

「あい、あう!」

ガッシャーン!

「罰金、一万円。」

「はいはい。あとでサングラス、アンクさんに直してもらうから。」


                             ☆


「んく、んく、んく、んく……。」

うふふ、おいしそうに飲んでる。

「あう、あう、あう~!」

もう、お腹、いっぱいなのか?

「だ、だ~!」

ん?お父しゃん?
あ、すっごく暗くなってる。
ほっとけよ。今日はすっごく、おかしいんだから。

「う、う~!」

「はぁ……。なぜ、なぜ、人間になったのに、誰も優しくしないのだ!なぜ、なぜ!」

知らねぇよ。

「あい、あい!」

「あぁ、ガオンよ。俺様の味方になってくれるのか?」

「ブー!」

「えー!?」

「うぇーん、うぇーん!」

「ああっ!もう、眠たいんだねぇ。わかったよぉ~。」

「ひくっ、ひくっ、ひくっ。」

「……もう、死にたい。父ちゃんのところへ行きたい……。」


                               ☆


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