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第三十九話 「えぇ〜!?マドレーヌちゃんが、恋をした!?」
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バレンタインデーまであと1日。
私は家で、バレンタインデーチョコをつくっています。
もちろん、ハート型のチョコのカップケーキですっ。
「真莉亜ー、円花ちゃんよぉ。」
え?マドレーヌちゃん?
なんで、マドレーヌちゃんが、うちに?
もしかして、グレスくんのことを、あきらめるって、言い出すんじゃないだろうね。
胸をドキドキさせながら、私は玄関に行った。
玄関に行くと・・・・・・。
え?マドレーヌちゃんが泣いている!
一体、どうしたんだろ。
「マドレーヌちゃん、どうしたの?」
うわぁ。マドレーヌちゃんはむらさき色の涙を、目でためているよぉ。
しかも、歯を食いしばっているし。
「ま、真莉亜お、お姉様・・・・・・。」
マドレーヌちゃんの声が、いつもと違う。
だって、ふるえているもん。足も、肩も、体中全部。
おまけに、かわいいかわいい顔は、鼻水で台無しになっている。
「なにかあったの?正直に、話してごらん。」
私がそう言うと、マドレーヌちゃんはいきなり、私にぎゅっと、だきついてきた。
ど、どうしたの?
「あ、あ、明日、転校するって!」
えぇ!?ど、どこに!?
「・・・・・・アメリカにです・・・・・・。理由は、お父様のお仕事の都合らしく・・・・・・。もう、一生、会えないんですぅ!うわーん!」
ちょ、ちょっとマドレーヌちゃん、家の中で泣かないでぇ~。
「どうしたの?円花ちゃん。」
あ、お母さん。ちょっと、円花ちゃんと、部屋で一緒に、話すから。
「あら、そう。じゃあ、円花ちゃん、おやつをもっていくから、真莉亜と一緒に、ゆっくりしといてね。」
「は、はい。」
マドレーヌちゃんが泣きやんで、私の前を歩いて、階段にのぼって、私の部屋に入った。
円花ちゃん、早いよぉ。
私が、マドレーヌちゃんの後をついて、部屋に入ろうとすると。
「真莉亜。」
「なに?」
「チョコレートケーキ、どうするの?こげちゃうわよ。」
あ。
「焼いたら、ふくろに入れといてぇ。明日、やるから。」
「誰に?」
「好きな人。」
「え!?」
お母さんが、目をぱちくりさせながら驚いて、それから、急に泣き始めた。
ど、どうしたの?
「む、娘に好きな人ができたなんて、成長の証だわぁ!」
あのう、娘に好きな人ができたぐらいで、泣く親は、いませんけど。
「とりあえず、部屋に行きなさい。円花ちゃん、首を長ーくして、まってるわよ。」
はーい。
私が部屋に入ったとたん、マドレーヌちゃんの姿がなかった。
え、え?マドレーヌちゃん、どこ?
もしかして、ショックを受けて、自殺したとか!?
そんなの、やだぁ!
「ここにいますよ。」
うわぁぁぁぁ!ベッドの中から、マドレーヌちゃんの幽霊がぁぁぁぁぁ!
お願いだから、呪わないでぇぇぇぇぇぇ!
「生きてますよ。」
本当だ。体半分、透けてないし、マドレーヌちゃんの姿が、はっきりと見える。
よかったぁ。
「はぁ。」
ため息をつきながら、マドレーヌちゃんは、ベッドから出てきた。
「もっと、お話がしたかったです・・・・・・。」
そうだよね。私も、そう思う。
「あの時、帰らなかったら、よかったです・・・・・・。」
マドレーヌちゃんが悪いんじゃないんだよ。
「え?それって、どういう意味ですか?」
悪いのは、恋だよ、恋。恋があまり、マドレーヌちゃんとグレスくんの会話の時間をくれなくて、マドレーヌちゃんを傷つけた。それで、恋がグレスくんをマドレーヌちゃんから引き離した。
そうでしょ?
