59 / 138
第三十二話 「ルクトさんの元カノ、登場!」
しおりを挟む
「なぁ真莉亜、お前の好きな人はやっぱ、バカ院ハヤテか?」
ジュンブライトが質問してきた。
な・・・・・・なんで質問するの!?てか、ハヤテくんの苗字は、伊集院ですっ!あ、ジュンブライト、やきもち焼いてるんだぁ。
「ち・・・・・・ちげーよ!やきもちなんか、この俺が焼くかっつーの!」
ウフフ。顔、真っ赤になってる。
「なってねぇよ!」
はいはい。でも、私の本命は、ジュンブライトだよ。
「んじゃあ、ジュンブライトは、好きな人、いるの?」
「い・・・・・・いねぇよ!」
まあた、顔、赤くなってるし。おや?あそこでじろじろしているおばあさん、何してるんだろ。
「どれどれ?」
ジュンブライトと私は、おばあさんの方をじーと見た。
しらがで、服は真っ黒のエプロンみたいなものを着ていて、髪型は京花と一緒。あと、とんがった耳をしているし、ヴァンパイアかな?
「ちょっと、行ってみよう。」
私とジュンブライトは、おばあさんのところまで歩いた。
「すみませーん。」
私が声をかけると、おばあさんは私達の方を見た。
「なにか、探してるんですか?」
「家。」
は?家?
「古びたのお屋敷のこと。ねぇあなた達、案内してくれない?」
あ、はい。てか、お屋敷って、ジュンブライト達の家じゃん。
「いいぜ、おばあちゃん!俺の家だから、案内するぜ!」
ジュンブライトが二カッと笑うと、おばあさんも二カッと笑い返した。
「ありがとう。そんな人間がいるとあたし、うれしいよ。」
おばあさん、ジュンブライトは人間ではないんですけど・・・・・・。
ま、いっか。
-1分後ー
「着きましたよ、おばあさん。」
「うわぁー。なんてでっかいお屋敷でしょー。あたし、感激したよ。」
おばあさんが、お屋敷を、目をキラキラしながら、みつめている。
ガチャ。
「じいやー、客が来たぞー。」
「はいはーい、ただいまー。」
ルクトさんの声が、遠くから聞こえてきて、ルクトさんがやって来た。
「ようこそ。わたくしは、ルクトともうします・・・・・・え?」
ガチャーン。
ルクトさんはおばあさんを見て、目が点になった。それとともに、紅茶が入っていたティーカップを、落とした。
一体、どうなってるの~!?
「え?」
おばあさんも、ルクトさんを見て、目を点になってるし。
すると、ルクトさんの目から、涙があふれてきた。
「ルー。」
おばあさんの目からも、涙があふれてきた。
「ルクト。」
そして二人は、だきついちゃった。
「久しぶりです、ルー。」
「本当。五十二年ぶりね、ルクト。」
え?え?
「一体、何があったんですか?」
あ、マドレーヌちゃん。それがね、私にも全然、わからないんだよ。
「誰?あのおばあさん。また、ルクトが知っている人?」
リリアさん。あの人、ルーさんって、いうらしいよ。
すると、ルクトさんとルーさんは、だきあうのをやめて、私達の方を向いた。
「これは失礼しました。この人は、ルーといって、元ヴァンパイア歌劇団の男役の、トップスターです。」
ヴァンパイア歌劇団って、宝塚のパクリでは?
「ちなみに、わたくしの元カノです。」
ルクトさんの元カノか~。へぇ・・・・・・って。
「え~!?」
私達は、声をそろえた。
「本当か!?んじゃあ、二人であーしたり、こーしたりしたのか!?」
ジュンブライト!妄想しすぎだよっ。
「キスはしましたか!?」
マドレーヌちゃんも!
「デートしてたの!?」
そんなリリアさんが、そんなこ興味あったなんて、知りませんでした。
「し・・・・・・失礼な!そんなこと、誰がしますかっ!」
ルクトさんの顔、まっかっかになってる。
「したよ。」
え~!?本当ですか、ルーさん!
「もちろん。キスしたり、あーしたり、こーしたり、デートまでしたよ。」
ジュンブライト達が言ったこと、妄想ではなかった!
「さぁ、お茶でもして、お話しましょう。」
「うん。」
二人とも、本当の本当に、カップルだよ。
☆
テーブルの上には、紅茶、焼きたてのクッキー、チョコレートケーキがおいてある。
「こちら、人間の春間真莉亜様です。」
あ、よろしくお願いします。春間真莉亜です。
「人間と友達になりたいと、生まれた時から、そう思ったよ。よろしく。」
「続いて、ヴァンパイア界の大王、ヒアン様の息子、ジュンブライト様です。」
「よろしく。ジュンブライトだ。」
ところが、ルーさんはジュンブライトの顔を見て、目がまた点になった。
「えぇ!?ヴァンパイアだったの!?あたし、人間かと思ったぁ。はぁー。もうボケてしまったから、もう歳だねぇ。」
ルーさん、歳、過ぎてるんじゃないでしょうか。
「続いて、ヒアン様の弟、リアン様の娘、マドレーヌ様です。」
「あらぁ。かわいいねぇ。よろしくね。」
「最後は、マドレーヌ様のしつじ、リリア様です。」
「よろしく。」
「リリア様は普段、ヴァンパイアキャットのお姿で「いられます。」
その話を聞いたルーさんは、びっくりした。
「えぇ!?リリアちゃん、ヴァンパイアではないんだ!今日は、不思議なこと、ばっかりだねぇ。」
「ところでルー。君はなぜ、人間界に来たんですか?」
あ!私も気になる!
