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第1章

第二十一話 「結婚へ」

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コトン。
はぁ~、緊張するぅ~。
こーんな広い大広間で、まさかウルフ一郎とウルフ一郎の母ちゃんと一緒になるとは。
おまけに、せんべいとお茶が置いてある。
ウルフ一郎の母ちゃんは、お茶を飲んだ。

「んで、話ってのは、なんなんだい?」

「じ、実はぁ、俺様達、結婚するんだ。」

「ブー!」

「ぬわんだとぉ~!?」

ウルフ次郎、ウルフ三郎!

「お前ら、聞いてたのか!」

「あったりめぇだぁ!ウルフ一郎兄貴!ネル様と結婚するなんて、ゆるさないぞ!」

「お、俺様達、つきあってたんだよ。」

「ブー!」

またお義母さん、お茶を吐き出して!

「はぁ!?貴様、よくも俺様のネル様に手を出しやがって!この、裏切り者め!」

もう、そのくらいにしといたらどーだ!

「は~い♡」

ふぅ、やっとおさまったぁ。

「まさか、結婚前提でつきあっていたのかい?」

ひぃぃぃぃ!
ウルフ一郎の母ちゃん、今、ぎろりとあたしの方を見つめたよぉ!
や、やっぱこわーい。

「いや、ちがう。これには深ーいわけがあって。」

「深いわけぇ?」

「あぁ。ネル。」

お、おう。
あたしはお義母さんの前に出た。

「お義母さん、驚かないでください。実はあたし、妊娠してるんだ。」

「ブー!」

「ぬわんだとぉ~!?」

はぁ、また始まった。

「て、てめぇ!なにネル様を妊娠させやがったんだよぉ!ああん?」

「そ、それはぁ……。」

「もういい。やめろ。」

ウルフ三郎は、ウルフ一郎の胸ぐらをひっぱるのをやめた。
あれっ?ウルフ一郎の母ちゃん、すっごい真剣な顔になってるし。
どうしたんだろ?

「母ちゃん!よかったらここにサインしてくれ!」

「なんだなんだ?」

ウルフ三郎が、婚姻届をパッと取った。

「な、なにすんだよ!返せ!」

「返すもんか!この婚姻届、すぐウルフ三郎に変えてやるぅ!」

「もうやめるんだって、言ってんだろ!」

ウルフ一郎の母ちゃんは怒鳴ると、ウルフ三郎はしゅんとして、ウルフ一郎に婚姻届を返した。

「あんたの気持ちはわかった。だが、一つだけ言っておく。」

「えっ?」

「……あたしは、結婚を認めないよ。」

!?

「な、なんでだ母ちゃん!母ちゃんは、俺様の味方だろ?なんで反対するんだよぉ!」

「あんたが父ちゃんと同じことをしたからさ!」

えっ?
ウルフ一郎、それってまさか……。

「あぁ。俺様の父ちゃんは、母ちゃんと結婚せずに、母ちゃんを妊娠させてしまったんだ。」

そ、そんな……。

「あたしはね、あんたをそういう子に育てた覚えはない!もう一度、やり直したらどうだね!そのお腹の子をおろすとかさぁ!」

!?

「母ちゃん!それは言いすぎだろ!」

「あんたはだまっとき!」

「……。」

ウルフ次郎は、そのままだまりこんだ。

「おい、母ちゃん。」

えっ?
ウルフ一郎、土下座してる……。

「父ちゃんに似て、すみませんでした。」

ウルフ一郎……。
そうしたらウルフ一郎の母ちゃんは、後ろを振り向いた。

「……この、バカ息子が。さぁ、とっとと出ておゆき。あたしはもう、あんたの母親じゃないよ。」

「ま、まてよ、母ちゃん!」

三人はそう言って、行っちゃった。
……ウルフ一郎。

「……。」

悔しいのか?

「……ううん、悔しくない。母ちゃんはそういう人だからなぁ。さ、次へ行こう。ここで立ち止まっちゃあ、先へ進めないからなぁ。」

ウルフ一郎……。
本当は、悲しいんじゃないのか?


                                    ☆


あたし達はあたしの家に行って、結婚のことと、あたしが妊娠していることを話した。
そしたら……。

「君!」

バカ親父がウルフ一郎の胸ぐらをひっぱった。

「ぐ……!」

「てめぇ、よくもうちの娘を襲ったなぁ!ゆるさない!いい人だと思ってたのに!ああん?」

「す、すみませんっ。俺様は、こーゆーことになると知ってて……。」

「言い訳は無用!娘との結婚は、認めん!二度と娘に近づくなっ!」

お、おい!親父、やめろ!

「ネル!」

おふくろ!
おふくろは、首を小さく振った。
な、なんだよ。止めるなって言ってるのか、おい。

「ネル。さっさと子供をおろしなさい。おろして、桜吹雪のネルに戻るんだ。」

いやだ!
あたしは泣きながら言った。

「ネル!」

「あたしは……あたしは!この子を産むと決めたんだ!この子を産んで、ウルフ一郎と一緒に、しあわせに暮らすと決めたんだ!もう、大切な人を離してくれ!離さないと、お前を殺すぞ!」

そのとたん、召使い達がざわついた。

「……。」

親父はウルフ一郎を離した。

「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!」

「ウルフ一郎!」

あたしはウルフ一郎のところへかけつけた。
大丈夫か!?

「あぁ。大丈夫だ。」

ウルフ一郎……。
あたし達は手を握った。

「ふん!この、バカオオカミめ!」
 
親父は怒りながら、去ってしまった。

「ちょっと、あなた!」

おふくろはそんな親父のあとを追いかけた。

「大丈夫ですか?お嬢様。」

あぁ。大丈夫だ。

「私はお嬢様とウルフ一郎様の結婚に賛成します。だって、お嬢様は私達にとって、大切な宝物ですから。」

……ありがとう。
結局、全部、だめだったなぁ~。


                                 ☆


さっきから、ウルフ一郎の様子がおかしい。
道をフラフラして歩いてるし。このままじゃ、たおれそうだ。
わ!あたしの言う通り、たおれそうになったし!
おい、大丈夫か?ウルフ一郎。

「あぁ。大丈夫だよ。そのくらいのことで、男がたおれるかよ。」

……そっか。
あまり、フラフラすんなよ。

「おう。」

あたしはそれから、ウルフ一郎に会わなくなった。

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