私だって、ジュンブライトに近づこうとしても、比奈多さん達がじゃまする。つまり、恋がじゃましたってわけ。
「なるほど・・・・・・。」
どうしたの?背を向けて。
それから、マドレーヌちゃんは、私の方を向いた。
「おいっ、恋!俺とグレスの時間を、勝手に取るなぁぁぁぁぁ!」
ひぃぃぃぃ!キャラ、変えないでぇ!
「お願いだ、真莉亜姉貴!」
キャラは変わっているけど、真剣な表情になっている。
おまけに、私の両手をギュッとにぎっているし。
てか、今『真莉亜姉貴』って、呼んだ?
「な・・・・・・なんでしょうか。」
「一緒に・・・・・・一緒に、チョコを作ってくれないか!?」
え!?マドレーヌちゃん、本気なの!?
「あたり前だろ!好きな人にチョコを作るのが、女の役目だろ!後、もう一つ、言っていいか?」
は、はい。
「今日の夜中、グレスにヴァンパイアだってこと、言ってもいいか!?」
え~!?そんなの、無理だよぉ。
絶対、大騒ぎになるよぉ。
「大騒ぎになってもいい!ジュンブライト兄貴とルクトじじーとリリアに頼むから!頼む、言わせてくれっ!」
・・・・・・わかった。じゃあ、一緒にチョコ、作ろ。
「はいっ。」
ふぅ。やっと、いつものマドレーヌちゃんに戻ってくれたぁ。
☆
「えぇ!?マドレーヌのやつ、そんなことを言ってたのか!?」
しっ!これがマドレーヌちゃんの決意だから、ちゃんと見守ってくださいね。
「あぁ、わかった。」
だって、私達、透明マントをかぶって、夜空を飛行中しているんです。
先頭に飛んでいるマドレーヌちゃんには、私達の姿は、全く見えない。
「ふぁ~。ねむいわぁ。」
リリアさん、ねないでくださいっ。
ここは我まんですよ、我まん!
「グゥ~、グゥ~。」
こらぁ!ジュンブライト、起きろー!
「んがぁ!もう、人の昼寝をじゃまするなよぉ。」
私もねむたいけど、我まんしているんだよっ。
「王子。これは大仕事ですから、ねたらだめですよ。」
「わかった。じゃあ、もうねないぜっ。」
そうそう。そういう気で、大仕事にはげんでください。
「マドレーヌ、グレスくんの家についたわ。」
本当だ。窓をたたいている!
「そばに行ってみましょう。」
あ、はい。
って、ジュンブライトぉ、どこにいるのぉ?
「ガーゴー、ガーゴー。」
浮いたまま、ねるとは、すごいです。
って、こらぁ!さっき、「もう寝ない。」って言ったくせに、寝るなぁ!
「んがぁ!あ、そうだった!ごめん、ごめん!」
大急ぎで、ジュンブライトが、私の右手をギュッとにぎると、ジュンブライトの顔が、急に、りんごみたいに真っ赤になった。
「ど、どうしたの?」
「い、いや、なんでもない。」
あやしいなぁ。
そう思っているうちに、私達は、マドレーヌちゃんの後ろに来ちゃった。
「グレスくん、グレスくん。」
小さな声で、マドレーヌちゃんが、窓をたたきながら、グレスくんを呼んでいる。
すると、カーテンがシャッと、開いて、窓が開いて、グレスくんが窓から顔を出して、きょろきょろと、辺りを見渡した。
「グレスくん!」
マドレーヌちゃんの大きな声で、グレスくんが顔を上げると、グレスくんは、マドレーヌちゃんの姿を見て、驚いた。
「ま、円花ちゃん!どうしたの?その格好。それに、その黒い翼、何!?」
「そのことは、後で話すから。一緒に、夜空を飛ぼう。」
「夜空を?ふ、そんなもん、人間にはできない。できるのは、ヴァンパイアだけだ。」
グレスくんは、マドレーヌちゃんを細い目で見つめた。
「そうだけど、信じてください。だって、明日、アメリカに行くんでしょ?いい思い出になると思って・・・・・・。お願いします!一緒に、夜空を飛んでください!」