ルーさんは、「ゴホン!」と、言って、話し始めた。
「あたし、鏡屋で新しい鏡を探したんだよ。そしたらものすごーくきれいな鏡があって、購入したんだよ。ところがさぁ、家で髪を結ぶと、鏡が光って、吸い込まれてしまって、人間界に来てしまったんだよ。けどあたし、気づいたんだ。なんと、人間界にルクトがいるっていうこと!けれど、家が全然、見つからなかったんだよ。」
それで、「家」って、言ったんだぁ。あの時。けれど、鏡でヴァンパイア界とつながってるんだ。
「はい。人間界とヴァンパイア界は、鏡でつながっております。」
だから、ジュンブライトのやかたが、現れたんだ。
「ところでルー様。ルクトじいや様との過去の話を聞かせてください!」
満面な笑顔で、マドレーヌちゃんが言った。
「私も気になります!」
「俺も!」
「私も!」
するとルーさんは、私達の顔を見て、笑った。
「いいよ。今から、五十二年前のことだった。その時あたしは、べっぴんで、歌劇団の男役のトップスターだった。」
-五十二年前ー
あー。歌の練習、マジきつい。
マーガレット先生の歌の練習、マジ厳し~。
なので、学校を逃げ出しました~。あと、校訓も破りましたぁ。
え?校訓はどんなやつかって?それは・・・・・・。
一、歌劇団の者は外出禁止。なお、許可書を書いて提出すればいい。
一、お菓子、ジュース持ち出し禁止。太ったら歌劇ファンに迷惑かかるので。
そして、もっともやばいのが・・・・・・。
一、恋愛禁止。破った者は歌劇団をやめさせる。
まるで、AKBみたーいっと思ってるでしょ?てか、AKBって、なに?
これを破った人、何人かいたよ~。仲良しだった子が、破って、やめさせられたんだ。
ま、あたしは恋愛なんて興味ゼロ。女子力もゼロ。
今はこの広い広ーいお庭でおひるねして、何もかも忘れること。
そんじゃあ、おやすみ~。
2分後
ふぁー。よくねたぁ。
ぎゃあー!灰色のなにかが光ってる~!
「大丈夫ですか?」
男の子だった。
かわいくて、スーツを着て、おまけにちょうネクタイまでついている。
灰色のなにかって、男の子の目だったんだ~。
って、なにが大丈夫よ。
「僕、お庭で青虫のサンドウィッチを食べようとしたら、そこであなたがたおれているのを見て・・・・・・。」
あの~。あたし、たおれていませんですけどぉ。ただ、おひるねしていただけなんですけどぉ。
「あ!そうでしたか。すみません、僕のかんちがいでした。」
男の子は、深々とあたしの前で、土下座してきた。
名前、聞こっかなぁ?んーや!歌劇団の男役トップスターが、そんなこと、するもんか!
恋愛なんて、興味ゼロのあたしが、名前なんか・・・・・・。
「あの。名前は、なんていうんですか?」
聞くもんか。
男の子が、あたしの名前を聞くけどー!?
ざけんじゃねぇよ!あたしはそういうの、聞かないタイプだから。
けど、言おうっかな?
あたしの右側に、あたしそっくりな悪魔が出てきた。
「ねぇ、名前、言わない方がいいと思うよ。」
「あたしもそう思う。だって、歌劇団の男役の、トップスターだもん。」
「だよな~。」
悪魔が、あたしに二カッと笑って、ささやいてきた。
「だよね~。」
あたしもニカッと笑い返して、悪魔にささやいた。
てかあたし、悪魔の味方してるし。
今度は、左側に、あたしそっくりな天使が出てきた。
「あの。名前、聞いた方ががよろしいですよ。」
「なんで?」
あたしと悪魔が、声をそろえた。
ちょっと!じゃましないでよ!
「そうよ!」
「名前を聞くと、あなたの人生はすっごくなりますよ。」
なにを言ってるか、全然・・・・・・。
「ふん。なにがすっごくなりますよーだ!こいつは、歌劇に集中してんだよ!歌劇に!」
「でもいいんですか?歌劇団の男役トップスターが、そんなことをせず、帰るんなんて。もし聞いたら、女子力、恋愛に興味を持ち、それが、upしますよ。」
なーにが、upになりますよーだ!トップスターは、恋愛と女子力に興味を持つと、かっこ悪いんですよー。
あたしは天使に、あっかんべーをした。
「そうだそうだ!」
「そんな恋愛現象は、起こりませんよ。神はあなたを必ず、導いてくれますよ。」
すると、悪魔が天使にはむかった。
「うるせぇー!神神神神うるせぇんだよ!こいつには、神じゃない、えんま大王がやどってんだよ!」
「あなたもそう、はむかってよろしいでしょうか?」
「あぁ!あたしは、悪魔だからな!」
「悪魔さん、あなたは悪魔でも、人に優しくする心はありま・・・・・・。」
「せーんだ!お前、人の話じゃますんじゃねぇぞ!」
もう、イライラ「してくる。
この二人、一体、何しに来たか、わからん。
「うるさーい!」
「ひっ。」
あたしの大きな声で、悪魔と天使がポンっと消えた。
「あ・・・・・・あたし、ルー。ヴァンパイア歌劇団の男役トップスターよ。」
あたし、なに顔、赤くなってんの~!?
「いい名前だね。僕はルクト。しつじ協会で働いています。」
ルクト・・・・・・。いい名前だね。しつじになりたいんだ。
「はい。おととい、人間界に修行してきました。去年まで。」
「あ、ごめん。」
かわいい~♡あたし、カワイイ系の男子、大好きなんだよね~♡
すると、広場の時計のチャイムが、鳴り始めた。
えっと・・・・・・あー!もう、4時!寮に戻る時間!
「ねぇ。青虫のサンドウィッチ、食べる?とっても、おいしいよ。」
あたし、大好物だけど、帰るね!
あたしは、ルクトをほっといて、ダッシュで歌劇団の寮へと走った。
☆
歌劇団の学校の学園長室前。あたしは呼び出された。
それにしても、赤いレッドカーベットがよく目立つなぁ。
学園長のイブ先生、こわーいよぉ。
校訓と、公演を失敗した時、呼び出されて、長い長ーい説教があるんだよぉ。
あたし、ここ来たの、これで九回目。
一回目は、女役のドレスをやぶったこと、二回目は、人間界で人気の『トムとジェリー』のDVDを、見たこと・・・・・・。
「ルー、入りなさい。」
ドアが開いた。しかも、勝手に。超能力ヴァンパイアだもん、この人。
「お入りなさい!」
うわぁ。こっわ~。
あたしは、学園長室に足をガタガタふるわせて、一歩一歩、部屋へと入った。
部屋の壁には、歴代学園長先生の写真がある。
その九代目、学園長こと、イブ先生。
イブ先生は、トレードマークは丸い眼鏡で、白髪で、背が高くて、長ーいドレスを着ている。
なんと、イブ先生は、元黒組トップスターなんだ!
「ぼぉーとしてないで、早くおすわり!」
あ、は・・・・・・ひぃぃぃぃ!体が勝手に動いて、イブ先生のところまで向かってるぅ!
これぞ、超能力ヴァンパイアの力!
ふぅ~。やっととまったぁ。
へ?今度はいすにすわってるぅ!
