瑠璃色の空

幼女の名は逢瀬瑠璃という。その日、幼稚園が終わってからいつも通り母親の迎えを待っていた。だが、今まで1度もそんなことはなかったのに、園児たちがみな帰ったあとも姿を見せなかった。毎日、帰る道々幼稚園での出来事をおしゃべりするのが楽しみだったし、今日も話すことが今にも破裂しそうな風船のように、瑠璃の心を満たしていた。
 そろそろ寂しさも限界に近づき風船もしぼみかけた頃、幼稚園の門の前に一台のタクシーが止まった。降りてきたのは瑠璃の父親だった。瑠璃にとり、それはとんでもないサプライズで、サンタクロースのプレゼント並みの喜びだった。
 満面に笑みを湛え父親に飛びつく瑠璃だったが、「お帰り」と抱きかかえた父親の言葉は素っ気なかった。何から何までいつもと違うことに、瑠璃は不安を覚え、どうしたのと父親に問うた。しかし答えを聞かされないまま、待たせていたタクシーに乗せられた。
行き着いた先は病院だった。病室のベッドには頭を白いネットで覆われた母親が眠っていた。今朝一緒に幼稚園まで来て、じゃあねと別れたときからは想像のできない姿だった。瑠璃は全く理解ができなかった。流れる涙をそのままに、母親のベッドの脇に立っていた。
 翌日、母親は意識を取り戻すことのないまま、死んだ。兄とともに泣きじゃくる瑠璃だったが、葬儀の日からぴたりと泣かなくなった。それがむしろ参列者の涙を誘った。瑠璃が4歳のときのことだった。

都立下恋雀(しもれんじゃく)高校は、港東区にある中堅レベルの進学校だった。文武両道、自主独立を教育方針とするのは都立ではごく当たり前だが、そんなことよりも校舎を新築したことが、地味だったこの学校を一躍人気校にした。
 瑠璃は、都立には珍しく、図書室に続く廊下と、そこに面したテラスにカフェテリアのあることが第一に気に入った。成績的にはもっと上の学校を狙っても良かったが、そういう訳でここを第一志望校に選びトップで合格した。
瑠璃の名は、ラピスラズリが好きだった画家の去来が付けた。それを知った瑠璃のともだちはらずりと呼んでいる。

これは、高校2年生の瑠璃を取り巻く友人たちや的屋たちとの関わり、また瑠璃の、家族との関わりを通じた成長の物語である。
登場人物たちの軽妙なやり取りや少しのユーモアもお楽しみください。
24h.ポイント 0pt
0
小説 192,186 位 / 192,186件 青春 7,031 位 / 7,031件

あなたにおすすめの小説

裏切りの国

アルカリポン酢
青春
「あたしのこと何も分かってないくせに」 彼女から受けた言葉は、一種の裏切りだった。 公立高校の吹奏楽部はたくさんの制限がかけられており、活動時間も練習にかけられるお金も私立高校と天地の差がある。 楽器と共に成長していく彼女たちが受ける裏切り、そして彼女たちによる裏切り。 命を懸ける彼女たちに、冷ややかな影が忍び寄る。

嫌われた理由はない

meiya
青春
ある海外の学校で愛されまくっていた美少女がある転校生によって嫌われていく

青のパラレルズ

白川ちさと
青春
冬野雪花はクラスでぼっちで過ごしている。同じくぼっちの美森葉瑠、ギャルメイクで雪花の元親友の浦上詩帆。三人は同じクラスで過ごすものの、言葉を交わすことはない。 花火大会の夜、空に不思議な青い光が走る。 その翌日から、詩帆の様子が変わり、きつい言葉をかけていた葉瑠に謝罪。雪花は知らない男子から告白されてしまう。決して交わることのなかった四人が過ごす夏が始まる。

出来損ないのメリーさんの電話

詩綺
青春
『私メリーさん、今あなたの玄関に居るの...』 主人公こと、久留咲 蓮花の元に来た 都市伝説【メリーさんの電話】 そんな彼女は凶が付くほどの運の持ち主だった。 「どうしてこうなった…?」 都市伝説系コメディー小説です! 今回初執筆の初投稿です! 気に入ってもらえたら嬉しいです! 好評であれば続く…かなぁ(苦笑)

I’m 無乳首少女。

緩街◦璃名
青春
地に垂直な胸と三段腹が特徴的な女子高生‘’部稜 痴舞美”(べそば ちまみ)は、ことごとく純情だった。その平らな胸の内には、ある男への復讐心がふつふつと燃え続けていた。 ちょっと見して…。…。 やっぱりあいつに…食われたのね!! そう、彼女には片乳首が無いのである。 少女が好きになった男は、"逐西 七麻"(ちくにし びちお)。彼は端正な顔立ちから、数多の女が彼の腕中で鳴いたという。 だが彼には、乳首を食らうことが好きな 異常性癖の持ち主で━━!? 乳首を巡る復讐×青春の究極アタオカ・ラブストーリー!

僕の周りの人達には秘密がある

ノア オリバー
青春
ぼくの周りの人たちには、何か秘密がある。例えば横の席の子とか前の席の子とか。女の子に囲まれたぼくは一人一人の秘密を解決していくのだった。 「僕に話してみなよ」 これは優しい声音で聞く、優しく頼りになる彼を好きになっていく少女達の恋物語。

2度めの野球人生は軟投派? ~男でも野球ができるって証明するよ~

まほろん
青春
県立高校入学後、地道に練習をして成長した神山伊織。 高校3年時には、最速154キロのストレートを武器に母校を甲子園ベスト4に導く。 ドラフト外れ1位でプロ野球の世界へ。 プロ生活2年目で初めて1軍のマウンドに立つ。 そこで強烈なピッチャーライナーを頭部に受けて倒れる。 目覚めた世界で初めてみたプロ野球選手は女性たちだった。

【完結】天上デンシロック

海丑すみ
青春
“俺たちは皆が勝者、負け犬なんかに構う暇はない”──QUEEN/伝説のチャンピオンより   『天まで吹き抜けろ、俺たちの青春デンシロック!』    成谷響介はごく普通の進学校に通う、普通の高校生。しかし彼には夢があった。それはかつて有名バンドを輩出したという軽音楽部に入部し、将来は自分もロックバンドを組むこと!  しかし軽音楽部は廃部していたことが判明し、その上響介はクラスメイトの元電子音楽作家、椀田律と口論になる。だがその律こそが、後に彼の音楽における“相棒”となる人物だった……!  ロックと電子音楽。対とも言えるジャンルがすれ違いながらも手を取り合い、やがて驚きのハーモニーを響かせる。   ---   ※QUEENのマーキュリー氏をリスペクトした作品です。(QUEENを知らなくても楽しめるはずです!)作中に僅かながら同性への恋愛感情の描写を含むため、苦手な方はご注意下さい。BLカップル的な描写はありません。   ---   もずくさん( https://taittsuu.com/users/mozuku3 )原案のキャラクターの、本編のお話を書かせていただいています。実直だが未熟な響介と、博識だがトラウマを持つ律。そして彼らの間で揺れ動くもう一人の“友人”──孤独だった少年達が、音楽を通じて絆を結び、成長していく物語です。   表紙イラストももずくさんのイラストをお借りしています。pixivでは作者( https://www.pixiv.net/users/59166272 )もイラストを描いてますので、良ければそちらもよろしくお願いします。   ---   5/26追記:青春カテゴリ最高4位、ありがとうございました!今後スピンオフやサブキャラクターを掘り下げる番外編も予定してるので、よろしくお願いします!