グレスくんが、マドレーヌちゃんの熱意に負けたのか、窓に腰をかけた。
「いいよ。一度、夜空を飛んで見たかったんだ。」
「うん!じゃあ、手を出してください。」
「あぁ。」
グレスくんが、マドレーヌちゃんの手をギュッとにぎった。
にぎった瞬間、グレスくんの体が、フワッと浮き上がった。
「さぁ、行きましょう。」
「うん。」
あぁ。二人とも、仲良くしながら、飛んで行くよぉ。
私達も、行かなくきゃ。
「おうっ。」
私達は、二人の後をついた。
「うわぁ。家が小さく見えるぅ。菜の花広場も、花田小学校も全部!」
「でしょ?」
「まるで、ピーターパンになった気分だぁ!」
「でしょ?」
「アハハハハハ。」
「ウフフフフフ。」
二人とも、ピーター・パンとウェンディみたいに、仲良くぐーるぐる飛んで楽しんでいる。
そんな楽しい時間が、あっという間に過ぎちゃって・・・・・・。
「今日は楽しかったよ。」
「そう?ありがとうございます。」
あっという間だったね。グレスくんと過ごした時間が。
「じゃあね。」
「まってください!」
マドレーヌちゃんが、ベッドに戻ろうとしているグレスくんを、呼び止めた。
「なに?」
グレスくんが、マドレーヌちゃんの方を振り向いた。
「あ、あのね・・・・・・。」
がんばれ、マドレーヌちゃん!
「どうしたの?なにかあったの?」
「私ね、円花って言うでしょ?」
「う、うん。それが?」
「・・・・・・それ、名前じゃないんです。」
「え?」
「本当の名前は・・・・・・マドレーヌ。ヴァンパイア界の王女様なんです。」
「え!?じゃあ、君は・・・・・・。」
「そう。ヴァンパイアなんです。」
「え!?」
グレスくんが、驚いた。
「ごめんなさい。今まで隠して・・・・・・。私、二年前から、人間界に来たんです。『黒月円花』として、学校に行って、勉強したり、友達と遊んだり、いろいろな、楽しい一日を過ごしたんです。けど、あなたと出会って、私は・・・・・・。」
がんばれ~!
「あなたのことが、好きになってしまいました!」
言えたぁ!さっすが、マドレーヌちゃん!
「これ、受けとってくださいっ。」
マドレーヌちゃんが、私と一緒に作った、チョコのカップケーキを、グレスくんの前に出した。
それを、グレスくんが、手に取った。
「確かに、受け取ったよ。明日は、バレンタインデーだもんね。」
「は、はい。」
マドレーヌちゃんが、顔を真っ赤にして、うなずいた。
「それに、さっきのこと、誰にも言わないよ。マドレーヌちゃん。」
グレスくんのキラキラ輝いている笑顔、久しぶりに見た気がするなぁ。
☆
バレンタインデー当日。
はぁ~。心臓の音が、ドックンドックン、鳴ってるよぉ。
早く来ないかなぁ?ジュンブライト。
「おはよう、黒月。」
「おはよう。」
あ、来た!
「ジュンブラ・・・・・・。」
「潤様~!」
ふんぎゃあ!
ジュンブライトファンクラブの人達から、先こされちゃった・・・・・・。
「これ、わたくしの気持ちです!受け取ってくださいな!」
「ありがとう。」
「潤様!チョコピナ1年分、受けとってくださいな!」
「私のも!」
「あたしのも!」
「ぜ~んぶ、受け取ってくださいな♡」
「あ、ありがとう。」
さっすが、人間界でもヴァンパイア界でも、モテる王子です。
「キャハ♡よかったですね、比奈多様♡」
「えぇ。それに、わたくしのお気持ちまで、受け取ってくださいましたわ。オーホッホッホッホ!」
ふぅ。やっと、女子軍団のお楽しみのお時間が、終わりましたか。
「真莉亜!大丈夫か!?」
大丈夫じゃないです・・・・・・。
「立てるか!?」
あ、はい。立てます。
それにしても、チョコ、大丈夫かな?