しかも、イブ先生の前だよ、前!
おそるべし、超能力!
さぁ、もう用なんてないから、帰ろ。
あ・・・・・・あれ?全然、離れない・・・・・・。
「まだ終わってないよ。話が終わるまで、いすにすわったままだよ。」
え~!?そんなぁ~。
「その前に、お茶をしながら、説教したいわねぇ。」
がくっ。もうお茶をしながら、説教聞くの、あきました。
「そうかい?」
人の心、読んだよ、この人!
「私は、あきないねぇ。」
先生が指をカチッと鳴らした。
え、え、え~!?やかんとコーヒーカップが、宙にうかんでるぅ!
学園長、やっぱあんたはすごいよ!
宙にうかびながら、紅茶を入れてるし、やっぱすんげぇよ!
「はい。」
あ・・・・・・ありがとうございます!では、すべての超能力に感謝をこめて、いただきます。
ごくっ。
う・・・・・・うんまーい!あたし、超能力ゔアンパイアに生まれてくればよかったぁ。
「さぁ、お楽しみの説教の時間に、行こうか。」
学園長が、眼鏡を上げて言った。
あー!説教のこと、忘れてしもうたー!
さぁ、なんてごまかせばいいんでしょうか。
「外出の許可書、提出しなかったねぇ。」
「それは、まぁ、許可書がどこにあるか、わかりませんでしたから。」
「本当かい?」
学園長の眼鏡の奥の黒い目が、ギラリと光った。
「本当ですぅ。あたしの顔に、『うそ』という字が、かかれていませんよぉ。」
だって、提出するの、めんどくさいもーん。
「提出するのがめんどくさい?」
なぬ!?人の心、勝手に読んだのか!この学園長!
「ふざけたことをいうんじゃないよ!あんた、とっぷすたーだろうが!めんどくさーいという言葉、口に出すんじゃないよ!」
あたしは目が点になった。
学園長、マジキレして、立っているよぉ。
「どこにいたんだね、こんな時間に!」
おひるねしてましたよ、広い広ーいお庭で。
「おひるね?まあたあんた、ふざけてるねぇ。トップスターのくせに校則、破って。ミミが探してたよ!「ルーがいません。」って。」
ミミっていう子は、あたしの幼なじみで、一緒の寮の部屋に住んでる。仲が良いんだよ~、ミミとは。
「もしまた校則を破ったら、トップスターをやめさせてもらうよ!」
えぇ~!?マジっすか!
「マジだよ。」
そんなの、いや~!
だってトップスターをやめたら、うちの両親はどう思うか。
うちの家族、音楽一家だもん。母はピアニストで、父はギターリスト。
あたしが歌劇団に入れたのは、両親のおかげ。あと、ミミもね。
あたし、トップスター、やめたくないよぉ!
☆
「ルー!今日のあなたはおかしいですよ!ダンス、まちがってるじゃないの!」
「あ、はい!」
今日のあたし、ダンス、まちがってんじゃん!
昨日、超能力を見とれたせいか!?
あと3日で『名探偵ホームズ』の公演なのにぃ!
あたしはホームズ役なのにぃ!
「今日のレッスンはここまで。ルー、今日のダンス、ちゃーんとふくしゅうして来なさい。」
「はいっ!」
そして、マーガレット先生は、レッスン室を出た。
「ルー。昨日、怒られたでしょ?」
ミミ!
「聞いたよぉ。「だって、提出するの、めんどくさいもーん。」って。」
あ!こいつも、超能力ヴァンパイアだった!
「あらあら。昨日、勝手に外出した、トップスターさん。」
あたし達の前に、真っ黒い影が現れた。
「マリー!」
マリーはあたしのライバル。大金持ちの娘で、髪はポニーテールで、目はするどくて、黒組の男役。
歌劇団で女子力がいいのは、マリーだけ。あたしはマリーの女子力はあんまり、いいとは思わない。
ちなみにマリーは、劇でモリアーティー教授役。だって悪役、なんでも似合うもん。マリーは。
「校則をまた破ったら、トップスターをやめさせるって、言われたでしょ?ま、もしあなたがまた破ってやめさせたら、私が、トップスターになるわ。その時を、楽しみにしているわ。」
「なんだと!?」
あたしは、マリーをなぐろうとした。
すると、ミミがあたしのわきをつかんだ。
「だめよ、ルー!歌劇団の校訓、覚えてる?」
校訓・・・・・・あ!
一、友に暴力をふるわない。・・・・・・だ!
あたしはその言葉を思い出して、なぐるのをやめた。
「ふっ。なぐればよかったのに。」
マリーがささやいて、レッスン室を出た。
あいつ、あたしがトップスターになってから、すっごく、にくんで、さっきみたいなことを、言い出したんだ。
ちょーむかつく~。
「気にしなくていいよ。マリーの言い方が、悪いから。」
ミミがほほえんだ。
そうだよね。あたしが、悪くはないよね。悪いのは、マリーだし。
「さぁ、朝食の時間だから、食堂に行こ。」
うん!
あたし達は、誰もいないレッスン室を出た。
☆
今日のメニューは・・・・・・。ねずみの丸焼きと、ちょうちょのムニエルと、いも虫とかえるの血のソース煮と、デザートは、あたしが大好きな、干しがえる!ん~、どれもおいしそ~♡
くん、くん、くん、くん。ん~!かえるの血が、だんだんただよってくるぅ!
あと、もう少し・・・・・・。
「ありがとね~。」
来たー!ついに、あたしの昼飯がー!
「はい。ルーちゃん。」
食堂のおばちゃんが、あたしに差し出したのは、バケット。
え?メニュー、違うんじゃあ・・・・・・。
「さっき、男の子が「ルーさんに。」って、渡したから。ちょうネクタイとスーツを着てたから、しつじ協会の子だったよ。」
しつじ協会・・・・・・ルクトさんが!?
あたしは、バケットをもって、テーブルのいすにすわった。
ルクトさん、今日はお仕事、休みだったのかな?
「ルー!そのお弁当、まさか自分でつくったの!?」
バケットを見て、ミミが驚いた。
違うよ。てかあたし、料理下手だから。
「じゃあ、誰につくってもらったの!?」
まあだ、驚いているよ。
しつじ協会のルクトっていう人。カワイイ系のイケメンで、将来は立派なしつじになるらしいよ。
「カワイイ系!?」
なによ、驚いて。
「坂本九に、そっくりだった!?」
はぁ?誰よそれ。
「知らないの!?人間界の歌手だよ!」
あたし、人間界の有名人、あんたみたいにくわしくないから。
「あの人も、カワイイ系だよ!」
へぇー。今度、調べておくから。
それより、バケットの中には、なにが入ってるんだろ?
あたしはバケットを開けた。
中にはなんと、あたしの大好物、青虫のサンドウィッチが、どっさり!
その上には、手紙が一枚置いてあった。
なんだろ?
「開けてみな。」
うん。あたしは手紙を開けた。
<ルーさんへ 昨日、君が大好物っと言っていた、青虫のサンドウィッチをつくっておいたよ。 できれば、そのバケットをもってきて、夜の八時に満月谷に来て欲しい。 ルクトより>
意外と字、きれいじゃん。
・・・・・・満月谷って、あの満月がでっかく見える谷のこと?
「そうだよ。それが?」
ううん。なんでもない。
あたしは首を振った。
なんでルクトさん、満月谷に来て欲しいって、言うんだろ。
きっと、なんか理由でもあるのかな・・・・・・。
でも、外出する前に、許可書を出さなくちゃ。
トップスター、やめさせられる。
「早く食べないと、サンドウィッチ、くさるよ。」
そうだった!せっかくルクトさんがつくったあたしの、青虫のサンドウィッチちゃんが、くさってしまう・・・・・・。
「いただきまーす!」
あたしはサンドウィッチを口にぱくっと入れた。
ん~。うま~い!油で焼いた青虫がおいし~い!それに、ブラックペッパーの香りも、こうばし~い♡
ルクトさん、ありがと~♡
☆
夜の八時のヴァンパイア界。
暗いなぁ、森。
あたし、許可書提出して、「どこに行くのかい?」って、言われなかったよぉ。
満月谷はもう少しだし・・・・・・。夜の森は、こわ~い。
バサッ。
ひぃぃぃぃぃ!
なんだぁ、ふくろうがとんでいたのかぁ。
「カー、カー、カー!」
ひぃぃぃぃぃ!
なんだぁ、カラスかぁ。
森をぬけ出し、ついに満月谷に到着~。
崖のてっぺんに、満月がでっかくみえるのが、満月谷。
崖を登るのは、こわいから、とんで見よ~。
あたしの背中に、黒い翼が、バサッとはえた。
そしてあたしは、満月谷へと向かってとんだ。
下を見るの、こわいなぁ。
でも、あたしはヴァンパイアだから、そんなの気にしない、気にしなーい・・・・・・。
ヒュー。
キャー!風に吹きとばされたぁ!
「ルーさーん!」
その声は・・・・・・。
「ルクトさん!」
ルクトさんが、あたしのわきをつかんだ。
え、え、え~!?ちょっと!離してぇ!
「なんで?」
あたし、こういうの、苦手。
「ごめん。谷に着くまで、我まんして。」
うん。
ドキドキ。
うわ!心臓の音がヤバー!
もしかして、女子力もない、恋愛が興味ないあたしに、まさか・・・・・・。
って、そんなわけ、ないっしょ。
「さぁ、もう着いたよ。」
うわぁ。満月、でかっ!
そして、あたしたちは無事、谷に着陸。
うわぁ~。やっぱ空をとんだ時の景色より、今着陸した満月の景色がいい~。
「ここ、始めて来たんだ!」
あたしはルクトさんの方を振り返り、にこっと笑った。
そしたらルクトさんの顔は、リンゴみたいに赤くなっていた。
「僕は・・・・・・、仕事で失敗した時、ストレス発散でここに来てるんだ。」
あれ?あたし、ライバルとのけんかでイライラがなくなってきたなぁ。
「それ、ストレス発散だよ。」
ルクトさんがあたしににこっと笑ってきた。
・・・・・・かわいい。
って、なに顔、赤くなってんのよ、あたし!
「じゃあ、あたしもストレス発散のために、ここ、来ようかな。」
あたしがルクトさんににこにこと笑いかけると、ルクトさんはまた、顔がリンゴみたいに赤くなって、後ろを振り向いた。
「そ・・・・・・そうしていただければ、いいよ。」
と、ささやいた。
なーんか、あやしい。
ここにあたしを呼び出すのも、あやし~い。
リンゴみたいに赤くなるのも、あやし~い。
青虫のサンドウィッチを届けるのも、あやし~い。
あ!バケットを返すの、忘れてた!
あたしは、ルクトさんにバケットを返すと、ルクトさんは後ろを向いたまま、右手を出して、ぱっとバケットを取った。
やっぱり、あやしーい。
「あ・・・・・・あの!満月、とてもきれいだねっ。」
「そうだね。」
ほら、あやしい。
恋愛興味ゼロ、女子力ゼロのあたしに、声をかけるなんて、あやしい。
「ねぇ、好きな人、いる?」
え!?いや~。そんなの、いないよ、ルクトさん。
「ルクトでいいよ。ルーさん。」
ルーでいいよ。ルクト。ところで、ルクトは好きな人は・・・・・・。
「いるよ。」
え!?誰、誰!?
すると、ルクトがぐいっとあたしの手をぐいっと引っぱって・・・・・・。
チュ。
キスをした。
えっ、えっ、えっ、えぇ~!?
ルクトがあたしの唇を離した。
「君だよ。」
えっ、あたしなの?なんで?
「僕、初めて君を見た時、一目ぼれしたんだ。」
一目ぼれ~!?
「あたし、そんなにかわいくないよ。だって、恋愛に興味ないし、女子力はないし・・・・・・。それに、うちの歌劇団は恋愛禁止だし・・・・・・。」
「僕と付き合ってくださいっ!」
へ?今、なんて?
「付き合ってください!」
え~!?