私は、チョコのカップケーキをのぞいた。
あはっ、大丈夫みたい。
そう思いながら、私は立ち上がった。
「ところでジュンブライト・・・・・・。」
「なんだ?」
「渡したいものがあるけど・・・・・・。」
「俺もだ。」
え?ジュンブライトも?
「あぁ。ちょっと来い!」
ジュンブライトが、私の手をギュッとにぎって、走った。
って、どこに行くの~!?
「二人っきりになれるところだ!」
二人っきりになれるところ?
「ここだ!」
ジュンブライトに連れてこられたのは、学校の裏庭。
「はぁ、はぁ。やっと、二人っきりになれる・・・・・・。」
ジュンブライト、渡していい?
「俺も。渡していいか?」
い、いいよ。
今日のジュンブライト、様子が変だなぁ。
だって、顔が真剣だし、顔の色がりんごみたいに赤いもん。
一体、どうしたんだろ。
そう思いながら、私は、チョコのカップケーキを出そうとした。
あれれ?ジュンブライトも、なにか出そうとしているよ。
ま、そんなことは気にせず・・・・・・。
「はいっ。」
「はいっ。」
え?ジュンブライトが持ってるの、チョコ?
「あたり前だろっ。夜中に一人でがんばって、作ったんだぞ!おまけに、じいやとリリアと一緒に、真莉亜が好きそうなふくろを選んだんだ!」
えぇ!?買い物って、バレンタインデーの材料を買いに行ったのぉ!?
「そ。」
ジュンブライト・・・・・・。そこまで私のために、がんばって、チョコを作ってたんだぁ。
「そ。」
「ありがとう。そこまでがんばる、ジュンブライトが、一番好きだよ。」
「二ヒ二ヒ。好きって言われたぜ~。しかも、『一番』、だってぇ!ウッヒョヒョヒョヒョ。」
あのう、いい場面を、簡単に、くずさないでくれます?
「あ~、ごめんごめん。じゃあ、俺の気持ち、受け取ってくれるか?」
「もちろん!」
笑顔で私達は、チョコを渡した。
もう、ジュンブライトったら、チョコのカップケーキをぱくぱく食べてるし。
「うんま!さっすが、真莉亜は料理がうまいなぁ!」
えへへへへ。そんなこと、言われても、恥ずかしいなぁ。
ジュンブライトの手作りチョコ、食べてみよっかな。
私は、ふくろを開けて、さっそく、チョコを一口、ぱくっ。
もぐもぐ、う~ん・・・・・・むむ!?
「どうかしたのか、真莉亜!」
このチョコ、辛いよぉ~。
「あ。」
ん?どうかしたの?
「一味唐がらし、入れちゃったぁ♡」
え、えぇ~!?
なんで、一味唐がらしなんか、入れるのよぉ!?
「本当はぁ、ミルクを入れたかったんだけどぉ、間違えて、一味唐がらしを入れちゃったぁ♡その瞬間、ま、いっかって思ったのぉ♡ウフフフフ♡」
ローラのまね、するなぁ!てか、今、てへぺろしたよね?
・・・・・・気持ち悪い。
「もう!ルクトさんとリリアさんに、手伝ってもらえば、よかったんじゃないの!」
「ううん。だって、人に手伝ってもらう男って、かっこ悪いもん。」
ジュンブライトが、口をとんがらせた。
誰でもいますよ、手伝ってもらう人。
「もう!ジュンブライトのバカ!大嫌い!」
「あ~、ごめんごめん。今度から、そうするぜ。」
謝っても同じだよぉ。
こっちだって、辛~いチョコを、食べさせられたんだから。
「ごめんごめん。なぁ、ゆるしてくれよぉ。真莉亜が大好きなもの、買ってやっから。」
もう、知らない!