「ごめんなさい!」
あたしは思いっきり、頭を下げた。
「あたし、さっき「うちの歌劇団は恋愛禁止。」って、言ったでしょ?それを破ると、歌劇団をやめさせられるの。付き合うのは、あたしが卒業してからして・・・・・・。」
「今しかダメなんだ!」
ルクト・・・・・・。
ルクトの目が、うるうるしている。
「どうしても、どうしてもダメなんだ・・・・・・。卒業する365日をまてないよ。 僕のわがままだけど。」
ルクトの目から、涙が出てきた。
「あーあ。」
あたしの声で、ルクトはなくのをやめた。
「しょうがない。付き合うか。恋愛も女子力ないあたしだけど、いい?」
あたしがにかっと笑うと、ルクトはにこっと笑った。
「よろしく、ルー。」
こちらもねっ。
☆
ジュンブライトが質問してきた。
な・・・・・・なんで質問するの!?てか、ハヤテくんの苗字は、伊集院ですっ!あ、ジュンブライト、やきもち焼いてるんだぁ。
「ち・・・・・・ちげーよ!やきもちなんか、この俺が焼くかっつーの!」
ウフフ。顔、真っ赤になってる。
「なってねぇよ!」
はいはい。でも、私の本命は、ジュンブライトだよ。
「んじゃあ、ジュンブライトは、好きな人、いるの?」
「い・・・・・・いねぇよ!」
まあた、顔、赤くなってるし。おや?あそこでじろじろしているおばあさん、何してるんだろ。
「どれどれ?」
ジュンブライトと私は、おばあさんの方をじーと見た。
しらがで、服は真っ黒のエプロンみたいなものを着ていて、髪型は京花と一緒。あと、とんがった耳をしているし、ヴァンパイアかな?
「ちょっと、行ってみよう。」
私とジュンブライトは、おばあさんのところまで歩いた。
「すみませーん。」
私が声をかけると、おばあさんは私達の方を見た。
「なにか、探してるんですか?」
「家。」
は?家?
「古びたのお屋敷のこと。ねぇあなた達、案内してくれない?」
あ、はい。てか、お屋敷って、ジュンブライト達の家じゃん。
「いいぜ、おばあちゃん!俺の家だから、案内するぜ!」
ジュンブライトが二カッと笑うと、おばあさんも二カッと笑い返した。
「ありがとう。そんな人間がいるとあたし、うれしいよ。」
おばあさん、ジュンブライトは人間ではないんですけど・・・・・・。
ま、いっか。
-1分後ー
「着きましたよ、おばあさん。」
「うわぁー。なんてでっかいお屋敷でしょー。あたし、感激したよ。」
おばあさんが、お屋敷を、目をキラキラしながら、みつめている。
ガチャ。
「じいやー、客が来たぞー。」
「はいはーい、ただいまー。」
ルクトさんの声が、遠くから聞こえてきて、ルクトさんがやって来た。
「ようこそ。わたくしは、ルクトともうします・・・・・・え?」
ガチャーン。
ルクトさんはおばあさんを見て、目が点になった。それとともに、紅茶が入っていたティーカップを、落とした。
一体、どうなってるの~!?
「え?」
おばあさんも、ルクトさんを見て、目を点になってるし。
すると、ルクトさんの目から、涙があふれてきた。
「ルー。」
おばあさんの目からも、涙があふれてきた。
「ルクト。」
そして二人は、だきついちゃった。
「久しぶりです、ルー。」
「本当。五十二年ぶりね、ルクト。」
え?え?
「一体、何があったんですか?」
あ、マドレーヌちゃん。それがね、私にも全然、わからないんだよ。
「誰?あのおばあさん。また、ルクトが知っている人?」
リリアさん。あの人、ルーさんって、いうらしいよ。
すると、ルクトさんとルーさんは、だきあうのをやめて、私達の方を向いた。
「これは失礼しました。この人は、ルーといって、元ヴァンパイア歌劇団の男役の、トップスターです。」
ヴァンパイア歌劇団って、宝塚のパクリでは?
「ちなみに、わたくしの元カノです。」
ルクトさんの元カノか~。へぇ・・・・・・って。
「え~!?」
私達は、声をそろえた。
「本当か!?んじゃあ、二人であーしたり、こーしたりしたのか!?」
ジュンブライト!妄想しすぎだよっ。
「キスはしましたか!?」
マドレーヌちゃんも!
「デートしてたの!?」
そんなリリアさんが、そんなこ興味あったなんて、知りませんでした。
「し・・・・・・失礼な!そんなこと、誰がしますかっ!」
ルクトさんの顔、まっかっかになってる。
「したよ。」
え~!?本当ですか、ルーさん!
「もちろん。キスしたり、あーしたり、こーしたり、デートまでしたよ。」
ジュンブライト達が言ったこと、妄想ではなかった!
「さぁ、お茶でもして、お話しましょう。」
「うん。」
二人とも、本当の本当に、カップルだよ。
☆
テーブルの上には、紅茶、焼きたてのクッキー、チョコレートケーキがおいてある。
「こちら、人間の春間真莉亜様です。」
あ、よろしくお願いします。春間真莉亜です。
「人間と友達になりたいと、生まれた時から、そう思ったよ。よろしく。」
「続いて、ヴァンパイア界の大王、ヒアン様の息子、ジュンブライト様です。」
「よろしく。ジュンブライトだ。」
ところが、ルーさんはジュンブライトの顔を見て、目がまた点になった。
「えぇ!?ヴァンパイアだったの!?あたし、人間かと思ったぁ。はぁー。もうボケてしまったから、もう歳だねぇ。」
ルーさん、歳、過ぎてるんじゃないでしょうか。
「続いて、ヒアン様の弟、リアン様の娘、マドレーヌ様です。」
「あらぁ。かわいいねぇ。よろしくね。」
「最後は、マドレーヌ様のしつじ、リリア様です。」
「よろしく。」
「リリア様は普段、ヴァンパイアキャットのお姿で「いられます。」
その話を聞いたルーさんは、びっくりした。
「えぇ!?リリアちゃん、ヴァンパイアではないんだ!今日は、不思議なこと、ばっかりだねぇ。」
「ところでルー。君はなぜ、人間界に来たんですか?」
あ!私も気になる!
ルーさんは、「ゴホン!」と、言って、話し始めた。
「あたし、鏡屋で新しい鏡を探したんだよ。そしたらものすごーくきれいな鏡があって、購入したんだよ。ところがさぁ、家で髪を結ぶと、鏡が光って、吸い込まれてしまって、人間界に来てしまったんだよ。けどあたし、気づいたんだ。なんと、人間界にルクトがいるっていうこと!けれど、家が全然、見つからなかったんだよ。」
それで、「家」って、言ったんだぁ。あの時。けれど、鏡でヴァンパイア界とつながってるんだ。
「はい。人間界とヴァンパイア界は、鏡でつながっております。」
だから、ジュンブライトのやかたが、現れたんだ。
「ところでルー様。ルクトじいや様との過去の話を聞かせてください!」
満面な笑顔で、マドレーヌちゃんが言った。
「私も気になります!」
「俺も!」
「私も!」
するとルーさんは、私達の顔を見て、笑った。
「いいよ。今から、五十二年前のことだった。その時あたしは、べっぴんで、歌劇団の男役のトップスターだった。」
-五十二年前ー
あー。歌の練習、マジきつい。
マーガレット先生の歌の練習、マジ厳し~。
なので、学校を逃げ出しました~。あと、校訓も破りましたぁ。
え?校訓はどんなやつかって?それは・・・・・・。
一、歌劇団の者は外出禁止。なお、許可書を書いて提出すればいい。
一、お菓子、ジュース持ち出し禁止。太ったら歌劇ファンに迷惑かかるので。
そして、もっともやばいのが・・・・・・。
一、恋愛禁止。破った者は歌劇団をやめさせる。
まるで、AKBみたーいっと思ってるでしょ?てか、AKBって、なに?
これを破った人、何人かいたよ~。仲良しだった子が、破って、やめさせられたんだ。
ま、あたしは恋愛なんて興味ゼロ。女子力もゼロ。
今はこの広い広ーいお庭でおひるねして、何もかも忘れること。
そんじゃあ、おやすみ~。
2分後
ふぁー。よくねたぁ。
ぎゃあー!灰色のなにかが光ってる~!
「大丈夫ですか?」
男の子だった。
かわいくて、スーツを着て、おまけにちょうネクタイまでついている。
灰色のなにかって、男の子の目だったんだ~。
って、なにが大丈夫よ。
「僕、お庭で青虫のサンドウィッチを食べようとしたら、そこであなたがたおれているのを見て・・・・・・。」
あの~。あたし、たおれていませんですけどぉ。ただ、おひるねしていただけなんですけどぉ。
「あ!そうでしたか。すみません、僕のかんちがいでした。」
男の子は、深々とあたしの前で、土下座してきた。
名前、聞こっかなぁ?んーや!歌劇団の男役トップスターが、そんなこと、するもんか!
恋愛なんて、興味ゼロのあたしが、名前なんか・・・・・・。
「あの。名前は、なんていうんですか?」
聞くもんか。
男の子が、あたしの名前を聞くけどー!?
ざけんじゃねぇよ!あたしはそういうの、聞かないタイプだから。
けど、言おうっかな?
あたしの右側に、あたしそっくりな悪魔が出てきた。
「ねぇ、名前、言わない方がいいと思うよ。」
「あたしもそう思う。だって、歌劇団の男役の、トップスターだもん。」
「だよな~。」
悪魔が、あたしに二カッと笑って、ささやいてきた。
「だよね~。」
あたしもニカッと笑い返して、悪魔にささやいた。
てかあたし、悪魔の味方してるし。
今度は、左側に、あたしそっくりな天使が出てきた。
「あの。名前、聞いた方ががよろしいですよ。」
「なんで?」
あたしと悪魔が、声をそろえた。
ちょっと!じゃましないでよ!
「そうよ!」
「名前を聞くと、あなたの人生はすっごくなりますよ。」
なにを言ってるか、全然・・・・・・。
「ふん。なにがすっごくなりますよーだ!こいつは、歌劇に集中してんだよ!歌劇に!」
「でもいいんですか?歌劇団の男役トップスターが、そんなことをせず、帰るんなんて。もし聞いたら、女子力、恋愛に興味を持ち、それが、upしますよ。」
なーにが、upになりますよーだ!トップスターは、恋愛と女子力に興味を持つと、かっこ悪いんですよー。
あたしは天使に、あっかんべーをした。
「そうだそうだ!」
「そんな恋愛現象は、起こりませんよ。神はあなたを必ず、導いてくれますよ。」
すると、悪魔が天使にはむかった。
「うるせぇー!神神神神うるせぇんだよ!こいつには、神じゃない、えんま大王がやどってんだよ!」
「あなたもそう、はむかってよろしいでしょうか?」
「あぁ!あたしは、悪魔だからな!」
「悪魔さん、あなたは悪魔でも、人に優しくする心はありま・・・・・・。」
「せーんだ!お前、人の話じゃますんじゃねぇぞ!」
もう、イライラ「してくる。
この二人、一体、何しに来たか、わからん。
「うるさーい!」
「ひっ。」
あたしの大きな声で、悪魔と天使がポンっと消えた。
「あ・・・・・・あたし、ルー。ヴァンパイア歌劇団の男役トップスターよ。」
あたし、なに顔、赤くなってんの~!?
「いい名前だね。僕はルクト。しつじ協会で働いています。」
ルクト・・・・・・。いい名前だね。しつじになりたいんだ。
「はい。おととい、人間界に修行してきました。去年まで。」
「あ、ごめん。」
かわいい~♡あたし、カワイイ系の男子、大好きなんだよね~♡
すると、広場の時計のチャイムが、鳴り始めた。
えっと・・・・・・あー!もう、4時!寮に戻る時間!
「ねぇ。青虫のサンドウィッチ、食べる?とっても、おいしいよ。」
あたし、大好物だけど、帰るね!
あたしは、ルクトをほっといて、ダッシュで歌劇団の寮へと走った。
☆
歌劇団の学校の学園長室前。あたしは呼び出された。
それにしても、赤いレッドカーベットがよく目立つなぁ。
学園長のイブ先生、こわーいよぉ。
校訓と、公演を失敗した時、呼び出されて、長い長ーい説教があるんだよぉ。
あたし、ここ来たの、これで九回目。
一回目は、女役のドレスをやぶったこと、二回目は、人間界で人気の『トムとジェリー』のDVDを、見たこと・・・・・・。
「ルー、入りなさい。」
ドアが開いた。しかも、勝手に。超能力ヴァンパイアだもん、この人。
「お入りなさい!」
うわぁ。こっわ~。
あたしは、学園長室に足をガタガタふるわせて、一歩一歩、部屋へと入った。
部屋の壁には、歴代学園長先生の写真がある。
その九代目、学園長こと、イブ先生。
イブ先生は、トレードマークは丸い眼鏡で、白髪で、背が高くて、長ーいドレスを着ている。
なんと、イブ先生は、元黒組トップスターなんだ!
「ぼぉーとしてないで、早くおすわり!」
あ、は・・・・・・ひぃぃぃぃ!体が勝手に動いて、イブ先生のところまで向かってるぅ!
これぞ、超能力ヴァンパイアの力!
ふぅ~。やっととまったぁ。
へ?今度はいすにすわってるぅ!
しかも、イブ先生の前だよ、前!
おそるべし、超能力!