「えぇ~!?」
今日は、うれしいけど、ちょっと最低な、バレンタインデーです!
私は家で、バレンタインデーチョコをつくっています。
もちろん、ハート型のチョコのカップケーキですっ。
「真莉亜ー、円花ちゃんよぉ。」
え?マドレーヌちゃん?
なんで、マドレーヌちゃんが、うちに?
もしかして、グレスくんのことを、あきらめるって、言い出すんじゃないだろうね。
胸をドキドキさせながら、私は玄関に行った。
玄関に行くと・・・・・・。
え?マドレーヌちゃんが泣いている!
一体、どうしたんだろ。
「マドレーヌちゃん、どうしたの?」
うわぁ。マドレーヌちゃんはむらさき色の涙を、目でためているよぉ。
しかも、歯を食いしばっているし。
「ま、真莉亜お、お姉様・・・・・・。」
マドレーヌちゃんの声が、いつもと違う。
だって、ふるえているもん。足も、肩も、体中全部。
おまけに、かわいいかわいい顔は、鼻水で台無しになっている。
「なにかあったの?正直に、話してごらん。」
私がそう言うと、マドレーヌちゃんはいきなり、私にぎゅっと、だきついてきた。
ど、どうしたの?
「あ、あ、明日、転校するって!」
えぇ!?ど、どこに!?
「・・・・・・アメリカにです・・・・・・。理由は、お父様のお仕事の都合らしく・・・・・・。もう、一生、会えないんですぅ!うわーん!」
ちょ、ちょっとマドレーヌちゃん、家の中で泣かないでぇ~。
「どうしたの?円花ちゃん。」
あ、お母さん。ちょっと、円花ちゃんと、部屋で一緒に、話すから。
「あら、そう。じゃあ、円花ちゃん、おやつをもっていくから、真莉亜と一緒に、ゆっくりしといてね。」
「は、はい。」
マドレーヌちゃんが泣きやんで、私の前を歩いて、階段にのぼって、私の部屋に入った。
円花ちゃん、早いよぉ。
私が、マドレーヌちゃんの後をついて、部屋に入ろうとすると。
「真莉亜。」
「なに?」
「チョコレートケーキ、どうするの?こげちゃうわよ。」
あ。
「焼いたら、ふくろに入れといてぇ。明日、やるから。」
「誰に?」
「好きな人。」
「え!?」
お母さんが、目をぱちくりさせながら驚いて、それから、急に泣き始めた。
ど、どうしたの?
「む、娘に好きな人ができたなんて、成長の証だわぁ!」
あのう、娘に好きな人ができたぐらいで、泣く親は、いませんけど。
「とりあえず、部屋に行きなさい。円花ちゃん、首を長ーくして、まってるわよ。」
はーい。
私が部屋に入ったとたん、マドレーヌちゃんの姿がなかった。
え、え?マドレーヌちゃん、どこ?
もしかして、ショックを受けて、自殺したとか!?
そんなの、やだぁ!
「ここにいますよ。」
うわぁぁぁぁ!ベッドの中から、マドレーヌちゃんの幽霊がぁぁぁぁぁ!
お願いだから、呪わないでぇぇぇぇぇぇ!
「生きてますよ。」
本当だ。体半分、透けてないし、マドレーヌちゃんの姿が、はっきりと見える。
よかったぁ。
「はぁ。」
ため息をつきながら、マドレーヌちゃんは、ベッドから出てきた。
「もっと、お話がしたかったです・・・・・・。」
そうだよね。私も、そう思う。
「あの時、帰らなかったら、よかったです・・・・・・。」
マドレーヌちゃんが悪いんじゃないんだよ。
「え?それって、どういう意味ですか?」
悪いのは、恋だよ、恋。恋があまり、マドレーヌちゃんとグレスくんの会話の時間をくれなくて、マドレーヌちゃんを傷つけた。それで、恋がグレスくんをマドレーヌちゃんから引き離した。
そうでしょ?
私だって、ジュンブライトに近づこうとしても、比奈多さん達がじゃまする。つまり、恋がじゃましたってわけ。
「なるほど・・・・・・。」
どうしたの?背を向けて。
それから、マドレーヌちゃんは、私の方を向いた。
「おいっ、恋!俺とグレスの時間を、勝手に取るなぁぁぁぁぁ!」
ひぃぃぃぃ!キャラ、変えないでぇ!
「お願いだ、真莉亜姉貴!」
キャラは変わっているけど、真剣な表情になっている。
おまけに、私の両手をギュッとにぎっているし。
てか、今『真莉亜姉貴』って、呼んだ?
「な・・・・・・なんでしょうか。」
「一緒に・・・・・・一緒に、チョコを作ってくれないか!?」
え!?マドレーヌちゃん、本気なの!?
「あたり前だろ!好きな人にチョコを作るのが、女の役目だろ!後、もう一つ、言っていいか?」
は、はい。
「今日の夜中、グレスにヴァンパイアだってこと、言ってもいいか!?」
え~!?そんなの、無理だよぉ。
絶対、大騒ぎになるよぉ。
「大騒ぎになってもいい!ジュンブライト兄貴とルクトじじーとリリアに頼むから!頼む、言わせてくれっ!」
・・・・・・わかった。じゃあ、一緒にチョコ、作ろ。
「はいっ。」
ふぅ。やっと、いつものマドレーヌちゃんに戻ってくれたぁ。
☆
「えぇ!?マドレーヌのやつ、そんなことを言ってたのか!?」
しっ!これがマドレーヌちゃんの決意だから、ちゃんと見守ってくださいね。
「あぁ、わかった。」
だって、私達、透明マントをかぶって、夜空を飛行中しているんです。
先頭に飛んでいるマドレーヌちゃんには、私達の姿は、全く見えない。
「ふぁ~。ねむいわぁ。」
リリアさん、ねないでくださいっ。
ここは我まんですよ、我まん!
「グゥ~、グゥ~。」
こらぁ!ジュンブライト、起きろー!
「んがぁ!もう、人の昼寝をじゃまするなよぉ。」
私もねむたいけど、我まんしているんだよっ。
「王子。これは大仕事ですから、ねたらだめですよ。」
「わかった。じゃあ、もうねないぜっ。」
そうそう。そういう気で、大仕事にはげんでください。
「マドレーヌ、グレスくんの家についたわ。」
本当だ。窓をたたいている!
「そばに行ってみましょう。」
あ、はい。
って、ジュンブライトぉ、どこにいるのぉ?
「ガーゴー、ガーゴー。」
浮いたまま、ねるとは、すごいです。
って、こらぁ!さっき、「もう寝ない。」って言ったくせに、寝るなぁ!
「んがぁ!あ、そうだった!ごめん、ごめん!」
大急ぎで、ジュンブライトが、私の右手をギュッとにぎると、ジュンブライトの顔が、急に、りんごみたいに真っ赤になった。
「ど、どうしたの?」
「い、いや、なんでもない。」
あやしいなぁ。
そう思っているうちに、私達は、マドレーヌちゃんの後ろに来ちゃった。
「グレスくん、グレスくん。」
小さな声で、マドレーヌちゃんが、窓をたたきながら、グレスくんを呼んでいる。
すると、カーテンがシャッと、開いて、窓が開いて、グレスくんが窓から顔を出して、きょろきょろと、辺りを見渡した。
「グレスくん!」
マドレーヌちゃんの大きな声で、グレスくんが顔を上げると、グレスくんは、マドレーヌちゃんの姿を見て、驚いた。
「ま、円花ちゃん!どうしたの?その格好。それに、その黒い翼、何!?」
「そのことは、後で話すから。一緒に、夜空を飛ぼう。」
「夜空を?ふ、そんなもん、人間にはできない。できるのは、ヴァンパイアだけだ。」
グレスくんは、マドレーヌちゃんを細い目で見つめた。
「そうだけど、信じてください。だって、明日、アメリカに行くんでしょ?いい思い出になると思って・・・・・・。お願いします!一緒に、夜空を飛んでください!」