さぁ、もう用なんてないから、帰ろ。
あ・・・・・・あれ?全然、離れない・・・・・・。
「まだ終わってないよ。話が終わるまで、いすにすわったままだよ。」
え~!?そんなぁ~。
「その前に、お茶をしながら、説教したいわねぇ。」
がくっ。もうお茶をしながら、説教聞くの、あきました。
「そうかい?」
人の心、読んだよ、この人!
「私は、あきないねぇ。」
先生が指をカチッと鳴らした。
え、え、え~!?やかんとコーヒーカップが、宙にうかんでるぅ!
学園長、やっぱあんたはすごいよ!
宙にうかびながら、紅茶を入れてるし、やっぱすんげぇよ!
「はい。」
あ・・・・・・ありがとうございます!では、すべての超能力に感謝をこめて、いただきます。
ごくっ。
う・・・・・・うんまーい!あたし、超能力ゔアンパイアに生まれてくればよかったぁ。
「さぁ、お楽しみの説教の時間に、行こうか。」
学園長が、眼鏡を上げて言った。
あー!説教のこと、忘れてしもうたー!
さぁ、なんてごまかせばいいんでしょうか。
「外出の許可書、提出しなかったねぇ。」
「それは、まぁ、許可書がどこにあるか、わかりませんでしたから。」
「本当かい?」
学園長の眼鏡の奥の黒い目が、ギラリと光った。
「本当ですぅ。あたしの顔に、『うそ』という字が、かかれていませんよぉ。」
だって、提出するの、めんどくさいもーん。
「提出するのがめんどくさい?」
なぬ!?人の心、勝手に読んだのか!この学園長!
「ふざけたことをいうんじゃないよ!あんた、とっぷすたーだろうが!めんどくさーいという言葉、口に出すんじゃないよ!」
あたしは目が点になった。
学園長、マジキレして、立っているよぉ。
「どこにいたんだね、こんな時間に!」
おひるねしてましたよ、広い広ーいお庭で。
「おひるね?まあたあんた、ふざけてるねぇ。トップスターのくせに校則、破って。ミミが探してたよ!「ルーがいません。」って。」
ミミっていう子は、あたしの幼なじみで、一緒の寮の部屋に住んでる。仲が良いんだよ~、ミミとは。
「もしまた校則を破ったら、トップスターをやめさせてもらうよ!」
えぇ~!?マジっすか!
「マジだよ。」
そんなの、いや~!
だってトップスターをやめたら、うちの両親はどう思うか。
うちの家族、音楽一家だもん。母はピアニストで、父はギターリスト。
あたしが歌劇団に入れたのは、両親のおかげ。あと、ミミもね。
あたし、トップスター、やめたくないよぉ!
☆
「ルー!今日のあなたはおかしいですよ!ダンス、まちがってるじゃないの!」
「あ、はい!」
今日のあたし、ダンス、まちがってんじゃん!
昨日、超能力を見とれたせいか!?
あと3日で『名探偵ホームズ』の公演なのにぃ!
あたしはホームズ役なのにぃ!
「今日のレッスンはここまで。ルー、今日のダンス、ちゃーんとふくしゅうして来なさい。」
「はいっ!」
そして、マーガレット先生は、レッスン室を出た。
「ルー。昨日、怒られたでしょ?」
ミミ!
「聞いたよぉ。「だって、提出するの、めんどくさいもーん。」って。」
あ!こいつも、超能力ヴァンパイアだった!
「あらあら。昨日、勝手に外出した、トップスターさん。」
あたし達の前に、真っ黒い影が現れた。
「マリー!」
マリーはあたしのライバル。大金持ちの娘で、髪はポニーテールで、目はするどくて、黒組の男役。
歌劇団で女子力がいいのは、マリーだけ。あたしはマリーの女子力はあんまり、いいとは思わない。
ちなみにマリーは、劇でモリアーティー教授役。だって悪役、なんでも似合うもん。マリーは。
「校則をまた破ったら、トップスターをやめさせるって、言われたでしょ?ま、もしあなたがまた破ってやめさせたら、私が、トップスターになるわ。その時を、楽しみにしているわ。」
「なんだと!?」
あたしは、マリーをなぐろうとした。
すると、ミミがあたしのわきをつかんだ。
「だめよ、ルー!歌劇団の校訓、覚えてる?」
校訓・・・・・・あ!
一、友に暴力をふるわない。・・・・・・だ!
あたしはその言葉を思い出して、なぐるのをやめた。
「ふっ。なぐればよかったのに。」
マリーがささやいて、レッスン室を出た。
あいつ、あたしがトップスターになってから、すっごく、にくんで、さっきみたいなことを、言い出したんだ。
ちょーむかつく~。
「気にしなくていいよ。マリーの言い方が、悪いから。」
ミミがほほえんだ。
そうだよね。あたしが、悪くはないよね。悪いのは、マリーだし。
「さぁ、朝食の時間だから、食堂に行こ。」
うん!
あたし達は、誰もいないレッスン室を出た。
☆
今日のメニューは・・・・・・。ねずみの丸焼きと、ちょうちょのムニエルと、いも虫とかえるの血のソース煮と、デザートは、あたしが大好きな、干しがえる!ん~、どれもおいしそ~♡
くん、くん、くん、くん。ん~!かえるの血が、だんだんただよってくるぅ!
あと、もう少し・・・・・・。
「ありがとね~。」
来たー!ついに、あたしの昼飯がー!
「はい。ルーちゃん。」
食堂のおばちゃんが、あたしに差し出したのは、バケット。
え?メニュー、違うんじゃあ・・・・・・。
「さっき、男の子が「ルーさんに。」って、渡したから。ちょうネクタイとスーツを着てたから、しつじ協会の子だったよ。」
しつじ協会・・・・・・ルクトさんが!?
あたしは、バケットをもって、テーブルのいすにすわった。
ルクトさん、今日はお仕事、休みだったのかな?
「ルー!そのお弁当、まさか自分でつくったの!?」
バケットを見て、ミミが驚いた。
違うよ。てかあたし、料理下手だから。
「じゃあ、誰につくってもらったの!?」
まあだ、驚いているよ。
しつじ協会のルクトっていう人。カワイイ系のイケメンで、将来は立派なしつじになるらしいよ。
「カワイイ系!?」
なによ、驚いて。
「坂本九に、そっくりだった!?」
はぁ?誰よそれ。
「知らないの!?人間界の歌手だよ!」
あたし、人間界の有名人、あんたみたいにくわしくないから。
「あの人も、カワイイ系だよ!」
へぇー。今度、調べておくから。
それより、バケットの中には、なにが入ってるんだろ?