グレスくんが、マドレーヌちゃんの熱意に負けたのか、窓に腰をかけた。
「いいよ。一度、夜空を飛んで見たかったんだ。」
「うん!じゃあ、手を出してください。」
「あぁ。」
グレスくんが、マドレーヌちゃんの手をギュッとにぎった。
にぎった瞬間、グレスくんの体が、フワッと浮き上がった。
「さぁ、行きましょう。」
「うん。」
あぁ。二人とも、仲良くしながら、飛んで行くよぉ。
私達も、行かなくきゃ。
「おうっ。」
私達は、二人の後をついた。
「うわぁ。家が小さく見えるぅ。菜の花広場も、花田小学校も全部!」
「でしょ?」
「まるで、ピーターパンになった気分だぁ!」
「でしょ?」
「アハハハハハ。」
「ウフフフフフ。」
二人とも、ピーター・パンとウェンディみたいに、仲良くぐーるぐる飛んで楽しんでいる。
そんな楽しい時間が、あっという間に過ぎちゃって・・・・・・。
「今日は楽しかったよ。」
「そう?ありがとうございます。」
あっという間だったね。グレスくんと過ごした時間が。
「じゃあね。」
「まってください!」
マドレーヌちゃんが、ベッドに戻ろうとしているグレスくんを、呼び止めた。
「なに?」
グレスくんが、マドレーヌちゃんの方を振り向いた。
「あ、あのね・・・・・・。」
がんばれ、マドレーヌちゃん!
「どうしたの?なにかあったの?」
「私ね、円花って言うでしょ?」
「う、うん。それが?」
「・・・・・・それ、名前じゃないんです。」
「え?」
「本当の名前は・・・・・・マドレーヌ。ヴァンパイア界の王女様なんです。」
「え!?じゃあ、君は・・・・・・。」
「そう。ヴァンパイアなんです。」
「え!?」
グレスくんが、驚いた。
「ごめんなさい。今まで隠して・・・・・・。私、二年前から、人間界に来たんです。『黒月円花』として、学校に行って、勉強したり、友達と遊んだり、いろいろな、楽しい一日を過ごしたんです。けど、あなたと出会って、私は・・・・・・。」
がんばれ~!
「あなたのことが、好きになってしまいました!」
言えたぁ!さっすが、マドレーヌちゃん!
「これ、受けとってくださいっ。」
マドレーヌちゃんが、私と一緒に作った、チョコのカップケーキを、グレスくんの前に出した。
それを、グレスくんが、手に取った。
「確かに、受け取ったよ。明日は、バレンタインデーだもんね。」
「は、はい。」
マドレーヌちゃんが、顔を真っ赤にして、うなずいた。
「それに、さっきのこと、誰にも言わないよ。マドレーヌちゃん。」
グレスくんのキラキラ輝いている笑顔、久しぶりに見た気がするなぁ。
☆
バレンタインデー当日。
はぁ~。心臓の音が、ドックンドックン、鳴ってるよぉ。
早く来ないかなぁ?ジュンブライト。
「おはよう、黒月。」
「おはよう。」
あ、来た!
「ジュンブラ・・・・・・。」
「潤様~!」
ふんぎゃあ!
ジュンブライトファンクラブの人達から、先こされちゃった・・・・・・。
「これ、わたくしの気持ちです!受け取ってくださいな!」
「ありがとう。」
「潤様!チョコピナ1年分、受けとってくださいな!」
「私のも!」
「あたしのも!」
「ぜ~んぶ、受け取ってくださいな♡」
「あ、ありがとう。」
さっすが、人間界でもヴァンパイア界でも、モテる王子です。
「キャハ♡よかったですね、比奈多様♡」
「えぇ。それに、わたくしのお気持ちまで、受け取ってくださいましたわ。オーホッホッホッホ!」
ふぅ。やっと、女子軍団のお楽しみのお時間が、終わりましたか。
「真莉亜!大丈夫か!?」
大丈夫じゃないです・・・・・・。
「立てるか!?」
あ、はい。立てます。
それにしても、チョコ、大丈夫かな?
私は、チョコのカップケーキをのぞいた。
あはっ、大丈夫みたい。
そう思いながら、私は立ち上がった。
「ところでジュンブライト・・・・・・。」
「なんだ?」
「渡したいものがあるけど・・・・・・。」
「俺もだ。」
え?ジュンブライトも?
「あぁ。ちょっと来い!」
ジュンブライトが、私の手をギュッとにぎって、走った。
って、どこに行くの~!?
「二人っきりになれるところだ!」
二人っきりになれるところ?
「ここだ!」
ジュンブライトに連れてこられたのは、学校の裏庭。
「はぁ、はぁ。やっと、二人っきりになれる・・・・・・。」
ジュンブライト、渡していい?
「俺も。渡していいか?」
い、いいよ。
今日のジュンブライト、様子が変だなぁ。
だって、顔が真剣だし、顔の色がりんごみたいに赤いもん。
一体、どうしたんだろ。
そう思いながら、私は、チョコのカップケーキを出そうとした。
あれれ?ジュンブライトも、なにか出そうとしているよ。
ま、そんなことは気にせず・・・・・・。
「はいっ。」
「はいっ。」
え?ジュンブライトが持ってるの、チョコ?
「あたり前だろっ。夜中に一人でがんばって、作ったんだぞ!おまけに、じいやとリリアと一緒に、真莉亜が好きそうなふくろを選んだんだ!」
えぇ!?買い物って、バレンタインデーの材料を買いに行ったのぉ!?
「そ。」
ジュンブライト・・・・・・。そこまで私のために、がんばって、チョコを作ってたんだぁ。
「そ。」
「ありがとう。そこまでがんばる、ジュンブライトが、一番好きだよ。」
「二ヒ二ヒ。好きって言われたぜ~。しかも、『一番』、だってぇ!ウッヒョヒョヒョヒョ。」
あのう、いい場面を、簡単に、くずさないでくれます?
「あ~、ごめんごめん。じゃあ、俺の気持ち、受け取ってくれるか?」
「もちろん!」
笑顔で私達は、チョコを渡した。
もう、ジュンブライトったら、チョコのカップケーキをぱくぱく食べてるし。
「うんま!さっすが、真莉亜は料理がうまいなぁ!」
えへへへへ。そんなこと、言われても、恥ずかしいなぁ。
ジュンブライトの手作りチョコ、食べてみよっかな。
私は、ふくろを開けて、さっそく、チョコを一口、ぱくっ。
もぐもぐ、う~ん・・・・・・むむ!?
「どうかしたのか、真莉亜!」
このチョコ、辛いよぉ~。
「あ。」
ん?どうかしたの?
「一味唐がらし、入れちゃったぁ♡」
え、えぇ~!?
なんで、一味唐がらしなんか、入れるのよぉ!?
「本当はぁ、ミルクを入れたかったんだけどぉ、間違えて、一味唐がらしを入れちゃったぁ♡その瞬間、ま、いっかって思ったのぉ♡ウフフフフ♡」
ローラのまね、するなぁ!てか、今、てへぺろしたよね?
・・・・・・気持ち悪い。
「もう!ルクトさんとリリアさんに、手伝ってもらえば、よかったんじゃないの!」
「ううん。だって、人に手伝ってもらう男って、かっこ悪いもん。」
ジュンブライトが、口をとんがらせた。
誰でもいますよ、手伝ってもらう人。
「もう!ジュンブライトのバカ!大嫌い!」
「あ~、ごめんごめん。今度から、そうするぜ。」
謝っても同じだよぉ。
こっちだって、辛~いチョコを、食べさせられたんだから。
「ごめんごめん。なぁ、ゆるしてくれよぉ。真莉亜が大好きなもの、買ってやっから。」
もう、知らない!
「えぇ~!?」
今日は、うれしいけど、ちょっと最低な、バレンタインデーです!
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☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
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