あたしはバケットを開けた。
中にはなんと、あたしの大好物、青虫のサンドウィッチが、どっさり!
その上には、手紙が一枚置いてあった。
なんだろ?
「開けてみな。」
うん。あたしは手紙を開けた。
<ルーさんへ 昨日、君が大好物っと言っていた、青虫のサンドウィッチをつくっておいたよ。 できれば、そのバケットをもってきて、夜の八時に満月谷に来て欲しい。 ルクトより>
意外と字、きれいじゃん。
・・・・・・満月谷って、あの満月がでっかく見える谷のこと?
「そうだよ。それが?」
ううん。なんでもない。
あたしは首を振った。
なんでルクトさん、満月谷に来て欲しいって、言うんだろ。
きっと、なんか理由でもあるのかな・・・・・・。
でも、外出する前に、許可書を出さなくちゃ。
トップスター、やめさせられる。
「早く食べないと、サンドウィッチ、くさるよ。」
そうだった!せっかくルクトさんがつくったあたしの、青虫のサンドウィッチちゃんが、くさってしまう・・・・・・。
「いただきまーす!」
あたしはサンドウィッチを口にぱくっと入れた。
ん~。うま~い!油で焼いた青虫がおいし~い!それに、ブラックペッパーの香りも、こうばし~い♡
ルクトさん、ありがと~♡
☆
夜の八時のヴァンパイア界。
暗いなぁ、森。
あたし、許可書提出して、「どこに行くのかい?」って、言われなかったよぉ。
満月谷はもう少しだし・・・・・・。夜の森は、こわ~い。
バサッ。
ひぃぃぃぃぃ!
なんだぁ、ふくろうがとんでいたのかぁ。
「カー、カー、カー!」
ひぃぃぃぃぃ!
なんだぁ、カラスかぁ。
森をぬけ出し、ついに満月谷に到着~。
崖のてっぺんに、満月がでっかくみえるのが、満月谷。
崖を登るのは、こわいから、とんで見よ~。
あたしの背中に、黒い翼が、バサッとはえた。
そしてあたしは、満月谷へと向かってとんだ。
下を見るの、こわいなぁ。
でも、あたしはヴァンパイアだから、そんなの気にしない、気にしなーい・・・・・・。
ヒュー。
キャー!風に吹きとばされたぁ!
「ルーさーん!」
その声は・・・・・・。
「ルクトさん!」
ルクトさんが、あたしのわきをつかんだ。
え、え、え~!?ちょっと!離してぇ!
「なんで?」
あたし、こういうの、苦手。
「ごめん。谷に着くまで、我まんして。」
うん。
ドキドキ。
うわ!心臓の音がヤバー!
もしかして、女子力もない、恋愛が興味ないあたしに、まさか・・・・・・。
って、そんなわけ、ないっしょ。
「さぁ、もう着いたよ。」
うわぁ。満月、でかっ!
そして、あたしたちは無事、谷に着陸。
うわぁ~。やっぱ空をとんだ時の景色より、今着陸した満月の景色がいい~。
「ここ、始めて来たんだ!」
あたしはルクトさんの方を振り返り、にこっと笑った。
そしたらルクトさんの顔は、リンゴみたいに赤くなっていた。
「僕は・・・・・・、仕事で失敗した時、ストレス発散でここに来てるんだ。」
あれ?あたし、ライバルとのけんかでイライラがなくなってきたなぁ。
「それ、ストレス発散だよ。」
ルクトさんがあたしににこっと笑ってきた。
・・・・・・かわいい。
って、なに顔、赤くなってんのよ、あたし!
「じゃあ、あたしもストレス発散のために、ここ、来ようかな。」
あたしがルクトさんににこにこと笑いかけると、ルクトさんはまた、顔がリンゴみたいに赤くなって、後ろを振り向いた。
「そ・・・・・・そうしていただければ、いいよ。」
と、ささやいた。
なーんか、あやしい。
ここにあたしを呼び出すのも、あやし~い。
リンゴみたいに赤くなるのも、あやし~い。
青虫のサンドウィッチを届けるのも、あやし~い。
あ!バケットを返すの、忘れてた!
あたしは、ルクトさんにバケットを返すと、ルクトさんは後ろを向いたまま、右手を出して、ぱっとバケットを取った。
やっぱり、あやしーい。
「あ・・・・・・あの!満月、とてもきれいだねっ。」
「そうだね。」
ほら、あやしい。
恋愛興味ゼロ、女子力ゼロのあたしに、声をかけるなんて、あやしい。
「ねぇ、好きな人、いる?」
え!?いや~。そんなの、いないよ、ルクトさん。
「ルクトでいいよ。ルーさん。」
ルーでいいよ。ルクト。ところで、ルクトは好きな人は・・・・・・。
「いるよ。」
え!?誰、誰!?
すると、ルクトがぐいっとあたしの手をぐいっと引っぱって・・・・・・。
チュ。
キスをした。
えっ、えっ、えっ、えぇ~!?
ルクトがあたしの唇を離した。
「君だよ。」
えっ、あたしなの?なんで?
「僕、初めて君を見た時、一目ぼれしたんだ。」
一目ぼれ~!?
「あたし、そんなにかわいくないよ。だって、恋愛に興味ないし、女子力はないし・・・・・・。それに、うちの歌劇団は恋愛禁止だし・・・・・・。」
「僕と付き合ってくださいっ!」
へ?今、なんて?
「付き合ってください!」
え~!?
「ごめんなさい!」
あたしは思いっきり、頭を下げた。
「あたし、さっき「うちの歌劇団は恋愛禁止。」って、言ったでしょ?それを破ると、歌劇団をやめさせられるの。付き合うのは、あたしが卒業してからして・・・・・・。」
「今しかダメなんだ!」
ルクト・・・・・・。
ルクトの目が、うるうるしている。
「どうしても、どうしてもダメなんだ・・・・・・。卒業する365日をまてないよ。 僕のわがままだけど。」
ルクトの目から、涙が出てきた。
「あーあ。」
あたしの声で、ルクトはなくのをやめた。
「しょうがない。付き合うか。恋愛も女子力ないあたしだけど、いい?」
あたしがにかっと笑うと、ルクトはにこっと笑った。
「よろしく、ルー。」
こちらもねっ。
☆
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる